ある警務隊長の飛翔
◇ オー・マワリ―視点 ◇
気が付くと、遥か上空を浮遊していた。
いや、岩石に吹き飛ばされた、とでも言った方が正しいだろうか。
時計塔よりも、遥かに高い位置まで上がるのは、飛び慣れている私であっても、初めての事だった。
難なく外壁を越えた私の目指す先は、街に侵入した空飛ぶ亜人の姿だ。
跳び上がった際には、その姿を見失っていたが、段々と下降を始め、時計塔と同じ高さに差し掛かった頃、ようやくその背中を捉えた。
幸いな事に、亜人は街の入口で、住民達の避難が終わった建物を、手当たり次第に荒らしていた。
(街の奥に入りこんで無くて、助かった)
これなら、私にも勝機はある。
もし、この作戦を伝えていれば、彼らは、猛反対しただろう。
私は、端から着地など、微塵も考えていなかった。
一度きりの捨て身で放つ奇襲攻撃。
私は、この一撃に全てを賭ける。
「……【憑依】……」
私が両手で構えた警棒は、雷の魔力を纏って、空中で青白く輝いた。
「行くぞ。――うぉおおおおおおーーー!!!」
私は、落下する勢いのまま、真上から亜人の首元に警棒を叩き込む。
「ぐわぁっ!? 何をっ!?」
そして、落下しながら、私の警棒で怯んだ、亜人の足首に手錠を掛ける。
勿論、その片割れは、私の左手をしっかりと固定していた。
「すまんな、亜人。私と一緒に落ちて貰うぞ!」
「き、貴様っ、俺に何をした!! 放せぇ!!」
「放すものか!! 私は、警務官だっ!! 【具現出力――帯電】!!」
暴れる亜人に、手錠を通じて雷撃が襲う。
「止めろおおおおおおーー!!」
「大人しくしろおおおおおおおーーー!!!」
私達は、共に雷を身に纏い、何度も互いの上下を入れ替え合いながら、時計下通りに急降下していった。
地面が迫る中、私は、両手で力一杯に手錠を握り締めながら、近づいた地上から背ける為に目を瞑った。
そして、私達を強烈な衝撃が襲う。
感じた事が無い程の痛みに、咄嗟に足を押さえながら目を覚ますと、そこは、見知った場所だった。
「……ここは……ヤニー亭、なのか?……」
辺りを見渡すと、天井と二階部分を貫いて、空の見える大きな吹き抜けが出来ている事以外は、良く知るヤニー亭の一階部分に酷似していた。
そして、私の下敷きになっていたのは、ピクリとも動かない亜人だった。
多分、即死だったんだろう。
私も落下時に左足を付いてしまい、動かす事は叶わないが、無事に上半身を起こせたのは、間違いなく、この亜人がクッションとなって、衝撃を肩代わりしてくれたのだろう。
「……すまんな亜人。……だがな、攻めて来たのは、お前だ。……悪く、思うなよ。…………後は、頼んだぞ、馬鹿門番共……【具現出力――雷】」
私は、手錠で繋がれた返事の無い相手に語り掛けながら、不自然に空いた吹き抜けに一筋の雷を放ち、その場で眠りに就いた。




