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顔の良さは特典じゃなくて自前です  作者: アダルトデイズ
第一章 疫災のドレスは己の血で紅く染まる
10/11

その300年、叙事詩とするにはあまりにも短い。

ここは王の間、本来は一部の人間しか入れない場所。

そんな所に、多数の騎士が整列している。

その中心にいるのは私と、騎士団長である父親。


「よく頑張ったな、レブレライム」


騎士団長(お父さん)が胸のワッペンを外し、私の胸に付けてくれた。


「これよりレブレライムは、副団長から騎士団長に昇格とする」


王の一言により、騎士達が一斉に拍手をする。

王や周りに一礼し、父と話す。


「ワッペンって、こんなに重いんだ」


いつも父親が付けていたが、これを持ったことも、触ったこともない。

ゼーレにおけるワッペンとは、騎士団長の証。

騎士を志したそのときから、ワッペンの重みを理解し、頑なに触ることを避けていた。

生まれて初めて実感したその重量は、感慨深くもあり、不安にも感じる。


「気圧されるな、お前は俺より強い。

 部下達も認めていただろう?」


いつも父親を追っていた、男手一つで私を育てながら、騎士団長としてゼーレを支えていた。

憧れて騎士を目指すようになったのは、自然なことだったのかもしれない。


私が物心つく前に亡くなった母は、大層な美人だったと聞いている。

父も近所の人も、「レブレライムは母親に似ている」と口を揃えて言った。

母の顔も覚えていないが、自分の顔は母が残してくれた、忘れ形見だと思っている。

容姿を褒められるたび、母を褒められているようで、悪い気はしなかった。


「団長になったこと、お母さんに報告してやろう」


父の提案に二つ返事で了承し、王の間から出ようとした…その瞬間、慌ただしく一人の騎士がやってきて、叫んだ。


「まぞっ、魔族です!北門に魔族が現れましたッ!!!゛」


辺りが静寂に包まれる。

王が震える声で、騎士に問いかける。


「なっ、なんだと…?なんと言った?魔族と言ったのか?」


「そうです!魔族が現れました!

 その場にいた騎士が対応していますが、太刀打ちできません!

 国民にも死者多数─」


そこまで聞いて、私と父は駆け出した。

北門へ一目散に走る、次第に悲鳴が聞こえ始めた。

辺りに騎士の死体が転がり、血の臭いが立ち込めている。


眼前には、純白のドレスを着た、角の生えた女がいた。

髪も皮膚も白く透き通り、赤い瞳が私達を見つめる。

存在しているだけで周囲を威圧する、人外の美貌。


「アンタが騎士団長ってやつ?」


父が先に動いた。

剣を抜き、胴体ごと叩き斬らんと振り上げる。

寸分の狂いもない、完璧な抜刀だった。

その刃が魔族に届く、その寸前。


父の喉は斬られ、血飛沫が飛び散った。


「え?」


瞬きなどしていない、よそ見などしていない。

しかし…気付いたら、魔族のレイピアが抜かれていた。

いつレイピアに手をかけたかすら、視認できなかった。


倒れ伏す父を受け止めた、身体に生温かい血液が垂れる。


「…レブレライム」


掠れた声で、父は語りかける。


「まって、いやだ」


「………お前は、悪くない。

 これから何があっても、自分を責めるな」


抱えた父親から体温がなくなっていく。

背後から笑い声が聞こえる、振り向くとドレスの振り袖で口を抑え、赤い瞳が見下ろしていた。

喉が枯れんばかりの金切り声を上げて、剣を振り上げた。


その剣は指で掴まれた…レイピアすら、抜かれることはなかった。

身体から力が抜け、口からゴポリと血を吐き出した。

地面に倒れ、剣がカランと転がった。


「貴女は顔がいいから、見逃してあげる」


ギメルはそう言い残し、城の方へ歩いていった。

その姿に手を伸ばしても、届くわけもなく、意識を失った。


起きると城は占領され、一夜にしてゼーレが陥落したことが知らされた。

騎士の大半は殺され、国民も病に伏していた。

私の身体から病は消えており、病に罹っていない国民もいたため、「なにか条件がある」と部下達は話していた。

それは違う、遊んでいるだけだろう。


家族が埋められた墓地に向かう、墓標に書かれた名前を見る直前まで、「もしかして生きてるのでは?」と考えていた自分を殴りたい。


地面を殴った、涙が止めどなく溢れる。

地面に爪を立てながら、額を打ちつける。


「顔がいいから…見逃すだと…?」


母親から貰った容姿によって、惨めにも生きながらえ、騎士として何一つ役目を果たせなかった。

騎士のプライドは砕け散り、自分の存在意義すらもなくなってしまった。


爪が剥がれて土に血が垂れる、額を打ちつける衝撃で、ワッペンが地面に落ちた。

震える手でワッペンを付け直し、立ち上がった。


「私は…何をしているんだ」


こんなことをやっている場合ではない、この国を守らなくてはならない。

できるできないではなく、やらなくてはならない。

父から譲り受け、民に選ばれ、王に認められた…その責務を果たせなくては騎士団長など名乗れない。


騎士団(私達)は、死に物狂いで抵抗した。

しかし私達の抵抗は、ギメルにとって舞台を彩る喜劇にしかならなかった。


憔悴する国民、王は心労により倒れた。

諦めかけていた、週に1回は涙が止まらない夜があった。

運命が遣わせた災害の化身であり、倒そうと考えることも間違いなのでは?と考えてしまったこともある。


そんなとき轟音と共に、堰代(彼女)が現れた。


城から響く破壊音、城の上から落ちてきたのは…ギメル(疫災)。

しかしその姿は、災害とはほど遠い。

左腕はなく、顔は抉れ、首は半分まで斬られ、足取りも覚束ない…ギメルは生物だと、初めて実感できた。


こんな機会は二度とない、神がくださった導き。


「なんの用かしらァ?レブレライム(腰抜け)」


剣を構える、瞬きすら時間の無駄。


「お前を殺しに」


ここで死んでもいい、人生の全てを賭ける。

レイピアの剣先が、私を捉える。


放たれた神速の突きは─空を切った。


「あぇ?」


ギメルの呆けた声など気に留めず、切断されかかった首を斬りつける。

鉄同士がぶつかるかのような、異常な硬さ。

弱体化してなお、こいつは生物の枠組みを超えている。


だが…ここで殺せなければ、生き残った意味がないだろうッ!!?


「まっ、まって」


命乞いなど耳に入らない。

力を込めすぎて全身の血管が浮き出し、火花を散らしながら─首を切断した。

飛び散った血液は、ギメル自身のドレスを赤く染める。


赤い瞳が私を見上げ、睨みつけてきた。


「ふざけるなッ、ふざけるなァ゛!!?゛

 こんなものじゃないッ、脳へのダメージで、手が上手く動かなかっただけよ゛

 万全の状態なら、お前如きッ」


「疫病を撒き散らした魔族だろう…どの口が言ってるんだ」


「だまれッ゛私はァ゛300年君臨した魔族ッ。

 お前らのジジババが腹の中にいた時代から、私は渓谷外の捕食者ァ。

 渓谷内(ぬるま湯)に浸かっていた、お前達なん───」


「お前の300年より、私達の3ヶ月の方が長かったんだ」


ギメルは白い肌を真っ赤にしながら、発狂したかのように怒り狂った。

しばらく叫んだあと、その頭は動かなくなり、白い塵に変わり始めた。


お父さんはギメルと接敵したときに、ゼーレが滅ぼされることを確信していたんだと思う。

自責の念に駆られるであろう私に「お前は悪くない」と、最後の気遣いをしたんだろう。

あまり反論はできない、堰代さんがいなかったら、そうなっていただろう。

だが、とにもかくにも


ねぇお父さん、見てる?


「ゼーレは救われたよ」


────────


涙が止まらない、元騎士団長の威厳など欠片もない。

レブレライム(むすめ)に見られたら、笑われてしまうだろう。


「いらない心配だったわね。

 子供の成長というのは、いつも親を上回る」


深呼吸をして、息を整える。

この方に対して、不敬があってはいけない。


「魂の女神(ラミール)様、このような我儘を聞いてくださり、誠に恐縮です」


「別にいいわ、生涯をかけて働いてくれた礼よ」


俺はギメルに殺されたあと、迎えに来たラミール様に頼み込んで、魂の通り道に居座らせてもらった。

もうすぐに来るであろう娘を、慰めてやりたかった。

娘の前で死んだ親失格の男だが、ほんの少しでも娘の心を支えてやりたかった。

なんとも身勝手で、独りよがりな我儘。


それがどうだ。

娘はギメルを撃ち破り、ゼーレを救った。


『………お前は、悪くない。

 これから何があっても、自分を責めるな』


何様なんだ、あの遺言は?

娘の前で死ぬには飽き足らず、国の存続すら疑い、娘の勝利も疑った。

親としても騎士としても、落第もいいところだ。

立ち上がり、魂の通り道を進む。


「新しい遺言があるなら伝えようか?」


「よいのですか?」


「堰代に頼んで伝えることはできる。

 あの遺言は、本当に伝えたかったことじゃないんでしょ?」


なんと慈悲深い御方なのだろうか。

国教としているラミュール浄国は、慧眼と言わざるを得ない。

伝える言葉は一つだ、何も託さない、どんな人生を進むかも指図しない…でもこれだけは、守ってほしい。


「あと50年は来るな、と伝えてください」


「引き受けた。

 このまま真っ直ぐ進めば天国がある。

 娘に伝える言葉もいいけど、嫁にさっさと会いに行かなかった言い訳も考えときなさい」


────────


痛みがない、いや身体がない。

目も見えない、何も聞こえない、温度すらわからない、なのに恐怖や驚きはない…感じる器官がないだけか?


「貴女は死んだのです、ギメル」


聞こえないはずの音が聞こえる、魂に直接響いているようだ。

目の前に強い気配を…否、強いなどではない、存在としての格が違う。

直感的に正体を感じ取った…神の誰かだな?


「その通り、私はファナラビと申します」


私の最後に会う存在が、疾病の女神になるとは…なんとも皮肉な結末ね。

なにをしに来たの?私に罰でも与えるつもり?


「いいえ、ただ黄泉の世界に案内するだけです。

 世界と言っても、何もありませんけど」


人を殺しまくった私に対して、随分と丁寧なやつだ。

それとも無限に続く退屈で、発狂でもさせる罰か?


「そんな悪趣味なことはしません。

 貴女は今、ほぼ寝ているようなもの、絶望や恐怖など感じないでしょう?

 ただ準備ができるまで、そこで待ってもらうだけです」


準備?地獄で苦しみでも与えるんじゃないのか?

お前達は人間の味方だろう?なんで、私にそんな丁寧な対応をする?


「そんな単純な話でもないのです。

 魔族は人類の敵であり、排除しなくてはならない存在ですが、善悪となると一概に言えない。

 生まれつき手がない人は、物を掴むことはできません。

 それを「自分で物も取れないのか?」と罰することは、なにか意味があると思いますか?」


………意味?そういう風に生まれた、そいつが悪いだけでしょ?

説教なんて他者より上に立って、悦に浸るときにしかやらないじゃない。


「………そうでした、貴女は魔族でしたね。

 でもわかりやすい事例でした、貴女のような思考しかできないよう"生まれたときから決められている"場合、罰を与えて何になるのか?という話です。

 最初から"真っ当に生きる"という選択肢を、与えられることがなかったのです」


随分と、小難しく物事を考えているのね。

それで、その準備というのはなに?


「貴女達を、人間に生まれ変わらせます。

 ただ魔族を転生させて何が起こるか不明なので、まだ準備中というわけです」


なんのためにそんなことをするのやら…神の思考とは理解できないものね。

でも、それは罰なのかもしれない。

あんな雑魚共になって、魔物達にビクビク怯えて生きなくてはならないのだから。


「人間になること自体は、罰ではありません。

 功罪を判断できる存在になってもらうことが、目的なだけです。

 きちんと善悪を理解して、その上で悪事を働いたら裁きます」


感覚的にはピンと来ないが、理屈は理解できた。

人間がよく喋る、「倫理」とか言う分類の話だろう。

意味がわからなかったので、マトモに聞いていなかったが…私と同じく疾病の名を冠している存在が、そんなものに二の足踏んでいるのは、なんとも違和感がある。


「よく勘違いされますが、私は病のことが好きなわけではありません。

 それを乗り越えた…または、抗おうとする精神が美しいと感じるだけです。

 苦しんでいる姿や、病そのものはむしろ嫌いです」


意味がわからない、病に罹った人間の精神が好きで…病と苦しむ姿が嫌い?

前後の流れが結びつかない。


「人間は数え切れない苦難や後悔から、人格や倫理観を作り上げます。

 大きすぎる苦難や後悔は、更なる後悔を生み出すこともあります。

 ときには誤魔化すために、醜い行いをするときもあります。

 でもそれに向き合ったとき、得られる物は輝く、何物にも変えられない」


「病は人から、あらゆる物を奪います。

 尊厳も、肉体も、愛する人も想いも…それに勝てなくてもいいのです。

 抗った小さな一歩の積み重ねで、人間は手を洗い、病人を看病することが当たり前になった。

 それって、とっても素敵なことではないですか?

 苦難に立ち向かった、数億人の英雄達がいたから勝ち取った未来です」


聞けば聞くほど疑問が増える。

これは魔族が理解できる物ではないと、本能的に理解した。


そんな他愛もない雑談をしていると、大きな扉の前についた。

中からいくつもの強いエネルギーを感じる、私より前に殺されてきた魔族達だろう。

扉が開かれ、中に吸い込まれた。


「魔族としての貴女は、絶対に許しません。

 でも…また、会いましょう。

 そのときは疫災ではなく、一人の人間として」

ファナラビ教は、病を治さないことを信条としているが、それは信徒が独自に掲げているだけ。

聖書に"病は人を成長させる"などの聖句があるため、その風習ができた。

今さら修正もできないので、あとは時が解決するのを待つのみ。


─

第1章を読んでいただき、ありがとうございます。

こちらの作品は、長くても50話ほどで完結予定です。

プロット自体はラストまで考えているので、これからもお付き合いいただける方は、よろしくお願いします。


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