ある警備長の体験談
「よーし、お前ら良く頑張った! 今日はこれで終わりじゃ!」
「「おっしゃー!」」
「特訓の後は、水分補給じゃ! セルドや水を用意せい」
「またかよー、【具現出力――飲み水】」
すると、警備長が用意した三人分のコップに、セルドが魔法で水を注いでいく。
「乾杯じゃ!」
「「乾杯!」」
水分を欲した体にセルド産の水が優しく染みわたる。
「くうー! やっぱ運動した後の水は最高だな!」
「だな!」
「そうじゃろ、こやつの水は中々にうまい」
「あざっす! それでは、俺は用事があるんでお先に上がります!」
「おいセルド、待てよ。俺も帰るって」
一足先に帰ろうとするセルドを追いかけようとすると、警備長に呼び止められる。
「待てい、カーマ。お前もそんなに急いでどこに行くつもりじゃ?」
「勿論寮ですよ。朝早かったんで、眠たいんですよ」
「そうか、なら儂が、ここで寝かしつけてやろうかの」
「遠慮しときます」
「そんな事はさておき、お前も入ってそろそろ一週間位になるが、うちの警備隊はどうじゃ?」
思い返してみても、頭の中を過ったのは、仕事内容よりあの先輩達だ。
どうにも、警備隊に入ってからはろくな事が無い気がする。
「正直な所、まだ、慣れないっすね。仕事も人も。それに、夜勤もまだ経験してないんで」
「そうかそうか。まあ、何でも経験じゃからな、いっぱい失敗するといい」
「嫌ですよ! 失敗したら、また氷漬けですよ!」
「そうじゃな。最近のあいつは、ちと怒りすぎだな。じゃがな、カーマ。人がやって来た事、積み上げて来た事に無駄な事なんて、何一つ無いんじゃ。これから大変な事もあるじゃろうが、それだけは覚えておけ」
「は、はいっ!」
警備長の言葉は、この特訓をする真の意味でもあるんだろう。
俺は、鍛え抜かれた圧倒的な体を前に、とてつもない説得力を感じた。
俺も、この辛い特訓を耐え抜いて、まずは一人前の門番になり、その経験を活かして騎士への狭き門を突破してやるんだ。
決意を新たにした俺は、人の限界をとうに超えていそうな警備長に、強さの秘訣について聞いて見る事にした。
「警備長は、どうやってそんなに強くなったんですか? やっぱり特訓ですか?」
「そうじゃな、とにかく特訓あるのみじゃ。実際、儂は子供の頃は、地元でも有名な落ちこぼれじゃった。毎日、皆の笑い物にされておったわ」
「……し、信じられません。……本当に、落ちこぼれだったんですか?」
「そうじゃ、何せ儂は、生まれながらに魔力を持っておらんからのー」
「えっ!? そんな事って、ある訳……」
陽気で豪快な警備長からは想像も付かない、耳を疑うような話に、空いた口が塞がらなかった。
魔力は、生まれながらに、誰にだって当たり前に宿る物だ。
この世界では、家柄ら富と並んで、魔力の量や質で、優越を付けたがる人間も多いのが事実だ。
そんな当たり前の物が、自分には無いと知った時の気持ちなど、俺には到底、計り知る事は出来なかった。
俺は開いたままの口で、何と声を掛ければいいかと悩んでいると、過去を微塵も感じさせない表情の警備長が話を続ける。
「当然、何処に行っても仲間外れ、終いには親にも捨てられてしもうたわ。……その時の事は、今でもたまに夢に出て来るぐらいじゃが、それでも、儂は周りを見返したい一心で、自分を鍛え続けたんじゃ。すぐには結果は出なかったが、今じゃ王都の警備長にまで昇りつめてやったわ。どうじゃ!」
「……流石は警備長です!」
「そうじゃろ。長々言った訳じゃが、要は、自分を信じて積み上げ続けろって事じゃな。特訓は、時に無理を無理やりに変えてくれるからの」
「はい! 俺、やってやります! 無理やりにでも、憧れの騎士になって見せます!」
「その意気じゃ! ちなみにじゃがの、張り切りすぎるのもいいが、腰には気を付けろよ」
「そうですね、ほどほどにします」
「さもないと、良く分からんマニアックな名前の体位で、子作りする破目になるぞ」
「それは困りますよ。いざって時に、そんな体位を態々説明したくないですからね」
「じゃろ、じゃから何事も程々にしておけよ、儂の様になりたく無ければな!」
「あんたの体験談かよ!」
実際、どんな事をしたのか興味があったが、生生しい事を言ってきそうなので、深入りは止めておこう。
「特訓ありがとうございました。明日もお願いします」
「それじゃあ、儂はもう仕事にいくとするかのう」
「警備長は今日も出勤ですか?」
「左様じゃ、儂と副警備長のルートは、交代勤務をせん代わりに出勤日数が多いからのう」
そう言い残し、まだまだ元気な警備長は門の下まで飛んでいった。
俺も一度寮に戻り、夜に備えて仮眠でも取ろう。
なんせ、今日の夜は、俺達が入隊してから初めての連休という事で、隊の先輩方が俺達三人の為に歓迎会を開いてくれるそうだ。
仕事を始めてまだ一週間も経っていないが、すっかり社会人をしているなと、我ながら感心する。
そんな事を考えて外壁を下ると、歓迎会の参加者の一人がこちらに歩いて来ていた。
「ルートさん、おはようございます」
「おはよー、カーマ君。あ、そうだ! カーマ君って火属性だったっけ?」
「はい、そうですけど」
「そっか、なら丁度よかった! ちょっと顔貸してくんない? すぐ終わるからさ」
「わ、分かりました。俺で良ければ」
急遽、ルートさんに呼び止められた俺は、訳も分からずに後ろを付いて行く事となった。




