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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の雪解け 

 自らの選択を悔やみながらダラダラと働く俺に、夜勤の最終日が訪れた。


 来週の昼勤で、最終出勤日を迎える俺には、必然的に今日が最後の夜勤になる。


 ちなみに、あれから一週間が経過したが、同期の二人とは、未だに険悪なままだ。


 今日は、そんな俺の相談を聞いてくれたフェイさんが、気を聞かせてくれた事もあり、正門で、同期三人での警備となった。


「おはよう、お前ら。今日は宜しくな」


「……宜しくね、ゲホゲホ」


「……宜しくな、ゲホゲホ」


「きゅう?」


 俺からの挨拶であったが、二人は、ゲホゲホにしか返す事は無かった。


 (まだ、怒ってるのかよ。いい加減、腹を割って話させて貰いたい所なんだがな……まぁいいか、夜勤は始まったばかりだ)


 何とか話し合うきっかけを作りたいと思ってはいたが、二人が、真っ先に下で警備を始めた事で、俺はゲホゲホと共に、ひたすら外壁の上で周囲を警戒するだけとなっていた。


 気付けば、昼休憩を終えても、二人とは、業務以外の会話を交わす事は無かった。


「なぁ、ゲホゲホ。どうやったら、前みたいに二人と喋れるんだろうな?」


「きゅうううー」


「まぁ、お前に聞いてもしょうがないか」


 相手にして貰えない俺は、ゲホゲホとじゃれ合って心を落ち着かせていると、そこに、フェイさんが現れた。


「お疲れ様です」


「どうだ? 調子は?」


「正門は異常無しです。でもって、俺は、ダメダメです」


「だろうな。それは、顔を見れば何となく分かったぞ」


「すいません。今日の配置、変えて貰ったのに、多分、駄目っぽいです」


「随分、弱気になったもんだな。しょうがない。俺が一肌脱いでやろう」


 フェイさんはそう言って、鎧の上に羽織っていたマントの袖を捲り上げた。


「それで、先ずは、どっちと喋りたいんだよ?」


「どっちって、どういう事ですか?」


 フェイさんは、急に選択を強いて来たが、その意図が分からないまま答える様な、そんな怖い事は、俺には出来ない。


 しっかり聞いた上で選ばなければ。


「俺には元々、同期がルート以外にも居たんだ。だから、お前達みたいに三人組で揉めるのは、何度も経験してきた」


「そう、なんですね。ちなみに、その時はどうやって?」


「簡単だ。こういうのはな、意外と二人っきりになってみたらな、意地張らずにすんなり喋れたりするもんなんだよ! だから、選べ、どっちと先に話したいかを!」


「えっ? ……そんな急に言われても……」


「分かった。取り敢えずメリサを連れて来るから、後は何とかしろ!」


「まだ選んでないです!!」


 フェイさんは、俺には選択の余地を与えずに、去って行った。


 数分後、メリサは、フェイさんに連れられて、気まずそうな顔で壁の上に姿を見せた。


「それじゃあ、俺はトーマスと下の警備に入るから宜しく!」


「えっ?」


「ちょっ?」


 俺達は、フェイさんが消えた外壁で、気まずい空気だけを残したまま、取り残される事となった。


 だが、ここで俺が黙っていては、今まで通り、沈黙が続くだけだ。

 だったら、思い切って行くしかない。


 俺は、背中を見せているメリサに、恐る恐る口を開いた。


「……なぁ、メリサ。……怒ってるか?」


「……お、怒ってるよ。……でも、理解はしてる」


 メリサは、こちらに振り返る事無く、答えてくれた。


「なら、良かったよ。……俺はさ、この半年間が、只々、楽しかったんだ。そして、ここを離れるって決めた時に、どれだけ、皆の事が好きかも知った。だからさ、辞める俺が言う事じゃないけど、今後も変わらずに仲良くして欲しい。これからも、仕事終わりに飲みに行って欲しいんだ。……駄目かな?」


「……いいよ。ほ、本当に辞める側が言う事じゃないけどね」


「そうだな。……ありがとう。メリサ」


 俺が感謝を伝えると、メリサはゆっくりと振り返り、俺と視線を交わした。


「……あ、謝るのは私の方だよ。……ごめんね。……私は、カーマ君みたいに、立派な夢が無いから、あの時は混乱しちゃったけど、今は違うよ。ちゃんと応援してる。……だから、私も見つけてみせるね、人生の目標を!」


「ああ、俺も応援してるよ」


「じゃあ、私は戻るね。……だって、次はトーマスと喋るんでしょ?」


「あっちが拒否しなければ、その予定だよ」


「……あとね、カーマ君。同じ同期として、一つ言わせて貰うね。……さっき、私には夢が無いって言ったけどね、トーマスは違うよ。……絶対、口にはしないけど、内に秘めてる。だからさ、夢が無いって言った事は、謝ってあげて」


「……分かった」


 メリサは、それだけを言い残し、小走りで内階段を駆けて行った。

 俺は、メリサに感謝しながら、もう一人の同期が来るのを待っていた。


 だが、一つだけ気掛かりなのは、メリサが最後に残した言葉だった。


 (トーマスの目標って、確か……)


 駄目だ、今はふざけている場合じゃない。

 真剣にトーマスと向き合わなければ。


 暫くすると、トーマスが内階段から上がって来た。


 多分、メリサとフェイさんが上手い事やってくれたのだろう。


「メリサと交代になったから、こっちは俺が見張るわ」


 トーマスは、そのまま俺に背を向けようとした。


「ちょっと待てよ。せっかくだから、一緒に見ないか?」


 俺は、もうすぐ姿を見せるであろう、朝陽が昇る絶景を出汁に使い、トーマスを引き留める。


「そうか、もう、そんな時間か」


 トーマスは、俺と少し距離を取って、塀にもたれ掛かった。


 暫く無言のまま、二人で、街の外を眺める時間が続いた。

 俺達が動かない間も、太陽は、徐々に姿を見せ、段々と景色を侵食して行く。


 数分も経てば、目の前に俺の大好きな景色が出来上がっていた。


 夜でもあり、朝でもある。

 目の前に広がる、何とも言い難いアンバランスな空は、夜勤で働いた者にしか味わう事の出来ない絶景だ。


 今日は、俺にとって最後の夜勤だ。


 必然的に、この光景を全身で味わうのは最後になるだろう。

 だからこそ、最高の絶景を目に焼き付ける為にも、この思い出に心残りは必要無い。


 俺は、長く続いた沈黙を破って、トーマスに語り掛ける。


「……なぁ、初めての夜勤って覚えてるか?」


「……ああ、あれだろ? 正規隊員に喧嘩売って、ボコボコにされた時か?」


「そうそう! そん時にもさ、こんな空を見たよな!」


「そうだったな。いきなり濃い一日だったよな」


 俺達は、大好きな空を見ながら、先程までの沈黙が噓だったかの様に、自然に会話を始めた。


「で、あの怖いフェイさんが、いきなり珈琲を持って来てくれたんだよな」


「あれは、俺も驚いたな。ただのギャンブル中毒が、あんな事してくれるとは思わなかったぜ」


 一度話し始めれば、思い出話は尽きないが、同時に、この生活に終わりが見えて来る事を実感する。


「……やっぱり、楽しかったな、第三警備隊」


「……それでも、お前は行くんだろ?」


「ああ、それが俺の夢だからな。だから、尚更、俺はお前に謝らなくちゃならない」


「はぁ? どうしてだ?」


「ごめん。……俺、お前の事、何にも知らずに馬鹿にした。夢が無いとか、適当な事言って、本当にごめん!!」


「……止めろよ、別に気にしてない。隠してたのは本当だからな」


 そう言って、トーマスは俺の足元にローキックを放った。


「イタッ! ちょっと気にしてんじゃねーかよ! ……でもさ、良かったら、教えてくれよ。……お前の、本当の夢を」


「別に良いが、俺は、お前みたいに大層な夢じゃないぞ。……ただ、もう一度だけ、飯を食わせてやりたい奴がいる。それだけだ」


「……そうか、良く分かんねぇが、お前なら叶えられるさ。頑張れよ!」


「良く分かんねぇのに、応援すんなよ」


 トーマスは、もう一度、俺に蹴りを放った。


「イタッ! 膝裏は止めろよ!」


「もう一発喰らうか?」


「止めろよ、仕事中だぞ!」


 そう言って、トーマスを止める時、ようやく、互いの目を見合わせる。


 久しぶりに見たトーマスは、いつも通りの透かした笑顔を浮かべていた。

 多分、トーマスから見える俺も、無様な笑い顔を晒しているに違いない。


 そんな中、透かした笑顔の男は、もう一度、空に視線を戻して口を開いた。


「カーマ。……俺達、離れても同期だよな?」


「ああ、何年経っても、それは変わんねぇよ」


「……だよな。だったら俺も、安心して、お前を送り出せる」


「トーマス、ありがとな!」


「だから、絶対、騎士団に入れよ! 入団祝いに、俺とメリサで祝勝会を開いてやるからさ!」


「任してくれ! 俺とゲホゲホで、難なく突破して見せるさ!」


「きゅうううー!!」


 俺とトーマスは、朝に移りかけた壮大な絶景を背に、固い握手を交わした。


「やっと、仲直り出来たみたいね!」


 どこからか、安堵の声が聞こえた後、声の主が、ゆっくりと何かを抱えて姿を見せた。


「「メリサ!」」


 メリサは、どういう訳か、三人分のコップを持って、壁の上に現れたのだ。


「下はどうした?」


「何か今日、一回も魔物が出ないから、フェイさんが珈琲持って、行って来いって」


「あの人、意外に気が利くよな」


 俺は、二人の会話を聞いて初めて、今日はまだ、一度も魔物が出没していない事に気づかされた。


 二人と話す事で頭が一杯だったとはいえ、これでは警備隊失格だ。

 メリサが淹れてくれた珈琲で、目を覚ますとしよう。


「はい、これ、カーマ君の分!」


「ありがとう」


 メリサから、熱々のコーヒーを受け取り、一口(すす)る。


「あっつ!」


 余りの熱さに反射的に声を出すと、その様子を見ていたメリサは微笑む。


「そ、そりゃあ、淹れたてだから熱いよ。火傷しても、治さないからね」


「メリサ、俺のは?」


「トーマスのは、その辺にあるから、自分で取って」


「俺の扱い酷くないか?」


「そう?」


 メリサは、そう言って、自分の分のコップを大事に両手で持ちながら、右足で、トーマスの分を指した。


 三人で同じ景色を見ながら、噛み締めてちびちびと飲んだ珈琲は、初めてここで飲んだ時以上に、ほろ苦く感じた。


 俺はこの先も、この景色を見ながら三人で飲んだ、珈琲の味を忘れる事は無いだろう。


 その後も正門に魔物が現れる事無く、穏やかな空気が流れるまま、定時を迎えた。


 昼勤の先輩に引き継いで持場を離れ、事務所に戻ると、一足先に戻って来ていたセルドが近づいて来た。


「お疲れカーマ」


「お疲れ!」


「なぁなぁ、正門は魔物出たか?」


「いーや、こっちは珍しくゼロだったぞ。って、事は裏門も出なかったのか?」


「ああ、こんな事初めてだから、暇すぎて寝そうだったぞ」


「こういう日もあるんだな」


 仕事終わりという事もあり、セルドと楽観的な話をしていると、険しい顔のフェイさんが、慌てて事務所に駆け込んで来た。


「警備長! 報告があります!」


「どうしたんじゃ、フェイ? そんなに慌てて?」


 フェイさんは、走って来た勢いのまま、朝礼を終えてご満悦の警備長に報告を始めた。


「本日の夜勤で、正門、裏門合わせ、魔物が一体も出没しませんでした!」


「ほう? それは誠か?」


「はい、出没どころか、近くで気配すら感じませんでした。こんな事、一度も経験した事がありません。何か嫌な予感がします」


「分かった。今から儂が、裏山の様子を見て来るとしよう。何か、危険な魔物が居れば、直ぐ分かるじゃろ」


「では、俺もお供します!」


「駄目じゃ! 忘れたのか? 守るのは、この街の門と勤務時間! 儂は、残業はさせん主義じゃからな」


「わ、分かりました。気を付けて下さい」


「誰に言っておるんじゃ、儂は警備長だぞ!」


「それは、知ってますよ。お先に失礼します」


 簡単にあしらわれたフェイさんは、納得のいかない様子で、とぼとぼと寮に帰って行った。

 俺達も自然と後を追って、帰宅する事にした。


 すっかり、日も昇った街中を歩いていると、気になるのは、先程のフェイさんだった。

 警備長の前では、いつも以上に必死な姿を見せるフェイさんは、何故か、無理をしている様に見える。


 どうしてフェイさんが、そこまで、仕事に一生懸命なのかは知らないが、あの調子だと、いつかは壊れてしまいそうだと心配になる。


 多分、フェイさんみたいな人が、サービス残業と言う物を産み出したのだろう。


 あくまで推測だが、警備長の作った安全七訓は、そういう事をさせない為に存在していると言える。

 何個かの使い道は無さそうだが……。


 そんな事を思いながら、寝床に入って、警備隊での限られた毎日を過ごしていく。


 一日一日を大切に胸に刻み込んで、一人一人に感謝を伝えながら、最後の一週間を謳歌する。


 そして、俺の最終出勤日がやって来た。

これにて、長らく続いた第一章が終了します。

カーマの最終出勤日から先の物語は、第二章として、新たな局面が幕を開けます。


予定では、現在投稿中の第一部は、次話から幕を開ける第二章にて、完結となります。


7月末を目処に第一部完結を目指しますので、ブックマーク登録をしてお待ち下さい。

※更新頻度は、今と変わらないと思います。


最後に、このネット世界の果ての果てまで訪れて下さった、選ばれし勇者の皆さんにお願いがあります。


是非、評価や感想を乾ききった私にお恵み下さい。


勇者様のご厚意をお待ちしております。

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