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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第二部 第一章 あるバイト門番の誤魔化し
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あるバイト門番の再会

 正門前で戸惑いながらも通行料を支払ったダーマとラーマは、門を潜りながら馬車に乗せてくれた行商のおじさんに頭を下げると、慣れない人の数に怯える様に辺りをキョロキョロと見渡していた。


「ダーマ! ラーマ! こっちだ!」


「きゅう!」


「「あっ! 兄ちゃんだ!!」」


 二人は、俺の声に気付くと、不安そうな顔を笑顔に変え、こちらに駆け寄って来る。

 俺は、膝を畳んで二人の視線に高さを合わせると、両手を広げて迎える。


「良く来たなお前ら! 馬車の中では、ちゃんとお利口さんに出来たか?」


「「うん!」」


「王都は人が多いから、出来るだけ俺から離れるなよ? それとこいつが、手紙で伝えてた白馬のゲホゲホだ」


「きゅう!」


「あっ! ゲホゲホさん居たー!!」


 ラーマは、旅の目的であるゲホゲホを見つけると、俺の元から離れて、その真っ白な身体に跳び付いた。


「きゅう?」


 初対面のラーマに体毛を一方的にもふもふされているゲホゲホは、俺に困惑した目を向けて来るが、そのまま話を続ける事にした。


「ゲホゲホは、基本俺と一緒に居る家族みたいな奴だから、お前らも仲良くしろよ。じゃあ、取り敢えずは荷物もあるし、俺の住んでる寮に行くか!」


「うん!」


「兄ちゃん、私、ゲホゲホさんの上に乗りたい!!」


「良いぞー。それっ!」


 ラーマの両脇を抱えて持ち上げると、ゲホゲホの背に乗せる。


「ラーマ、危ないから絶対に手綱から手を離すなよ?」


「任せて!! ゲホゲホさん、しゅっぱーつ!!」


 言った傍から右手を離して、その人差し指を時計塔に向けたラーマが落ちない様に気を配りながらも、俺達は寮への道をゆっくりと歩き出した。


 だが、俺の隣を歩くダーマは、ゲホゲホの上で人一倍楽しんでいるラーマと比べ、随分大人しく見える。


「どうしたダーマ? 馬車旅で疲れちまったか?」


「……ううん。……お、俺もさ、後で、ゲホゲホさんに乗ってみたい」


「何だよ、そんな事かよ。この後いくらでも乗れるから、遠慮すんなって」


「だって、ラーマが……」


「いくらラーマでも、ずっと乗る訳じゃないからさ——」


「ラーマは、ずっと乗るよ!!」


 どうやら、ゲホゲホの上で弾んでいるラーマは、その場所を譲る気は無いらしい。


「お前なぁ……だったら、ダーマも一緒に乗ってみるか? それっ!」


 俺は、ダーマを強引に抱き上げると、手綱を握るラーマの後ろに乗せた。


「兄ちゃん! ゲホゲホさんの上、背が高くなったみたいで凄いよ!」


「知ってるよ。ダーマ、興奮して落ちるなよ」


「うん!」


 ゲホゲホの背に乗った途端、曇った表情をパッと明るくしたダーマとラーマを連れ、時計下通りを通って、寮の前に到着する。


「「着いたー!」」


「ここが、滞在中に寝泊まりする寮だ。右側の男子寮に俺の部屋があるから、そこに荷物を置こうな」


「「うん!」」


 自力では降りられない二人をゲホゲホから降ろしていると、何処からか帰宅したアーチと鉢合わせる。


「やっほー! やっと来たわね! チビカーマ!」


 アーチは、俺と瓜二つのダーマを覗き込むと、いきなり変なあだ名を付け出した。


「そうだ。こいつが弟のダーマと、こっちに居るのが妹のラーマだ」


「ラーマです。宜しくお願いします」


 ラーマは、アーチの元に駆け寄りペコリと頭を下げる。


「あたしは、警備隊……ごほんっ……騎士団員のアーチだよー。……にしてもこの子、カーマの妹にしては可愛い過ぎるな」


「だろ? ラーマは母さん似だからな。ダーマ、お前も挨拶しろ」


「で、でも兄ちゃん。あいつ、騎士団長の兄ちゃんの事、呼び捨てにしてるけど良いの? 母さんが言ってたんだ。王都にはそういう悪い奴が居るって」


 初対面でチビ呼ばわりをされたダーマは、アーチに疑惑の目を向けていた。


 確かに素行の悪い奴に変わりは無いが、少し喋る分には問題無い筈だ。

 ここは、ダーマに社会の厳しさを教えながら、誤解を解くとしよう。


 ついでに、事務所でアーチに殴られた恨みは、ここで返しておこう。


「良いんだ。あの人は、良い歳をこいてもバイト暮らしを続けてる可哀そうな人だから、兄ちゃんへの無礼な言動も特別に許してあげてるんだ」


「へぇー! じゃあ、俺も許してあげるよ。良かったねアーチ!」


「……チッ! ……カーマ、ちょっと独り言だから聞き逃して欲しいんだけどさ……」


「どうした急に?」


「このクソガキ、その内ぶっ殺すぞ!!」


「えっ!? 兄ちゃん、やっぱコイツ悪い奴だよ!」


「アーチ、独り言の域を超えるなよ。そうだ、後でコイツら連れて王都を観光するんだけどさ、お前も来るか?」


「良いよー暇だし。せっかくだから、メリサにも声掛けとくわー」



 アーチは、ダーマに舌を出しながら、挑発する様に女子寮へと戻って行った。


「取り敢えず、部屋入ろっか」


 俺は、玄関の扉を開けると、休日で無人の寮へと入り、自分の部屋へと二人を案内した。


「へぇー、ここが兄ちゃんの部屋か! でも、騎士団長にしては、意外と狭くないか?」


「だね! ホントにここで、ゲホゲホさんと寝てるの?」


「……そ、そうだよ。いくら出世が早くても、まだ、入ったばっかりだからな」


「じゃあさ、来年には、兄ちゃんもお城で暮らすのか?」


「それはどうだろうな? ここの生活も悪くないからなー……」


 時折、痛い所を突いて来る、二人の何気ない疑問をそれっぽくはぐらかしながら、二人の荷物を片付けていると、部屋の話の中で、忘れていた事に気付く。


(そう言えば、二人って何処で寝させればいいんだろうか? ……俺の部屋に全員は厳しいし、ゲホゲホを追い出すのも可哀そうだよな)


 となれば、俺がセルドかトーマスの部屋に行くしかないか。


 仕方なく妥協案を思いついた時、またも、忘れていた事を思い出す。


 駄目だ。

 この建物には、トーマスが居るんだった。

 幼女に目が無い男と同じ屋根の下に、大事なラーマを置く訳には行かない。


 そうだ、ラーマは女子寮に任せよう。


「ラーマ。言い忘れてたんだが、ここは、男子寮になるから、ラーマは隣の女子寮で寝る事になるけど良いか?」


「えっ? ……それじゃあ、ラーマは、ゲホゲホさんと寝れないって事?」


「夜はそうなるな。けど、昼寝ならいつでも大丈夫だから、我慢出来るか?」


「……分かった。今の内にモフモフしとく」


「ごめんな。これもお前の為なんだ」


 暫く、二人と近況報告を兼ねて話を弾ませていると、玄関から、大きな声で呼び掛けられる。


「カーマ!  チビ達!  メリサ連れて来たよー!」


「よーし、お前ら、今から兄ちゃんが王都を観光がてら案内してやるぞ」


「やったー! 俺、闘技場(コロシアム)行ってみたい!」


「ラーマは、時計塔!」


「良いぞ! 王都は美味い物も一杯あるから、寄り道しながら行くぞ!」


「「おぉー!」」


「きゅううー!」


 アーチの呼びかけに応える様に、ウキウキの二人とゲホゲホを連れて寮の外に出ると、玄関前には、アーチとメリサの姿があった。

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