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夜烏(昭和5年×必殺×百合)  作者:
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0話 宣伝用

 昭和五年、銀座の夜。

 ジャズの甘く妖しい調べが、カフェー「黒猫亭」の扉の隙間から、夜の街に溶け出していた。

 サックスが吐き出すブルースは、まるで女の吐息のよう。

 路面電車がガタゴトと重い音を立てて走り抜け、ガス灯と電灯が混じり合う街並みが、ぼんやりと淫靡に輝いている。


 銀座は華やかだった。

 絹のドレスを纏った女たちが笑い、シルクハットの紳士たちが葉巻をくゆらせ、景気の良い浮かれ声があちこちで弾けている。


 しかし一歩、裏の顔を覗かせば、空気は一変した。

 冷たく淀んだ、腐ったような湿り気。

 下水の臭いと、血と、絶望の匂いが混じり合う。

 ここは法の届かない完全な闇だった。


 金持ちの汚職政治家は私腹を肥やし、弱者を食い物にする闇金業者が堂々と横行し、警察すら袖の下で買収されて好き勝手する。

 理不尽に家族を奪われ、人生を踏みにじられ、ただ泣き寝入りするしかない者たち。

 そんな弱者たちが、最後にすがるのは、金で怨みを晴らす、裏稼業だけだった。


 その名は『夜烏(ヤガラス)』。


 昼の顔は、銀座・月夜亭の看板娘・綾。

 銀髪ハーフの妖しい美女。

 肩を越えて腰まで届く長い銀髪は、薄暗い店内で幽かな青白い光を帯び、艶やかな赤い瞳は男たちの魂を一瞬で絡め取る。


 甘く溶けるような微笑みを浮かべ、客の膝に柔らかな太ももを密着させる。

 豊かな胸の谷間を相手の腕にそっと押しつけながら、耳元に熱く湿った吐息を吹きかけ、

 酒を注ぐ。

 白い指先は、男のシャツの胸元を優しく撫で下ろし、ゆっくりと太ももの内側へと這い上がっていく。

 爪の先で軽く布地を引っ掻くように、愛撫するような、しかし明らかに誘うような、ねっとりとした動きで。 「ん……どう? 嬉しいでしょ……?」

 甘く掠れた声で囁きながら、赤い瞳を潤ませて男の顔を覗き込む。

 唇が触れそうな距離で、吐息を絡め取り、指先はますます大胆に、男の欲情を煽るように肌の感触を探っていく。

 誰もがその白い肌と、ねっとりとした色香に狂い、大金を惜しまず落としていく。


「綾ちゃん、今夜も綺麗だね」

「お前がいると、酒が甘くなるよ」


 そんな下卑た甘言を浴びながら、綾は内心で静かに微笑む。

 だが、夜が深まり、特定の黒い依頼が舞い込めば、彼女は別の生き物に変わる。

 白い針が延髄を貫いた瞬間、男の体が一瞬だけ硬直し、喉の奥で小さな空気の泡が弾けるような音がした。

 それきり——呼吸も、心臓の鼓動も、一切の抵抗も止んだ。

 苦痛の叫びすら許さない、白い死神の技だった。


 仕事の後、綾は血のついた白いコートを翻し、路地の闇から夜空を見上げる。

 銀髪が風に揺れ、赤い瞳が冷たく輝く。


「……これで、少しは恨みが晴れるといいよね」


 法が裁けないクズを、金さえ積まれれば容赦なく葬る。

 『夜烏』は、そんな銀座の闇に潜む、冷たい裏稼業だ。

 誰もが表のネオンとジャズと酒に酔いしれ、裏の腐敗から目を背ける時代。

 しかし『夜烏』だけは、その闇を真正面から見据え、白い羽を広げ、冷たい刃で切り裂いていく。


 そして朝が来る頃、彼女は再び黒猫亭の扉をくぐる。

 銀髪を優しく整え、赤い唇に微笑みを貼りつけ、

 昨夜殺した男の血の匂いを、甘い香水で塗り隠しながら。


 銀座の闇は、果てしなく深い。

 だがその闇の底で、白い死神は静かに——そして美しく——羽ばたき続ける。


 6月上旬 短期集中連載

夜烏ヤガラス』 始まります。

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