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第6話 『 置き去りの魔法 』

※注意※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、事象とは無関係です。




 改めて状況を鑑みるに、彼女ら3人がワタルリをここに召喚したと考える他ない。

 どういう魔法の理屈か知らんが何らかの不思議な方法でワタルリを日本から召喚したのだ。と思う。

 そして心底ガッカリしたっぽい。



 ━━━━━何のために俺を呼んだ。てゆうかなぜ俺だったんだ…?



 ワタルリはそんな風に思うしかなくて、とりあえずこの状況を彼女らに任せるつもりでいる。

 なにしろ何がなんだかさっぱり解らない。自分は何処で何をどうするんだろう。

 まあ、そのうちまた日本語が話せるやつが出てきて、何かと説明があるだろう━━━━━ぐらいに思っている。

 とりあえず今、ワタルリ自身がどうしても気になっている事は━━━━━━━━━━



「あの、ちょっと手洗ってきますわ。汚いし…」



 少女らにワタルリの言葉が理解できる訳ないけど、少女らに掌を見せながら適当に日本語で断りを入れた。血のついた手を見れば意味は伝わるだろう。この手に付いた動物の血液らしいネチョネチョをこのままにはしておけない。流石に嫌でしょ。

 ワタルリはここがどこで何の建物か知らないが、トイレとか手洗い場くらいあるだろうと部屋のドアを開けて出ようとした。



「ajaまわふぇawf!」

「eみf!!」

「えrq!」


「え?何?」



 急に堰を切って喋り出した彼女らが血相を変えて動き出した。

 黒髪の少女は宙に小さなガラス窓を出現させて戸をガラリと開けると無理くりその窓へ頭から体を突っ込み、窓の向こうに見える明るい青空と草原の景色の中にドサリと落ちてすぐ様立ち上がってピシャリと戸を閉め、窓ごと忽然と消えてしまった。

 茶髪の少女はその場で煙になったかと思うと立ち所にかき消えている。

 2人の少女が去るのを見届けた金髪の少女は、部屋にあった姿見の鏡の中に門をくぐるようにして入っていって、そのまま鏡写しの景色の向こうへ去って行ってしまった。

 3人とも、ワタルリには一瞥もくれなかった。



「…ぇ…えっ!? ちょ……あ?」



 金髪の少女を追うようにしてワタルリも鏡の中へ手を伸ばしてみたが、鏡面に指が当たって弾かれてしまう。ただの鏡だ。



「………」



 静けさの中、呆然とワタルリは立ち尽くしている。

 魔法少女たちは撤収したのだ。それも唐突にである。なぜだろう。

 後には無知なワタルリしか残っていない。



 ━━━━━何だ、何かまずいことがあるのか?

 俺は見捨てられたってことか?



 心なしか建物の雰囲気が変わった気がする。自分1人になって怖いからそう思うだけか。

 訳が分からない状況で急に自分一人になって、何がなんだか全然意味がわからない。自分も何処かへ行ったほうがいいんだろうか。少女たちの様子は何か必死な感じで逃げだすような雰囲気があったような気がする。

 そう思うとワタルリもすこし気が急いてくる。何がヤバいのかわからないけど。



 ━━━━━…移動するか…?



 とりあえず部屋のドアを開けて出ると、真っ暗な通路だった。

 通路は右と左に伸びており、暗くてどちらがどこまで続いているのか分からない。

 全く何も見えないので、部屋の壁にある燭台を取った。燭台に灯されているのは金髪の魔法少女が施した魔法の照明だ。


 ワタルリは今、自分が手にしているのが”魔法”なんだろうと思って光をマジマジと見ている。燭台の金属の先端に親指ほどの大きさの丸い光がゆるゆると揺れながら留まっているのだ。

 この光には、なんだか生き物のような存在感を感じる。蝋燭の火やLED電球とも違う質感の柔らかな優しい光で、不思議なことに目に光の残照が残らない。小さく仄かな明かりだが、無いよりはマシだ。

 あの魔法少女らは何だったのだろう。名前も聞けなかったが、まあ、また会うこともあるだろう。



「……………」



 言葉が通じないのはこんなにも寂しく、不便なものか。そう思いながら、暗くて狭い通路を一人でとぼとぼと歩いてゆく。

 今自分はどこへ向かっているのか。とりあえず手を洗いたいから、トイレか洗面所かキッチンが見つかればいい。

 手元の照明では2メートル以上先は暗すぎて全然見えない。通路は見た感じ、床も壁も石造りである。自分の歩く靴音が遠くまで反響して聞こえる。どういう建物の中に自分は今いるのだろう。


 照明はないのかと思って壁や天井を見るが、それらしい物は見当たらない。雰囲気的にホラーゲームっぽくて、「すんませーん」とかって人を呼ぶような声を出す気にはならなかった。

 でもこの手のホラーな雰囲気はちょっと耐性がある。ワタルリは山の近くの山影暗い田舎の旧家に1人で住んでいたため、こういう怖さは割と大丈夫だ。

 静けさ、孤独や寂しさ、というものはワタルリにとって安らぎである。ワタルリの家ではいつもワタルリが一人でいて、いつまでも静かだ。


 ワタルリの父親は県外で働いていて滅多に帰ってこず、あまり会うことが無い。

 母親は若い燕やイケメン外人と不倫していて、いつの間にかどっかへ行ってしまい、2年くらい音沙汰もない。

 ワタルリに兄妹はいない。一人っ子だ。たぶんな。祖父と祖母は他界している。そのため中学校を卒業した頃から1人で気ままに暮らしている。

 孤独は平気だ。時々は心に穴が空いたように寂しくなるが、それでも1人でいることの静けさが逆にじわじわ癒してくれる。自分の好きなアニメやゲームやインターネットに浸れるし、妄想も捗る。

 それでも孤独で辛い時は、なぜかタイミングよく左門や生虎など友人達が遊びに来た。1人暮らしの家が友人の溜まり場になる時もあって、それはそれで嬉しい時もある。しかし友人たちが去った後はそれこそ寂しいものだ。その辺の気持ちの割り切り方とかは、まだ少年のワタルリには無理であった。

 だが、そのような寂しさも、周期的にやってくる堪え難い孤独すらも霧散させたものがある。それが”異世界小説”だった。

 どうして異世界小説を知ったのかワタルリはもう忘れてしまったが、いつの間にかweb上に有る無料の異世界系小説を読み漁っていた。異世界の物語と、ファンタジーな魔法と冒険の旅に憧れた。

 そんな風に一方的に楽しみに浸れる孤独な暮らしがワタルリは好きであった。


 ここが異世界なのか何なのか解らないが、景色などまだ真っ暗な部屋と通路しか見てない。この世界がどんな文明で、どんな文化で、どんな風景なのかをこれから知るのだろう。

 やはり異世界といえばお決まりの中世風な世界だろうか。電気は無くて魔法が一般的で、機械的な分野は発展途上とか、どこかの組織が独占してたりとか。



「━━━━━━━━━━…」



 ふと思い出すのは家の事である。急に空き家にしてしまって問題なかろうか。



 ━━━━━空き巣が入ったりしたらやだなぁ

 炊飯器のご飯どうしよう

 冷蔵庫の中の食い物とかもヤバくないか

 ガスの元栓切ったっけ…………?



 考えだすと、元の世界に置き去りにしてきた色々なことがマズイ気がしてきた。

 学校の事とかはいいが、父親はワタルリと連絡がつかなければ心配するだろうし、担任の先生とか町内の人間が様子を見にくるかもしれない。

 居ないとなったら行方不明扱いで新聞沙汰、警察が出動し、最悪ヘリコプターが飛んで自衛隊が山狩りする可能性もある。

 友人の左門と生虎は警察から事情聴取を受けた上に、疑り深い刑事から行方不明事件関与の疑いをかけられ、探偵に尾行される毎日…追い詰められた二人は地元のヤクザに相談、山向こうの漁港から闇夜に紛れて外国人のコンテナ船に乗り出奔、海を渡り落ち延びた先の台湾でパイナップルを作りながら末長く幸せに……というのはワタルリの考えすぎだろうか。

 それよりもワタルリにとって心配なのは、諸々の支払いや手続きだが…



「あっ! スマホ…」



 ━━━━━スマホがあったよ。学ランのポケットにちゃんと入ってる



 スマートフォンを手に取って見ると、いつものようにホーム画面が表示された。

 壁紙は異世界系アニメ『Re:無職に祝福新世紀マギカの刃〜鉄コンBlameな特攻の私立探偵ヘドロ課長”死狂いグラップラーろくでなしボボ島くん”に殺し屋卓球部は手を出すな!〜』の主人公”天空の城AKERA”と、ヒロインキャラ”ゲゲゲーノ=アズミ・バガボンド13さん! ”の水着イラストで、自分でフリーソフトを使ってペンタブで描いたファンアートだ。

 まだイラストを書き始めて1年も経たないくらいで、キャラクターの顔など左右のバランスがめちゃくちゃである。我ながらイマイチな出来栄えだが気に入っている。



「スマホが普通に動く。━━━━━ふむ…」




nanasinoななしの twitter

https://twitter.com/lCTrI2KnpP56SVX

なおそんなに嘆かない模様

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