おにいさんと川で魚獲り 1
朱羅が気分転換もかねて、今日は川で魚でも獲るかと言うので、川にやってきた。ヨネさんは私が川で溺れるんじゃなかろうかと心配していたけれど、とても頼りになる朱羅がいるのでその心配はない。
「おお、お魚だ」
「そりゃ川なんだからいるだろ」
川はキラキラと透き通っていて、すごく綺麗だった。川底にある石すらもよく見えて、せせらぎの音がしなければ、水があるかどうかもわからないくらい。川の水は、感動するくらいの透明度を誇っていた。
それに、よくよく目を凝らすと魚がいることもちゃんとわかって。たしか、鳥とかに襲われたりしないように魚は水面から見えにくいと聞いたことがある。
「華は川に入るなよ。溺れそうだ」
「失礼な。これでもちゃんと泳げるんです〜」
「よしわかった、足首までな」
朱羅は私をちっちゃい子だと思ってるのかな、というくらい過保護な言葉を聞かされて、反抗心が湧いてきた。足首以上の深さまでいってやると心に決めて、靴を脱いでから川に入った。
「つめたくてきもち〜」
川の水はひんやりとしていて。今日の、少しじめっとしている空気で暑かった私には最高の涼だった。先程魚影が見えたところがすぐそこにあるので、じゃぶじゃぶと水を掻き分けて近づく。そこは、ふくらはぎまで水深があるところで。
中腰になって水面をじっと観察すると、私が移動してきたときの水中の振動とか揺れみたいなもので察知してしまったのか、魚はいなかった。けれど、しばらく待ってみるとちらほらと絶妙に手が届かなさそうな場所で泳ぎ始めるのが見えた。
「で、華はどうやって魚を獲るつもりなんだ?」
ちょっと離れたところで、不思議そうな朱羅の声がする。言われてみて思い出したが、魚を獲れそうな道具は何も持っていなかった。どうしようかと考えて、ハッと閃く。
「素手で鷲掴みとか?」
「無理だろ」
必死に絞り出した案は、悩むことなく一蹴されたけれども。もしかしたら、たまに見かける掴み取りみたいなことができるのではないかなと考えたんだけれど、それはどうやら甘い考えらしい。
「道具作るにしてもなんか、入ったら出られない籠?みたいなのがあることと、釣りみたいにするしか思いつかないよ?」
「その罠を作るか、釣り竿を作れば良いんじゃないか?」
「作り方わからないんだよね」
なんせ私は知識チートもない、普っ通の一般人なので。私の返答を聞いた朱羅は、ある程度予想してたのか驚きはしていなかったけれど。
「とりあえず一回こっちまで戻ってこい」
「はあい」
どうやって魚を獲るか作戦会議でもするのかなあ、とじゃぶじゃぶ音を立てながら朱羅の元へと歩く。意外と水の流れに力があるなあと思って、早めに川を出ようと大きめに足を踏み出したときのこと。
「ぅぇ?!」
藻か何かが薄らと生えているところを踏んでしまったのか、ぬるっとした感触がしたと思ったら滑ってバランスを崩していた。
初夏になりかけてるとはいえ、ずぶ濡れになったら少々寒いだろうし、びっちょびちょに濡れてしまうと火を起こしたりしない限り、乾くのに時間がかかるだろう。
最悪だ、と思いながら衝撃に備えて目をつむる。
「ほんとに色々な意味で目が離せないな、華は」
けれど、その言葉とともに朱羅の腕が背中を支えて、転ぶのを阻止してくれていた。
「ありがとう〜!!!流石に転けたと思った!」
「華なら絶対転ぶと信じてたからな」
「うーん、嫌な信頼」
「はいはい。持ち上げんぞ」
なんだか適当な相槌の後に、膝の裏にも手が回って。スッと重さを感じさせない動きで、朱羅にお姫様抱っこをされていた。二本の腕でブレることなく支えられていることを考えると、朱羅って力持ちなんだなと思う。
「華はそこの流木のあたりで座っててくれ。魚は獲ってきてやるから、俺が見てないときに絶対水に入るなよ!」
優しく流木に座らせてくれた朱羅は、そういうとザバザバと水を掻き分けて川に入っていく。
私に道具の有無を聞いてきた朱羅も素手なんだけども。私に無理って言ってた掴み取りみたいなことをするつもりなのかな、とおとなしく座って観察することにした。
俯くとはらりと落ちてくる髪の毛が邪魔なのか、髪を耳にかけた朱羅は、真剣な眼差しで水面をじっと見つめている。少し離れたところで魚が嘲笑うように跳ねるけれど、それに見向きもしない。
ただ動かずに、じっとひたすらタイミングをうかがっている。
――バシャン!!!!!!
朱羅が手を振り上げて、勢いよく水に手を突っ込む。そこそこ大きな水飛沫をあげて、突っ込んだ朱羅の手には、首のない魚が握られていた。




