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歓迎なのか、新人いびりなのか。
面接の翌日の深夜。初出勤の俺は、生まれて初めてその類の現象を垣間見ることになった。
◆ ◆ ◆
「二十五なのォ、へぇーわっかいわねぇ」
初出勤でまず一緒になったのは、深夜組では一番のベテランだという青山さんだった。
人見知りの俺には有難い、気さくで面倒見のよさそうな人だ。
新人の俺にも、仕事のあれこれを丁寧に教えてくれた。
「分からないことならなんでも訊いて頂戴ねェ、期待の新人なんだから」
「期待?」
「やだぁ、店長言ってたわよぉ、今度の子は長続きしそうだって!」
「あ、ああ」
「深夜ってだけじゃなくて、ここは場所が場所だから、なかなか人も来なくって、朝まで誰も来ない時もあるのぉ。だからあたしと一緒の時は、気楽にお喋りでもして過ごしましょ」
そう言って俺の肩を叩いてくる。
深夜と聞いて、忙しいより暇なイメージの方が強かったから、俺としては喋って時間を稼げるのはかなり嬉しい。
なんだかこれじゃあ給料泥棒みたいな気もするが、そんなことを言ったら青山さんは「ほんとよねぇ」と爆笑した。
青山さんとはものの一時間程度ですっかり打ち解けることができた。入って早々、人間関係の心配もなくなり、少し安心した。
まあ、この人、男なんだけど。
所謂オネエってやつ。
体格はがっしりしていてスキンヘッド。身長も肩幅も外国人かってぐらいのかなりの巨漢なんだけど、口調はまんま女の人。
実は下半身の突貫工事の資金を稼ぐために、ここでアルバイトをしているらしい。
突貫工事って……。
初対面の相手に凄いことカミングアウトするよな……。それから、なんか無駄にボディタッチが多いのは気のせいにしておこう。
個性的だけど、いい人だ。
「やっぱり時給ですか、青山さんも」
「袴田くんもでしょお?」
「ま、まー……1800円は目が眩みます」
「んふふ、そうよねぇ。もっとオープンにしちゃってもいいのよ? 店長も知ってるから」
青山さんは不敵な笑みを浮かべて肩を上下させる。
「でも、そうやって言ってみんなすぐに辞めてっちゃったけど」
それまで浮かべていた愛想笑いが、蝋燭の火を吹き消したように一瞬で消えた。
「やっぱり多いんですか、辞める人」
「ええ、この一年だけでも十人近く辞めてるわ。今でも残っているのは、私と竹中くんと、平井さんだけ。ああ、その二人は特別なんだけどね」
「へえ……」
「普通の人は大抵一週間前後よ。それでも踏ん張る子もたまにいるんだけど、精神的にもきちゃうみたいでねぇ。中には病院送りになった子もいるわ」
「病院送り!?」
驚いて声が裏返ってしまった。一体何があったっていうんだ。
「数ヶ月前くらいにね、河内さんって女の子が入ってたんだけど。十日間くらいぱったり連絡が取れなくなって、店長が心配して緊急連絡先に電話したら……親御さんから、アパートで手首切ってたって聞かされたんだって。自殺未遂だったらしいわ」
自殺未遂――。
生々しい話に思わず背筋がぞわっとした。
「うわ……。でもそれって、このバイト関係あったんですか?」
「まあ若い子ってプライベートの悩みとか、色々あるんでしょうけどねぇ。でも同じ深夜組の竹中くんが言うには、彼女――」
青山さんが言いかけた、その時。
自動ドアが開き、誰でも一度は聴いたことのあるであろう緊張感のないメロディが店内に響き渡った。
スーツを纏った中年の男性が入ってくる。
「あら、やだお客さん来ちゃったわね」
ちょ。客が来て開口一番それはまずくないのか。
青山さんの言葉を掻き消すように、俺は慌てて声を張り上げて挨拶を飛ばす。
仕事帰りに通りかかったんだろう。カゴにペットボトルのお茶と弁当を入れて、早々とレジに来る男性。
よくある光景だ。
レジ打ちは初めてじゃないが、初日ということで、まずは青山さんの接客をお手並み拝見。
と言っても、レジの操作自体はスーパーとそう変わらないんだなあ。基本は商品のバーコードを読み取って会計するだけ。もちろん、支払い方法によって操作も違うし、発注や清掃、検品なんかもある。覚えることはそれなりに多そうだが、慣れればなんとかなるだろう。
「ありがとうございましたー」
釣り銭を受け取り、男性は駐車場に停めていた車に乗って去っていった。
それからまた小一時間ほど客足が途絶えてしまい、俺と青山さんは会話を再開させる。
清掃も品出しも、青山さんに教わりながら一通り済ませたし、届いた商品の検品も二人で終わらせた。あとは正直言って、今すぐすることがないから仕方がないのだ。
外からたまにオートバイなんかのエンジン音が聞こえても、店の前では止まらずに通り過ぎていくだけ。人通りなんてものはほとんどない。
目の前には道路があり、その両側には樹海が広がっている。
どこもかしこも真っ暗だ。
こんなところに、こんな時間帯に人がふらふら歩いていた方がそれこそ変だろうし。
本当に此処は客が訪れること自体が珍しい場所みたい。
「それで、さっき言いかけたあの話の続き、なんだったんですか?」




