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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第2章:書類整理だけをしていたかったんだ。
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噂話

第2章 書類整理だけをしていたかったんだ。

--噂話--


あらすじ:暴漢に襲われたけど、何事もなく終わってしまった。

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「ガリポリに関する資料なんて、どこに有るか判ったりするか?」


ドゴ様に言われてボクはいつも通り資料を探しに行く。


ああ、やっぱり資料整理って良いよね。朗読の仕事は女の子達に囲まれるので少し嬉しいけど、緊張ばかりするので落ち着いて資料を探していられる時間が嬉しい。


昨日の朗読会で少し満足したのか、今日からしばらくは王妃様が家庭教師に来ることが無くなるそうだ。なんでも、公務が溜まって来たとかで忙しくなってきたらしい。しばらく静かに暮らしたいけど、残念な事に王女様とヤワァ夫人はやって来るそうだ。


「お待たせしました。こちらでよろしいでしょうか?」


3冊の資料を見つけてドゴ様に渡すと、すぐにページをぱらぱらとめくって内容を確認してくれる。ガリポリなんて言葉は聞いた事が無かったけれど、ボクの『失せ物問い』なら関係なしに探してくれる。


「ああ、素晴らしい。単語からでも資料を探すことができるんだな。」


ドゴ様の言う通り『失せ物問い』の妖精は内容で資料探し当ててくれている。探しているモノなら資料の題名は違っていても別に問題はない。一部の単語だけでも探せるのだ。


けど、それって当たり前じゃないかな?クッピーの実を探している人が木箱に入っているか袋に入っているか気にしないのと同じように、資料を探している人が正確な題名を伝えて来るとは限らない。


「そうですね。良く若手の方は題名を知らずに探しにいらっしゃいますので、とても便利だと思います。」


先輩に言われて使いっ走りに来る人が居て、その人は題名を覚えていない。最初は先輩に聞き直すのは怒られそうだと泣きついてきたから探したけど、簡単に見つけてあげたら、それ以来まったく題名を覚えてこないようになった。


「ありがとう。探す手間が省けたよ。」


「お役に立てて光栄です。」


笑顔のドゴ様の感謝の言葉に定型句で返すけど、やっぱり感謝されるのは嬉しいからボクのニヤニヤ笑いも止まらない。


「おはよ~!」


ドアが勢いよく開け放たれて、元気なカナンナさんの挨拶が響いた。


「カナンナ。ここは図書館だ、もう少し静かにしなさい。」


今まで笑顔だったドゴ様の顔が一気に曇ってしまう。


「もぉ~!ヒョーリしかいないから良いじゃない。パパったらカタいんだから。」


「どこで誰が聞き耳をたてているか判ったものじゃ無いんだ。オマエも貴族の娘らしく、もう少し大人しくならないと嫁の貰い手が居なくなる。せっかく王女様の所に行儀見習いに入れた意味がないじゃないか。」


「はいはい。もう資料は見つかったんでしょ?ヒョーリだったら、すぐに見つけてくれるから。ほら!帰った、帰った!」


今日はお茶に誘わないらしい。カナンナさんはドゴ様の背中を押して図書館から追い出してしまった。まぁ、前回もドゴ様が断るのを見越して誘っていたのかも知れないけど。


「あれ、ドゴ様ってカナンナさんのお父さんなの?」


「そうよ。変な父だけど、よろしくしてあげてね。」


「いや、こちらこそお世話になっていると思うよ。というか、カナンナさんって貴族のお嬢様なの?」


ドゴ様に限らず誰かが資料を探しに来ると、家庭教師のレッスンが中断されて少し休憩できるのだ。一応は図書館の司書の仕事が優先されるからね。


「そうよ。だいたい王女様のお世話をするような人を街から連れてきた人に任せられるわけないじゃない。」


そりゃ、下町のオバちゃんが王女様の侍女をやっているのは想像できないし、家庭教師だって貴族のヤワァ夫人がやっている。でも、てっきりカナンナさんもボクと同じように平民だとばかり思っていたから普通に喋っていたけど、まずかったのだろうか?


「いや、今さら改めてもらっても困るんだけどね。私ってばココにサボりに来てるんだし、黙っていてくれれば良いのよ。」


「よかった。カナンナさんとこうやって話しているの楽しいんですよね。」


と言うと彼女にそっぽを向かれてしまった。


「と、ところで、今日の用件なんだけど…。」


「あ、はい。また王女様の本を探しに来たんでしょうか?」


「昨日の泉のほとりの件なんだけど、真犯人が捕まったわ。」


「はぁ、それは良かったですね。」


泉のほとりで暴漢に襲われたけど、わざわざボクに報告しに来る意図が判らない。ボクだけが暴漢に襲われた訳じゃないし、暴漢が気まぐれに王女様を襲ったにしても真犯人に依頼されて襲ったとしても、ボクには関係ないし知った所でどうにか出来るようなモノでもない。


「興味ないの?真犯人がソンオリィーニ子爵だとしても。」


その言葉にギョッとした。


「まさか、昨日の暴漢はボクを襲いに来たんですか?」


ソンオリィーニ子爵と言えば、ボクに財宝を探させて失敗して賞金を懸けていた人だ。王女様よりもボクの方が因縁が深いように感じる。


「それは無いわね。いくら子爵が恥をかかされたからって、ヒョーリだけを襲うためにわざわざ王妃様がいるような場所を選ばないわよ。」


それもそうだ。いくら女の子ばかりとは言え、王妃様が居る場所で狼藉(ろうぜき)を働いてバレれば王様が黙っているはずがない。それならボクが独りになっている時に襲えば良いんだ。


「それじゃあ、どうして子爵は?」


「まぁ、お金に困っていた所を利用されたようね。もっとも、そうなるように仕向けていた人が居るみたいだけどね。誰だとは言えないけど王妃様とか。」


カナンナさんの話をまとめるとこうだ。


最近、乱暴になってきた勇者様を不快に思う貴族が増えて来ている。だけど魔獣と最前線で戦っている勇者様が頑張れるように、魔王を倒した暁に勇者様と王女様が結婚させようという提案を上げる家臣が居たそうだ。


それには王族に勇者の血を取り入れたいとか、勇者を民衆の象徴にしてどうとか、いくつかの貴族たちの思惑もあるようだけど、元々が農民の勇者様に自分たちの象徴である王女様を嫁がせる事に反対する人たちもいる。


そんな人たちの中でも過激な人達が、王女様を誘拐してから、自分たちが助け出したように見せかけて勇者様と結婚しないよう説得しようとしていたらしい。


だけど、計画を知った王妃様が一計を講じて、お宝探しに失敗したソンオリィーニ子爵を更に困窮(こんきゅう)させて実行犯になるように仕向けてしまったのだ。


使い捨てにされる実行犯だとしても、あらかじめ周りを警戒していれば誰が接触したのかくらいは判ってしまう。真犯人が捕まった後に更に黒幕まで辿り着けるように王妃様は画策していた。つまり子爵は釣りの餌にされていたという事だ。


貴族様って恐ろしい。


「それじゃあ、護衛がまったく付いて居なかったのも、泉のほとりで襲わせるためにワザとだったの?」


「ワザと目立つように王宮の外に出て泉のほとりで襲わせたのは真実だけど、護衛が居ないのはいつも通りよ。ノーナッテさんがいれば大抵の暴漢から護衛できるしね。」


「王妃様の侍女長さんだよね。お皿を飛ばせるの?」


男たちに襲われた時、馬車の屋根に乗せてあった箱からお皿が飛び出して暴漢を瞬く間にのしてしまった。王妃様は侍女長のノーナッテさんに命令をしていたから、彼女がやったんだろう。


「『食器の舞踏会』ね。元々は給仕の時にお皿を運ぶための『ギフト』だったらしいけど、四方八方からお皿を自在に飛ばせるんだから、そこら辺の騎士くらいじゃ相手にならないわよ。」


侍女しかいないと油断している時に、お皿がものすごいスピードであちこちから飛んで来たら、腕が2本しかない騎士なんて簡単に負かすことができるらしい。


「戦闘用の『ギフト』じゃ無かったんだ。」


お皿が浮き上がって飛んで行ったのはすごくカッコよかったし、暴漢を一瞬で倒してしまうほどの力を持っていたから、戦闘用の『ギフト』だとばかり思っていた。


「宮廷の食事会で『食器の舞踏会』でお料理を運ぶと大喜びされるのよ。たくさんのお皿が宙を舞って大勢のお客様に一斉にお料理が運ばれるんだから、私も初めて見た時は感動したわ。」


そう言って、カナンナさんは食事会で初めて『給仕の舞踏会』を見た時の事をどれだけすごかったのかを身ぶり手ぶりを加えて話してくれた。


「まぁ、そう言うわけで、ヒョーリに付いて居た賞金は外れる事になるわね。」


「今度、ちゃんとお礼を言わなきゃね。」


ボクに賞金が付いてしまっていたから街に行く許可が下りたって怖くて行けなかったんだ。ソーデスカに言伝は頼んであるけど、これで孤児院のコロアンちゃんにも連絡が取れる。


また急にボクが居なくなったと言って無茶をしていなきゃ良いのだけど。


「ああ、お礼は良いのよ。ただ、王妃様からの依頼をやってくれればね。」



そういってカナンナさんは微笑んだ。



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次回:王妃様からの『依頼』



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