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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第二章 元警備隊員の来訪
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あるバイト門番の敬礼

 ◇ カーマ視点 ◇


 アーリアが前線に到着したのは、直接確認する事無く火柱で確認出来た。

 これで、右側の戦場も、一先ずは落ち着きを見せるだろう。


 となれば、ここからは、俺とゲホゲホの出番だ。

 計画通りのでかい手を打つなら、仲間が必要不可欠になるだろう。


「フェイさん! 後は、お願いします!」


「ああ。ここは、俺に任せとけ!」


「はいっ! 行くぞ、ゲホゲホ!」


「きゅううううー!!」


 俺は、ゲホゲホを転換させ、同期二人が奮闘する左の戦場へと走り出す。


 だが、未だに魔物達と膠着状態を続ける二人の元に合流しようとした時、上空から、翼の生えた亜人が俺達の馬車に襲い掛かる。


「カーマ君、左後方っ!!」


「分かってる! 【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――炎の矢(フレイムアロー)】!!」


 メリサの指示通りに火矢を放つも、自由に大空を飛び回る亜人には掠りもしない。


「くっそ! チョロチョロしやがって!」


「カーマ君、もう一回来るよ!」


「ああ、迎え撃つぞ!」


 この先の作戦に必要な馬車を守る為にも、メリサと共に空飛ぶ亜人を迎え撃つが、圧倒的な機動力を誇る亜人には、地上からの攻撃は空を切るばかりだった。


 相手も、こちらの攻撃に対して、回避に専念している様だが、これでは(らち)が明かない。


 青年の様な顔付きをしていながら、その胴体に似つかわしく無い、怪鳥の様な翼と鍵爪。

 恐らく、ルートさんが相手をしていた内の一体だろう。


 ルートさんは、こんな奴らと煙草を吸いながら戦っていたのか。

 戦いの最中でありながらルートさんに感心していると、遠くから叫び声が聞こえた。


「お前ら、ちょっとは頭を使え!!」


 そんな、八方塞がりな状況に待ったを掛けたのが、離れた位置で、他の魔物を相手にしていたトーマスだった。


「使ってるよ! トーマスこそ、少しは気を遣ったら?」


「そうだそうだ! メリサの言う通りだ!」


 酔いが回って、気が強くなったメリサに便乗して、俺もトーマスを責め立てる。


「うるせぇ、酔っ払い!! そんな事言ってる場合かよ?」


「お前こそ、こんな時に何の用だ?」


「お前ら、あれをやるぞ!」


「「あれ?」」


 俺達は、急な提案に首を傾げていると、風の刃で周囲の敵を薙ぎ払ったトーマスが、俺達の元に駆け寄って来た。


「時間が無い。一発で決めるぞ!」


「だから、何をだよ?」


「忘れたのか? お前の考案した【ユニゾンアタック】だよ!」


「トーマス、覚えていたのか!」


「その話、私も乗った!」


「メリサ、お前まで」


「トリはカーマ君ね!」


「わ、分かった。任せとけ!」


 トーマスの提案に乗った俺は、馬車から飛び降りると、右手を飛び回る亜人に向けて、魔力を集約させる。


「お前ら、俺に合わせろ! ……【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――疾風の刃(ウインドエッジ)】!!」


 先陣を切ったトーマスが、風の刃を亜人に向かって無作為に放つ。


 しかし、亜人は迫りくる風の刃を翼を使って冷静に左に躱す。

 だが、その先には、二人目の攻撃が待ち構えて居た。


「お前が仕切るな! うらぁー!!!」


 メリサは何を思ったのか、光魔法を使わず、足元に転がっていた、封の開けていないワインボトルをそのまま投げつけた。


 亜人の予想を裏切る速度で飛んで行ったワインボトルは、瓶の割れる甲高い音を立てながら、亜人の腹部にぶつかり、身体中を紫に染めた。


「当たった!」


 予定が変わったが、俺には好都合だ。

 メリサの飲んでいるワインは、市販品の中で特別度数が高い。

 つまり、俺の炎が良く燃える。


 ワインの衝撃で体制を崩した亜人に、俺はすかさず、第三の矢を放つ。


「【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――炎のフレイムアロー】!!」


 ワインを被った亜人に、火矢が突き刺さり、その体は激しく燃え上がる。


「ぎゃああああああああーー!!!!」


 全身を炎に包まれた亜人は、空中で断末魔の様な叫び声を上げながら、地面に向けて垂直に落下していった。


「決まったな!!」


「ナイス! カーマ君!」


「トーマス、俺達はそろそろ行くぞ!」


「ああ!」


 メリサと両手を合わせ、互いの連携を讃えている中、打ち合わせ通りに、俺はトーマスと新たな動きを始めようとしていた。


 だが、そんな時に、先程の翼を持った亜人の片割れが、仇撃ちと言わんばかりに、こちらに向かって来たのだった。


「トーマス、メリサ! もう一体来るぞ!」


「うん! もう一回、【ユニゾンアタック】だね!」


「よし、この調子でもう一体も……って、ちょっと待て!! ――あっちは!!」


 俺達が先程と同様に迎撃を始めようとした時、トーマスが一早く異変を察知する。

 こちらに向かって来ていると思われた亜人は、狙いを俺達から外壁の上に変えたのだった。


「不味い! あそこには孤児院の子供達も大勢居る!! それに、街の中に入られたら終わりだ! 迎撃出来る人が居なくなっちまう!」


 勿論俺達は、出来る限りの魔法で地上から迎撃を試みるが、離れた相手には、掠りもしない。

 頼みの綱のルートさんも、相手の亜人に掛かり切りで、それどころではない。


「もういい、俺が行く!」


「トーマス、気持ちは分かるが、どうやって壁に上がるつもりだ? 裏から回る時間何て無いぞ!」


「だったら、どうすんだよ? 俺には、町や子供達が蹂躙(じゅうりん)されるのを、ここで、黙って見てる事は出来ないっ!!」


 俺達が言い合いを始めているその間にも、亜人は壁へと迫り、今にも襲い掛かろうとしていた。


「二人共っ! あの亜人、外壁を越えた。狙いは街の中だよ!」


 すると、亜人はさらに高度を上げ、悠々と外壁の上を越えて行った。


 飛び越えられた外壁の上から、各々が亜人に向けて魔法を放つも、民間人達の攻撃が届く事は無かった。


(……どうする?)


 あいつを野放しにしていては危険だ。

 直ぐに何らかの手を打たなければ。


 そんな危機的状況に、俺達が頭を悩ませていた時だった。


「……わ、私が……私が行こう……」


 正門付近の壁際から、誰かの声が聞こえた。


「誰だ? ……誰が居るんだ?」


 俺は、声の聞こえた方角に走り出す。


 すると、そこには、外壁にめり込み、壁の一部と化していた男の姿があった。


 そして、手を伸ばせば触れられる距離に近づいて、ようやく正体に気付く。

 声の主は、ボロボロになってはいるが、全身を青い制服に身を包んでいた。


「マワリーさんっ!!! 無事だったんですか?」


 俺は、身動きの取れないマワリ―さんの手を取り、外壁の中から引っ張り出した。


「ありがとう、カーマ君。……早速で悪いが、あの鳥人間は、私に任せてくれないか?」


 マワリ―さんは、壁から抜け出すと、早々に問題の上空に目を向けていた。

 だが、肝心のマワリ―さんは、誰がどう見ても、立つのがやっとの状態だった。


「し、しかし、マワリ―さん。貴方、その怪我じゃ……」


「オー・マワリ―さん! あの亜人は上級以上だ! あんたは一旦下がっててくれ!」


 マワリ―さんを見つけるなり、こちらに駆け付けたトーマスは、マワリ―さんに避難を呼びかけた。

 だが、マワリ―さんは、その場を動こうとはしなかった。


「それでも、私が行こう。メリサ君、回復を頼めるか?」


「は、はいっ。【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――祝福の光(ヒールライト)】!」


「……ありがとう。じゃあ、私は行って来るよ」


 メリサに傷を癒して貰ったマワリ―さんは、外壁へ歩みを進めようとする。


「ちょっと待ってくれ! あいつは、オー・マワリーさんには、危険過ぎる相手なんだ!」


「トーマスの言う通りですよ、マワリーさん! それに、どうやって行くつもりですか? 相手は空を飛んでるんですよ?」


 そんなマワリ―さんを、俺達は全力で止めた。

 理由は簡単だ。

 只々、大好きなマワリ―さんに、死んで欲しく無いからだ。


 それでも、マワリ―さんが止まる事は無かった。


「……私にだって、守りたい家族や仲間が大勢居る。相手が空に居ようが、そんな事は関係無いんだ」


「けど、どうやって止めに行くんですか? 気持ちだけじゃあ、壁は越えられないんですよ!」


「……あそこに、ボロボロになりながらも、こちらに走って来ているアーチ・クルーパーが居る。……後は、いつも通りだ。……あの子が手を貸してくれれば、役立たずの私でも、空くらい、飛んで見せるさ」


 マワリ―さんと共に後ろを振り返ると、確かに、こちらに向かって来ているアーチの姿が見て取れた。

 しかし、アーチも回復を求めて、前線から下がって来たのだろう。

 右足を引き摺りながらも、懸命に走る様子は、決して万全とは言えない。


「やっぱり、危険だ。マワリ―さん、別の案を考えましょうよ!」


「そうだぜ! そんな無茶したら、あんた、本当に死んじまうぞ!」


 俺達の中で一番親交のあるトーマスが、マワリ―さんの両肩を掴んで止めに入るが、むなしくも、振り払われてしまう。


「手を放せ、トーマス。……覚悟なら、当に出来ている」


「……嘘だよ。……だって、あんた、こんなに暑いのに……何で、足が震えてるんだよ! 怖いなら、正直に怖いって言ってくれよ!!!」


「黙れっ! 私は、私は、誇り高き王都の刑務官だっ!!」


 そう言いながらマワリ―さんは、何度も拳で震える足を叩いた。


 そして、強引に足の震えを止めたマワリ―さんは、嫌でも周りに聞こえる程の大声で、自分を奮い立たせる様に叫び出した。


「痛い、怖いで、何が警務官だ!! 辛い、(えら)いで、人が救えるかっ!! 私が飛び越えるのは、目の前の壁だけじゃない!! 今までの無力で、臆病な自分の限界だ!! 私は行くぞ、門の中は、私の管轄だっ!! 聞こえるかっ!! アーチ・クルーパー!!」


「……ったく、全部、聞こえてるわよ! 派手にぶっ飛ばしてやるから、任せなさいよ!!」


 その声は、当然アーチの元まで届いた様で、こちらに右手を挙げて見せた。


「マワリ―さん! 無事に成功したら合図を下さい!」


「ああ、街の中に雷が見えたら、成功だと思ってくれ。……だから、門の外は任せたぞ、馬鹿門番共っ!!」


「あんたこそ、着地、ミスんじゃないわよ!! 【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――大地の巨腕(ギガントロック)】!!」


 アーチが右の拳を地面に叩きつけると、マワリ―さんの足元から、巨大な岩石が浮かび上がり、一瞬で大空までマワリ―さんの身体を吹き飛ばした。


「「「ビッグフラーイ、オーマワリ―さん!!!」」」


 俺達は、いつもとは全く違う気持ちで、大空に飛んで行くマワリ―さんの雄姿を、敬礼しながら見送った。

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