(四十五)大舞踏会
外の遊園地は静かだった。いつもは深夜まで遊んでいる子供達も、月に一度の大舞踏会は特別な日なのだろう。
ラリゼルは何度目か数えられない大きな溜息を吐いた。
大舞踏会はまさにたけなわ、でも、ラリゼルは独りぼっち。隅っこに立つ壁の花だ。自分のドレスの胸から下を眺めてみる。これも王城の魔法の産物。ダンスのパートナーを望めば理想の幻影が現れると聞いたのに、一時間以上経っても誰も声を掛けてはこない。それのに、どうしてこの衣装変えの魔法だけ利いたのだろう。
王城の魔法は、ラリゼルが正面扉から中へ入った途端に働き出した。
周囲の空気がざわめいた。どこからともなく白い霞が漂いきて、ラリゼルの全身を包み込む。もやもやしていた霞はたちまち凝集し、ミルクのように濃い不透明になった、次の瞬間、ラリゼルは純白と銀の衣裳をまとっていた。
肩を剥き出しにした夜会用のドレスだ。繊細なレースがふんだんに飾られ、大きく膨らませたスカートの後ろには長い裳裾を引きずっている。たっぷり布を使ってあるのに雲をまとっているかのように軽い。両手は二の腕から指先まで白絹の長手袋に包まれていた。
ラリゼルは、玄関ホールの壁に掛かった大きな姿見の前に立ってみた。女の子なら誰もが舞踏会で着てみたいと思うような、華麗この上ない装いだ。
「これはこれですごい魔法だけど……」
ふと足下が気になって、ラリゼルはスカートの裾を持ち上げた。
「……どうして、靴はそのままなのかしら?」
髪まで高く結い上げられて、銀と真珠の冠まで載せられているのに、靴はここに来る前から履いている茶色の紐靴だ。豪華なドレスに合わないことこの上ない。
「こういう魔法を、どこかで聞いたことがあるような……。効果は十二時までの、靴だけオプションでないとダメな変身魔法……だったかしら?」
魔法の国にしてはいささか安普請な変身魔法だ。この国に長く居る女の子の靴はすり切れてしまいそうだが、魔法で修理でもしているのだろうか。
ラリゼルは玄関ホールの奥へ進んだ。
そこには、昼間は無かった大階段が現れていた。
階段を上りきった所に大広間の入口が見える。
大舞踏会が開かれる会場だ。すでにダンスは始まっている。遅れて来たのはラリゼルだけらしかった。
大広間は華やかな衣裳であふれていた。
広間中央では輪舞が踊られ、周りには見物客が立ち並ぶ。
列席者のほとんどがお姫さまだ。小さな王冠をかぶった王子様や貴族の貴公子や、騎士の扮装をした男の子もちらほらいる。比率は半半くらいでバランスよく見えるが、理想のパートナーには魔法の幻影も混じっているだろう。
大きな宝石を飾り立てた少女がいれば、ごくシンプルなドレスの少女もいる。
きっと衣裳や装飾品はそれぞれの好みによって創造されるのだ。
どの女の子も、童話から抜け出したような美姫ばかり。
彼女らが一斉にラリゼルに気付いた。
目が遭った。
ラリゼルは友好を結ぶべく、にっこり笑いかけた。
だが、幾人かの顔色がサッと変わった。周囲の目を気にしない、あからさまな表情の変化だった。憎々し気にラリゼルを睨む者がいれば、露骨に顔を背けて走り去った者もいる。
初めは何が起こったのかわからなかった。
ただ、ラリゼルに向けて冷たい空気が流れたこと、目の前の同年代の少女達には歓迎されておらず、友だちにはなれないことだけは、はっきり感じた。




