第三十話 最強議論
「ダンナがおらぬと……何か寂しくなるなぁ、才蔵」
「殿は土産も買って戻られると思いまする。奥方様は気長にお待ち下され」
「土産より、土産話が良いな。ダンナは戦の話を毎晩して下さるから退屈しない」
「仲睦まじき事、喜ばしい限りでござる」
「それだけにダンナがおらぬと退屈だよ」
小松は暇を持て余していた。信幸が昌幸、信繁と共に大坂へ行ってしまったからである。秀吉に新年の挨拶を済ませるためだ。
日課である本多家への文も書き終えてしまった小松は、暇つぶしに小松明を振り回す事しかできなかったのである。
「はぁ……ダンナに会いたい……」
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1591年一月・大坂城。その日は全国の名だたる諸将達が、ただ一人の男にに新年の挨拶をする。ただそのためだけに一堂に会していた。徳川家康、毛利輝元、上杉景勝、前田利家、宇喜多秀家、伊達政宗など……。日ノ本に彼あり、と言われた男達が、たった一人の号令で大坂に集まった。集めさせられたのである。その中に真田家の三人の男達がいた。
「太閤殿下、御成!」
膝をつき、左右の手を地について、ゆっくりと頭を下げた。誰もが下げた。
正真正銘、日本一の男が現れる。関白職を甥の秀次に譲り、自らは終身名誉職……太閤の座についた男。一斉にひれ伏す諸将達を見下ろす秀吉は、正に夢心地であったに違いない。
「皆のもの、面をあげよ」
下げた頭を再び上げる許しを出せるのも、この場では秀吉ただ一人。誰もがこの瞬間、再認識を余儀なくされた。
――天下統一は成った。本当に、乱世は終わってしまったのだ……。
「東北の仕置きが終わり、遂に天下は我が元に統一された。皆のおかげじゃ、礼を申すぞ」
「ははっ」
豊臣譜代の大名は歓喜に震え、外様大名は屈辱以外の何物でもない言葉であった。
「時に、皆に紹介しておきたい男がおるのじゃ。統虎、この場におるかぁ?」
「ここに、殿下」
「なんじゃ、そんな遠くに。ほれ、近う寄らんか」
「はっ」
突然、話題が急転した。名指しされ立ち上がったのは、横も縦もがっしりとした体格の武将であった。ほとんどがその姿、名前を見知っておらず、室内は大いにざわめいた。さながら転校生の登場の様に。
「皆の者!この若武者の名は、九州大友家家臣・高橋紹運の実子にして立花道雪が養子、立花統虎である。先の九州の戦役においては島津軍・秋月軍相手に多数の城を落し、肥後の反乱を無事鎮圧できたのもこの男の武勇あっての事じゃ!」
信幸は情報を欲し、密かに信繁に語り掛ける。信繁は長く大坂にいたため、多少の事情は知っているはずだった。
「信繁、あの男を知っておるか?」
「聞いたことがありまする。確か弟の統増と共に僅か一千の兵で三万の一揆軍に挑み、十三度の出陣の末、七つの城を落して一揆を鎮めたとか」
「それは……凄まじき武勇であるな。父上ぐらいの年か?」
「現在は柳川十三万石の大名でござるが、年は……某と同じでござる」
「何ッ!?」
驚きの余り声を上げてしまった信幸を、諸将の視線が襲う。信幸は慌てて諸将に頭を下げた。
「申し訳ござりませぬ」
「ハハハ、驚いている者がおるのも無理はないわ。九州には島津・大友・龍造寺と強豪揃えど、儂の見立てではこの統虎の忠義は鎮西一。そしてその剛勇もまた鎮西一である!」
諸将のどよめきが止まらない。今迄は九州、広くとも毛利領までしか名の通っていなかった統虎であっても、秀吉の一声で鎮西一の武将となってしまう。秀吉は『箔』を付けるのが非常に上手い。
「まぁ、西国にも奴の様な男もいる。そして東国には……本多忠勝、この場におるか?」
「殿下!忠勝はここにおりまする」
叫んだのは家康である。指名を受けた忠勝だが統虎と違って大名では無い。家康の許し無しで動かない事で、自分が『秀吉の家臣』では無い事をせめて、諸将に印象づけたかった。
「そこにおったか。東国の者は知っておるであろう、武田信玄をして『家康に過ぎたる者』と言わしめた、本多平八である。かの者こそ、東国無双の武将である!」
「ははっ」
忠勝は気を良くしていたが、このべた褒めは伏線であった。秀吉が思い切り息を吸い込んで発した恐ろしい発言によって、諸将は頭をかち割られた様な衝撃を受ける。
「この二人の様な英傑、さらにそれに準ずる武勇を持った者がこの日ノ本には数多い!なれば遥か海の向こう、朝鮮国、明国であっても!我らは勝利し、領土を広げる事ができようぞ!」
「み、明国!?」
「儂は近々、『唐入り』を実行する準備を始める。皆、これからもよく仕えて下され!」
それをいつもの秀吉の演出……冗談と捉える者。本気の政策であると解し、衝撃を受けた者。様々であったが、ともかくその『唐入り』の名は背筋を凍らせた。『唐入り』とは中国・朝鮮=唐国へ攻め込む秀吉の領土拡大計画である。
日本には元寇という、外敵との合戦における先例がある。蒙古に対し日本は苦戦しながらも状況を好転させ、遂には撃退する事が出来たと言い伝えられている。だが、仮にこちらが海を渡るとなると、防衛戦とはまるで話が違う。補給部隊からして、一体何処から何を補給するのか。その見当がついているかどうかも怪しい。
「父上」
「何じゃ、小声に致せ」
「本気で?」
「……恐らく、恩賞が足りぬのだ。本気であろう」
信幸は昌幸に尋ね、回答を得ると今度は家康を見た。手を震わせている様子から見るに、やはり家康にとっても好ましい事態では無い様である。
上杉も同様である。あの好戦的な兼続でさえ、賛同の声を上げはしない。関白秀吉の盟友である前田利家であっても、沈黙も保たざる得なかった。
異様な雰囲気を残したまま、謁見は終了し、諸将は思い思いに解散していった。その脳裏に不安を残したまま……。
******
数日後、信幸と信繁は大坂にある三成の屋敷に招待された。三成は信幸を屋敷に呼ぶと言う念願が叶い、すこぶる上機嫌であった。が、信幸は正反対の感情を抱く事となった。その理由はこの男である。
「これはこれは、信幸殿ではござらぬか。其方も招待されていたとは、これは嬉しい誤算だ」
「いや誠に。俺も三成殿の屋敷で兼続殿にも会えるとは、思ってもおりませなんだ」
二人は鋭い視線を交し合う。信繁と、これも招待された大谷吉継はハラハラしているが、よかれと思い二人を会わせた三成は満足そうに頷いている。早い話が、三成は二人の因縁を知らなかった。
「ささ、兼続も信幸もまずは一献、如何かな?」
「ああ」「喜んで」
という間にも冷戦は続く。これをはぐらかすのは最年長の吉継の役目である。とりあえず今一番の話題を出し、殺気を削いだ。
「太閤殿下の『唐入り』の件だが、貴殿らはどう考える」
「領地が増えたとて海の向こうまで行かねばならんなら、こちらには百害あって一利なし。言語道断だ」
「兼続、小声で話さぬか」
「間者がおるのなら聞かれても構わん。言っておくが上杉は兵を出す気はないからな」
気に入らない相手とはいえ、こればかりは信幸の考えも兼続に同じであった。日本国内だけでも兵力の維持に苦労するのが現実であるのに、海を越えて他国に攻め入るのはいくら何でも無茶である。直接の武力では問題は無いだろうが、風土病の治療法も分からないのでは、最終的に何万の犠牲者が出るか想像もつかない。
「太閤は※鶴松君が亡くなってから、頭がおかしくなったのではないか」
聴こえていないのを良い事に、兼続の口が悪くなっていく。
「しかし太閤殿下の命が下れば出兵は避けられぬぞ」
「三成や刑部殿が殿下に掛け合ってくれれば良い。上杉は北国の要。他国に兵を出す余裕はない、とな」
「気安く言ってくれるのぉ」
吉継は軽く笑って見せるが、兼続の目は本気である。優れた行政官である三成と吉継の渡海はまず避けられないだろうが、上杉ほどの大名であれば、口添えさえあれば回避できる可能性が高い。
だが、真田の様な小国となると別である。
「まぁ唐入りでは、信繁に存分に武功を立ててもらうのが良かろう?のう、信繁」
「はい!御家老の期待には必ず」
「信繁、控えろ」
兼続の口車に乗せられそうになった信繁を、信幸が窘める。
――冗談では無い。信繁を渡海させるなど、もっての外だ!
一度渡海してしまえば、無事に帰って来れる保証はどこにもないのだ。如何に信繁と言えども、未知の疫病には何の免疫も無い。信繁はこれからの真田にとって必要な男である。恩賞と引き換えならいざ知らず、みすみす弟をタダ死にに行かせる真似だけは御免であった。
「心配せずとも、第一陣は西国の諸侯であろう。肥後に武勇で鳴らした七本槍・加藤清正が配置された事が良き証拠よ」
「西国といえば、あ奴らはまだ来んのか?招いているのであろう」
「あ奴ら?」
どうやら三成は、他にも数名の士を招いているらしかった。西国の諸侯と言えば、毛利、長宗我部、島津などを連想するが……。
「殿。立花様、小早川様両名がお越しになられました」
「おお、参られたか。お通しせよ」
――立花!?
その名を聞いただけで信幸は気後れした。自らよりも一歳年下にも関わらず、自分より多くの城を落し十三万石の独立領地を持つ男……!
「御免仕る。皆様方……立花統虎にございます」
――フワリ。
真横を通り抜ける統虎の体は、縁側から入る風を切り裂いた。その風は信幸の顔に吹き当たる。温く、爽やかな風であった。
そう、風に圧されたのである。信幸は直に見る統虎に、規格外の威圧を感じた。体躯が大きいだけではない。この溢れ出る自信は、明らかに戦から得た物であると信幸は断じた。どうやら九州戦役や肥後一揆での活躍は嘘ではないらしい。
だが信幸とて北条、上杉、そして徳川と五年間も闘い続けて来た歴戦の将である。年齢から言えば本来異常なほどの場数を踏んでいる。にも関わらず……。
――この俺が、圧されるのか!?
信幸は一瞬で自信を袋小路に追いやられた。この男と戦になれば、勝てぬかもしれない。まだ戦ぶりを見てもいないのに、弱気が顔を覗かせていた。
「こちらは義兄弟の契りを結ばせてもらった、小早川秀包殿にござる」
「秀包でござる。お初にお目にかかりまする」
「む……?」
この武将も信幸にとっては初耳であった。とにかく信幸は西国事情に対して、あまりに疎い。大坂ぐらしの信繁の方が詳しいぐらいである。
「何をキョトンとしているのだ、信幸殿。田舎者丸出しだぞ」
兼続が軽口を叩く。信幸は眉間に皺を寄せながら、三成に紹介を頼んだ。
「秀包殿は統虎殿と同じく、秀吉様の直臣となった将でな。筑後八万石を与えられているのだ」
「八万……!」
その数字に、信幸は気後れしてしまう。信幸が沼田三万石に対し、秀包は倍以上の石高を持つのだ。この面子の中に立たされると、自らがまるで劣等生の様な立場にいる事が恐ろしかった。
「凄いのはその血筋だ。彼はかの毛利元就公の九男であられるのだ」
「も、元就公の!?」
信幸の反応は、まるで普段の信繁の様であった。信繁は生まれて初めて兄を頼りないと思ったかもしれない。
――どうしたというのだ。いつもの兄上なら、彼らとも対等以上に渡り合える筈!
「統虎殿、秀包殿。こちらが真田昌幸殿の嫡男・源三郎信幸。こちらはその信幸の弟・信繁でござる」
信幸に気を使ったのか、三成は石高を明らかにしなかった。
「左様か。お初にお目にかかりまする」
「あ、ああ。こちらこそ」
信幸が動揺しているのは、統虎の存在が原因である。戦人である信幸は、自信という一点において統虎に明らかに遅れていた。統虎は恐らく、この中の誰と戦になっても負けない、という強い自負がある。
統虎以外に対しては、信幸もそうである。が、もし統虎と戦になったら……。その想定を、何重にも頭の中で繰り返しているが故の動揺なのである。
くどいようだが、まだ信幸が統虎の戦を見た事はない。その自信の源を知っている、信幸ならではの洞察であった。
一方の統虎は、早くも話題に溶け込んでいた。
「『唐入り』の件でござりまするが、 太閤殿下は九州勢を名護屋に集めるつもりでしょうな」
「その際は統虎と某は、先兵として遣わされましょう。はは、骨が折れまする」
秀包も統虎も秀吉に拾い上げられた掘り出し物の将である。秀吉が命じるなら、と唐入りにも前向きであった。
「豊家のため、よろしくお頼み申し上げる」
三成と吉継は頭を下げた。その後、同世代の男達は戦の談義に花を咲かせ、大いに宴会は盛り上がった。が、ただ一人信幸のみは浮かぬ顔をしているので、諸将は心配し声をかける。
「どうなされた信幸殿。箸も口も動いておらぬが」
「いや……お気になさらずに。どうも腹具合がおかしく」
「……」
信繁は同年の統虎、秀包と楽しげに話している。劣等感の塊となりかけていた信繁が、良い方向に向かっている事は喜ばしい限りであったが……。
「西国で一番の士は、統虎殿。流石に太閤殿下の御目は確かでござったな」
「うむ。西国に領地を持つ者として、西国無双は統虎で良いが、東国は如何でござる?」
「されば、殿下の仰られた通り、本多忠勝殿では」
「違うのです刑部殿。『我らの世代での』話でござる」
秀包の言葉に誰もが唸った。確かに忠勝の武勇は疑いようが無いが、統虎と忠勝は親と子程の年の差がある。忠勝の次の東国無双は誰になるのか。戦国を生きる男達にとって、これ程面白い議題は無かった。
これには信幸も混ざらない手は無い。秀包が気を利かせてくれたのだ。
「まぁ西国に限っても、某は島津に勝るとは思っていませぬ。かねてより東国の若武者はどれほどのものか聞いてみとうござった」
信幸はしばらく唸った。冗談半分で『我が妻こそ東国無双』と言う回答も浮かんだが、流石に自重した。
「俺は、蒲生氏郷殿かと存ずる」
「蒲生殿は世代が少し上ではござらぬか?」
「む、左様か。ならば刑部殿では?『百万の兵を指揮させてみたい』と殿下からお言葉を賜ったそうではござらぬか」
「はは、直江殿。光栄だが、あれは箔を付けて頂いただけにござる」
氏郷を却下された兼続は吉継を推したが、本人に否定された。吉継の用兵の妙は芸術だが、統虎や忠勝の様な剛勇とは、また違う物であると自覚していた。
「石田殿は誰を推しまする?」
「うーむ……信繁ではないのか」
「そっ、某にございますか?」
「では私もお主を推そうかの」
意見を合わせたのは信繁贔屓の二人である。当然、忍城以来自信を失っていた信繁に気を利かせたに過ぎない。が、三成はともかく、吉継は半分本気であった。娘婿となる信繁に気を遣っているとも言えるが、忍城での活躍は正に剛勇と呼ぶに相応しい様に吉継には見えていた。
三成と吉継の推薦を貰った事で、信繁は(二人の思惑通りに)大層気を良くした。
「ほう、信繁殿は左様な剛勇を?」
「北条攻めの際は見事だった。あの様な神技はみた事がない。直に見た私が言うのだから間違いはない」
「えへへ……」
やり取りを見ていた信幸は、吉継をほんの僅かであるが疑った。信繁の武才は自分が一番認めているが、剛勇東国一と他人に評価されるのは抵抗があった。
――まさか信繁の機嫌を良くして、唐入りの先鋒に……?いや、それは考え過ぎか。
信繁の安全を思うばかりに、必要以上に深読みしてしまう。信幸はブンブン、と頭を振った。
「で、その信繁は誰を推すのだ」
「はいっ、某は勿論――」
「そう言えば」
「むっ」
嬉々として推薦しようとする信繁を遮って、口を開いたのは……統虎であった。
「先日、大坂城の謁見の後に、本多忠勝殿に会ってまいりました」
「本多殿に?」
「東国と西国の代表と目された者同士、話が合いましてな。つい勢いで、『あなたと某がぶつかればどちらの鉾が折れましょうや』、と聞いてしまったのでございます」
「ほう!それは面白き話!」
その場の全員が食いつき、膝を滑らせて統虎の周りを囲む。しかし統虎は無念そうに結果を話し出した。
「『アンタの戦は見た事がねぇから分からんが、武田軍でさえ手玉にとった俺だ。仮にアンタが倍の兵で攻めて来ても、俺なら防ぎきって見せる』と、格の違いを見せつけられました次第」
「大層な自信であるな、本多忠勝と言う男は」
「問題はその後でござる。それならば、と某は聞いたのでござる。『某と同世代の者の中に、某の剛勇を凌ぐ将はおりまするか』とな」
「おおおおぉ!?」
またしても全員が食いついた。統虎の周囲はもはや、風呂の様に暑苦しい地帯となった。
信幸も流石に気になる話題であった。負けじとその輪の中に割り込もうとした、その時である。
――ッ!?
信幸は体を震わせた。フと、統虎と視線があったからである。それでいて、気まずさを微塵も感じなかった事に対して逆に悪寒を感じた。
お前の全てを見透かしている。そう言っている様な目であった。
その場の全員に向かって話していたはずであった。しかしその視線は真っ直ぐ、信幸の眼球へ伸びていた。統虎は口の端を持ち上げると、嬉しそうに告げる。
「迷わず、あなただと仰られましたよ。真田源三郎信幸殿」
「何ッ!」「信幸殿をご推薦か!」「さすが忠勝殿、目が高い!」
皆が思わず信幸に駆け寄るので、今度は信幸の周りが蒸し風呂になってしまった。
「お、おい!離れろ、お主ら!」
「忠勝殿はこうも申した。『武勇ではアンタだが、武略なら婿殿だ』とね。そこでご本人に伺いたい。某と貴殿、戦になれば……どちらが勝つと思われる!?」
「……」
一同の背中に鼠が走った。それまで信幸が纏っていた威圧感とは全く別物の圧を、信幸が発したからである。統虎の挑戦に、信幸の冷え切った闘志は一気に沸点に達したのだ。
「勝てるとは言えぬ。だが、戦えば負けるわけにはいかん。つまり、勝算を見出してから戦であろうな」
「つまり?」
「こちらから仕掛けるならば、少なくとも負けはないという事だ」
その言葉に信繁は密かに小躍りした。この自信が、信幸を今まで殺さずに生かしてきたものなのである。真田は小国であるがため、過信は有り得ない。その少ない兵力に、如何に自信を持たせられるか。それが信幸の兵法である。
「フッ……成る程、よく分かり申した。答えはいつか、戦場で……」
統虎はゆっくりと立ち上がり、その巨体から生まれる高さから信幸を見下ろした。
一方の信幸は……挑発に乗り立ち上がる事無く、低い位置のまま統虎を見上げていた。
囲んでいた猛者達も気づかぬ内に気迫に圧され、距離をおいていた。
「出すしか、ありませぬな」
「ああ。見える時があれば、の話だがな」
「フフ……」
「フフフ……」
二人は同じような三白眼、同じような皺、同じような低音を作り出し、不気味に笑い始めた。一同は、この恐ろしい光景を生涯忘れる事は無かった。
真田信幸と立花統虎……後の立花宗茂。戦国で一際、異彩を放つ二人。初めての顔合わせであった。
※鶴松……秀吉の次男(長男とも)。正室ねね(北政所)との間に子供ができなかった秀吉にとって待望の跡継ぎであったが、僅か三歳で病死。




