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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の閃き

 そろそろ時間だな。


 トーマスは、今日一日、朝から姿を見せていない。


 あいつにも、色々と思う所があるんだろう。

 俺は、例え何を打ち明けられても、快く受け止めてやろうと意気込んで、ゲホゲホを連れて、寮の前に出る。


「お、カーマか、思ったより早いな」


 問題の男は、街灯の少ない寮の前で、いつもと変わらない透かした笑顔を浮かべて、声を掛けて来た。


「ちゃんと、ゲホゲホも連れて来たぞ」


「きゅう」


「ありがとう。だが、まだ、一人足りない」


「えっ? 他にも呼んでいるのか?」


「ああ、こればっかりは、お前達に伝えておきたくてな……」


(俺以外にもう一人。考えられるとすれば、やっぱり、メリサだよな……。ってなると、本当に警備隊を辞める気なのか?)


「おっ、噂をすればって奴だな」


「わりぃ、遅れたわ! ……って、カーマにゲホゲホも居るのかよ!」


 遅れて現れたのは、先程まで居間で一緒に寛いでいたセルドだった。


「それはこっちの台詞だ! トーマス、お前は、何を隠してるんだ!」


「え? お前、聞いて無いのか?」


「ちょっと待て! セルドは、知ってるのか!?」


「勿論、知ってるぜ。逆にお前は何だと思って出て来たんだよ? そういやー、さっき、飯食う時も酷い面だったぞ! ――そりゃ、元々か!」


「元々じゃねーわ!」


「まぁ、待ってくれ二人共、これは俺から言わせてくれ」


「早く言えよ」


 俺は、今すぐにでも喋る様に促すと、トーマスは大きく息を吸って、次の言葉を発した。


「セルドに試して貰いたい、新しいビジネスを思いついたんだ! 二人共、手を貸してくれないか?」


「……ちょっと待てよ」


「どうしたカーマ? 不満か?」


「お前、もしかして、そんな事の為に、毎日悩んでいたのかよ。……心配して損したぞ」


「そんな事って言うなよ。こんなんでも、セルドの将来が懸かってるからさ。で、お前は何を心配していたんだよ?」


「俺は、お前が警備隊を辞めるって言い出すと思ってたんだぞ!」


「想像力が豊かな奴は幸せ者だな」


「うるせぇ!」


 深刻そうな顔をしていた数日前からのトーマスは、只、仕事中に考え事をしていただけの不真面目な男だった。


 こいつが考える事だ。

 恐らく、この間のワイン作りのミスを帳消しにしたいとか、そんな所だろう。


「それで、トーマス、お前の言うビジネスの中身とは何だ?」


 セルドは、トーマスの案を今月の試作品にするべく問いかける。


「実はこの間、カーマと混合出力でオークを倒したんだが、その時に閃いたんだ。これなら、このマンネリした王都に、新しい風を吹かせるんじゃないかって!」


「新しい風って?」


「ズバリ、このロムガルドに新たな観光の目玉を作ろうと思う!」


「観光!?」


 トーマスの提案は、俺の想像の斜めを上を越えて来たが、セルドは狼狽える事無く、質問を投げかける。


「観光の目玉って言うと、時計塔みたいな町のシンボルの事か?」


「そうだ。だが、観光は場所だけじゃない。そこでしか出来ない体験も立派な観光だ!」


「良いだろう! 乗った!!」


 セルドは、肝心の中身を理解しないまま、トーマスの手を握っていた。


「カーマはどうする?」


「まぁ、せっかく声掛けてくれたし、俺もやるよ!」


「よし、決まったな! それじゃあ、早速、ぶちかますぞ!」


「「おぉー!!」」


 俺達は、トーマスの考えた観光体験を行う為に、ゲホゲホに馬車を繋ぎ、正門の外に向かっていた。


 だが俺には、当然の様に馬車に乗り込んだトーマスに疑問を浮かべていた。


 何で、こいつはあの時、態々(わざわざ)ゲホゲホを連れて来るように言ったのだろうか。


 ゲホゲホの引く馬車に揺られながら、今から始まる観光体験についての疑問をトーマスに投げかけて見える。


「おい、トーマス。何でお前、ゲホゲホを連れて来る様に言ったんだ?」


「きゅう?」


「そりゃあ、今からの作戦で、一番重要な役割を担うのは、ゲホゲホとお前だからな」


「俺もなのっ!?」


「ああ、お前と俺で、混合出力を使ってゲホゲホを加速させるのが、作戦の第一歩だ!」


「あれ、俺の出番は無いのか?」


「セルドは、客の立場になって全力で体感してくれ。そして、自分の目で商売に活かせるかを判断してくれ」


「良いのか? 俺は見てるだけでも」


「良いんだ。これでワインの時の借りは返させて貰うぜ」


「分かった、全力で試させて貰うぞ」


 俺達は、正門の前に差し掛かると、夜勤中の第一警備隊の先輩方が、三人で警備に付いているのが目に入った。


 ただでさえ、夜間に外出する者は少ないから、目立たない様にしなければ。

 前回の様に他の隊との揉め事はごめんだ。


 ここは、穏便に済ませる為に、低姿勢で外出の許可を貰おう。


「すいません。散歩をしたいので、少しの間、門を開けて貰えますか?」


 俺は、外壁の上に居る門番に声を掛ける。


「分かりました。夜は魔物が出ますんで、くれぐれもお気を付け下さい」


「ありがとうございます」


 優しそうな門番は、正門の扉を開けてくれた。


 良し、夜間と言う事もあって、俺達の事はバレていない。

 しかし、順調に門を通過出来たと思ったその時、名前の思い出せない先輩が道を阻んだ。


「おい、カーマ! また変な事企んでんじゃねーよな?」


「違いますよ。こいつの散歩なだけですよ」


「なら、良いが。……また、揉め事になったら、次は警備長を呼ぶから覚悟しておくんだな!」


「安心して下さい。迷惑はかけませんから」


 彼は以前も正門で通行料をごねて、ルートさんを召還した名無しの先輩だ。

 帰る時は、この人に遭遇しない様にしよう。


 俺達は、街の外に出ると、右方向に壁沿いを進み、正門から距離を取った所で作戦会議を始めていた。

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