あるバイト門番の閃き
そろそろ時間だな。
トーマスは、今日一日、朝から姿を見せていない。
あいつにも、色々と思う所があるんだろう。
俺は、例え何を打ち明けられても、快く受け止めてやろうと意気込んで、ゲホゲホを連れて、寮の前に出る。
「お、カーマか、思ったより早いな」
問題の男は、街灯の少ない寮の前で、いつもと変わらない透かした笑顔を浮かべて、声を掛けて来た。
「ちゃんと、ゲホゲホも連れて来たぞ」
「きゅう」
「ありがとう。だが、まだ、一人足りない」
「えっ? 他にも呼んでいるのか?」
「ああ、こればっかりは、お前達に伝えておきたくてな……」
(俺以外にもう一人。考えられるとすれば、やっぱり、メリサだよな……。ってなると、本当に警備隊を辞める気なのか?)
「おっ、噂をすればって奴だな」
「わりぃ、遅れたわ! ……って、カーマにゲホゲホも居るのかよ!」
遅れて現れたのは、先程まで居間で一緒に寛いでいたセルドだった。
「それはこっちの台詞だ! トーマス、お前は、何を隠してるんだ!」
「え? お前、聞いて無いのか?」
「ちょっと待て! セルドは、知ってるのか!?」
「勿論、知ってるぜ。逆にお前は何だと思って出て来たんだよ? そういやー、さっき、飯食う時も酷い面だったぞ! ――そりゃ、元々か!」
「元々じゃねーわ!」
「まぁ、待ってくれ二人共、これは俺から言わせてくれ」
「早く言えよ」
俺は、今すぐにでも喋る様に促すと、トーマスは大きく息を吸って、次の言葉を発した。
「セルドに試して貰いたい、新しいビジネスを思いついたんだ! 二人共、手を貸してくれないか?」
「……ちょっと待てよ」
「どうしたカーマ? 不満か?」
「お前、もしかして、そんな事の為に、毎日悩んでいたのかよ。……心配して損したぞ」
「そんな事って言うなよ。こんなんでも、セルドの将来が懸かってるからさ。で、お前は何を心配していたんだよ?」
「俺は、お前が警備隊を辞めるって言い出すと思ってたんだぞ!」
「想像力が豊かな奴は幸せ者だな」
「うるせぇ!」
深刻そうな顔をしていた数日前からのトーマスは、只、仕事中に考え事をしていただけの不真面目な男だった。
こいつが考える事だ。
恐らく、この間のワイン作りのミスを帳消しにしたいとか、そんな所だろう。
「それで、トーマス、お前の言うビジネスの中身とは何だ?」
セルドは、トーマスの案を今月の試作品にするべく問いかける。
「実はこの間、カーマと混合出力でオークを倒したんだが、その時に閃いたんだ。これなら、このマンネリした王都に、新しい風を吹かせるんじゃないかって!」
「新しい風って?」
「ズバリ、このロムガルドに新たな観光の目玉を作ろうと思う!」
「観光!?」
トーマスの提案は、俺の想像の斜めを上を越えて来たが、セルドは狼狽える事無く、質問を投げかける。
「観光の目玉って言うと、時計塔みたいな町のシンボルの事か?」
「そうだ。だが、観光は場所だけじゃない。そこでしか出来ない体験も立派な観光だ!」
「良いだろう! 乗った!!」
セルドは、肝心の中身を理解しないまま、トーマスの手を握っていた。
「カーマはどうする?」
「まぁ、せっかく声掛けてくれたし、俺もやるよ!」
「よし、決まったな! それじゃあ、早速、ぶちかますぞ!」
「「おぉー!!」」
俺達は、トーマスの考えた観光体験を行う為に、ゲホゲホに馬車を繋ぎ、正門の外に向かっていた。
だが俺には、当然の様に馬車に乗り込んだトーマスに疑問を浮かべていた。
何で、こいつはあの時、態々ゲホゲホを連れて来るように言ったのだろうか。
ゲホゲホの引く馬車に揺られながら、今から始まる観光体験についての疑問をトーマスに投げかけて見える。
「おい、トーマス。何でお前、ゲホゲホを連れて来る様に言ったんだ?」
「きゅう?」
「そりゃあ、今からの作戦で、一番重要な役割を担うのは、ゲホゲホとお前だからな」
「俺もなのっ!?」
「ああ、お前と俺で、混合出力を使ってゲホゲホを加速させるのが、作戦の第一歩だ!」
「あれ、俺の出番は無いのか?」
「セルドは、客の立場になって全力で体感してくれ。そして、自分の目で商売に活かせるかを判断してくれ」
「良いのか? 俺は見てるだけでも」
「良いんだ。これでワインの時の借りは返させて貰うぜ」
「分かった、全力で試させて貰うぞ」
俺達は、正門の前に差し掛かると、夜勤中の第一警備隊の先輩方が、三人で警備に付いているのが目に入った。
ただでさえ、夜間に外出する者は少ないから、目立たない様にしなければ。
前回の様に他の隊との揉め事はごめんだ。
ここは、穏便に済ませる為に、低姿勢で外出の許可を貰おう。
「すいません。散歩をしたいので、少しの間、門を開けて貰えますか?」
俺は、外壁の上に居る門番に声を掛ける。
「分かりました。夜は魔物が出ますんで、くれぐれもお気を付け下さい」
「ありがとうございます」
優しそうな門番は、正門の扉を開けてくれた。
良し、夜間と言う事もあって、俺達の事はバレていない。
しかし、順調に門を通過出来たと思ったその時、名前の思い出せない先輩が道を阻んだ。
「おい、カーマ! また変な事企んでんじゃねーよな?」
「違いますよ。こいつの散歩なだけですよ」
「なら、良いが。……また、揉め事になったら、次は警備長を呼ぶから覚悟しておくんだな!」
「安心して下さい。迷惑はかけませんから」
彼は以前も正門で通行料をごねて、ルートさんを召還した名無しの先輩だ。
帰る時は、この人に遭遇しない様にしよう。
俺達は、街の外に出ると、右方向に壁沿いを進み、正門から距離を取った所で作戦会議を始めていた。




