あるバイト門番の人違い
「あの子何てどうだ? ちゃんと顔は見えないが、多分可愛いぞ」
俺は、胸元まで伸ばした綺麗な金髪が印象的な、小柄な女の子をセルドに紹介する。
「そうだな。一人という事は俺達のナンパを待っているに違いない。行くぞ」
「今度は大丈夫だろうな?」
「任せろ、師匠の十八番、知り合いのフリを使うから心配しなくていいぞ!」
俺にはその師匠が関わる方がよっぱど心配だよと、心の中で呟きながらも、傍観に徹する。
すると、俺の心配をよそに色気に塗れたセルドは、ベタベタのまま、女の子の元に向かう。
「久しぶりー、元気してたー?」
流石に、初対面の女の子相手に、それは無理があるんではないだろうか。
「…………」
「俺だよ、俺、もしかして、忘れちゃったの?」
「……あぁん? 誰だよお前? さっきから冷たいし、汚いんだけど」
金髪の女の子は、視線を上げず、動く度に水滴を蒔き散らすナンパ師に対応している。
「ほんとに忘れたのかよ、俺だよ。セルドだよ。セ、ル、ド!」
「……なんだ、セルド。お前だったのか。……【憑依】」
何故だか、両手に炎を纏っているのが気になるが、どうやら女の子は、セルドと知り合いだったみたいだ。
「ったく、本当に忘れてたなんて酷いじゃないか。……ハハハハッ! って、本当に知り合い!?」
「お前こそ、久しぶりに会ったら随分生意気になったみたいね」
女の子が顔を上げると、そこには俺も知っている女が、随分怖い顔つきでセルドを睨んでいた。
完全に俺のリサーチミスだ、すまないセルド。
髪の毛を下ろしていたから気付かなかった何て事は、言い訳にしかならないだろう。
(でも待てよ? どうして、この二人が知り合いなんだろう。接点無さそうだけど……)
「……あ、あ、あ、アーリアさん!?」
「あら、忘れて無かったみたいね。でももう遅いわ、死んで詫びなさい!」
「違うんです! あいつが、新入りのカーマって奴がぁああああああああああーーー!!!」
最後に人の所為にしようとしたベタベタな男は、燃え盛る拳に顔面をぶっ飛ばされていた。
「で、あんたも共犯なの?」
「いいえ、俺はただの傍観者です」
「そう、ならいいわ」
「ちょっと待ってくれアーリアさん! あいつがアーリアさんを見つけて、あそこに軽そうな女が居るって言ってきたんです!」
「ふざけるな! 俺がそんな事言う訳ねえだ――ぎゃあああああ―!!!!」
「お前は言いそうだろが!」
その後、弁明の度に幾度と無く、全身を火だるまにされた俺達は、民衆に視線を向けられる中、時計塔の前で正座をさせられていた。
「本当に悪かった。殺される前に、最後に一つだけ聞かせてくれないか?」
「何よ?」
「何でお前ら顔見知りなんだ? セルドもあそこで仕事を紹介して貰ったのか?」
俺は、隣で正座している髪の毛がチリチリの男に尋ねると、予想外の答えが返って来る。
「それはそうだけど、その時はアーリアさんが担当じゃ無かったぜ。……だって、その時アーリアさんは、第三警備隊に居たからな!」
「止めろっ!勝手に私の職歴を喋るな!」
「嘘だろ!? お前、俺に仕事紹介する時、そんな事一言も言わなかったじゃねーか!!」
「言う訳無いでしょ! 私の代わりに補充される使い捨てに」
「使い捨てとかいうな! 俺だってこんな所って知ってたら入らなかったぞ!」
「忠告はした筈だけどね、お勧め出来ないから止めとけって」
あの時の事を思い返せば、確かにそんなやり取りもあった様な気がする。
「その節はすいませんでした。身長を誤魔化してた貴方様が、まさか本当の事を言ってるだなんて、思いもしなかったです」
「一々ムカつく奴だな」
「そーいや、アーリアって確か俺の一つ上だった筈だろ。何でセルドは敬語使ってんだ? お前ら同期じゃないのか?」
「はあ? 何言ってんだよお前、この人は――」
「止めろセルド、それ以上言うと殺すぞ」
アーリアは急に顔色を変え、セルドの顔の前に、燃え盛る拳を近づける。
どうやらこの女は、まだ俺に何かを隠しているらしい。
「そこまで言ったらもういいだろ、どの道分かる事だし」
「こればっかりは駄目!」
「いいから言えって!」
「嫌っ!」
「セルド、明日の晩飯、俺が奢るわ」
「了解した! この人、普通に姉御より年上だぞ」
「はぁ? そんな訳ないだろ。大体、そんな馬鹿な事する意味ないだろ。なぁ、アーリア? 流石に冗談だよな?」
「…………」
アーリアは顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
つまり、こいつは黒だ。
「まじかよ!? お前、身長だけじゃ飽き足らず、年まで誤魔化してたのかよ。何個サバ呼んでたんだ?」
「…………四つよ」
「さっすが、アーリアさん! 相変わらずの詐称癖だな!」
「うるさい! 私の勝手だ。……いいだろ別に」
確かに詐称も個人の自由なのかも知れないが、俺には数個年齢を誤魔化す意味が理解出来なかった。
「お前、そんなペースで嘘付いて大丈夫かよ?」
「大丈夫よ! あんた如きが心配してくんな!」
こいつは、せっかく人が心配してやってるのに何て態度だ。
さっきは痛い目に合わされた事だし、何か仕返ししてやろう。
そうだ、暇つぶしにアーリアの嘘を、もう一つ位暴いてみようとしよう。
爺ちゃんは言っていた。
嘘つきは、嘘に嘘を重ねて生きる悲しい生き物だと。
「他にも何か誤魔化してるんじゃないのか? そうだなー、例えば、その不自然に盛られた様に見える胸とかな!」
「はあ? そんな訳無いでしょ! 天然よ天然!」
「どうかな? 犯人はいつもそんな事を言う」
この焦り方、黒で間違いない。
大方、胸元に詰め物でもして、膨らましているのだろう。
「カーマお前、一体、何する気だよ?」
「何って、確認するだけだ」
大丈夫だ、あいつも火属性だ。
俺の魔法では、ダメージも傷も残らないだろう。
俺は正義の名の元に、嘘つきのおっぱいを燃やしてみる事にした。
「具現出力、フレイムア――」
「やらせねえよ!」
何故かセルドが俺の右腕を取り押さえる。
「てめぇ何しやがる! 今からあいつのおっぱいを、これでもかと調べ尽くしてやるところだ! 邪魔をするなぁ!」
「頭を冷やせ馬鹿、【具現出力――飲み水】」
頭上から大量の飲み水が俺を襲う。
「つめたっ! 何しやがる?」
「お前こそ何する気だったんだよ? セクハラじゃ済まねえぞ。……って、あれ? アーリアさんはどこ行った?」
俺がセルドと方向性の違いで揉めている間に、アーリアはすっかり目の前から姿を消していた。
「あいつ、本当にどこ行きやがったんだよ。……あれ? あいつ、帰って来たぞ」
辺りを見渡すと、俺達と少し離れた所からアーリアが、誰かを連れてこっちに向かって来ていた。
「でも、横にいるのは誰だ?」
通行人達が壁になっている事もあり、未だに二人目の正体は確認出来ないが、アーリアが近づいて来るにつれ、自然と会話が聞こえてきた。
「あー、あそこにいる赤髪の男です」
「あの男性で間違いないですか?」
「はい、お願いします」
「分かりました、連行します」
アーリアが連れられて来たのは、いつぞやの警務隊員、オー・マワリ―さんだった。
「カーマ・インディー。十一時八分、わいせつ未遂の現行犯で逮捕する!」
「マワリ―さん!?」
「何で、警務隊がここに?」
「私が呼んだのよ! さあ、マワリ―さん、あの変態を逮捕して貰えますか?」
「ちょっと待ってよマワリ―さん! 俺がいつそんな事したんだよ! あいつの嘘に惑わされないで下さい!」
「被害女性は、先程こう言っていました。お前のおっぱいを燃やして、これでもかと調べ尽くしてやる! と大きな声で叫んでいたと。カーマ君、これはね、立派な犯罪ですよ」
「そんなぁ!?」
「カーマ、走れるか?」
マワリ―さんに迫られる中、セルドが他に聞こえない様に小声で呟く。
「ああ、俺は騎士になるんだ。こんな所で捕まるわけにはいかない」
「だよな、なら行くぞ。俺が合図を出したら、全力で【親知らず通り】まで逃げる。分かったな?」
「任せろ!」
あの入り組んだ路地に入りこめば、隠れる場所は幾らでもある。
俺はいつでも逃げ出せる準備をして、セルドの合図に備える。
「あっ! あっちにドラゴンだ!」
「「何っ!?」」
セルドは勢い良く正門の方を指差すが、勿論、その先には青空しか広がっていない。
昔ながらの手法だが、おじさんと、歳を誤魔化していた女は、見事に引っかかる。
「「今だっ!」」
俺達は、一心不乱に走りだし、【親知らず通り】を目指す。
「待ちなさいよクソガキ共っ! 【具現出力――火炎球】!!」
アーリアは、両手から魔力の凝縮させた火の玉を作り出し、俺達に向かって投げつける。
「させるかよ! 【具現出力――水流の障壁】!」
すかさずセルドが、俺達の背後に水の障壁を作り、火の玉を打ち消す。
「やるなセルド!」
「だろ、このまま逃げ切るぞ!」
「おう!」
俺達は、そのままの勢いで走り続け、何とか【親知らず通り】に辿り着く事が出来た。
「もう、ここまで来れば大丈夫だろ」
「ああ、さっさと隠れてやり過ごそうぜ!」
だが、物影に隠れた俺達の耳にマワリ―さんの声が響く。
「待ちなさい君達! 逃げても罪を重ねるだけですよ! 今すぐ出て来なさい!」
「くそっ、あの野郎、まだ追って来るのかよ! どうするセルド?」
「厄介だな、何とか」
マワリ―さんから逃げるにはどうしたらいいのか。
いくら考えてみても、俺達の脳裏には実力行使しか思い浮かばなかった。
そんな時、俺達の目の前に頼れる女が姿を現した。
「やほー、二人で何やってんの?」
「姉御!」
「アーチ、いやアーチ様! 一つ頼み事が……」
「無理無理、あたし忙しんだけど」
「いいから、すぐ終わるからさ、ちょっとこっちに来てくれ!」
アーチをマワリ―さんの声がする方の路地に誘導する。
「だっから、何するかだけでも教えなさいよ!」
「大丈夫! 姉御ならすぐ終わるさ」
俺達は、迎撃兵器ことアーチを配置し、マワリ―さんの到着を待つ事にした。
配置完了後、すぐさまマワリ―さんが姿を見せる。
「見つけたぞカーマ君! もう観念するんだ!」
「まーたお前かよ!」
「貴様は、コソ泥アーチ! ここであったが10年目! 貴様諸共全員逮捕だ!!!」
「だからあたしは、忙しいっつってんだろうがぁ!! 【具現出力――大地の巨腕】!!」
「そんな技、何度も通じると思ってんなぁああああああああああーーー!!!!!」
地中から飛び出した巨大な岩石が、勢いよくオマリーさんを垂直に突き上げる。
為す術無く散ったマワリ―さんは、今日も愉快に空を舞っていた。
「ふうー。んじゃ、あたしは帰るよ。あんた達、歓迎会遅刻すんなよー」
「サンキュー姉御!」
「助かったアーチ、それじゃ、また後でなー」
アーチは何やら用事があったのか、そのまま路地裏に消えていった。
何はともあれ、一件落着だ。
暇潰しも出来た事だし、夜の歓迎会に備えて、仮眠でも取るとしよう。
今日の天気は、晴れ、時々マワリ―だった。




