エピローグ
数日後。
とある控室に、フェリシティはクロウと共にいた。
「まさか、クロウが王族だったとはねぇ」
本当に、本当にまさかの展開である。
フレンが王族でなかったことや、王妃……いや、元王妃・メリーナがそれをずっと隠していたことなど、色々と新事実が発覚したというのに、最後の最後でとんでもないどんでん返しが待っていたとは。
とはいえ、一番驚いていたのはクロウ本人なわけだが。
「はぁ……」
「大丈夫?」
「大丈夫です……と言いたいところですけど、正直ヤバイです。王族の手続きやら何やらでほとんど寝てないんで……」
この数日、クロウは王宮で半ば閉じ込められながら、色々と作業をさせられていた。何せ、死んだと思われていた第一王子が実は生きていたのだ。しかも、今まで王位継承者と思われていたフレンが実は王家の血をついでいなかったり、メリーナの件があったり、王宮は混迷を極めていたとか。
「未だに自分が王族とか信じられねぇんすけどね……っつか、旦那様も旦那様ですよ。こんな大事なこと、本人にもずっと隠しておくとか、ちょっとひどくないですか?」
「その点については全く同感ね。いや、正体を隠すために本人にも黙ってたっていうのは理屈としては間違ってないけど……でも、王族を自分のところの執事として育てるとか、何考えてんだか……」
「ああ、それは国王様のアイディアらしいですよ。その方が周りも本人も真相には気づかないだろうって」
それは確かにそうである。
公爵家の執事が、まさか十七年前に死んだはずの王子などと、誰が思うだろうか。
まぁ、そもそもにして、あのアルフォンがそんな胃痛の種になりそうなことを自分からやるなどまずありえない。
「っていうか、国王様もどうしてウチなんかにクロウを預けたのかしら?」
「そこはほら、ああ見えて旦那様は色々と信頼ありますし、何よりゴリ押しで頼んだら、何だかんだで結局受けてくれる人ですから」
言われて、確かに、とフェリシティは納得する。
アルフォンは、普段から色々と怒鳴っている印象があるものの、結局頼られると断れない性格をしている。
そのせいで常に胃痛と戦っているわけだが……それがあるおかげで、彼は今の地位にいるのだ。
「そういえば、フレン王子のことは表沙汰にはならないらしいわね」
「ええまぁ。流石に今回のことを公にはできないと判断したんでしょうよ。知られちまえば、大事ですからね。まぁ、表向きは先日の一件を見かねた国王が、王位継承権を剥奪し、廃嫡を宣言。代わりにずっと身を隠していた第一王子が王位をつぐ……みたいな流れになってますけど」
これに関しては賢明な判断と言える。フレンのこと、メリーナのことが表に出れば、確実にロクでもないことが起こるのは必至。
とはいえ、その二人を放置、というわけではない。
「……フレン王子とメリーナ王妃は追放処分だっけ?」
「正確にはフレン王子が廃嫡となって辺境に追放になったことにひどく心を病んだ結果、一緒についていくこととなった……ってことになってますがね」
随分と甘い処分だ、とフェリシティは思う。本当なら、フレン王子はともかくとして、メリーナ王妃がやったことは反逆罪に相当する。即座に死刑となってもおかしくはない。だが、事を公にできないのであれば、死刑にすることはできない。それをしてしまえば、疑問に抱く者たちが多く出てしまい、今回の真相にたどり着くかもしれない。だからこその、今回の判断。
しかし、クロウとしては納得ができない結末だろう。
何せ、自分を殺そうとした実の母親が追放処分だけで許された形になるのだから。
「そんな顔しないでくださいよ。別に、あの人のことはもうどうとも思ってませんから。それに、あの二人が送られる場所は、ガチの辺境らしいですし。しかも、国王様の知り合いの魔術師に頼んで絶対に外には出られないようにしてるとか。曰く、『死んであの世に行った方がマシな場所』らしいですからね。どんな場所かは想像したくありませんが」
それについては同感である。
とはいえ、あれだけのことをしでかしておいて、本当に追放処分だけ済んだ、とならなかったことならなかったことには一応安堵しておくべきか。
「そういえば、ロゼッタって子はどうなったの?」
「どうもこうも、彼女は今回の件に関して、全く何も知らなかったようで。そもそも、彼女は別にフレンのことをそこまで想っていなかったみたいなんです。ただ、そこまで意思の強い子じゃないので、王族の誘いを断ったりすることができず、半ば強制的に一緒にいさせられていたみたいで……それを知った王妃が利用しようとしたってわけです」
意思が弱い相手ならば、自分の手駒にできる……そんな王妃に目を付けられたのが、彼女の不幸というべきか。
いや、もっと言うのなら、フレンに気に入られた時点で、彼女の不幸は始まっていたというべきだろう。
「じゃあお咎めなし?」
「そうなりますが……何も知らない連中から見れば、フレンが失脚したのは彼女にうつつを抜かしたからだ、みたいな感じですからね。これから先、色々と大変そうです。こちらとしても弟が迷惑をかけた結果になるんで、色々とフォローはしておきますが……正直、今回の件の一番の被害者はある意味彼女なのかもしれませんね」
王族に見初められ、そのまま一緒にハッピーエンド、というのは御伽噺の話だけ、というわけか。
…………いや、まぁ、フェリシティの現状を鑑みれば、それを言えた義理ではないのだが。
「そろそろ時間ね。準備はいい?」
言いながら立ち上がるフェリシティ。それに対し、クロウはどこか気まずそうな表情を浮かべながら、口をひたく。
「あの、お嬢……今更なんですが、本当にこれでいいんですか?」
「? 何? 私とクロウが婚約することが、何か問題あるわけ?」
さらり、と。
フェリシティはありのままの事実を告げた。
今のフェリシティは華々しいドレスに身を包んでいる。それは公の場に出るから、という意味もあるが、一番重要な理由は、新しい王位継承者の婚約者として出席するから、というもの。
そう。彼ら今日、ここに来たのは皆に、自分たちの婚約を発表するためである。
「クロウはこの国の第一王子で、唯一の王位継承者だから、王様にならなきゃいけないわけで、誰かと結婚しなきゃいけない。その相手に私が選ばれた。これはそれだけの話でしょう?」
「いやいやいやいや、それだけの話って。結婚ですよ? 結婚。人生で一番といっていい程、大事なことでしょう? それをそんなあっさり決めちゃっていいんですか?」
「しょうがないじゃない。国王様がリリアンと私、どっちかを結婚させようとしたんだから。リリアンはもう今回のことで相当まいってるし、本人も乗り気じゃなかったし……第一リリアンが誰かと結婚するとか私が嫌だし」
「一番最後のが本音っすよね?」
「何を言ってるのクロウ。当然じゃない」
「そこで否定しないところが、お嬢っすよねぇ……」
相変わらずぶれない元主に、クロウはどこか安心すら覚えてしまっていた。
「それに私、クロウとなら、結婚してもいいかなって思ってたし」
勘違いしてもらっては困るが、フェリシティは別に、誰とでも結婚してもいいとは思っていない。むしろ、誰とも結婚するつもりはなかった。だから、この歳になるまでずっと誰とも婚約していなかったし、ずっと断り続けてきた。
なら、何故今回はこうもあっさり承諾したのか。
その理由はとても単純なもの。
「っていうか、よくよく考えたら、私、クロウがいなくなった後の生活なんて考えられないわ。うん。無理。だって小さい頃から一緒だったし、もう一心同体みたいな感じだし。まぁ、今までとは関係が変わっちゃうけど、それでも……それでも、一緒にいたいなって思ったし……ああ、ごめん。さっきの言葉は訂正するわ」
結婚してもいいかな……そういった自分の言葉が間違っていることに気づいた彼女は、大きく息を吸って、クロウの目を見た。
「クロウ、私は―――」
「おっと。流石にそこは俺から言わせてください」
フェリシティの言葉を遮りながら、クロウは覚悟を決めた顔つきになぎながら、彼女を取り、その場に跪いた。
「フェリシティ・ローレル殿。俺は貴方と結婚したい。貴方と一緒にいたい。こんな未熟者ですが、どうかこれからも共に人生を歩んではくれませんか?」
今までにない真剣なクロウの眼差しと言葉。
それを聞いたフェリシティはただ一言。
「はい。喜んで」
確かに、そう言ったのだった。
それから二人は互いに手を取り合い、新しい王継承者とその婚約者は会場へと歩んでいったのだった。
その後、フェリシティは『鉄拳王妃』と呼ばれる程、ことあるごとに拳を握りしめ、それによっていくつもの問題が解決されるのだが、その裏でクロウとアルフォンを胃痛に悩ませていたのは、いうまでもないことだろう。
これにて本編は終了です!!
今回は題名通り、断罪されている最中に、シスコン令嬢が乱入するというテーマで書きました。本当にそれだけです(オイ。
今後も色々な作品を書いていく予定なので、その時は、また読んでもらえれば幸いです!!
それでは!!