1-1 『婚約者と悪役令嬢(親友)の浮気現場を目撃する伯爵令嬢』
━━━メモリアル帝国━━━
ここはメモリアル帝国である。
リルダ・メイソンは、メモリアル帝国の王宮で働いている。王宮警備課の女騎士である。
リルダは、優秀な騎士を数多く輩出しているメイソン伯爵家の末娘で、4人の兄がいる。
メモリアル魔術学園を卒業し、王宮所属の騎士になったのだ。メモリアル魔術学園で出会った婚約者のアベル・ギルデスと共に王宮で働いている。
♢♢
赤色の騎士服に身を包み腰の皮ベルトにはショートソードを携えている。
背筋をビシッと伸ばし颯爽と歩く。
リルダの身長は帝国の女性の平均身長より少し低めだ。栗色の瞳は力強い輝きを放っている。フワフワのオレンジ色の髪の毛はこの国の女性では珍しい短髪である。
♢♢
実は、リルダは転生者だ。
転生前は、日本の女子高校生で柔道の全国大会にも出る程の腕前であったが、減量中に交通事故に遭い、気がついたらこの世界に転生していたのであった。
リルダの前世の記憶をもってして考えるならば、恐らくここは異世界。それも漫画の中のような世界、しかもバリバリの少女漫画のような世界だとリルダは、考えているのだ。
何故かと言うと、前世の世界では考えられないほど、人々の見た目が非常にカラフルで華やかなのである。
髪や瞳の色が黄色い、ピンク、赤と色取り取りだ。カラフルすぎて、前世基準では、とても現実離れしている。
そして、誰も彼もが美形だ。美形の量産、オンパレード。美形率が異様に高いのである。
その点では、とても眼に良い世界ではある。
他にも色々ある。魔法が存在する所とか…。
なんなら婚約者のアベルは魔術師で王宮の魔法課に所属している。
──否、そもそも帝国の名前が『メモリアル』とは、ぶっ飛んでいる。帝国名だけでも何かの乙女ゲームや漫画のようだ。
そんなこんなで、ここは異世界。それも乙女ゲーム等の漫画、それに準じた世界観のような所だとリルダは考えているのだ。
♢♢
…特に騎士となりこの王宮警備課に所属されてからは日々その思いが強くなるのであった。
(だって…!明らかにおかしいんだよね。)
日常茶飯時的に、他人の理不尽な出来事に遭遇するのだ。
そう、まるで劇的な物語のワンシーンに巻き込まれるのである。
(まっ、私の立ち位置を敢えていうならば、物語の中の、『名もなきモブ』ってところでしょうね!)
様々な劇的な物語の修羅場に、何度も直面するリルダであるが、決して物語の中心にはいないのであろうと考えている。
これだけ事件に遭遇しておいて、リルダは随分呑気な考えをしているのであった。
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ある日の午前中、業務が始まって暫くした頃の事である。
王宮の前に鷹のマークの家紋入りの、豪華な馬車が停車する。
馬車から、金髪に美しい水色の瞳で、派手ではないが上質な水色の上品なドレスに身を包み、涼やかな表情をしているカルティアナ伯爵家の一人娘、サラナ・カルティアナ伯爵令嬢が高貴な雰囲気をまとい優雅な所作で馬車から降りてきた。
カルティアナ伯爵家は由緒正しい家門だ。そして、価値のある鉱山をいくつも所有し経営している資産家でもある。
♢♢
サラナは、王宮の門番に通行許可証を発行してもらい、王宮の中へと入っていく。
今日は、もう間もなく結婚をする婚約者の忘れた書類と、差し入れを届けに来たのであった。
この書類は、昨晩婚約者と食事をした際に、婚約者が今日中に必要な大事な書類と言っていた物である。婚約者が、夜遅くまで作成し、完成させたものだ。
そんな大事な書類が、玄関にポツリと置いてあったのである。
♢♢
サラナの婚約者はジャン・ミハルド子爵令息。ミハルド子爵の7人兄弟の三男坊だ。
サラナとジャンは帝国の、メモリアル魔術学園で出会った。
ジャンは、人懐っこく少し強引で行動的で快活。
サラナはというと、大人びていて常に品格のある振る舞いをしていた。
自分の思った通りの行動をするという事が苦手…というか出来ない環境であった。
サラナはサラナ個人の前に『カルティアナ伯爵家の令嬢』として行動していたからだ。
サラナの今まで周りにいた者達も、また格式を重視する物達で、『サラナ』個人と接しているといるというよりも『カルティアナ伯爵令嬢』として接してくるものばかりであった。
それが、当然の世界でそのように振る舞っていた……が、ジャンは違った。
今まで関わってきた者達とは全く違った。最初接した時は、衝撃的だった。
ジャンは、家門に物怖じしない、腹のさぐりあいもしない、歯に衣着せぬストレートな物言いで、よく笑い、怒ったりと感情表現が豊かであった。
クラスが同じで席も近かった為、そんなジャンを見ていると退屈しなかった……面白かった。
思ったことをそのまま口に出す、クルクル変わる表情……。
故に彼に対しての興味がわいていった。
「すごい。何故、彼はそんな風にいえるのかしら?」
ジャンは、カルティアナ伯爵家という家門にも怖じけずく事なく、サラナに猛烈なアプローチをし、学園を卒業すると同時に婚約をすることになったのであった。
伯爵家の中でも格が高く由緒正しき家柄のカルティアナ家と、王宮からほど遠くはなれた田舎の領地を所有するミハルド家とは家格差があった為、最初はサラナの父親は結婚を渋っていたのたが、サラナの強い希望と、ジャンが婿養子に入る事を条件に結婚を許してくれたのであった。
ジャンは学園を卒業し、現在は王宮の文官として働いている。
結婚後はサラナの家門に入るが、結婚後も王宮で働き、領地経営などのカルティアナ伯爵家の仕事は引き続きサラナがしていく予定となっている。
♢♢
サラナは、重厚な門から、王宮の庭園に入っていく。
流石は王宮の庭園である。手入れがきちんとされている。
色とりどりの美しい花が、咲いている。
王宮に向かって歩いていたが、水色の美しい花が咲いていた。
グラデーションになっている。サラナの水色の瞳のような花と、ジャンの青色の瞳のような花が植えられていた。
あまりの美しさに思わず足を止め、ため息がもれる。
元々花が好きであったが、最近は花を見る余裕がない程忙しかったことに気がつく。
無理もない、学園を卒業してからというものの、伯爵家当主の父親の仕事を手伝いながら結婚式の準備をしていたのだ。
最近は特に忙しくジャンとも、食事の時に少し話す程度で、ほとんどゆっくり話す事が出来ない状態であった。
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すり減った心を癒してくれる水色と青色の花は、まるでサラナとジャンのようだ。
美しい青空と花を見ていると心安らぐのであった。
♢♢♢♢♢♢
暫く花を見つめていた…。
すると…庭園の奥から聞き覚えのある声が聞こえてきたのであった。
「あっ。ダメだって。こんなところで。フフフッ」
女性の声だ。
聞き覚えのある声だが、サラナが普段聞きなれている声よりも、ずっと艶かしい声だ。
すると、続けて男性の声がした。
「いいだろ。我慢できないよ。」
(……!!!……。)
いつもよりも低く艶かしい声色ではあるが、それはとても聞き覚えのある声だった。
男性の声は、婚約者のジャンだ!ジャンの声だ。
そして……。
女性の声はサラナの学園時代からの、親友ミーナの声であった。
思いがけない衝撃的な状況に直面し、頭の中が真っ白になる。
(何?)
手先が痺れ力がなくなっていくのを感じた。
そうこうしている間にも二人の密事は続いているのだ。
「ミーナ、ここだろ。」
「うん、あぁっそこよ、ジャン。」
声が…。
婚約者と親友の声が、聞こえる。
サラナが普段聞いている声よりも、ずっと艶かしくいやらしい声が…。
興奮をしているのか、ハァハァとした息づかいも垣根の向こうから聞こえてくる。
力が抜け、その場から立ち去る事も出来ず、垣根の向こうに踏み込む事も出来ず。婚約者と親友の情事の声を聞きながら、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
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