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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の錬金術

 商業エリアの奥に広がる裏路地は、通称【親知らず通り】と呼ばれ、所謂(いわゆる)、歓楽街が広がっている。


 【時計下通り】の輝かしい雰囲気とは打って変わり、街灯も少なく少し錆びれた怪しげな街並みが俺達を出迎えてくれている。


 視線の先には、強面の男達が(たむろ)する怪しげな酒場や、露出度の高い服装のお姉さんが店先で客を呼び込んでいるグレーなお店まで、【時計下通り】とは、また違った魅力が飛び込んでくる。


 とはいえ、路上で平然と転がっている男がいたりと、とても治安が良いとはお世辞にも言えないので、目的を果たしたら直ぐに立ち去りたいと思う。


 明日に出勤を控える真夜中なら直の事である。


「なぁ、ほんとにこんな所に銀行何てあるのかよ?」


 慣れない場所に不安を覚えた俺は、少し前を歩く二人に問いかける。


「もうそろそろっと、着いた。ここだよ」


 セルドが指差す先には【アルアルファイナンス】と書かれた、この【親知らず通り】にしては珍しい、比較的綺麗な外装の銀行が確かに営業していた。


「へぇー、ほんとに二十四時間営業してやがる」


「当たり前でしょ、あたしが嘘付く訳ないじゃない!」


「ぱっぱと足りない分、下ろして来ようぜ!」


「そうだな」


 俺達は入店し、窓口に向かう。


「じゃあ、まずカーマ下ろしておいでよ」


「はいはい」


 俺はアーチに言われるがまま、背広に身を包んだ受付のおじさんに尋ねてみる。


 二人は慣れた様子で出入口付近にある、小さな机とセットになっている丸椅子に腰掛けている。


「すいません、二千ローム下ろしたいんですけどー……」


「下ろす? 貸出であればご対応出来ますが……」


「貸出って?」


「お客様は本日が初めてのご来店でいらっしゃいますか?」


「はい、そうですが……」


「左様でございますか。それでは、ご説明させて頂きますね。当店は一般的な銀行では無く、金貸しを生業にしています。まあ、簡単に言ってしまえば借金ですね」


「ふぁっ!?」


 驚きの余り変な声を出してしまった俺は、後ろを振り返る。


 するとそこには、今にも笑いそうな顔で声を堪えている二人の馬鹿がいた。


「おじさん、ちょっと失礼します」


 おじさんに会釈をし、後ろにいる二人に事実確認をする所から始める事にした。


「なぁ、お前ら正気か?」


「何がよ?」


「金借りに行く時に下ろす何て言う奴、いねぇだろ!」


「いるじゃないか、お前の目の前に」


「お前ら価値観終わってんのか?」


「何言ってんだよお前! 高々、2221ロームだけだろ? そんなの給料入ってすぐ返せば借りて無いのと一緒だろ!」


「全然違うだろ! それに端数ぐらいお前らで払えよ!」


「……分かったわ。端数は一番先輩のあたしが払うから、二千ロームは、カーマが責任持って払いなさいよ」


「責任って何のだよ?」


「そりゃあ、お前がさっき熱弁してた、社会人としてのって奴だろ」


「あーもー、分かったよ、払えばいいんだろ払えば! で、どうやって借りればいいんだよ?」


「ああ、この借用書に自分の名前と借入金額、それと連帯保証人を記入するだけだぞ」


 セルドはそう言うと、受付から申請に必要な用紙を手に取り、そそくさと記入を始める。


 覚悟を決めた俺も、見様見真似で、名前、金額と必要事項を記入した所で、筆を止める。


「セルドー、連帯保証人って何だ?」


「んー、簡単に言えば、身代わりだな」


「簡単に言いすぎだろ!」


「まー、あれよ、あんたが勝手に失踪したり、乙ったりした時に代わりに立て替える可哀そうな奴っとこかな」


「ふぅーん。……じゃあ、アーチの名前書いとくわ」


「止めろっ馬鹿! こういうのは、社会的信頼が必要だから、あたしらアルバイトじゃ駄目なの!」


「そうなの? じゃあ……って誰にしたらいいんだ? 俺に正社員の知り合いなんて居ないぞ」


 俺が連帯保証人にする相手を見つけれずにいると、見かねたセルドが候補を絞り出した。


「うーん……そうだなー……正規雇用で言うと、フェイかゲータ先輩、ルートさんにメリサ、それから警備長ってとこだな、ちなみに俺のお勧めは警備長だな」


「絶対やだよ、俺まだ死にたくないし」


 セルドの意見は却下するとしても、誰なら借金の保証人になってくれるのか。


 そもそも、借金の保証人に勝手に名前を使われて怒らない人は、この世界にどれだけ存在するのだろうか。


 人当たりの良さでは、ゲータさんだが、良い人過ぎて逆に気が引ける。

 かといって、ルートさんやメリサに保証人になって貰う様なかっこ悪い真似はしたくない。


 消去法で、フェイさんにするしかないのか……。


 正直、始めからフェイさんにするしかないと思ってはいたが、どうにも朝の奇行が頭を(よぎ)る。


 こういうのは、被害者に聞いてみるのが一番早かったりする。

 俺は改めて、アーチにフェイさんの印象を聞いてみる事にした。


「なぁ、アーチ。お前から見て、フェイさんってどんな人? 隊長やってるから優秀な人って事は分かるんだけどさ……」


「うーん……。私は子供の時からフェイを知ってるから、優しい兄ちゃんって感じだけど、どーなんだろ? ……まぁ、悪い奴じゃないよ」


「そっか、付き合い長いアーチが言うなら安心だな。フェイさんには悪いけど保証人にさせて貰おう」


「何でも勢いで行こうぜ、じゃあ用紙出してパパッと借りて来ようぜ!」


「だな!」


 今から借金をする筈なのに、妙に清々しい顔をしたセルドに続いて借用書を提出する。


「お願いします」


「はい。それでは、カーマさんが2000ローム、セルドさんが追加で4000ローム、アーチさんも、追加で7163ロームになります」


 受付のおじさんは借用書を受け取ると、直ぐに必要な金額を渡してくれた。


 セルドの言ってた通り、案外、借金は直ぐに返していけば、気軽に利用出来る物なのかも知れない。


「それと、アーチさんとセルドさんは、今回から保証人が変更されていますが、問題はありませんか?」


「問題ない」


「オッケー!」


「それでは、後日、保証人の方に借用書の控えをお送りします」


「オッケー! 給料入ったら返しに来るわね!」


「ご利用ありがとうございます。またのご利用お待ちしております」


 俺達はそれぞれの借用書を受け取り、【アルアルファイナンス】を後にする。


 受付のおじさんに見送られる中、俺達は、急ぎ足で閉店準備を進めるヤニー亭に戻り、支払いを済ませ、何とか事なきを得る事が出来た。

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