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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第二部 第一章 あるバイト門番の誤魔化し
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ある職業体験生の理想と現実

 ◇ ダーマ視点 ◇


 ようやく、記念すべき俺の騎士団デビューの日がやって来た。


 兄ちゃんから貰った装備を付け、正門の壁に入り込んだ先にある事務所で朝礼を終える。


 中々、理解出来ない言葉が飛び交う安全唱和を終えた頃、正門に配置される事となったラーマと別れた俺は、ガタイだけは立派なジジイと共に、王都の裏門へと向かい、警備を始める事になった。


「ここが裏門じゃ」


「へぇー、王都の裏側は正門と違って、案外静かな所だな。山が近いから安心するよ。……もしかして、裏門って暇なの?」


 俺は、初めて訪れた裏門から見る、自然豊かな景色に心を落ち着かせながら、ふと、通行客で溢れる正門との違いを口に出してしまう。


「正門と比べれば暇じゃろうな。じゃが、来るのは人では無く、魔物じゃ」


「魔物っ!?」


「そうじゃ。お前は、実際に魔物と戦った事はあるか?」


「……村の大人達に付いて行った事はあるけど、一人で討伐した事は無い」


 ジジイの問いかけに、咄嗟に口から出た言葉は、自分の実力を大きく膨らませてしまった。


 本当は、魔物と戦った経験などない。

 只、村の入口から眺めていただけ。


 兄ちゃんは、俺ぐらいの年には、既に大人達と共に村を守っていた。

 いつも、兄ちゃんの影に隠れて、後ろを辿っているだけの自分を変えたいと思って、王都にやって来た。


 けれど、近づけば近づく程、兄の背中は偉大に見えた。


 きっと兄ちゃんは、騎士団に入って直ぐに活躍し、皆に認められて来たのだろう。


 嘘を付いた自分への罪悪感と同時に、兄の偉大さ痛感し、自らへの情けなさから視線を下に向けていると、そんな俺の顔をジジイが屈み込みながら覗き込む。


「何を落ち込んでおるんじゃ?…………ほう、そういう事か。……なら、今回の四日間、お前の目標は、一人で魔物を倒して裏門を守る事にしようかのう」


「えっ? 一人で? 俺がっ!?」


「お前しかおらんじゃろ? 例え子供であろうが、この短期間で何も成し得ない様では見込みは無い。儂が、お前の将来を占ってやろう」


「占う? ジジイの占いが信用出来る訳無いだろ?」


「出来る筈じゃぞ。なんせ、お前の兄を育てたのはこの儂じゃ。……まぁ、あ奴は、まだまだ特訓中じゃがのー」


「嘘くせぇ」


「信じてくれなくて構わんが、一先ず、仕事の説明じゃ。二回は言わんからの」


 その後、最低限の説明を受けた俺は、魔物が現れるのを待ちながら、ぼんやりと裏門からの景色を眺めていた。


 すると、裏山へと続く林がカサカサと音を立てて、不気味に揺らいで見せた。


「ダーマ、準備しろ。魔物が出たぞ」


「わ、分かった! どうすれば良い? 先に【ピンポンパン】押すんだっけ?」


 魔物を待ち続けていたものの、いざ、その時がやって来ると、予想外の緊張に襲われる。


「まずは剣を抜け。【ピンポンパン】を押すのは、魔物を目視で確認出来たらで良い」


「分かった!!」


 ピーン、ポーン、パーン。


「魔物を確認してから押せと言ったろうがっ!!」


「ごめんっ!」


 ジジイに怒られながらも、教えて貰った通りに三回【ピンポンパン】を鳴らすと、その場違いな高音が鳴り止む頃、林の中から三体のゴブリンが姿を現した。


「ダーマ、手前の二体をやる。お前は、後ろを頼む」


「待ってよ! いくらジジイでも、武器も無しに危険だ!」


「儂には武器など必要無い。ゴブリン如き、二秒でケリを着ける」


 ジジイは、丸腰でゴブリンに向けて駆け出すと、断末魔を上げる間もなく、二体のゴブリンを肉片に変える。


(い、今、ジジイの奴、何しやがった? こんなに近いのに見えなかったぞ……)


 目の前の衝突事故に気を取られていると、残った一体のゴブリンは、俺に向けて飛び掛かって来た。


「ぐぎゃぎゃぎゃー!!」


「ひっ!」


 ゴブリンが頭上から振り下ろす錆びた短剣を、何とか兄ちゃんの剣で受け止めるも、勢いを殺し切れずに尻もちをついてしまう。


「くそっ! どっか行けぇ!」


「ぎゃぎゃっ!」


 馬乗りにされる中、何とか腹部を力一杯蹴り飛ばすも、ゴブリンは直ぐに起き上がり、もう一度、身軽な身体で跳び上がり攻勢をかけてくる。


「うわぁっ!!」


 ゴブリンの体重を乗せた一撃を耐えられず、剣が手元から弾き飛ばされる。


 しっかりと準備出来た一度目と違い、今回は焦りながらの防御になってしまった。


 それに、一度目の攻撃を受け止めた事で、既に両手は握力を失っていた。


(まずい、このままではやられる。……なら、一か八か魔法に賭けるしか……)


 剣を捨て、後退りながら間合いを取った俺は、ゴブリンに向けて、右手から魔力を解き放つ。


 頭に思い描くのは、カーマ兄ちゃんが得意にしている炎の矢。


「くらえっ!【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――炎の矢(フレイムアロー)】!!」


 右手から発言した手の平サイズの火矢は、ゴブリンに向かい、一直線に飛んで行くも、寸前で躱される。


「そんなっ! 渾身の【炎の矢(フレイムアロー)】が……ジジイ、助けて……」


 頼みの綱であった炎の矢も通じず、戦意を喪失しかけていると、目の前に居たゴブリンが、一瞬で林に吹き飛ばされる。


 今回も目で捉える事は出来なかったが、犯人は直ぐに分かった。


「情けない奴じゃのう」


「ジジイ……ありがとう」


「じゃが、これで分かったじゃろう? お前の実力は、ゴブリン以下じゃという事を」


「……うん……けど、やっぱ悔しいよ」


「初めて魔物と戦ったにしては上出来じゃ。安心せい。この四日間で、儂がお前を立派な騎士に鍛えてやろう。良いな?」


「うん! 宜しくねジジイ!」


「お前、カーマ以上に礼儀知らずじゃろ?」


「そんな事無いよ。それより、さっきの凄い奴教えてよー」


「無理じゃ。今のお前には出来んぞ」


 圧倒的な力を持つジジイに弟子入りする事が決まった俺は、少し心を許しながら、来訪者が訪れない裏門の警備を続けた。


 一時間程、ジジイと他愛のない話で時間を潰していると、事務所から繋がる扉が勢い良く開かれる。


「うーす。姉御よりは早く到着したんだから、セーフだよな?」


「あたしら、ギリギリセーフっしょ!」


「二人共遅刻じゃい!! 馬鹿者っ!!」


「イタッ!!」


 裏門に現れるなり、ジジイに拳骨を叩き付けられたのは、アーチと兄ちゃんの隣の部屋に住むセルドだった。


「ダーマ、こんな大人になってはいかんぞ」


「うん。こいつ等みたいな、バイト暮らしにはなりたくないよ」


「何だこのガキ。後で泣かすぞ」


「セルド、あたしも手を貸すわよ」


「止めんかっ! 子供をイジメるな!! ほれ、ダーマ。儂らは上がるぞ」


 質の悪い二人のバイト門番に絡まれた所をジジイに助けられると、そのまま、壁の上に連れて行かれる。


 壁の内側から、壁上に繋がる内階段を駆け上がると、時計塔と同じ位の高さで王都中を見渡せる通路に辿り着く。


「下の警備はあの二人に任せて、儂らは修行じゃな。……じゃが、その前にお前の意気込みを聞いておこうと思っての。……ダーマ、将来の夢は何じゃ?」


 ジジイは、修行を始める筈が、唐突に将来の夢を尋ねてきた。


 正直な所、職業体験をしている時点で、分かり切っていると思うのだが、物忘れの激しいジジイに、今一度教えてあげる事にした。


「俺は、兄ちゃんみたいな偉大な騎士になって、この国の英雄になりたいんだ」


「……そうか。どんな英雄になりたい?」


「どんな? ……俺は、英雄になれるなら、何でも良いよ。その位の気持ちで頑張るんだ!」


 俺は、ジジイからの返答に本心から答えた。


「その位の気持ちか……それなら、簡単じゃぞ」


「えっ!?」


 すると、ジジイは、山々が広がる裏門の外を指差した。


「次に出没する魔物と戦って、己の命と引き換えに魔物を殺すんじゃ。そうすれば、お前は人々の命を救った英雄として、数週間は王都の片隅で語り継がれる。……どうじゃ?」


「……それってどういう?」


「簡単な話じゃ。死んで英雄になるのと、生きたまま英雄になるんじゃあ、成し遂げるべき事が全然違う。お前は、どっちを目指すんじゃ?」


「そんなの、生きる方に決まってるよ!!」


「じゃあ、死ぬ気で強くなって、生きたまま、魔物から門を守って見せよ!!」


「おうっ!!」


「では行くぞ! まずは、走り込みからじゃ!! 外壁ダッシュ! レディーゴー!!」


「ゴー!!」


 ジジイの熱い言葉を受けて始まった謎の修行は、理不尽以外の何物でも無い苦行だった。


 限界を超えるまで走り、腕力が悲鳴を上げなくなるまで腕立てを強要され、立ち止まると、ジジイのラリアットに吹き飛ばされる。


 こんなの、英雄になる前にジジイに殺されてしまう。


(助けて、兄ちゃん!)


 ジジイの熱い言葉に促され、修行を始めてしまった数時間前の自分に後悔していると、門の下からアーチの声が聞こえた。


「二人共っ! 先、昼飯行って良いよー! うちら、寝坊したしー」


「当たり前じゃあ! 誰に命令しとんじゃ!!」


 ジジイは、門の下に怒号を飛ばすと、修行を中断し、俺を事務所に連れて行った。


 昼食を取る為に向かった先では、慌ただしく仕事に励む兄ちゃんの姿があった。

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