表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら武器が恵方巻きで山  作者: 鼻ふぇち
8/11

第7章

おにいさん! 私と遊ばない!?


その少女に声をかけられたのは、次の祠があるという町でのこと。


「お安くしとくよ!?」


年の頃ならレーヌよりも数歳下だろうか?

日本でいったらたぶん中学生くらいだ。

てか、女連れに声かけてくんな!


「あら? ユータ、もてますね?」


・・なにニコニコしてんのさ、レーヌ・・


「ユータとどんなことして遊びたいのですか?」


世間知らずのお嬢なの!?

町なかで、そこそこ可愛い女の子がいきなりおにいさん遊ばない?とくれば・・


「丁半博打!」


そう、丁半・・って博打かよ!?

お安くしとくってなんだ!?


「な、なんで俺に声をかけるんだ!?」


「おにーさん、金巻き上げても良心が痛まなそうなカンジだったから!」


こいつ無邪気な顔して容赦ねえな!?


「じゃあ、振るね!」


え? もう勝負始まってんの!?


「んー・・2分の1の確率で半!」


当たり前だ!


「ユータ! ガンバってくださいね!」


「柿崎ゆうた、いっちょ見せてやれ!」


いや、あの、ふたりとも。俺この状況なら丁に張るしかないんだけど・・


「・・丁」


「よござんすね! シロクの・・どっち!?」


わかんねーのかよ!?


「丁だ丁!」


「じゃあ、丁! ・・チッ」


少女はあからさまな舌打ちをして、銅貨1枚をカッキーに放ると、再び賽をカップへ投じた。


「地獄の2番勝負、2戦目いくよ!」


「半!」


今度はカッキーがさっさと張ってしまう。


「仕方ないや。確率10分の1だケド丁!」


なんで確率下がったし!?


出目はシロク。


「ロクシの・・えーと・・?」


さっきと同じだ、なんで逆に読む!?

余計わからんわ!


「ロクシは半だ半!」


「そうか半かー! ・・チッ」


バレなきゃイカサマではない。


少女はまた銅貨をカッキーへ放る。


「じゃあ、地獄の2番勝負最終戦だよ!」


いや。。これ3戦目だよね?


「えい!」


賽は投げ入れられてしまった。


「付き合うのこれ最後だからね!? 半だ!」


「じゃあ、私は1日外出録!」


ヱ?


「ハイ! ピン、アル、シックスの1、2ち外出6! 100倍付けだよ、おにーさん!」


・・なんでサイコロ増えんの!?

てか何その無理矢理な語呂合わせ!


「おお! 1日外出録か! こりゃ滅多に出ない目だな!?」


「出たらどこかの誰かがそのうち死ぬという幻の。。私初めて見ました!」


ルールで決まってんのかよ!?

どこかの誰かがそのうちって、呪いのビデオよりザックリ過ぎんだろ!?


「・・あの、これ。。?」


「ああ、残念ながらそいつは親の総取り100倍付けのペナルティ目だ。諦めろ。」


ニコニコしながら手を出す少女に、ワケもわからないまま金貨を渡すカッキー。


「じゃあ、今日はこれで! またね!」


少女はカッキーに紙片を渡すと、上機嫌でスキップしながら人混みに消えてしまった。


渡された紙片に目を落とすと、名前が書いてある。


『また遊んでね。くるみ。金貨1枚確かに受領致しました。ボイン。』


キャバクラの名刺兼領収書か!?


こんな、どっかからちぎってきたみたいな紙に・・

ハァ・・疲れた・・それにしてもこの町・・


それは、ここへ来た時から気がついていたことではあるが、この町なんというか妙なカンジの活気に溢れかえっている。


いたる所に露店が開かれ、物売りだけではなく、さまざまな遊戯や賭け事を提供して楽しませるものも多い。

天下の往来にどこからかベンチを引っ張り出してきて、縁台将棋よろしく何かの真剣勝負に没頭している光景もかなり目にした。


そして、建物に立ち並ぶ看板にはどう見てもいかがわしい店名やイラストが目立つ。


一見すると、風俗街の軒先で縁日が開かれているような光景なのである。


「なんか、俺苦手だなぁ・・こういう雰囲気・・」


連れ立って歩けるような友人がいなかったせいもあり、カッキーは繁華街があまり得意ではない。なんとなく、自分の居場所ではないような・・場に拒絶されているような気すらしてしまうからである。


「そうですね。私もこう・・あちらこちらから見られているような空気はあまり・・」


レーヌも、引きこもり気味だったのであまり人が雑多に騒ぎあっている場所は好みではないようだ。

ウナートラやドラグドラドも人の往来は多いが、それとはまたちょっと違った無秩序感とでもいうべき何かを、この町は抱え込んでいる。


しかし、今のレーヌはカッキーと一緒である。その袖をちょっと掴んでいるだけでも、不安な気持ちは軽くなるのだった。


「しかし・・どこの都市や町でも、こういう一画なら見られるものだが・・ここまで全体がそうだってのは珍しいよな・・おっと! どうしたんだレーヌ?」


突然レーヌが足を止めたので、よそ見をしながら後ろを歩いていた彩奈が軽くその背中にぶつかってしまった。


「あ・・すみません彩奈・・あそこに・・」


立ち止まったレーヌの視線はある簡素な出店に向けられている。


女の子にはこれが大好きな人も多い。特に色々と悩み多き乙女には御用達である。


そう、『占い』の店だ。小さなテーブルを濃い紫の布ですっぽりと覆い、その上に漆黒の水晶玉を設えて、その奥の椅子に腰掛けているのは年期の入ったローブのフードを顔のほとんどが隠れるまで目深に被った褐色肌の人物だった。

まぁ、体格や見えているネイルに装飾をほどこした手からすれば女性だが、これだけ顔を隠されると、細身の優男やニューハーフの可能性も・・


「どうぞ? 何か知りたいことがあるなら、立ち寄って行ってはいかがかしらお嬢さん?」


あ、普通に女の人みたいだ。それほど年齢はいっていなさそうだが、ちょっと低くてよく通る大人の色気を含む声である。

まぁ、言ってしまえば大泥棒やガンマンとつるんでインターポールに追われていそうなカンジだ。ちなみに剣豪はカッキーが永遠の心のライバルということにしてある。


「ユータ、一緒に見てもらいましょう!」


言うが早いか、レーヌはカッキーの手を引っ張っていき、水晶玉を挟んで占い師と向き合う。


「んふふ・・ふたりの未来・・恋の行く末を占えば良いのね?」


先に言われてしまったレーヌは少し頬を染めてもじもじしていたが、意を決したようにコクンと頷く。


「そんないきなり、レーヌ・・俺・・」


「・・嫌ですか、ユータ?」


嫌ということではないのだが、逆にカッキーはけっこうこういった類のものを信じ込んでしまうタチである。

ちょっとしたテレビや雑誌の占い、おみくじ、そういったものに左右されないため出来るだけ関わらないようにしてきたのである。


「そ、そんなことないよ・・よし、見てもらおう! 占い師さん、お願いします。」


そんな顔で見つめられたら、気が進まないなんて言えるワケがない。

今回は付き合ってあげるか・・まぁ、商売でやってる占い師だ。恋占いで変なことはさすがに言わないだろう。


「・・それじゃあ、ふたりとも利き手でこの水晶玉に軽く手を触れて。」


そうしたら、互いの小指の先同士を合わせて・・そう・・そのまま・・


占い師のフードに隠れた目のあたりがボゥと淡い光が発っしたかと思うと、それまで黒一色だった水晶玉が派手なグラデーションカラーでグルグルとその色を変え始めた。


「それじゃあ・・よろしくて? ふたりの未来を、その目で見てきてごらんなさい・・」


次の瞬間、カッキーの意識は遠のいた。


気がつくと、カッキーの目の前にはレーヌがいた。しかも、顔と顔の距離がとても近い。

この近さ、本気でキスする5秒前である。


・・が、何かおかしい。というより違和感だらけである。

レーヌの顔が、なんだか違う気がする。しかも・・なんかずいぶんと平面っポイ。


それに、肝心の唇が何か黒いものに邪魔されていて見えないではないか・・


ん? え? あれ・・? これってもしかして・・そ、そんな!?


そこで、カッキーはハッと我に返った。

隣を見ると、幸せそうな顔を熱っぽく赤らめているレーヌ。


「ユータ・・よかった・・私・・」


レーヌは、目の端には少し涙まで浮かべている。


「う、うん・・よかったよ・・俺も・・」


カッキーは、咄嗟にレーヌの様子に合わせはしたものの、その心には焦りと戸惑いがあった。

あれは・・やっぱりレーヌじゃない・・しかも・・あれは・・


レーヌが丁寧にお辞儀をして、占い台の上に銀貨を1枚出した。占い師も軽く頭を下げて、それをローブの裾にスッと入れる。


「ふふ・・幸せな未来が見えたようでなによりですわ。そちらのお嬢さんとおサルさんもどうかしら?」


「ふざけんな! なんで私がお前と一緒に未来を占わなきゃならないんだよ!」


おもしろそうだからやってみようと誘うタカを一喝して、彩奈は銀貨を1枚占い師に渡した。


「恋愛占いとかは私はいい。代わりに、この町で私たちが探しているものがどこにあるのか占ってくれ!」


「・・わかりました。それでは・・」


そう言って大きく息を吸って止めると、占い師はそのまましばらく沈黙していた。

あ、今度は水晶玉使わないんだ。。もしかして恋占い専用なのかこれ?


「フゥ・・ああ、苦しかった・・見えました、あなたの探しているのは場所と人・・2つあるようですね?」


おお!?


「場所は、この町の北西。。人は。。あら、あなたたちは既に探しびとには巡り合っているようだわ・・」


「そうか、ありがとな! よし、それじゃ北西っていうとこっち側か・・行こうか!」


彩奈はそこで話を切り上げると、1人でサッサと歩き出してしまった。よほど、この場から早く立ち去りたかったに違いない。


占いの店からしばらく離れた辺りで、彩奈は通行人を呼び止めて道を聞く。占いなんて端からアテにする気は無かったようである。


「ああ、ちょっとすまない。。行きたいところがあって・・この町に古くから霊獣を祀っていた祠があるはずなんだが・・」


「ああ、それならこの道をこう行って、こう曲がって・・」


通行人は親切にもメモに地図を書きながら説明してくれた。

礼を言って、通行人が去った後、地図を眺めていた彩奈が少し関心した声で唸る。


「ほう・・? この場所なら、確かに町の北西だ。。偶然とはいえこれはなかなかすごいことなのか?」


「彩奈は占いとかあまり信じないですものね。でも、あの占い師さんは私なんだかすごく当たる気がします!」


すかさず、レーヌが聞きつけてあの占い師をヨイショした。

なんだか、さっきから嬉しそうだが・・彼女と同じ気持ちで喜びきれないカッキーがそこにいることには気がついていない。


祠はほどなく見つかったが・・なんだこりゃ?


倒壊した祠の石には、表面全体にお経のように何かの文字が彫り込まれていた。


「丁半必勝・・目指せ街角名人・・おかげでデビュー決まりました・・」


・・ずいぶん長いですが・・どんな霊獣でしょうね・・?


ホンキで言ってる、レーヌ?


「それ・・町の人たちが祈願とかそれが叶ったお礼とか、みんなしてここへ彫り込んでるんじゃないかな?」


「まぁ、ずいぶんと町の方々に愛されているんですね、ここの霊獣は・・」


「・・いや、そうでもないぞ・・」


彩奈が別な場所の文面を読み上げる。


「このクソが! お前を信じたおかげで大損ぶっこいた! 金返せ! ・・」


口汚い罵りの文句もいっぱい混じってる。まぁ、どっちにしても人気はあるっちゃあるみたいだがな。


ウッキー! ウッキー!


おっ、タカが見つけた文字は他のより達筆! それっポイぞ。見る目あるじゃん。


「あ、ここですね。甘美なる 世界の狭間・・」


これも中二くらいの女の子が書いた恋愛小説の出だしみたいな文句だが・・結局これだけではどんなヤツなのか見当が付かない。


その日はそろそろ日も傾きかけてきたので、一行はここで各都市へ引き上げることにする。この町の夜の顔に興味はない。


たっぷり休んで、次の日・・


「おねーさん、おねーさん! 私とバンド組まない!?」


レーヌのローブをグイグイと引っ張って、イキナリの勧誘をかけてきたのは・・


お前かよ!


昨日の丁半少女である。って昨日は博徒で今日はバンドか。変わり身すげーな。

バイトしろ、バイト!


「え? なぜ私を誘ってくれるんですか?」


「声キレイだから! うちのバンド、ボーカルいないんだ! 歌うのは好き?」


「歌は嫌いではありませんが・・歌うのはあまり得意では・・」


「じゃあ決まり。おねーさんボーカルね!」


話を聞け!


「大丈夫。地獄みたいな特訓をすれば!」


地獄好きだな、お前・・


「そっちのおねーさん楽器出来る?」


「え、私か? ドラムなら少しは・・」


「じゃあ決まり。あなたはドラマーね! うちのバンド、ドラムいないんだ!」


いねーのかよ!?


「じゃあ、そこのチンパンジーはシンバルね!」


なんで打楽器分けた!?


「サルってシンバルってイメージだから!」


まぁ、分かるけどさ・・


「これで、バンドメンバー4人揃ったー!」


今までいたのお前だけかよ!?


「あの・・俺は・・?」


一応、ギターもベースもかじったことあるけど・・


「んー。音楽性の違いでパス?」


一緒にカラオケ行ったことすらねーよ!


「・・で、お前は何をやるんだ?」


「カスタネット!」


打楽器3にボーカル1かよ!?

それ以前に、園児の遊戯か!


「すみません。ユータ・・こればかりは私にもどうにも・・」


「ああ。お前はファンとして応援してくれ。柿崎ゆうた!」


ウッキー! ウッキー!


「それじゃ、みんな。これからライブハウスへ旋風を巻き起こしに行っちゃうよ!」


いきなりかよ! 地獄の特訓どうした!

てか、よく出場枠とれたな!?


場面変わってここはライブハウス。

入場料金貨5枚って、たっけえな!?


カッキーは、サービスドリンクという名の紙コップに入った水を手に、落ち着かない気持ちで演奏が始まるのを待っていた。


「楽しみだよな、クレア・Gの初ライブ! あんたどこから来たんだ!?」


「え・・えと・・ダミナート・・」


「そうか! 俺はウナートラから来たんだが、レーヌ様や彩奈様のデビューをこの目で見られるなんて俺たちシアワセもんだよな!」


なんか、時系列おかしくないか・・?


そうこうしている間に、幕が開い・・たと思ったら全員既にヘドバン!? まだ音ないのに!?

何、ジャンルヘビメタなの!?


ズダダン!


彩奈のドラムの入りはプロ級だ。カッキーも、もしかしたらこれはイケるのか!?と思ったその直後・・


「霊獣魔獣をぶったぎり〜♫」 ウキャー!


は・・?


「エアロスクーター空を飛ぶ〜♫」 ウホ!


!?


何、このクソ歌詞!?

高木ブ◯とかフリ◯ザとか、そういうピンポイントのヤツって、それなりの知名度がないと・・


って、レーヌ歌ヘッタクソ!!

声も、なんだこの噛めば噛むほど味の出てくるスルメボイス!?

いつも喋っている時のとまるで違う!?


まぁ、普段はそうでもなくとも歌うと突然美声になる人とかいるんで、その逆もあるだろうケド・・


しかも、追い討ちをかけるかの如く、クルミのカスタネットとタカのシンバルは神がかったタイミングでズレており、せっかくの彩奈の絶技を完膚なきまでに殺していた。


ウワァー!! レーヌ様ー!

REENU! AYANA! KURUMI! SARU!


コールでサルかよ!


だが、そう! 絶叫、コール!

このギターもベースもない、打楽器の音だけがド派手なほぼアカペラの曲は、会場に詰めかけた若者たちのハートになぜか響いて大歓声である。


「俺は柿崎ゆーた! チェケラ♫ 俺は柿崎ゆーた! ポゥー♫」


を・・い・・なんかもう頼むヤメテケレ・・


ジャーン♫ ズダダン!


一曲目が終わった。

彩奈がドラムで締める前のジャーン♫はなんと歌詞に含まれている。

レーヌが飛び跳ねながら、自分の口で言っているのだ。

顔から汗を飛ばし、髪を振り乱しながら着地した後、けっこうなドヤ顔で余韻に浸るレーヌ。

なんかもう愛らしいやらイタいやらで、今すぐ舞台に上がって抱きしめてやりたくなっちゃうんだけど・・でも・・


「こんにちは。クレア・Gのボーカル。レーヌ・リネサキです!」


あ、マイクパフォーマンス始まった・・


コールや口笛がひと通り鳴り止むのを髪をかきあげながら待って、レーヌは再びマイクを構える。


「今日は、私たちの初ライブに集まってくれてありがとうございます!」


やっぱり、普通に喋っている時のレーヌって美声なんだよなぁ・・


「クルミのク!」


カチカチカチ!←カスタネット


「レーヌのレ!」


レーヌが顔の横で小刻みに手を振る。


「彩奈のア!」


ズダダダン ダン ズッダーン!


「そして、チンパンジーのG!」


バッシーン!←シンバル


Gってそこかよ!?


「3人と1匹合わせて、クレア・Gです!」


いや、そこ語呂よくないだろ!?

テンポやタイミングずらすのが持ち味か!?


「えー・・それでは、最後の曲、俺は柿崎ゆーた、聞いてもらったワケなんですが・・」


え? 一曲目が最後の曲!?


「ここで、みなさんに悲しいお知らせがあります・・クレア・Gは・・本日限りで解散します!」


早えぇー! まぁ、そうしてくれないとこっちも困るケド・・


ウワァアー! イヤー! ヤメないでくれー!

会場中から聞こえてくる、悲嘆の叫びやむせび泣く声・・


え。。? なんで、初日の一曲目で解散宣言するバンドにそこまで入れ込めるの?


「忘れないぞー!」


「いつでもカムバックしてくれー!」


「アルバムぜんぶ買うからなー!」


出てたまるかよ、アルバムが!


「それでは、みなさんご機嫌よう〜!」


あ、燃え尽きましたので、アンコールとかカンベンしてくださいね!


レーヌが最後の挨拶をすると、舞台の幕はあっけなくスットンと落ち、照明が明るくなった会場には退場を促すアナウンスが流れ始めた。


「え〜・・これをもちまして、クレア・Gの初にして引退ライブ全ての公演を終了させていただきます!」


てか、この声くるみだろ!?


「お出口が大変混雑しておりますので、どうぞお気をつけてお帰りくださいませ。尚、会場の外に特設いたしました物販ブースでは・・」


レーヌTシャツ、彩奈タオル・・サルペンライトなどの余ったのがまだまだあります。いつかプレミアムがつくかも知れませんので、是非ご近所へのお土産にどうぞ!


おい、適当だな。てか、物販まで用意してたのかよ!?

なんだよ、サルペンライトって・・


まぁ、何はともあれ、ハラハラしていたライブは無事に終わったようだ。

しかも、予想外に大盛況。

・・楽屋裏行ってみるか・・


カッキーが楽屋裏に回ってみると、引退ライブを終えたクレア・Gのメンバーが、興奮気味に互いの健闘を讃えあっていた。


「やったな! サイッコーの引退ライブ!」


「もう・・私、涙が止まらなくて・・」


ウッキー! ウッキー! ホキャアー!!


「うん! みんな、今まで私についてきてくれて、ホントにありがとー!」


なんか、こう・・あの輪の中に入りにくい雰囲気あるな・・


楽屋の入口でモジモジしていたカッキーに気づいたレーヌが、海辺を走る昭和アイドルみたいに肘を曲げて持ち上げた両手をフリフリ小走りで寄ってくる。


「ユータ・・ライブ、来てくれてたんですね・・」


いや、さっきここまで一緒に来たでしょ!


「ん・・まぁ、お疲れレーヌ。」


「・・そんなんじゃイヤ・・です・・」


へ?


「私・・このライブが終わってふつーの女の子に戻ったら、真っ先にユータに伝えたいことがあったんです!」


レーヌは、ポッと頬を赤らめて視線を逸らすと、まだライブの火照りが残った熱い吐息で消え入るように囁いた。


「好き・・です・・」


んお!?


「ずっと気になってました! 前提もクソもなく私だけのものになってください!」


今日のライブ・・ずっとユータのことだけを想いながら歌っていました・・


一曲だけだケドな・・まぁ、俺のこと考えながらってのも・・アレあながちウソじゃないよな・・


「ひゅーひゅー! 柿崎ゆうた! ほら、お姫様が返事待ってるぞ!」


「おにーさん! そこまで言わせちゃったら責任とるか自害しかないよ!」


ウッキー! ウッキー!


え? いや、あの、みんな、それかえって答えにくいんだケド・・


見ると、レーヌはもうキス待ち顔に入ってる!? 言葉よりも行動で答えろってか!?


ん? アレ?


ええい! ままよ!


カッキーは、レーヌの背と腰に手を回すと、その身体を強く抱き寄せながら熱い口づけをした。


お? おお?


レーヌの唇が吸い付くようにカッキーの唇をまさぐった。

その隙間を貫く勢いで、先を尖らせたレーヌの舌がカッキーの口腔に差し込まれ、粘液という粘液を味わい尽くさんとばかりに這いずり回る。


レ、レーヌ・・!


レーヌの火照る顔から立ち上る化粧と汗の匂いがカッキーの理性のヒューズを焼き切る。


カッキーは思わず、レーヌを腕で庇いながら柔らかなベッドの上へと押し倒してしまった。


まるで2人の身体がねっとりとした糖蜜で包まれてゆくような熱い抱擁・・


→サムシング。


→朝チュン。チュンチュン


・・・


→リーンゴーン♫


・・・


→ユータ、きっとあなたに似て・・


・・・


・・・


→幸せな人生だったよ、レーヌ。

私もです、ユータ。


生まれ変わっても、また・・俺たち・・

ええ・・私たち・・


・・・


・・・



ーーーーーーーー


ユータ! いますか!? ユータ!?


ああ。ここにいるよ、レーヌ。

・・君まで、同化されちゃったのか・・

コウは、無事に逃げられたかな?


ユータ・・ええ、コウなら無事におばあさんの家まで帰りましたよ。あなたにありがとうと伝えて欲しいと託されました。


そうか、よかった・・でも、俺とレーヌまでこうなってしまったら、もう旅も終わりかな・・ドリガロンの野望を食い止められなかったのは・・悔しいな・・


何を弱気なことを言っているんです、ユータ!? 私たちに、こんなところで歩みを止めることは許されませんよ!?

私は、村の人たちを。。いえ。。ユータ、本心を言えば・・あなたを救いたくて戻ってきたのです。


・・まさか、俺を助けようとしたために? バ、バカ! なんてムチャするんだ!! そんなことなんか考えずに、俺ごとヴォグムーアを・・


イヤです!!


!?


出来ません、そんなこと・・私には・・


レーヌ・・?


・・好きなんです。ユータ・・愛しています。あなたのことを・・


え!? あ、あ、あの、俺も・・


例え、頭ではこの世界を救うことの方が大切なことだと考えても・・

この気持ち、自分でもどうにもならないのです。あなたが私の目の前から消えたあの時・・ハッキリ気づいてしまいました・・

私は・・確かにあの瞬間この世界全体よりもまずユータ・・あなたを救いたいと思ってしまった・・

あなたと一緒に・・一緒に平和を取り戻して・・そして平和になった世界でもいつまでもずっと共に歩んでいきたいと・・

そう心の底から思えたので、私は胸を張りここへ来たのです!

ユータ、一緒に戻りましょう!


・・ありがとう、レーヌ・・俺も、初めて会った時からずっとキミが好きだったよ。


ふふ・・ユータったら・・それは前にも一度、ちゃんと聞いていますから・・

それに応えるのは、私の方です。私たちの心。。今重なりましたね!


うん、よし帰ろう! 彩奈さんもタカもきっと心配してる。帰って旅を続けよう。俺たちの旅を、どこまでも・・!


はい! ・・では、いきますよユータ! マッシュルームライカンスロープキャンセラー!!!


・・・


・・・


ーーーーーーー


そうだった・・こっちがホンモノなんだよな・・


!?


確かに、それも1つの幸せな一生だ・・

なんの心配もなく楽しい夢を見ながら一晩眠るような。。絵に描いたような人生だ・・


!?


でも・・その未来じゃ足りない・・


「レーヌと俺の願いが・・一緒に必ずこの世界を救うと決心した俺たちが生きた軌跡では、絶対にあり得ないんだ!!」


世界の壁にメキメキとヒビが入り、そして割れた。カッキーが、邪悪な魔力によって作り出された幸福な人生の終末より舞い戻る!


いまだどこなのかも知れぬ黒一色の世界で、ライジング恵方巻きブレードを正眼に構えたカッキーは、目の前に揺らめく影と正面から向き合った。


「いつ、どんな風にあの世界へ送りこんだんだか知らないが・・」


その程度の術なら、何度だって打ち砕いてやるぞ!


「そうです! 私たちは偽りの快楽などに屈しません!」


気がつくと、カッキーの隣には杖の先に魔力を集中させたレーヌが立っていた。


「ですよね、ユータ!」


カッキーは軽く微笑むと力強く頷く。

続いて、彩奈が、タカが・・そしてくるみが2人に並び立つ。


あ・・くるみとはちゃんと知り合ってたのか・・まぁ、幻にしては濃いキャラしてると思った。


「悟浄と、よりよいウナートラを作ろうと約束したからな・・」


「平和になったらダミナートで絶対アイドルデビューして、それからマンガ家に転向して一生安泰の印税生活するんだから!」


お前のそれは、どこで出てきた話じゃい!

ポッと出キャラ感ハンパねえ・・


ウッキャー! ウホウホ! ウッキャー!


・・まぁ、いいか・・

そうだな。。誰が知らなくても・・誰にも知られていなくても・・


1人1人には、必ず叶えたい未来が、夢があっていいよな!


『このヴァフゥの作り出した甘美なる世界から、よもや揃いも揃って生きて戻ってくるとは・・』


一行の前でユラユラと燻っていた空間の歪み、黒い影が人の形に収束してゆく。


『お前たちが初めてよ・・褒めてあげましょう。さすがは、我らのうち既に6体までも倒したレーヌ姫とその一行だわ・・』


自ら進んで快楽の渦に落ちていった他の人間どもとは一味違うということね・・?


!?


闇が凝り固まって現れた人型は、バサリとその身に羽織っていたローブを脱ぎ去った。


「・・うわお・・」


ムッキョー! ムッキョー! ホキャキャ!


カッキーは思わず口笛のひとつも吹きたくなる衝動をすんでのところで抑えた。


その姿、まさしく絶世! 弾けんばかりの艶やかなる褐色のはだえ。

ひと筋ひと筋が最上級の絹糸を凌駕するプラチナブロンド。

その目鼻立ちは、好み云々以前に万人が深くため息をつくであろうこと言うに及ばず。

抜群を超える完全独走のプロポーション。

どこか命通わぬフィギュアのような冷たさを誇るかのように、ブァフウは堂々とその肢体を晒していた。


ちょっと残念なところといえば、やっぱり簀巻きが巻かれているため正確に言うならば裸エプロンならぬ『裸簀巻き』状態であり・・

すみません。ちょっとじゃなくてすっごいガッカリでした。


「まいったな。。ローブの下にはどんな化け物が潜んでいるのかと思ったが・・」


「なんか悔しいよ! 殺そう!」


「・・同感です・・戦う以前に傷つけることさえ躊躇わせるほどの美しさ・・ある意味最強の防御と言えるかも知れません・・」


「じゃあ、出来るだけ傷つけないように殺そう! くびり殺そう!」


女性陣から自身への評価を聞き届けたブァフウはフフンと鼻を鳴らす。


『あら、ありがとう・・お褒めにあずかりまあまあ光栄だわ・・でも、防御ならララングストゥの方が専門よ?』


ララングストゥ・・ウナートラの総督府へ乗り込んできたというヤツか・・


「だれのこと!? 新キャラ!?」


『もっともあの男のは・・芸も何もないただただ完璧なだけのつまらない能力よ・・』


「あんたも美人だけでやってけると思ったら、大間違いなんだから!」


・・まぁ、あなた方はあの退屈な男とは戦わずにすむわ。。この場で全員私が殺してあげるからせいぜい感謝するのね。フフフ・・


ブァフウのプラチナブロンドが、突如逆流する滝のように一斉に天を指したかと思うと、みるみるひとつの束に編みあげられてゆく!


『私の得意はあくまでこっちよ!』


ブァフウがくいっとその長く細い首を後ろへしならせると、次の瞬間編み上げられた髪の束がグングンと長さを増しつつ迫ってくる。

さながら、髪の鞭!


「まさか1人ヘアメイクアーティスト!?」


!? 先の部分がムクムクと変形して、何かの形になっていくぞ!?


「・・レーヌ!?」


髪先がカッキーの目の前まで到達した時、それは既にレーヌの上半身へと変じていた。


『ユータ・・私が斬れますか?』


このレーヌがブァフウの操る幻覚であることは、頭では分かっている。

分かってはいるのだが、だからといって愛しい人の姿をこの一瞬で躊躇わずに両断することが、カッキーには出来なかった。


『嬉しいです、ユータ・・それでも、私はあなたをこのように・・』


ブァフウに作り出された偽りのレーヌの首が更にろくろっ首のようにニュッと伸びると、グルグルとカッキーの周りを一周二周する。


『殺めることが出来ます・・ユータ、しかしそれでも愛しています。たとえあなたが、物言わぬ骸となっても・・』


バキバキミシ!


「ぐああ!」


「ユータ!」


「うわわ! レーヌおねーさん、キモ!」


まるで蛇のようにカッキーの全身に絡みついた偽レーヌの首が、どんどんとその締め付ける力を強めていく。


「レーヌ! 私の左手に水!」


「いきなり頭ハゲた!?」


「は、はい! ヴェイパーコレクト!」


彩奈が変身すると同時に、レーヌは空気中の水蒸気をその一点に向けて収束させた。


彩奈の左手が水の球で包まれ、同時に右手の先でそれを次々と刃化する『水切り』の術が発動する。


一瞬にしていくつもの水の刃が漆黒の空間に撃ち出され、いくつかは追尾ミサイルのような軌道を描いて偽レーヌの付け根を切り離した。

残りの刃は四方に散りながら、ヴァフゥ本体へと向かう。


『へえ・・そんな連携技もあるの・・ちょっと油断していたわ・・』


「ファイヤーボール!! チッ外したか!」


ヴァフゥは偽レーヌを切り離された髪の鞭を一気に引き戻し、自身の周りでのたうつ蛇のように高速で振るうと、至近距離まで近づいていた水の刃を横から全てはたき落した。


『今の・・私の方を先に狙われていたら、ちょっと危なかったのかしら・・?』


余裕綽々の笑みで嘯くヴァフゥ。どうにでも料理出来た、という意図をちらつかせる。


「ゲホッ! ・・ふぅ・・」


切断されたことによりレーヌの姿から元に戻った髪の毛をタカに毟りとってもらい、ようやくカッキーは締め上げ地獄から脱出した。

ライトプレートアーマーのおかげで肋骨は無事のようだが腹を強く締め付けられて呼吸はやや困難に、両腕には激痛が走る。


『フフ・・その様子だと・・これで一番警戒していたお前のその武器も威力半減・・ってところかしらね・・?』


!?


こいつ、ある程度こちらの戦力を研究しているのか?

確かに。カッキーの戦闘スタイルの大半は上半身、特に両腕の素早い操作に重点がかかっている。


『まぁ・・レーヌ姫に回復される前に・・』


「レーヌおねーさんが倒れたら、今度は私が相手よ! あ、ちょっと待ってその前にこのチンパンジーがケンカ売りたいって顔してる気がする! 譲るわ私! サルファースト!」


プチ


『やかましい!! おだまり!!』


あ、ついにブチ切れた・・

まぁ、ブァフウの気持ち分かる。カッキーも今の今まで一生懸命無視してたし・・


『なんなのよ、あなたは!? さっきから黙ってりゃ、タイミングも内容も考えずに! 言いたいことノリで口に出しゃいいってもんじゃないのよ!?』


そもそも、おまえなんかレーヌ姫の一行にいた!?


「え? どうだっけ!?」


わかんねーのかよ!?


「んー・・なんとなくかけがえのない仲間って気がするわ!! たぶん、いたと思う!」


テキトー過ぎんだろ・・


『・・そう・・そういうことなら、まぁ、それでもいいわ・・というかどーでもいいわ・・一緒に始末するだけのことよ!!』


プラチナブロンドの鞭が再び振るわれ、今度はくるみめがけて飛んでくる!


ドゴォ!!


!? 幻覚もクソもない!?

単純に力で殴ろうとしてる!?


「うわ、危な!? いきなりなにすんの!? 頭おかしいんじゃない!?」


間一髪避けて、ブァフウの髪先を地面に誤爆させたくるみが悪態をつく。


『だ・か・らぁ〜殺すって言ってんじゃないのさ! おまえはまず人の話を聞けー!!』


ドガァ!! ドゴォ!!


あーあ・・完全に怒らしちまいやんの・・相変わらずの超絶美人だケド、さすがにイライラし過ぎてブァフウの顔も歪んでら・・


『ちょこまかと〜。なら、これよ!』


ブァフウは一旦伸びた髪の束を高く引き上げると、それをまるで孔雀の羽が開くように何本もの細い束に分けてゆく。


ジャギン!


という音が本当に鳴ったわけではないのだが、そういうオノマトペが合いそうなカンジで全ての束にギラリと光る刃が形成された。


ブァフウはそれを縦横無尽にヒュンヒュンと振り回しながら間合いを詰めてくる。


なんか、アレっポイぞ・・もしブァフウの髪だけが彼女とは別の生物ならたぶんカミーとかいう名がついてそう。


どこが当たってもスッパリいきそうな刃を搭載した無数の鞭が一斉に放たれた!


その1本1本が、彩奈の水切りにも負けないトリッキーな軌道!


彩奈がすかさず、チャージ済みの水切りを全弾発射して迎撃を試みる。


ガギン! ズバッ! スカッ!


そのいくつかは刃の鞭を弾き飛ばし、またいくつかは角度で優って切り落とした。


「む!?」


残ったものは、時間差で全員に向かってくる。


まず大きく弧を描いて向かってきた一本から、背中の甲羅でタカとくるみを庇った彩奈が至近距離の水切りで迎撃。

河童の甲羅は斬馬刀の一太刀でも表面に傷をつけるのがやっとなくらい固い。

もっとも後ろ向きとなるので使い所は選ばなくてはならない上に、これで防御を行うとまず上に着ている服は被害甚大となるのであまり彩奈は使いたがらないのだが・・


続いて直線軌道でレーヌを狙ってきたものを斬ろうと、すぐさま間に割り込んだカッキーがライジング恵方巻きブレードを振るったが、これにはまるで手ごたえがなかった。

見事に空振りして体勢を崩したところを目掛け僅かな時間差で次が飛んでくる!


「今のも幻か!?」


「危ないユータ! エアロシールド!」


ガギュン!


あわや肩口から心臓目掛けて斬り込まれそうになったところを、レーヌが作り出した空気の盾が紙一重で防いだ。


「彩奈さん! もう一回、今度はぜんぶ撃ってください!」


レーヌも心得たもので、すぐさま彩奈の左手に水を補給する。


「合点、任せろ!」


空に放たれた無数の水切りが、刃の鞭の正体を1本ずつ暴いてゆく。


「ブランディングシュート!」


完璧な連携! レーヌが光の✖︎印で実体のあるものをひと目で判別出来るようにしたぞ!


「幻術と思えば力技、力技かと思えば幻術を織り交ぜてくるのか・・」


まさか、頭に血がのぼったように見せかけてるだけか!?


「ファイヤーボール! あ! 当たった!」


『あなたは黙ってろと! ・・え!?』


いや違うな、ありゃ頭にはきてるわ。。え!? 当たったの!?


あ! ホントだ! くるみの放ったショボい火球が実体のある髪の束の1本に当たってる!


まぁ・・これは広範囲に広がってるのと数が災いしたな・・


『ギイャアアアアァァァー!!!』


うお!? 髪から炎が燃え移り、あっという間にブァフウが火だるまに!?

てか、断末魔の声汚!


ブァフウは全身をくまなく焼かれながら膝を抱えて丸まると、そのまま沈黙して動かなくなってしまった。


「やった! 見る影もないウェルダン! イキがりブロンドのローストいっちょうあがり! 焼き殺したぞー! ザマミロスッキリ爽快! ここの空みたいにドス黒かった気持ちが青空のように晴れ渡っていくわ!」


なんか半分詩的に言うこと凶悪だな、おい!

マジか・・でもホントにこいつがトドメさしたぞ、ってか1人で倒しちまった。。

弱点が火ならボル爺の力を借りときゃ良かったかな・・


ピシッピシッ・・


再び、漆黒の世界にヒビが入り、そしてガラス板のように割れた。気がついてみると、一行はいつのまにやら町の往来に立ち尽くしている。出店が立ち並ぶあの繁華街だ・・


そして、すぐ目の前にある布がかけられたテーブルの上では・・真っ二つに割れた漆黒の水晶玉が、その割れ口に正体不明のピンク色の物体を覗かせてゴロリと転がっていた。


その割れた水晶玉から、清楚な雰囲気がある若い女性の姿をした陽炎が立ちのぼる。

こちらもかなりの美人っポイが、エネルギー体だと細部はよく分からない。


『あのワケのわからない破廉恥な魔性の身体から解き放っていただきまして、ありがとうございました・・私は霊獣ヴァフゥ。夢幻を司る者です。私もみなさんとご一緒いたしますわ。』


うん・・最後までよく分からないヤツだった確かに・・


「あ、でも・・ブァフウさんは何に憑依してもらおう・・?」


『そうですね・・あら? この割れた水晶玉の中に詰まっているのは偶然にも桜でんぶですわ? これでスティックを・・』


あー・・いつもの都合よく何かがあるパティーンね・・


「やった! 私たちが力を合わせれば。。形あるものすべて破壊できるよね!」


まぁ、ワケのわからんヤツはここにももう1人いるんだが・・まぁ、いいか、くるみのおかげで最後はなんかチョチョっと終われたしな。


たまには、あんまり気にせず、のらりくらりと生きてみるのも悪くはないかなと、カッキーは素直に勝利と生還を喜び合っているクレア・Gのメンバーを眺めながら思うのだった。


時は夕暮れ、今日1日ギャンブルやゲームに興じた人のなかにも、ちらほらと明日の仕事を心配して帰路につく者の姿が現れだす頃合いである・・


ー後日談ー 果てしない 望みの中で ひと休み


「・・で、何くるみ。おまえ、この先も俺らと一緒にくっついてくるワケ?」


「いくよ! 地の果てまでも! 私昨日から前の記憶なくて、どこ帰ればいいのかもよくわかんないし!」


記憶喪失かよ!?



「しかし、なんでまたブァフウの水晶玉には桜でんぶなんて詰まってたんですかね?」


『ううむ・・? そもそも水晶玉が本体だったのかの・・?』


『だが、水晶玉に簀巻きがまかれていたワケでもありませんぞ、ボルトゥーナさん。』


『柿崎ゆうた。おぬしがあやつの弱点に早く気がつかないから、ワシ活躍し損なったワイ。小娘にいいとこ持ってかれてしもうた・・』


『おい、マグロのじーさん。その話は関係ないぞよ。今はあいつの正体をだな・・』


『まぁまぁ、私が無事こうして解放されたのですから細かいことは別にどうでもいいんじゃないでしょうか?』


『あ、もしかしたらあのパックリ2つに割れた水晶玉はあの者のお尻を暗示しているのではござらんか!?』


『ホホ、烏丸悟浄よ。おぬしの言いたいこと、マロにはお見通しでおじゃる。』


『『臀部』』でござるからして。でおじゃるからの・・ホッホッホ


『・・・(セクハラでちゅ)』


あーでもない、こーでもないで、もうグッダグダ。気にしないのが一番だなこりゃ。



タカー! いるか!?


ウッキー! ウッキー!


あ、いたか・・まぁ、くるみみたいなのにかき回されちゃあ、お前も自己アッピールたいへんだよな・・ガンバれ。


おもしろかった? じゃあねぃ〜!(第八章へ続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ