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顔の良さは特典じゃなくて自前です  作者: アダルトデイズ
第一章 疫災のドレスは己の血で紅く染まる
9/10

音の壁を貫くレイピア

ここは王の間、玉座に座るシキリア王は、ばつが悪そうに項垂れる。


「そうか…ゼーレのことを知ったのか……」


「はい、帝国の新聞に書かれていました」


シキリア王は軽く目を瞑って、私に視線を合わせる。


「まずは、黙っていてすまない。

 これは伝えるわけにはいかないと、私が判断したことだ」


王は、事の経緯を話し始める。

アリーナとミュラーから「近くの村に巣食う魔族を討伐した、転移者がいる」と報告されると共に、「堰代さんはギメルの存在を知ったら、単独でも倒しに行く」と聞かされたようだ。

「恩人に、そんなことさせるわけにはいかない」と、周りの人間に伝え、新聞会社にもゼーレのことは取り扱わないよう命令した。

だが他国新聞の取り寄せ禁止までは、行わなかったようだ…当然だ、そんなことをやったら国民から非難されるだろう。


連邦にいた頃から、神様達は戦争している魔族のことを、あまり話してくれなかった。

初めてミュラーと会ったときに聞いても、はぐらかされた。

点と点が線で繋がった、全員、私のことを心配して黙っていたんだ。

心にソゲが刺さったような感覚になったが、それでも考えは変わらない。


「行くんだな」


王の問いかけに、ゆっくりと頷いた。


魔族の被害を見る前なら、まだ歯止めが効いたかもしれない。

だが魔族を間近で見た今…病をばら撒く魔族が、国を蹂躙しているなどと知ったら─深呼吸をした、額に血管が浮かんでいたようだ。


脳裏をよぎるは、死ぬ直前の記憶。


あらゆる未来を奪い去り、尊厳や肉体を蝕む絶望の塊。

それが広がり続けている…生物の意思によって。

見て見ぬ振りしようにも、頭に浮かんでくる、食事をしていても、寝ていても「この時間も、誰か殺されているのか?」と。

居場所がわからないなら、まだ割り切れたかもしれないが、所在地まで把握できてしまっている。


「デメテラとしては、恩人が危険な目に遭ってほしくない。

 だけど、それを決めるのはワシらではない。

 いくつか渡したい物がある、少し待っていてくれ」


王は側近に合図をすると、側近はカートを持ってきた、その上には服と剣がある。


「デメテラで手に入る、最高級の装備だ。

 鋼鉄ウールの服に、名工が打った剣…持っていってくれ」


「よいのですか?」


「あぁ、恩人を手ぶらで行かせたくはない。

 それに元から渡すつもりだった」


側近に着替え部屋へと案内してもらった。

着けた服は寸法もピッタリで、伸縮性があるのに、繊維の一本一本が硬く靭やかだった。

剣を手に取ると、不思議なほど馴染む…まるで数年は使っているかのようだ。


「両方、私に合わせて作ってくれたんだろうな」


王の間に戻ると、王から刻印の入った封筒を渡された。


「これも持っていってくれ、おぬしの身分を証明するものだ」


なんでここまで…と思うのは失礼か。

封筒を受け取り、礼をして王の間を出た。

ゼーレに近い、南東門へと向かう。


「ゼーレに行かれるのですね」


門の前に、アリーナが立っていた。


「私は同行できませんが、せめて見送らせてください」


アリーナはデメテラを守る者、万が一のことがあれば、守るべきデメテラ自体が危なくなる。

ビエストロの件もある、突撃できるのは、私がデメテラの所属ではないからだ。

きっとアリーナも、色んな思いがあったはず。

それを飲み込んで、デメテラを守ることを決めた…尊ぶべき選択だ。

アリーナは、山岳地帯を指さす。


「ゼーレへは、このまま真っ直ぐです。

 貴女なら直線で走って行けば、すぐに着くでしょう」


「え?」


気の抜けた声が出た、走って行く?

たしかに速く着くだろうが、視線を変えず全力で走ったら、通った道はグチャグチャになる。


「地形なら、私達の植物魔法で直せます。

 人の往来がなくなった影響で、魔物の数が非常に多い。

 加えて山岳と森に囲まれているため、普通に行けば1週間以上はかかります。

 そんなに待っていられないでしょう?」


腕を組んで、考える。

1週間…その間に何人が死ぬのだろう?下手したら、その間に国が滅ぼされるかも…?


「ありがとうございます、では…最短距離で行かせていただきます」


「気にしないでください、どうぞご無事で」


手で十字を切るアリーナを見届け、門を出た。


頭の中に、ニーズホッグの声が響く。


「………行くか?」


「はい、ご厚意を無下にして申し訳ありません」


「いや、かまわない。

 どうせ長年隠し続けるなど、無理だとは思っていた。

 むしろ、長く持った方だ」


私が転移してきて2ヶ月…たしかに、長く持った方だろう。

連邦にいたときから「ゼーレを魔族が襲っている」ぐらいは聞いていたが、病をばら撒いていることは知らなかった。

田舎で情報伝達が乏しかったとしても、奇跡的な確率だ。


「命令だ、ゼーレを救え」


ニーズホッグは私に命令する。

制止を聞かないと理解して、私が後腐れなく行動できるように…なら、それに全力で応える。


「了解」


地面を蹴り、駆け出した。

地面を蹴るたびに、何かが割れ崩れる音が聞こえる。

クレーターだらけになっているのだろうが、視線は正面から逸らさない。

木々が身体に当たって吹き飛ぶ、岩は砕け散る。

無我夢中で走り続け、山岳を駆け上がった。

見下ろすと、そこには無数の建物があった。

緑に囲まれ、高低差のある場所に、様々な建物が並ぶ光景は、なんとも幻想的だった。

例えるならアルプスと言ったところ、少し見惚れてしまった。


そのまま滑り降りると、騎士が集まっていた。

先頭にいるワッペンを付けた女性が、話しかけてきた。


「貴女は…いったい」


破壊しながら走って来たのだ、轟音を聞きつけて集まったんだろう。

懐から刻印付きの封筒を出し、騎士に見せる。


「デメテラから来た転移者です、ギメルは何処にいますか?」


ざわっと、騎士達が一斉に声を上げる。

その女性が封筒を取り、中の手紙を確認した。


「本物です…シキリア王の署名っ」


静寂の後、歓声が上がる。

ある者は拝み、ある者は目頭を押さえる。

まだ来た(・・)だけで、この反応…それだけ諦めていたんだろう。

重い空から、一筋の光が差したような感覚なのかもしれない。

女性は騎士達を制止し、私の目を見る。


「私は騎士団長のレブレライムと申します。

 本来は王を通さなくてはならないのですが、王は寝たきりのため、私が案内します」


レブレライムの後ろを歩く、目的地に着くまで、何人もの遺体を見た。

子供の遺体もあった、その遺体は痩せこけて、しばらくマトモな物を食べていないとわかる。

ここにいるだけでゲロが出そうだったが、レブレライムを見てそんな気持ちはなくなった。

彼女の手から血が出ている、強く拳を握っているせいだ。

どんな思いが頭を巡っているのか、想像に難くない。


「ここにギメルがいます」


その場所は城であった。

ギメルはゼーレを侵略してから、ずっと城(ここ)で暮らしているそうだ。

どんな意図があって、そんなことを…?


「これを持っていってください」


レブレライムは、ポーションの入ったポシェットを外して、私に着けた。


「私がいても邪魔になります、ここで待つことしかできません。

 これだけは…させてください」


レブレライムの手が震えている、その手をとって、彼女に伝える。


「ありがとうございます、ここで待機していてください」


下手な慰めは余計惨めになるだけ、私がかける言葉は感謝のみ。


「ギメルは沸点が低い、許可なく城に入った時点で殺しに来るかもしれません。

 お気をつけください」


レブレライムの忠告を聞いたあと、城に入った、その瞬間に背筋が冷えた。

王の間に入ると、玉座に白い肌の女が座っていた。


「はぁ、どこのどい…ん?あら?」


赤い瞳が私を見下ろす、見ているだけで周囲を威圧する、人外の美貌。

ミュラーの彫刻のような容姿とは、明らかに毛色が違う。


「貴女がギメル?」


「そうよ」


頷くと、ギメルは振り袖で口を隠して笑った。

キレやすいと聞いたけど、思いのほか機嫌がいい。


「随分と機嫌がいいわね」


「そりゃそうよ、退屈してたところに…こんな玩具が来たんですもの。

 剥製にして飾ってやろうかしら?」


身の毛もよだつ台詞だが、一つ確信した。

私の容姿は、魔族の慢心を誘える可能性がある。

エルクラークも不用心に姿を晒した、そしてギメルも戦闘態勢に移らず、会話を行っている。

嬉しくはないが、好都合だ。


「なんで人を殺すの?」


「ん?」


ギメルは、首をかしげる。


「一つの国を襲って、何ヶ月も苦しめて…なんでこんなことをするの?

 人間は…貴女になにかしてしまったの?」


エルクラークは村を支配して、自身の安全を維持していた。

だがギメルは、明らかに人を苦しめることが主目的であり、国にまで手を伸ばした。

人間を恨んでいるのかもしれない、復讐のような強い感情があったのでは…?

心の何処かで、理由があってほしいと考えてしまう。

そんな思いと裏腹に、ギメルの反応は─


「なにか…?どういう意味?」


困り眉になっていた。

なんということだ…質問の意図すら、理解されていない。

人間を苦しめる=恨みがある…という発想すら、持っていなかった。


「質問を変えるわ、なんで城に住んでるの?」


ギメルは手をポンと叩いて、微笑んだ。


「ここにいると、人間達がバカみたいに突っ込んでくるからよ。

 なぜか知らないけど、彼らからしたら城(ここ)が大事みたい!」


………剣を抜いた。

笑みを崩さないまま、ギメルもレイピアを抜いた。


ギメルは踏み込みの姿勢をとる。


病の魔法を本格的に使われる前に仕留めたい、まずこれを避け─思考は中断された。

赤い瞳が目と鼻の先にある。

瞬きなどしていない、玉座まで10m以上はあった。

思考より先に身体が動いた、首を横に倒し、レイピアは首の薄皮を掠める。


一瞬遅れて、音の壁を破壊する轟音が響き渡り、城の硝子が割れる。


肉体強化の魔法?いや、そんなはずは…まさか、これが素だとでも言うのか?

…だが、反応はできた。

同じ速度は出せないが、直線での突きであれば防御程度ならできる。

にも関わらず、ギメルは微笑みを崩さない。


「初見で対応とは…思ったよりやるわね」


不協和音が聴こえる、黒板を引っ掻くような、人が不快に感じる音のみで構成された交響曲。


《猛毒の旋律》


視界が歪む、筋肉から力が抜ける。

全身に力を入れて、倒れまいと耐える。

これが疾病の魔法か、嫌な感覚だ、病室を思い出す。


「苦しいでしょう?這いつくばってヒールを舐めるなら、苦しませずに殺してあげる」


「それは私の台詞よ、二度と人を襲わないのなら殺さない」


ギメルは少し乱れた髪をかきあげながら、ため息をついた。


「疾病魔法は、人をいたぶるためにあるのよ。

 人類を這いつくばらせ泥を舐めさせる、それがこの魔法の存在意義。

 私を否定するつもり?」


言うだけ言って満足したのか、ギメルは再度レイピアを構える。

その剣先は心臓へと向いている。


「何回まで、避けれるかしら?」


冷や汗が背中を伝う、全神経をギメルに注ぐ。

数mm程度のわずかな動き・目線・息遣い…それらから、次の行動を予測する。


刀身でレイピアを滑らせ受け流したが、レイピアは頬を抉った。

─防ぎきれない、わかっていても身体が重く、追いつかない。


レイピアが放たれるたびに、肉体をこそげ取られる。

反撃の隙はない、防御姿勢を取っている間に、新たな攻撃がやってくる。


ジリ貧だと理解しても、攻撃に転じれない。

左胸・右肩・右腕の関節・喉・左足…狙う場所に一貫性はなく、縦横無尽に放たれ、私の血はカーペットの模様となる。


来た、また来る。


次の攻撃をいなさんと、剣を振るが、手が悴み一瞬だけ遅れた。

この戦闘における一瞬は、全てを意味する。

腹部に冷えたレイピアの感覚が伝わり、血によってジンワリと熱を持ち始めた。


ギメルを蹴って、無理やりレイピアを抜いたが、傷口から血が止まらない。


「勝負ありって、ところかしら?」


ほくそ笑むギメルをよそに、ポーションを傷に叩きつける。

傷にポーションが沁みて、少しだけ傷が塞がった。


「バカを言わないで、ここからが本番でしょう?」


五感はギメルの動きを捉え続けた、その圧倒的な速度を。

死地により開花した五感は、肉体を更に上の段階へと押し上げる。


剣を握り、踏み込みの姿勢を取った。


体技魔法は、肉体強化の魔法、できないわけがない。


全身で音の壁を叩き壊した、剣先はギメルの首を─





「落とせるとでも、思ったのかしら?」


右の二の腕に痛みが走る、剣は避けられ、レイピアが二の腕に刺さっていた。

ギメルは高笑いを上げながら、私を嘲笑する。


「私は300年は生きた魔族、ただの付け焼き刃なんが゛ッ゛」


二の腕を突き刺されたまま、強引に顔面を殴る。

腕の筋肉が裂ける感覚がしたが、そんなものどうでもいい。


「ヴアぁ゛!!!゛」


肺から声を上げ、全身の筋肉が燃え滾る。

リミッターが外れる音がした、その全てのエネルギーを拳に乗せた。

拳はギメルの顔にめり込み、ギメルを天井へと打ち上げた。

城が揺れ、天井が破壊されてもなお、ギメルは止まらなかった。

その次の天井、その更に次の天井を破壊し、そのたびに城が地響きのように揺れる。

屋上に投げ出されたギメルを追う、剣を持ち、崩れ落ちる瓦礫を蹴って近付いた。


「ッ!?」


ギメルはレイピアを構えようとしたが、それよりも前に剣を振り下ろし─左腕を切断した。


「い、あぁァ゛ッ!!!」


笑みは消え失せ、苦悶に顔を歪ませ絶叫している。


「なんで…なんでそんなに痛がれるのに、人に同じことができるの!?」


頭に血が上る、だがもう会話をするつもりはない。

まだだ、まだ死んでいない。

首を両断せんと、剣を振り上げる。

剣が首に入った、その瞬間…私は剣を手放した。


全身から力が抜け、膝から崩れ落ちた。

口から…目と鼻からも、血がドボドボと溢れ漏れる。

胃が燃えるように熱い。


「ようやく…ようやく廻ってきたか゛!?猛毒がッ」


ギメルの叫び声が聞こえるが、水の中にいるようで、上手く耳に入ってこない。

ギメルが近付いてきたが、目が見えなくて白いモヤにしか見えない。

心臓に何かが刺さった、おそらくレイピアだろう。

なけなしの力で、手を伸ばした。


「なにかしら?命乞い?もう遅」


「まっでだわ、ちがづくのを」


「は?」


ギメルの肩をガッシリと掴み、駆け出した。


「なんでっ心臓を貫かれて、なんで動けるッ!?」


さぁ?なんでだろう。


この状態でギメルに致命傷を与えるのは、もう不可能だ。

なので、ゼーレの地形(ちから)を借りる。

地面がなくなり、足が空回りする、なんとか城から飛び降りれたようだ。


地上まで、おそらく50mほどだろう。

私は自由落下で、ダメージを受けない…しかしそれは、万全の状態だから。

この満身創痍の状態で、50mの落下は死ぬかもしれないな、だがそれはギメル(おまえ)も同じ。


これはダメ押しだ。

残った力の全てを片腕に込め、ギメルを地面に叩きつける。


「がァ゛!!?」


地面が揺れる、視界が縦横無尽に動き回る。

全身に走る衝撃により、私は意識を手放した。


────────


痛い…痛いっ…イタいっ゛


身体中の骨が軋む、歩く振動だけで激痛が走る。

視界がボヤける、重心の位置がわからない…どうやって私は歩いていた?


「ゆるざない…あの女ァ゛」


私をボロクソにした女は、血を流しながら気絶している。

疾病魔法を構築できないッ、脳へのダメージがデカすぎる。

直接トドメを刺してくれる、その顔を傷つけることは避けていたが、今はどうでもいい。


「グチャグチャにしてやる…原形なんて残さない、肉のクズにしてやるッ゛」


レイピアを持ち、足をズルズルと引きずり、女の元へ向かう。


こいつを殺したら、次はこの国だ…いや、人類全てだ。

もう遊びはない、人間や魔物…それだけじゃない、渡り鳥やネズミにまで疾病をばら撒いてやる。

感染力を極限まで上げた、遅効性の病を与え続ければ、人類など手も足も出ない。


「遊びはここまでよ、人類(貴女達)は私の厚意によって生かされていた…それを実感し、生まれたことを後悔しながら狂い死ぬといいわァ゛」


カタン…背後から足音が聞こえた。

どこのどいつだ、私の邪魔をするのは?決めた、コイツも殺そう。

まだ顔すら見ていないが、既にコイツのことは嫌いだ。


振り向き、顔を見たが、視界がボヤけすぎて視認できない。

騎士の制服を着て、剣を抜いているのはわかる。

ようやく顔に焦点が合った、長い金髪に整った顔…なんだお前か。

あれだけプライドをへし折ってあげたのに、なにを無駄な抵抗してるのかしら?

大人しく家族の死体にバカみたいに祈って、野垂れ死んどけば幸せだったのに。


「なんの用かしらァ?レブレライム(腰抜け)」


「お前を殺しに」

・ゼーレ国家 50km²

山岳にある国で、森と山岳によって魔物が入って来づらい。

本来は馬車用の出入り道があるのだが、堰代はガン無視してきた。


・レブレライム

APP17/身長181/体重72/AGE30

武器:騎士の剣

防具:鋼鉄ウールの騎士制服

性別:女性

金髪ロングの美女であり、ゼーレの騎士団長。

ギメルに挑んだが、嫌がらせにより生かされている。

自分を責めているが、彼女を責める国民はいない。


《猛毒の旋律》

その生物が不快に感じる音と共に、猛毒をかける。

耐性などがある場合、効くまで時間はかかるが、猛毒は常に"その生物に効く性質"へと変化し続けるため、いつかは効く。

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