〈おまけ〉ぬいぐるみ妖精シャーキスは、いかにして不思議探偵リリィーナのもとへ辿り付いたか。
境海世界の第ゼロ次元、白く寂しい通りの街で、魔法玩具店の店主トイズマスターとラリゼル姫は、『夜の遊びの国』の王ハーレキンの魔術師に連れ去られた。
だが、連れ去られる直前、トイズマスターは助けを呼ぶため、こっそりと、ぬいぐるみ妖精のシャーキスを店から外に持ち出した。
外に出たぬいぐるみ妖精のシャーキスは、トイズマスターの友人にして境海世界で唯一の不思議探偵リリィーナにトイズマスターの危難を知らせるべく、白く寂しい通りにあるリリィーナ不思議探偵事務所を目指す。
さて、悪いやつらは霧の向こうに消えてった!
道端に積み上げられた家庭ゴミのてっぺんで、シャーキスは、ブルッ、と動いた。
「よいしょっと!」
ピンクのボディは、細かい花模様のプリント地だ。右手よりも左手が少し短い。顔は、ちょっぴり左右が非対称。丸い黒ボタンの目も、左と右で微妙なずれがある。でも、ぬいぐるみ妖精のシャーキス様だから、それで良いのだ!
「やあれやれ! まったく、うちのマスターは! ボクをゴミに出すなんて! よりによって、生ゴミの日に! せめて燃えないゴミの日にして欲しかった!」
まっすぐに身体を伸ばして、プルプルプルッ、と全身を震わせる。水気を含んだぬいぐるみボディは、空を飛ぶにはいささか重い。
「せー、のっ、と!」
シャーキスはゴミ山の頂上を蹴った。フワリ、空中へ舞い上がる。
「ぷーるりぷーっ、るーるーるーるらららッ」
歌いながら、くるくるくる。降下してまた、空中へ。
ふーわりふわり、たんぽぽの綿毛みたいに飛んでいく。
やがて、通りに面した一軒の白い家に着いた。
屋根から通りへ突き出したスリムな鉄棒に、木製の看板がぶら下がっている。
黒い飾り文字で、『リリィーナ不思議探偵事務所』
重厚なオーク材の扉に向かってシャーキスは叫んだ。
「リリィーナ、リリィーナ、リリィーナ! 白く寂しい通りの、不思議探偵リリィーナさんはご在宅ですか?」
玄関の右横に、細いレンガの柱がある。ちょうど大人の目線ほどの高さに鳥の巣みたいな丸い穴が開いていて、身長十五センチほどの人形が立っている。紺色の制服に制帽を被ったりりしい警官人形だ。その顔が、クルリ、シャーキスの方へ向けられた。
「彼女ならいつもの喫茶店だ。その角にある『エクメーネ』だよ」
警官人形の左腕が、西の角を指差した。
「お役目、ご苦労さま!」
シャーキスは右手を上げて敬礼し、再び宙へと舞い上がる。白く寂しい通りの灰縞模様の石畳を見下ろしながら、ふんわりふうわり、くるくる飛んでいく。
リリィーナ不思議探偵事務所から三件離れた建物までやって来た。
扉には、赤と青のステンドグラスが嵌め込まれた小さな窓。その下の小さな金属プレートには流麗な文字で『喫茶エクメーネ』
「るるるいっぷう!」
ひときわ高く、シャーキスは扉に開くよう、命じた。
「不思議探偵のリリィーナを捜しているのです!」
こうして、ぬいぐるみ妖精シャーキスの依頼を受けた境海の不思議探偵リリィーナは、トイズマスターとラリゼル姫の救出のために、多次元管理局の一斉捜査に参加する。
その日からシャーキスは、昼間はエクメーネでアルバイト。夜になったら魔法玩具店でお留守番。トイズマスターが救出されて帰ってくるその日まで、魔法玩具店と喫茶エクメーネを行ったり来たり。
アルバイトの最終日には、トイズマスターのために、塩鮭定食おひつご飯つきを注文してテイクアウト。
それは境海の果てにある夜の遊びの国で、意地悪な王様ハーレキンが、境海の不思議探偵リリィーナに退治された後のこと。
ラリゼル姫は救出されて、
トイズマスターは、白く寂しい通りに帰還した。




