ぶどうはたくさん、心はひとつ
僕の担任の先生は良くも悪くも口うるさく言わない人だ。放任主義とは言い過ぎかもしれないが、授業中に寝ている人や休み時間にやんちゃする人達にはほとんど注意しない。
でも、そんな担任についてもっと不思議なことがある。それは、「昼飯を食べない」ことだ。飲み食いしているところを、僕は一度も見たことがない。
ぼんやりとそう考えていた時、4時間目が終わる、いや給食の時間が始まるチャイムが鳴った。
「今日の給食は?」と、友達が話しかけてきた。彼はたくみ。やんちゃで騒がしいが、僕と同じく給食が好きで、いい友達だ。「今日はぶどうがあるよ」
「まじか!じゃあ全部俺のな」
僕の学校は給食当番が給食を配ってくれる。食べ始めるのは同時だ。目の前に宝があっても触れられないもどかしさときたら、たまらない。
「手を合わせましょう。いただきます」日直がいただきますの号令をかけるのは少し遅いが、そんなことは今どうでもいい。さあ、食べよう!
今日の献立は、給食界の重鎮コッペパン、フライビーンズ、ミートスパゲッティ、そしてぶどうだ。ほぼ茶色だが、すなわちウマいということだ。
まずスパゲッティを口に運んだ。
うん、やっぱウマい。ザ・給食って味だ。長い麺をくるくる巻くのもいいが、箸で掴めるくらい短いのも、食べやすくていいなあ。ミートソースのおかげで、するする入ってくる。
さて、お次は豆。小1の頃から顔馴染みで、個人的にはかなり気に入っているが、あいにく今日はおかわりする分がない。くーっ!まあこれも給食の醍醐味か...。豆に言ってやりたい。「その後おかわりないようですね」って。
しかし、今日のメインはやはりぶどうだろう。これは...皮ごと食えるやつか?でもわざわざ人に聞くのもなあ。よし、とりあえず食ってみよう。
うん!プチっと弾ける!酸っぱくないのがポイント高い。そして皮は...食えるな。
「せんせー、皮って食ってもいいー?」
「は?」始まった。たくみはいつもよくわからないことを言って、担任は面白がって受け止めるんだ。「『皮』だけじゃなんのことかさっぱりわからん」
「ぶどうの皮!先生そんくらいわかってよーん」担任はニヤけながら首を傾げた。
「ぶどうの皮食えるよ」僕は一応教えてやった。「やったー!」
ふう、ウマかった。ごちそうさまでした。
食器を片付けている時、たくみは言った。「ぶどう余ってるから一緒に食べよー!」もう片付けてしまったが、正直なところもう少し腹に入れておきたい。僕は快く返事をした。「もちろん!」
たくみの席に椅子と箸を持っていって、一つの皿に盛られたぶどうを一緒に食べた。
担任はこちらをチラチラ見ながら、仕事をしていた。
もう給食の時間は終わりかけで、食器を片付けるために1人の女子が横を通ろうとした。変な目で見られるだろうかと心配したのも束の間、彼女の発言には救われた。「あ、これも食べてくれない?口つけてないから!」彼女は残った2粒のぶどうを見せた。僕がいいよとジェスチャーすると、彼女は持っている皿を傾け、その2粒を僕らの皿へ移しながら「ありがとう!」と言った。
彼女も僕もたくみも、ましてや担任まで、みんな笑っている。きっと同じ理由だろう。今、僕達の心はひとつなんだ。ぶどうはたくさんなんだけれど。
この話は、実話に脚色を加えて書いたものです。
『孤独のグルメ』にハマって、自分もグルメを書きたいと思うようになりました。
しかし私は頻繁に外食をしてるわけではないし、そもそも料理にあまり詳しくないんです。
文章を書く材料がジリ貧の状態で『孤独のグルメ』と同じような内容を書いても満足のいくものはできないことはわかりきっていました。
そんな中辿り着いたのが、「給食」なのです。
毎日食べている給食なら私にも書けるんじゃないか。そう思ったんです。
『おいしい給食』(これも大好きです)と内容がかぶらないように、私は「いつもの給食の時間」と「同級生との関わり」を大切にして書きました。(『おいしい給食』は、教師と1人の生徒が、どちらがいかに美味しく給食を食べられるか勝負する話で、かなりギャグです)
思いつき次第、新しいエピソードを書きますので、お付き合いいただけるとうれしいです。




