13.エピローグ:やんごとない姫君からの手紙。
たまに学校で級友に覗かれると、今時のコスプレイヤーは気合いが入ってるねぇと感心される。やっぱり、みな忘れてしまったようだ。ついこの間までは、机を並べて一緒に昼食を取っていたというのに。けれど、昨日のお弁当のおかずレベルの記憶など、誰も覚えてはいられないのだから、仕方が無い。
康代は、手にした二色シュークリームを咀嚼して飲み込んだ。
「野木さん、またそんな適当な食事して。身体壊しても知らないからね」
『康代係』を拝命して以来、何故かお母さんみたいになってしまった学級委員が、喧しく説教してくるのを適当に聞き流す。学級委員は康代の手にしたテキトーな食事二色シュークリームにしばし目を留め、小首をこてりと傾げた。
「……あれ、誰か二色シュー、好きな子いなかったっけ?」
たまにこうやって、思い出すやら出さないやらで、『康代係』の海馬で熾烈な(?)戦いが起こっているらしいのもいつものことだった。いつか何かを思い出すかもしれないし、思い出さないかもしれない。先のことは、わからない。
あの冬の日、飛び立つワイバーン――姫子のコカブ――を見送ったあと、三人でスマフォにグループラ○ンを作ったのだ。けれど、康代と老ダンダーンが姫子の思い出話で盛り上がることはあっても、村山智志が会話に入って来ることは無い。
既読は付いているので、見てはいるようだ。眼鏡君は面倒臭いお年頃のようで、何を考えているのかよくわからない。康代も同学年ではあったが。
端から見れば訳の分からない三人グループだが、もう姫子のことを語り合えるのは、双竜町ではこのふたりしかいないのだから、貴重な面子には違いない。
康代は胸ポケットから、ガサガサ言わせながら一通の封筒を引っ張り出す。
封筒の中には、飛竜の透かしの入った便箋が一枚。
あの後、何度か行き来していた銀色飛竜が運んできた積み荷の中に、なんと康代宛の手紙が入っていたのだ。村山智志経由で、康代の元まで運ばれてきた。老ダンダーンから、康代が家までやって来たことが伝わったのだろう。
やんごとない姫君からの手紙を、康代はありがたく押し戴いた。
それ以来、肌身離さず持ち歩いているので、大分ヨレヨレになってきている。
そっと中を開くと、オリエンタルな甘い香りと共に、百年の恋もいっぺんで冷めるようなガタガタな書き文字が姿を現した。
もちろん、その程度で冷めるような康代の愛ではなかったが、一般論である。
ご無沙汰してます、康代ちゃん。
なにも言わずに居なくなってしまって、ごめんなさい。
そちらはまだ、寒いですか?
こっちは、基本的にいつも暑いので、もうバテバテです。
(でも、夜はけっこう冷え込みます)
私の身体は、多分、双竜町の寒さに向いているのだと思います。
学校を辞めて故国に帰り、就職(?)しました。まだ見習い(?)です。
覚えることが沢山あるのですが、私、あんまり頭が良くないので、大変です。
立場上、私が一番偉い(?)女性になるので、
乳姉妹はいても(一緒に育ってません)対等なお友達がいなくて、
それがちょっと寂しいです。
よく、市井の視察がてら、コカブに乗ってます。
(私のコカブには会ったんだよね? 可愛いでしょ?)
騎竜は淑女の嗜みとダンダーンに聞いていましたが、もう誰も乗っていません。
何故かというと、長の戦で飛竜の数が減ってしまったからだそうです。
だから、飛竜に乗ることができるのは一部の戦士と王族だけなので、
ちょっとした特技になってしまいました。
私は何にも出来ないので、特技が出来てうれしいです。
故国のインフラを整備して産業を復興させ、
食料自給率と就労率と識字率を上げたりしてある程度整ったら、
いつか康代ちゃんをお招き出来たらなぁと思います。
どれぐらい先のことになるのか分からないけど、
その時は、旅行気分で来てくれるとうれしいです。おもてなしします。
ひとりで不安だったら、隣家の智志君でも誘ってみて下さい。
じゃあ、それまで元気でね。
砂漠の異郷より愛をこめて
あなたの姫子より




