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主人公異世界転移する

登山好きの主人公が滑落した事で異世界転移!

ファンタジーの世界の魔法や魔物、神に悪魔になんでもござれない異世界でも登山目指して頑張る主人公の珍道中。

自分得を詰め込んだほのぼの冒険ストーリーです。

眼下に広がる景色に感動した事があるだろうか?

旅の思い出にその素晴らしい景色を撮った写真。

その写真を誰かに見せた時、自分の中に小さな違和感を覚えた事があるはずだ。


あの時の感動した景色と何かが違うと。


人間の目は高性能カメラより優れている。

そして視覚により、ソレは美しく綺麗に認識してモノを見ている。


それにより、人は常にHDRでモノを見ている。


HDRとは、ハイ・ダイナミック・レンジの略だ。

明暗差の大きな画像を表示させるための合成技法のことで、簡単に言うと明るいところも暗いところも見えるようにする状態を言う。


暗い窓際に差し込む一筋の明るい光に照らされた、一輪の白い花があったとしよう。

人の眼は、それを明暗をうまくピント調節し、暗い部分の奥にある棚も、明るさの中の白い花の輪郭も窓の枠も視覚の中で上手く調整され脳で判断することができる。

しかしカメラでは、暗い中に浮かび上がる部屋の奥にあるものは映らず、光に照らされた白い花は、いわゆる白飛び…光と同化し上手くピント合わせができない状態で現像される。

そんな事がないように、雑誌や写真集は、色補正や撮った写真を重ねて現像するなどして人の眼に近づくようにしている。

だが素人が普通のカメラで撮った写真は、いくら高性能一眼レフで撮ったとしても、人間の眼と視覚によって見たモノには敵わないのだ。


自分が初めてその違いに気づいたのは、小学生の頃。


眼下に広がる山々、雲、そして眩い朝日。

初めて見た時の感動を、懸命にカメラで撮影した。小学生でも簡単に撮れるインスタントカメラだから、当然ピント合わせや、露出補正など自分で設定する機能などなく、またそんな高性能なカメラを持ってる我が家でもなかった。なにせデジカメ自体まだ家庭用にはお手軽に買える時代でもなかったのだから当然である。


現像して受け取った写真を見た時の衝撃は凄かった。


それ以降、私は写真に思い出を留めることは極力しない事にしている。特に景色、風景は尚のことだ。

家族や友達との思い出としての写真を見て、あの時の景色は素晴らしかったと想いを馳せる。


山から見下ろす雄大な風景。

暗闇に刺すご来光の美しさ。

四季を楽しめる山々の素晴らしさ。


私は写真撮影に失敗して以来、山の虜になったのだ。写真ではなく自分の眼で、その絶景が見たい。


そう思うようになった。


そんな自分は今、落下している。


さらば人生…


滑落し、山で命を落とすなんて不甲斐ない。

しかも今日誕生日だったのに…

まだまだ見たい景色が、絶景があったのに…


死を覚悟した自分に、なかなか衝撃がこず、硬く閉じていた眼をそっと開けた。その視界には、自分を見下ろしている大きな鳥の顔があった。


どういう事?


そもそもその鳥に抱き抱えられている。

お姫様抱っこである。


「大丈夫か?」


どうやら…鳥ではなく、鳥人間のようだ。


再度聞こう…


どういう事?!!


人生初のお姫様抱っこが鳥人間だというある種の衝撃は半端ではないが、それを置いても自分は滑落した筈である。

恐る恐る首を鳥人間とは逆側に向けて現状を確認する。首が、錆びついたネジを回す様にぎこちない。


…息を呑んだ…


空が紫から薄い桃色のグラデーション。

雲、だろうか?

風によって形を変える雲は知っているが、鳥人間はその雲を糸鋸の様なもので切り取っており、自分が知るソレではない。

某ゲーム内のブロック状態で浮いている。

ただ、柔らかいモノではある様だ。


切り取った瞬間プリンの様に揺れる。

え、美味しそう…


よくよく周りを見ると鳥人間は複数人おり、男女?という方が正しいのかわからないが、派手な鶏冠の様な物が付いた方と、首筋の辺りから三つ編みの様な束が見える方もいる。

恐らく派手な鶏冠が男性…雄なのだろう。

ギリシャ神話の様な布地の服から逞しいであろう肉体が窺える。ただ胸や腹部も羽毛の為、少々合っているか自信がないが。


「…すみません、あの、自分の状況が…飲み込めないんですが…」


恐る恐る鳥人間に問いかけるが、眼を合わせる事は出来ない。喉元辺りに視線を泳がせ質問するのでいっぱいいっぱいだ。

そんな失礼な態度での問いかけにも鳥人間は気にした素振りもなく回答してくれる。


「あぁ、上から降ってきたよ」

「……」


まるで良くある事の様に鳥人間は上を見上げるので、同じ様に自分も視線を上にあげる。


雲に人型の穴が開いていた。

漫画かよ!


よく見ると同じ様な雲が、連凧の様に浮いている。

どうやらそのお陰で失速し、雲を切り取っていた彼らの前に落ちて来たところをキャッチしてくれた様だ。


「これアンタのかい?」


別の鳥人間が軽い羽ばたきと共に降りてくる。

その手には愛用のザック。

そういえば滑落した理由が、コレだった。

ひと休みしようとザックを降ろし、岩に腰掛けスナックバーで栄養補充しようとした時、近くに落雷。

晴天の中の急な落雷に、日帰り登山の山道は大パニックだ。登山者は少なかったとはいえ、逃げ出す人に自分のザックを蹴き飛ばされ、慌てて手を伸ばしたのだ。

山道から落ちる寸前でキャッチしたものの、勢いと重力には逆らえなかった。

ザックを蹴った人物に文句を言ってやりたい。


「人間が山にいるなんて珍しい」


ここは動物王国なのだろうか…

不安に感じた自分と同じ様に鳥人間達も不安気だ。

お姫様抱っこからゆっくり降ろされた瞬間に足の裏に地面の感触。

てっきり物凄い空中にいるのかと思ったが、どうやら2階くらいの高さでキャッチされた様だ。


「あ、ありがとう…ございます…」

「この高さを登れる人間がいるとは思えなのだが…」


言ってる意味がちょっと分からない。

落ち着いて見上げてみると、目の前は一昔前の高さは4階建のアパート程の高さ。

ボルダリングをするにはちょうど良い感じだ。

さして自分にとっては難しい高さではない。


「密猟者か?」

「でも袋の中には見かけない物はあったけど、盗んだ様な物は無かったわ。雲獲りに来たのかも」

「そりゃ上の雲の方が美味いけど無茶するなよ」


どうやらザックの中をチェックされた様だ。

ってか、これ食べるの!?


どうやらこのブロック雲は食べれるらしい。


周りを見ると、雲が自分の目線辺りに浮いている。

頭が痛くなってきた。

ここはいったい何処なのか、彼らはコスプレではなさそだし、このよく分からない現状を誰か説明して欲しい。


そんな時、聴き慣れた電子コール音が鳴る。

抱えたザックの中からである。

携帯繋がるのここ?!!

慌ててザックに手を突っ込み携帯を探る。


「も、もしもしっ!?」


非通知の着信だったが、縋る思いで電話に出る。

聞こえてきた声はちょっと、いや、だいぶ年老いた老人の声でこう言った。


【あれまぁ〜なんでそっちいるの?】


一気に脱力する気の抜けた声。


【えっとぉ〜お?お名前なんだったかねぇ?】

「……な、んでしたっけ?あれ?」


過去の出来事など通常に思い出せる。

昨晩の晩ごはんは鯖の味噌煮だった。

昨日の事も小学生だった事も思い出せるのに、自分の名前だけが出てこない。一気に冷や汗が出る。


【大丈夫、大丈夫だよぉ〜、落ち着いてねぇ。今調べるからよぉ〜、んーーーー…】


ガサガサと紙の束を漁る音がする。

情報管理がまだ紙媒体の様だ。PC使えなさそうだもんな…なんて少し失礼かもしれないが思いつつ、お爺ちゃんの回答を待つ。

しかし、これってひょっとして自分は死んだのだろうか?となると、電話の向こうは神様という事では?


「あ、あの…か、神様?」

【はいよぉ〜、あーワシ神は神でも山神ね。ん〜あったあった…あれまー!】


どうやら登山していた山の神様だったようだ。

山神様曰く、あの日の雷は山中の神域まで貫き、山神様の机に突き刺さったそうだ。それにより、個人情報の部分が焼け焦げて氏名年齢性別不明になっているらしい。

更に言うと、別世界へ転移させる予定だった山の動植物の原種の遺伝子情報に雷で飛び散った自分の書類が紛れ混んでしまったのに気づかず、転移してしまったそうだ。


え?今の自分どうなってるの!?


鏡が無いので分からないが、不安が押し寄せる。

変な植物人間とか御免被りたい。


【まぁワシ等神は、魂の色で判断するから顔なんか見とらんし、気にせんでえーがの。でぇ〜…どうするかのぅ…連れて帰ろうにも名前がないと戻せんのじゃ】


名前=パスポートということか…

雷によって焼け焦げた名前は復元するのに人間感覚で30年かかるそうだ。その間、この場は動くことが出来ない。三年寝太郎ならぬ三十年寝太郎状態で待つか、こちらで新しい人生を送るか…


「そんなの決まってるじゃないですか…」


見た事もない景色が、今目の前に広がっている。

この世界は、まだ見た事も想像した事もない自然と、情景が広がっているのだ。そう考えただけで胸が熱くなる。


「帰るの諦めます。ここでやっていきます」


絶景が見たい。


両親や家族の事を思うと申し訳ないが、おそらく滑落の時点で人生を諦めていたからだろうか?自分でも驚くほど簡単に答えが出た。




お読み頂きありがとうございます。

のんびりペースで更新していきますので、よろしくお願いします。

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