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ワンダフルウィザード スターリング姉妹のふしぎな冒険 お姫さまの試練と凶星の魔女  作者: 稲葉トキオ


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第1話 スターリング姉妹はきょうもなかよし

「きゃっほーっ!」


 晴れ渡る青空の下。緑きらめく草原を、一頭の白くて大きなオオカミが、風を切って走っていました。


 その背中には、太陽にも負けないあかるい笑顔の少女がふたり、乗っています。


 ふたりの少女は、姉妹でした。背の高さや髪の長さは違いますが、うりふたつと言っていいほど、よく似た顔立ちをしています。


「やっぱり、だだっぴろい原っぱを思いっきり走るのは、気持ちいいなあ! シロ!」


 元気な声でそう言ったのは、前のほうに乗っている、背の高いほうの少女。左右に跳ねたやまぶき色の長い髪と、同じ色の瞳を持つ、お姉さんのエイルです。


 ちなみに、シロというのは、彼女たちを乗せているオオカミの名前。


「エミルも、そう思うでしょ?」


 エイルがくるりと振り向きます。


 彼女の腰に腕を回し、後ろに乗っているのは、紺色のベレー帽をかぶった少女。濃いオレンジ色のショートボブの髪に、青い瞳を持つ、妹のエミルです。


「うんっ!」


 エミルが元気よくうなずくと、


『シロンも!』


 その右肩から、ぴょこっと白くて小さな生きものが顔を出しました。


 彼女の名前はシロン。小さくてかわいらしいですが、れっきとしたドラゴンの子どもで、エミルのパートナーの魔法生物(ワンダー)です。姉妹にとっては、まるでいちばん下の妹のような存在でした。


「うふふっ」


 ふと、エミルがぎゅうっと、お姉さんにしがみつく力を強めます。甘えるように、顔を背中へ寄せました。


「どうしたー? 急に?」


「だって、うれしいんだもん。……またこうして、お姉ちゃんと冒険できることが」


 エミルはうっとりと目を細めます。


 エイルはそんな妹の顔を見て、やわらかくほほえみました。


 それもそのはず。この姉妹は、実に4年ものあいだ離ればなれになっていて、つい最近、再会できたばかりなのです。


 ――きっかけは、4年前。姉のエイルが、故郷の村を守るため、守り神である聖獣を手にかけてしまい、その罪によって村を追放されたことでした。


 妹のエミルは、その別れを深く悲しみました。けれど別れ際、彼女は姉に「いつか必ず会いに行く」と約束します。


 それからエミルは、パートナーのシロンとともに、魔法つかい(ウィザード)になるための修行の日々を送りました。


 そして4年後。約束どおり姉を追いかけるため、故郷を旅立ったエミルは、運命のイタズラか、最初に立ち寄った大きな町で、エイルとの再会を果たしたのです。


 そして、こうしてふたたび姉妹そろって、冒険の旅をしている――というわけなのでした。


 おたがいのことが大好きな姉妹にとって、その4年間は、とても長くさびしい時間だったことでしょう。


 だからこそ、こうしてまたいっしょにいられる奇跡に、エミルは心から感謝していました。


 いっぽうのお姉さん、エイルは神さまに祈るタイプではありません。なので彼女は、純粋に約束を果たしてくれたエミルとシロン自身へ、感謝していたのでした。


「あ、見えてきたよ。ほら!」


 エイルが、ぴっと前を指差します。


 エミルとシロンがうながされるまま視線を向けると、そこには横にずらりと伸びた真っ白な壁が見えました。


 太陽の光を浴びて、きらきらと輝いています。その美しさは、遠くからでもはっきりわかるほどでした。


「あれが……王都アストリア!」


『シロンみたいに、まっしろ!』


 エミルとシロンは、ぱあっと歓喜の笑顔を咲かせます。


 王都アストリア――それは、アストライト王国の中心にある首都であり、この国でいちばん大きな町です。


 ついこのあいだまで、国のはしっこにある小さな村で暮らしていたエミルにとっては、本や新聞の中でしか見たことのない、長年のあこがれの場所でした。


 胸がどきどきと高鳴ります。姉妹は、おたがいに、これからどんな冒険が待っているんだろう、と胸を躍らせながら――


「さあ行くぞ、シロ! ラストスパートだ!」


『ワン!』


 オオカミのシロの背に乗って、姉妹は王都へまっすぐ駆けていくのでした。



 ☆ ☆ ☆



 王都アストリア――


 王国でいちばん大きな町であると同時に、いちばん平和な町。


 ……のはずだったのですが。


『ギャオオオオオン!』


「きゃー!」「うわー!」「たすけてー!」「食われるー!」


 町に響き渡るのは、あかるくにぎやかな声ではなく、地獄のような咆哮と悲鳴でした。


 体が二階建ての家ほどもある、巨大な銀色の四足歩行の怪獣が、大通りで暴れまわっているのです。


 周囲の建物はもちろん、白に近い灰色のレンガで舗装された道も、その重みによってバキバキに砕かれていました。


 すでにケガ人も多く出ています。その中には、鎧を身につけて倒れている者や、彼らのパートナーと思われる魔法生物(ワンダー)たちの姿もありました。勇敢にも怪獣を止めようと立ち向かい、力尽きてしまったのでしょう。


「騎士団もやられた!」「極星魔法つかい(マスターウィザード)を呼べー!」


 パニックにおちいり、逃げまどう人々は、口々に助けを求める声をあげます。


 マスターウィザード――それは、このアストライト王国最高の魔法つかい(ウィザード)に与えられる称号です。


 しかし、その称号を持つ者は現在たった十名しかおらず、しかも各地で重要な任務に就いているため、呼べばすぐに来てくれるわけではありませんでした。


 ですが――


「我が親愛なる国民のみなさま! ご安心ください!」


 そこへ、よく通る凛とした少女の声が、高所から響き渡ります。


 住民たちも怪獣も、思わずその方向へ視線を向けました。


 建物の屋上に立っていたのは、金髪のポニーテールを揺らし、白いマントをはためかせる、見目麗しい少女。


「このアストライト王国第一王女――アルティナ・フォン・アストライトが、あの怪物を斬り伏せてごらんに入れましょう!」


 アルティナと名乗った少女が、腰に差した剣を引き抜くと、


「おおっ!」「姫さまだ!」


 と、住民たちから歓声があがりました。中には、写真機(カメラ)や板状のアイテムで、この光景を撮影している者も大勢います。


 彼女はお姫さまでありながら、つい先月、魔法つかいの養成学校(ウィザードアカデミー)を主席で卒業したばかりの才女。その実力は、王都の騎士団長にも引けを取らないと評判でした。


「とうっ!」


 アルティナは屋上からさっそうと飛び降ります。


 ふわりとマントをなびかせながら華麗に着地すると、青い瞳を鋭く細め、巨大な鋼鉄の怪獣と対峙しました。


『グルルルル……』


 怪獣は血走った赤い目でアルティナをにらみつけ、低いうなり声をあげています。


「ベル!」


 アルティナが名を呼ぶと、右手の中指にはめた金の指輪から光があふれ、小さな氷の妖精が現れます。


【氷の妖精スノーベル】――アルティナのパートナーの魔法生物(ワンダー)です。とても希少な種族でもあります。


「凍らせなさい! 《フリーズブリーズ》!」


 アルティナが命じると、氷の妖精は、ふうーっ、と大きく息を吹きます。


 手のひらに乗るほど小さな体にもかかわらず、その吐息は激しい吹雪となって怪獣へ襲いかかりました。


『ギャアッ……!?』


 怪獣は苦しげなうめき声をあげます。


 鋼鉄のような銀色の巨体は、みるみる氷に覆われていきました。


「やったぞ!」「さすが姫さま!」


 住民たちの歓声が響き、あちこちでシャッターが切られます。


 しかし――


 パリーン!


『ギャオオオオオン!』


 次の瞬間、氷はあっけなく砕け散りました。


 怪獣は怒り狂ったような咆哮をあげます。


「ぎゃー!」「ダメだったー!」


 住民たちの悲鳴も、ふたたび町に響き渡りました。


「くっ……! やはり通常の魔術では、冷気が足りないか……!」


 アルティナは顔をしかめ、じりっと後ずさります。


「なら……ベル!」


 彼女は右手の剣を高く掲げました。


 すると、氷の妖精ベルの体が光となり、剣へ吸い込まれていきます。


 次の瞬間――剣とベルがまばゆい光に包まれ、ひとつに融合しました。


 生み出されたのは、美しい氷の剣。刀身から放たれる冷気によって、周囲にはダイヤモンドダストが舞い、空気そのものがきらきらと輝いて見えます。


「出たぞ! 武装魔術(アームズ)だ!」「魔法つかい(ウィザード)の高等技術!」


 ふたたび、住民たちから大歓声があがりました。


「我が全霊の一撃、受けてみなさい! 《グレイシャルブレイド》!」


 アルティナが両手で剣を掲げると、水色の刀身がパキパキと鋭い氷に包まれ、巨大な氷の大剣へとさらに姿を変えます。


「はあああっ!」


 白いブーツで地面を蹴り、アルティナは高く跳び上がりました。


 そして――怪獣の脳天へ、全力で大剣を叩きつけます!


 バリイィィィン!


 何かが砕け割れるような鋭い音が響きました。


 ですが、それは――怪獣の頭が砕けた音ではありません。


「そん、な……!」


 剣を振り下ろした姿勢のまま、アルティナは驚愕に目を見開きます。


 美しく立派だった氷の大剣が――怪獣の頭の硬さに耐えきれず、粉々に砕け散ってしまっていたのです。


 ダメージこそ入っていないものの、脳天に強烈な衝撃を受けた怪獣は、大きく頭を下げました。


『ガアアアッ!』


 そして次の瞬間、その反動を利用するように勢いよく頭を跳ね上げ、空中にとどまったままのアルティナへぶつけます!


「あああっ!」


 アルティナは悲鳴をあげ、後方へ吹き飛ばされました。


 そのままレンガの地面へ激突し、体を強く叩きつけられてしまいます。


 頭からはひとすじの血が流れ、美しかった顔も痛々しく腫れあがっていました。手足をはじめ、全身のあちこちの骨も折れてしまっているようです。


 剣と合体していた氷の妖精ベルも、力なく地面へ投げ出されていました。


 ズシーン……ズシーン……


 四足歩行の銀色の怪獣が、倒れて動けないアルティナへ、とどめを刺そうと迫ってきます。


「い……いや……」


 アルティナは、その巨大な影を見上げながら、恐怖に涙をこぼしました。


 体が、かくかくと震えます。


 さっきまでの、気高く強く美しい姫君の姿は、もうそこにはありません。いまここにいるのは、死の恐怖におびえる、ひとりのかよわい少女でした。


『ギャオオオッ!』


 怪獣は雄叫びをあげながら、ぐわっと右前足を持ち上げます。


 アルティナを踏みつぶすつもりなのでしょう。


「〜〜〜っ!」


 アルティナは目をぎゅっと閉じ、歯を食いしばって顔をゆがめました。


 本当は、悲鳴をあげたくてたまりません。それでも、せめて最期まで誇り高い王族であろうとする――そんな彼女の立派なプライドが感じられました。


 ――そのときです。


 ひとすじの白い流れ星が、きらめきました。


 まるで、彼女の強い意志に応えるかのように。


 ドゴォーン!


『ガアッ……!?』


 流れ星は怪獣の右脇腹へ直撃しました。


 ちょうど右前足を持ち上げ、不安定になっていた怪獣の巨体は、


 ズズゥゥン……!


 という重い地響きとともに、盛大に横倒しになります。


「……え?」


 異変に気づいたアルティナは、おそるおそる目を開けました。


 そして、驚きに目を見開きます。


 だって、騎士団や自分の攻撃ではびくともしなかった怪獣が、大通りのど真ん中で横転しているのですから。


「よーし、よくやったぞ、シロ」『ワン!』


 すると、衝撃で巻き上がった深い土煙の中から、そんな少女とケモノの声が聞こえてきました。


 目を向けると、そこには高さ3メートルほどもある、大型の四足歩行の生物の存在。


 さらに、その背中から飛び降りる、ふたりの人間のシルエットが見えます。


 やがて土煙が晴れ、闖入者たちの正体があらわになりました。


「なっ……! あ、あなたたちは!?」


 それを見て、アルティナはさらに驚きます。


 現れたのは、やまぶき色の長い髪を揺らし、ペールオレンジのマントをなびかせた少女。


 そして、その少女よりだいぶ背は低いものの、よく似た顔立ちをした、濃いオレンジ色の短髪の少女でした。彼女は帽子と同じ紺色のローブをはためかせており、さらに、その小さな肩には、小さなドラゴンが乗っかっています。


 そして少女たちを守るように、白く大きなオオカミが悠然とたたずんでいました。


「おお! エイルだ!」「史上最年少の、極星魔法つかい(マスターウィザード)!」「“巨獣狩りの剣星”! あの子が来れば、もう安心だ!」


「エミルもいるぞ!」「あのウワサの、エイルの妹か!」「スターリング姉妹がそろってるところを、生で見られるなんて!」


 こんな状況にもかかわらず、まだ逃げていなかった――もはや野次馬同然の民衆が、いっせいに歓声をあげました。


 そう。何を隠そう、エイルは十人しかいないマスターウィザードのひとり。この国最高峰の魔法つかい(ウィザード)なのです。


 妹のエミルも、実力は遠くおよばないものの、数日前にとある大事件を解決したことで、いまや姉に負けないほどの有名人となっていました。


 しかし姉妹は、周囲の歓声などまるで気にしていません。


 ふたりとも、倒れたままなお赤い眼に戦意を宿す怪獣を、鋭くにらみつけていました。


 最高峰の魔法つかい(ウィザード)は、いつだって自分のやるべきことを見失わないのです。


「こいつは私がやる。エミルは、その子を見てあげて」


 姉のエイルは腰に差した二本の剣を引き抜き、オオカミのシロとともに臨戦体勢を取ります。


「うん、わかった!」『おねーちゃん、ファイト!』


 妹のエミルは、チビドラゴンのシロンを連れて、倒れたアルティナのもとへ駆け寄りました。


「さーて、おさんぽの次は――狩りの時間だぞ、シロ」


『ワンッ!』


 両手に二本の剣を構えたエイルと、牙をむいたシロは、横倒しになった怪獣の巨体へ向かって、一気に跳びかかっていきました!

お読みいただき、ありがとうございました。

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