アクシデント
ちょっとした寄り道がありながらも、俺は午前9時と時間通りに、研究所に到着した。
昨日と同じように、エントランスの女の人に名札を頂き、改札を通ろうとしたところで、別の名札を渡された。
「こちら、星野優胡さんの名札ですので、今後、こちらをお使いください」
昨日、今日で、俺用の名札が出来ているとは、本当に動きが早い。
研究所に入った。
相変わらず、天井がガラス張りのおかげで、太陽光が建物の隅々まで照らしつけ、明るい。俺は、昨日、マリア先生に教えてもらった裏の階段を使って、5階まで上がる。
1階から4階までは、多くの研究者が行きかい、会話や機械の動く音で、騒がしかったが、5階は、本当に静かであった。
「快適快適」
海に近く、静かで、綺麗な人と働ける。非常に働きやすい仕事場であった。
廊下を歩き、目的の場所まで来て、特別研究室の扉を開ける。
研究室の中は、昨日と打って変わり、整理整頓され、凄く綺麗になっていた。
「さすが、俺やな。良い仕事ぶりや」
自画自賛。
頻繁に、こうして自分をほめてあげる事で、仕事のモチベーションを高めるのだ。
そんなことを思いながら、廊下を抜け、広間に出る。
マリア先生の研究の進め方は、基本的に頭やパソコンの中でカタカタと進め、あまり実験器具や機会を使わず、たまに使うといった形であるため、研究所に住むという形になっているのだろう。俺的にはしっかりとプライベート空間とビジネス空間は、分けた方が効率の良さは違うと思うのだが、それを天才科学者に提案するのは、滑稽だろう。
「いた」
マリア先生の足がソファーからはみ出ていた。
昨日、部屋を掃除したからわかるが、マリア先生にはしっかりとベッドがあるのだが、ソファーで眠っていた。
俺はソファーから回り込み――
「なっ!?」
驚愕にフリーズする。
裸のマリア先生が眠っていた。
白く透き通り、何一つ汚れのない肌に、微かに朱が差す。
到底、大人の男の手のひらに収まらないだろう大きな胸と色素の薄い桜色の乳首と大きな乳輪が目に飛び込んでくる。お腹には一切無駄な肉がなく、お腹の中心に一本線が走っていた。寝相が悪く、背中とソファーの間に枕が挟まっており、背中が曲がっていた。そして、反った背中に合わせて、全面の筋肉が伸ばされ、ツンと豊かな胸が上を向く。そのまま、流れで下半身にまで目がいきそうであったが、俺の理性を総動員して耐える。もし、その先を見てしまえば、これらからの仕事に支障を来す(正常に、マリア先生を見られなくなる)。
俺は惜しい思いをしながらも、急いでその場から去り、適当に掛布団を引っ張りだして、マリア先生に掛け、キッチンに向かう。
「ごはん、まだか?」
「っ!?」
その背後から、声を掛けられ、驚き飛び跳ねる。
起きていたのかと思い、後ろを振り向くと、マリア先生は依然として夢の中にいた。
「びっくりした~~。起きていたのかと思った」
良かった。もし、起きていたら、鼻の下を伸ばしていたクソキモイ顔を見られるところであった。
俺は頑張って、意識を切り替え、キッチンに向かう。
買ったアップルパイやアイスコーヒーを袋から取り出し並べる。冷蔵庫から、適当に
食材を取り出す。早速、料理を始めようと取り掛かるが、しかし、どうしても、マリア先生の裸が頭から離れず、集中できなかった。
このままでは、ヤバい。集中出来ずに、何か失敗をし、指を切り落とすような事故に繋がったら大変だ。そんな風に、ゴミみたいな言い訳を作り、俺はトイレに行った。
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「ふわぁ~~あ、おはよう」
大きな欠伸と共にマリア先生が現れた。
もしかしたら、全裸のまま来るかもしれないと思っていたが、そんなことはなく、デニムに開襟シャツと少しエロティックでラフなスタイルで現れた。
「おはようございます。
もう、大体朝ごはんは出来ているので、席に着いちゃってください。
机に並べるので」
先ほどの光景が一瞬フラッシュバックするが、一発抜いた俺は冷静に答える。
「おっけ~」
マリア先生は粛々と席について、携帯でネットサーフィンをしだす。
マリア先生がどんなものを見るのか気になったが、その間に、料理を並べる。
今回のメニューはアップルパイとアイスコーヒーを主軸に、ベーコン&エッグとフルーツの盛り合わせにした。
「お~なんか、今日は気合入ってるな。美味そうだ」
マリア先生は、頂きますと言って、アップルパイに口をつける。
「ふむ、中々美味しいじゃねぇか。なんだ?これ、ユウゴが作ったのか?」
「いえ、研究所に来る途中にある喫茶店でテイクアウトしたものです」
「知らなかった。ここら辺に喫茶店を開く奇特な奴がいたんだな」
「本当そうですよね。でも、店長さんは滅茶苦茶に可愛かったですよ」
「私とその人、どっちが可愛い?」
何だ?なんか試されてるのか?
若干、警戒しながら答える。
「マリア先生です」
俺はとりあえず、マリア先生の名前を出しておく。
「ふふん、よくわかってるじゃないか」
そういって、パサリと紙を払う。
この程度の褒めで、気分良さそうに、笑っていた。
なんだか、素直に可愛い人だと思った。
「そういえば、さっき、動画を観ていましたけど、何観ていたんですか?」
気になっていたことを尋ねる。
「日本史の動画と京都の街歩きの動画を観ていた」
「へぇ、結構歴史系の動画を観るんですね。
あっ、俺京都出身なんで、なんでも聞いてください」
「ほう、そうなのか。
今度、京都でシンポジウムがあるんだが、それに参加するからな。
シンポジウム終わりに、観光しようと思っているのだよ」
シンポジウムとは、簡単に言えば研究発表会だ。それが京都で行われるらしい。
京都でやると言っても、どこでやるのだろうか?あまり、京都にそんな建物はないイメージだ。まぁ、京都大学あたりでやるのだろう。
「へぇ~~良いですね。今は人が多くて大変ですけど、時間帯を見極めれば、結構いいところですよ」
「ああ、それに、私は京都が初めてだからな。非常に楽しみにしている」
言葉通り、かなり楽しみにしているようだった。京都について話しているときは、目がキラキラしている。正直、あまり、京都とか歴史に興味がなく、何なら馬鹿にしていると思っていたから、意外だ。
「何かあったら、俺に聞いてくださいね。
大体の事だったら、分かると思います」
「ああ、どこか穴場スポットとか、美味しいご飯屋さんは、ユウゴに聞くかもしれない。しっかりと、頼むぞ」
マリア先生は下から見上げるように、流し目で言う。
「はい、任せてください」
「いい返事だ。ごちそうさま」
話題が一通り終わったところで、マリア先生は食事を終え、立ち上がる。
食器を重ね、キッチンの流しに置くと、そのまま洗面台へと言った。
追って、俺も食事を終え、キッチンに行く。早速、流しにある食器を水浸しに、洗っていると、マリア先生が顔を出し、言う――
「おい、なんかこのトイレ臭くねぇか?」
心当たりに冷や汗をかきながらも、正直に言えるはずもなく――
「あとで、洗っておきますね」
と、目線を合わせずにいう事しか出来なかった。




