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境海の不思議探偵リリィーナ『夜の遊びの国』  作者: ゆめあき千路


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(四十七)変身の魔法

 シュッ、と衣擦(きぬず)れの音がした。


「再会を祝して乾杯(かんぱい)でもしましょうか?」

 ほがらかな声がして、ラリゼルの肩に何かが軽く触れた。振り向くと、長い黒髪の少女が閉じた扇子を手に立っている。白いドレスと真珠飾りは昼間よりもいっそうゴージャスだ。


「白雪姫! 無事だったのね」

 白い長手袋に包まれたお互いの手を握り合うと、白雪姫はクスクス笑った。

「遅くなってごめんなさい。ちょっと昼寝しようとしたら、さっきまで眠っちゃってたの。それよりあなた、すごいじゃないの。踊っていても、時間が経っても、顔がまったく変わらないんですもの。ほら、自分こそ一番の美女とうぬぼれていた娘たちがみんな逃げちゃったわ」

「え、そうなの?」

 そこで逃げ出す気持ちがラリゼルにはわからない。


 白雪姫は愉快(ゆかい)そうにうなずいた。

「あの()たち、とにかくきれいになりたくて、しょっちゅう顔が変わるんだから。願望が強いほど、ここの魔法を吸収しやすいみたいね」

「変身しているかいないか、そんなのわかるの?」

 ダンスしていたときに、白猫は魔法の幻影が減少したのを見抜いていたが、彼は魔法使いだ。ラリゼルには魔法の気配すら見分けられない。

 白雪姫は扇で上品に口元を隠して顔を近づけてきた。

「私たちね、ずっと魔法に()かりきっているからか、わかることもあるのよ。でも、それはあまり良いことではないの。それだけこの国の魔法が身体に()みついてしまった証拠だから……。それより、あなたよ。昼間の冒険の成果を聞かせてちょうだいな」

 白雪姫は真剣な目でラリゼルの答を待っている。

 ラリゼルは困った。

 昼間の王城探険の結末は、重すぎる。変身した哀れな子どもたちのことを、どう伝えれば良いのだろう。

 白雪姫も彼らと同じ被害者で、今にも同じ目に遭う可能性があるとは、とても言えない。

 そして多次元管理局の局員と不思議探偵リリィーナがラリゼルの救出に来ている事実は、一斉捜査の動向にも関わる重大な秘密だ。


「あの、もう少し時間をちょうだい。今は(くわ)しく言えないけど、私たち、きっと助かるわ。それだけは確実なの。本当よ」


白雪姫の美貌が(かげ)った。

「…………そう、ダメだったのね」 

 彼女は(かん)が鋭い。静かに扇子を閉じると、床の一点を見つめた。


「……あなたはいっぷう変わった人だから、もしかしたら、何か新しい発見をするかと思っていたのだけれど、この島から脱出は不可能なのね。何をしても、たとえ、あなたのような特別な人でも」

 白雪姫の恐ろしく陰鬱(いんうつ)な声音に、ラリゼルはギョッとした。

「ちょっと待って、そんなふうに結論を出さないで。今は言えないだけなのよ。つまり、そのうち助けはくるかもと……あ!」


 突然、白雪姫は走り出し、開け放されている近くの扉から廊下に出て行った。


 ラリゼルは後を追った。

 廊下に出ると、一本の柱の横に白い布がちらっと動いた。

 その柱の陰に、白雪姫がうずくまっていた。床に、スカートが花びらのように広がっている。

「白雪姫、どうしたの?」

 ラリゼルはそばに(かが)み、白雪姫の肩に手をかけた。

『もう……だめみたい』

 幽冥(ゆうめい)からの響きとも思えるような声だった。

 白雪姫は身体を微細(びさい)に震わせ出した。

 身体が()けていく。

 ガラスに(えが)いた絵のように向こう側の景色が透けている。

 ラリゼルがもう一度呼びかける暇もなく、白雪姫の姿は消えてしまった。

 まるで、ロウソクの火を吹き消したように、ふっ、と。


 ラリゼルはその場にへたりこんだ。と、ラリゼルのスカートの(すそ)がガサゴソ揺れた。フリルの隙間(すきま)からピンク色の鼻面がのぞく。子豚(こぶた)だ。猫くらいのちっちゃな子豚が、鼻先でスカートのフリルを押し上げている。垂れた両耳には小粒の真珠飾り。白雪姫の着けていたのと同じイヤリングの……名残だろう。白雪姫は子豚に変身してしまったのだ。

「そんな……どうして、こんなに急に変身してしまったの?」

 これまでずっと白雪姫は努力して、なんとか呪いを(かわ)してきた。いったい何が引き金になったのだろう。ラリゼルは子豚を抱き上げた。

「どうしよう、このままだとこの子もピエロに捕まって、地下の(おり)に閉じ込められるわ」

 子豚はおとなしくラリゼルに抱かれている。

 ラリゼルを友達だと認識できる人間の意識は残っているのだろうか?


「姫さま、ラリゼル姫さま」

 大人の男の低い声。ピエロだ。

 ラリゼルは慌てて子豚の上にスカートの裾をかぶせた。

「おや、こちらにおられましたか」

 ラリゼルが振り返ると、赤と白のストライプのピエロが、(うやうや)しくお辞儀をしていた。

「王さまがいらっしゃいました。大広間へお戻り下さい。これから戴冠式が始まります」

 戴冠式と言えば、王になる人が正式に王冠をかぶり、王様だと宣言するお披露目(ひろめ)の儀式だ。たいていはその国で重要視される宗教的指導者などが王に冠をかぶせる役をする。


 ラリゼルは陰鬱(いんうつな気持ちになった。

 この呪われた島で、境海の悪魔が何に王権を授かるつもりだろう。魔神でも召喚(しょうかん)するのだろうか。

「ハーレキンは王さまでしょう。そんな儀式をして、いまさら何になるのよ?」

 ラリゼルは軽蔑(けいべつ)を込めて言い、スカートの(ひだ)を整えるフリをしながら、スカートの中で子豚のお尻を爪先でつついた。スカートの後ろ方から出して、背後の柱の方へ押しやる。ピエロからつんとそっぽを向いて、子豚が柱の陰で座り込むまでを見届けた。

「いいえ、貴女さまの戴冠式です。姫さまは今宵(こよい)、夜の遊びの国のコロンバイン、この島の女王の座につかれます」

 ピエロは丁寧に右手を広げ、ラリゼルを差し招いた。


「なんですって」

 ラリゼルはオーバーに仰天(ぎょうてん)して見せたが、さっき白猫に丁寧に言い含められたところだから、ぐっと我慢する。子豚が気付かれずに済んだだけでも幸いだ。


 ラリゼルは子豚を連れて匠の館へ帰りたかったが、これも局の作戦のためだと何度も自分に言い聞かせ、ピエロに案内されて大広間に戻った。


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