あるバイト門番の保証人
「なぁ、二人は保証人、誰にしたんだ?」
先程のおじさんの発言から、ふと気になったので聞いてみる事にした。
「そんなの内緒に決まってるでしょ」
「俺も最低限のプライバシーは守りたい」
「そっかぁ……なんか変な事聞いて悪かったな」
「良いって事よ! それより、早く帰って明日の為に寝ないとな」
「そうだな……っと見せかけて、おりゃー!!!」
俺は、セルドの手に持っていた借用書を取り上げ、気になる保証人を確認する。
【セルド・ザガリアス 総額46000ローム 保証人カーマ・インディー】
「セルド、お前46000ロームも借金あんのかよ! ハハハハハッ……はあっ!? 俺じゃねーか!!」
セルドの借金総額を見て笑っていた俺に、この日、何度目かの衝撃が襲い掛かる。
すっかり酔いが醒めた俺は、勢いそのままにセルドに詰め寄る。
「お前っ! さっきアルバイトの奴は駄目って言わなかったか?」
「わりい、わりい、姉御が真面目な顔してカーマに嘘付くのが面白すぎて、つい乗っちゃったわ、テヘっ!」
「乗っちゃった、テヘ! じゃねぇんだぞ。おい、嘘つき女! お前も借用書見せてみろ!」
「えぇー? いいけどさー、あんた、もし違った時はどう責任とるつもり? レディーの個人情報は高く付くけど?」
「うるせえっ、自分からそんな事言う奴、犯人しかいねぇんだよ、貸せっ!」
この期に及んで鎌をかけようとするアーチから、強引に借用書を取り上げる。
【アーチ・クルーパー 総額86163ローム 保証人カーマ・インディー】
「ほら見ろ嘘つき女! お前ら今からもう一回行って変えてこい!」
「今からは無理だって、それに、保証人は新しく借りる時しか変えれないし」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「ほんとに、ほんと?」
「今度はマジ」
嘘付き共の言葉は信じたくは無いが、そうでも無ければ受付のおじさんも態態尋ねたりしなかっただろう。
でも、どうする?
流石に入隊初日で、隊長の名前を勝手に使って借金するのは不味すぎる。
「じゃあ、お前らのはまだ良いとして、俺どーすんの? フェイさんだぞ?」
俺の保証人事情を聞いた二人は、まるで他人事の様に吹き出し笑いだす。
「「あっはっはっはっはっ!!!」」
「ああ、終わったな。フェイにバレたら、お前は間違いなく氷漬けだな」
「さっき、アーチが言ってた、フェイさんは優しいってのは?」
「あれは、基本は合ってるけど、あいつ、金が絡むとホントにヤバいから気を付けた方が良いわよ!」
「お前らがこの状況を作ったんだろ! 笑ってないで何とかしてくれよ! 俺は何も笑えねえぞ!」
「そう? あたしは仲間が笑えない時こそ笑ってやるのが仲間ってもんだと思うけど?」
「そんな借金仲間は勘弁だ!」
「でもよー、そんなの借用書の存在がフェイにバレなければ問題無いだろ」
「そっか、その手があったか!」
セルドの言葉に、酔って醒めてを繰り返した俺の頭に電撃が走る。
「そうだぞ、バレなきゃいんだよ、バレなきゃ。お前のお得意の炎で、フェイが気づくより先に送られてくる借用書を燃やせばいいだけだろ」
「そう、だよな! どんな犯罪もバレなきゃセーフだもんな!」
「いやー、カーマも一日で成長したね! あたしらに良い影響受けてるみたいで安心したよ」
「うるせえ、嬉しくも何ともねーよ」
アーチに褒められるも全く良い気はしない。
寧ろ逆だ。
それでも、もう今日の俺に、考える気力は残っていない。
恥ずかしい限りだが、こいつ等の言う通り、バレなきゃ良いという結論に至ってしまった。
何とか解決策を見つける事が出来た俺達は、酔いが回り火照った体を、気持ちのいい夜風で冷ましながら帰路に着く事にした。
寮に変えると、俺達はすぐさま大浴場に入り、汗を流した後、急いで床に着く。
ベッドに横になれた時には、時計の針は、午前二時が過ぎた辺りを指していた。
肝心の借用書については、明日どうやって燃やすかを考えよう。
兎に角、今日はもう明日の為にも寝ないとな。
そんな事を考えて目を閉じると、気付けば朝になっていた。
「ふあぁーあ、よく寝た……って今何時だ?」
眠たい目を擦りながら、時計を確認しようと体を起こしたその時、朝の八時を知らせる鐘の音が俺の耳に飛び込んできた。
その鐘の音を聞いた俺は、状況を理解し、慌ただしく飛び上がる。
「「うわあああああああああああーーー!!!」」
俺の起床と同時に、隣の部屋から同じ様な状況の男に、大きな声で呼び掛けられる。
「カーマ起きろ!! 寝坊だ!!」
「うわああーー! やっちまった! 急ぐぞセルド!!」
俺達は、叫び声を上げながら最低限の荷物を持ち、寮から飛び出して正門を目指す。
「こっちだカーマ! 近道だ!!」
「おう!」
セルドに言われるがまま、大通りを使わずに、アーチの家の方面からのショートカットに全ての望みを賭け、一心不乱に走り出す。
まだ鐘の音は止んでない、この調子なら何とか成るかもしれない。
「姉御の事は放っておけ! あれは何時もの事だ! それより、鐘の音が終わる前に事務所に急ぐぞ!」
「分かってる!!」
置いていく事にしたアーチが、まだ眠っているであろう家の前を差し掛かった時、俺達はただならぬ気配を感じ頭上を見上げる。
そこには、俺達の視線を覆いつくさんとばかりに、巨大な氷の塊が、こちらを目掛けて落下して来ている途中だった。
「これって通勤途中だよな。労災降りるのかな?」
頭上から迫る氷塊を前に、セルドは諦めて、事後の心配を始めていた。
「何言ってんだよ! そんな事気にする場合じゃないだろ!」
「んな事言っても、俺の水魔法じゃどうにもならないんだよ!!」
「大丈夫だセルド! 俺が魔法で何とかしてやる! 任しとけ!」
とても避けられる距離ではない事は、セルドに言われるでも無く理解していた。
こうなったら火属性の俺がやるしかない。
刻一刻と頭上に迫る氷塊に覚悟を決め、右手に魔力を集中させる。
俺が思い描くのは、炎の魔力を纏った、村での狩猟で使われていた飛矢だ。
頭の中で描いた魔法の形状を右手から目的に向けて、魔力を使い発現させる。
「【具現出力――炎の矢】!!」
俺は子供の時から修練を重ね、愛用してきた渾身の魔法を放つ。
俺の右手から放たれた、炎を纏った矢が勢い良く氷塊に突き刺さる。
「やったか!?」
「カーマ! 駄目だもっと撃てぇ!!」
「分かった!!」
セルドに言われ、すぐさま右手に魔力を集中させながら、矢が刺さった筈の氷塊を確認すると、俺の一撃で表面の一部が砕けているものの、九割九部は変わらず塊のまま俺達に向かって来ていた。
「【具現出力――炎の矢】!! 【炎の矢】!! 【炎の矢】!!」
続けて火矢を連射するも、ビクともしない氷塊は、ついに俺達の目の前まで迫って来た。
「あーあ、朝っぱらから凍り付くのは勘弁だぞ!」
「諦めるな!これで最後だ!フレイムああああああああっーーー!!!!」
「やっぱ駄目じゃねーかああああああああっーーー!!!!!!!」
悪足掻きも空しく、アーチの家諸共、俺達は氷塊に叩き潰される。
俺の意識はここで完全に途絶えたのだった。
その後、目覚めたアーチに事務所まで運ばれた俺達は、遅刻の罰として警備長に酷い目に合わされたのは言うまでもあるまい。
今回にて、カーマ君の入隊初日がようやく終わりを迎えました。
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