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<--異世界観測媒体☆日本人☆ミューテーション-->(仮題)(旧題:魔王を倒してサヨウナラ)  作者: nanasino
第0章 『0の因果』

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第32話 『 one life 』

※注意※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、事象とは無関係です。








「━━━あったかい…━━━━━」




 自分は”熱”なのだという単純な感想に感動が湧く。

 肉身に通う血の温もりが生々と暖かい。

 思わずこ零した自分の声を耳が聴こえた感覚が気持ち良くて、目が覚めるような気持ちになる。

 空気に触れる肌の感覚も━━━━━

 

 ワタルリがこれらの快感を覚えるのは2回目で、だから「あれ?」って感じで気づけている。

 最初に殺された時の直後、初めて生き返った時には気づけなかった事だ。でも感じる感覚は同じだから良い意味で違和感を覚えていた。


 真っ暗闇で何にも見えないし分からないけど、立っている足裏に感じる体重の感覚が懐かしい。

 と思ったらその感慨が意外な感触で壊れた。砂を踏むような、それよりもっと柔らかい何かを踏むような感触、━━━━━闇の中で動こうとするとフラフラするからその場でゆっくり身を低くして、片手で地面に手をついた。

 さらっとした、というよりスベスベするほどの滑らかな線香灰を掴むような感触がどっさりとある。それでついさっきまで自分の幽体が立っていた場所がそういう感じの塵が積もっていたなと思い出した。


 という事は俺はあのまま、━━━━━蟹の魔神みたいなやつに喰われて、その場に生き返ったってことか。あの石室そのものなんだ。


 とは思える。けどワタルリは不安があって、とある事を確かめたいから左の腰に重みのあるそこへ手を突っ込むと馴染み深いそれ取り出した。

 スマホだ。俺のスマホ久しぶり。手にとるとすぐ画面がふわっと明るくなってアニメのイラストがホーム画面に現れる。自分で描いたファンイラストに、元の世界の日常の欠片がそこだけにあるのを見て涙がこみ上げた。


 そのままフラッシュライトを照らすと、ワタルリはちゃんとワタルリだった。薄い手も、細い指も、チー牛気味の顔もワタルリだ。メガネもかけてるし。でも━━━━━




「なんで…?」




 心底安堵したはずなのに、不思議すぎて謎でそんな声しか出ない。どうして生き返ったのか考えても無意味なくらいわけわからん。


 異世界ってこんなもんか。俺はまさに異世界召喚された主人公だろうし、不思議な力で生き返るっしょ。

 ━━━とは、素直に飲み込めないんだよ。気持ち悪すぎて。


 フラッシュライトを辺りへ向けて照らしたが、バケモノや殺人鬼の姿は無い。ただ灰の積もった真っ暗な空間があるだけだ。

 だがワタルリは確かに一瞬前に自分が喰われた時のことをはっきりと覚えている。蟹の魔神みたいなやつと対峙していた、そのやりとりを。


 あの時の自分は幽霊だったのだ。


 そうか、俺はもう生身の生きた人間だから、今はもうあいつらのことは分からないのかも知れない。

 でも今もこの場に、あの悪霊と悪魔はいるんだろうか。




━━━━━祝福




 ゾッとする何かが全身に込み上げてワタルリは頭をふった。なぜだかこれが、この生き返ったことが蟹魔神の言っていた祝福とかそういうことかと一瞬頭をよぎったからだ。あんな奴らに生き帰らされたとかなら喜べない。


 というか、これは果たして喜ぶような状況なのか。

 生きている・生きる、ということは━━━━━端的に言えば、死んではいけないという事なのだ。

 人生という”デスゲーム”の始まりである。


 まず命は一個しかない。

 肉体が怪我や病気でダメになったり、気持ちがおかしくなって精神が心がぶっ壊れるような事態を延々と生きている間は避け続けなければならない。

 なおかつ、気をつけていたとしても運が悪く事故や事件に巻き込まれれば死んでしまう。地震や落石や山崩れや河川の増水などと言った自然環境の気まぐれは人知により先見できるものではなく、他人から何時どんなふうに騙されて財産を奪われたり肉体を酷使されるかなんて事前に気づきようもなく、それらの災難に遭えば酷いと死んでしまう可能性も大いにある。

 その上で空腹を避ける必要があるのだ。毎日腹が減りすぎないように食物を摂取しないと、栄養失調で人体は細胞レベルから壊れてゆくから食べ物を探さないといけない。

 その食べ物を手に入れるのも難しく、食えるか食えないかの見分けもできないと摂取直後に死ぬ。調理法や保存方法を間違えても死ぬ。特に野生の植物は毒など含む種類が多くて難しいし、中には葉っぱに触れるだけでも致死性の毒に感染するものまであるから危ないとネットで見たことある。しかも栄養というのは難しく、食えるものであったとしても偏食してそればかり食っていては人体は病気になり徐々に死ぬ。例外はなくはないが普通はそうだ。肉ばかりでもダメで、野菜ばかりでもダメである。いろんな栄養素をとらなければならず、そのためには色々な食物を手に入れる手段を知らないといけない。

 水に至っては食べ物以前の問題で生きるのに毎日必須である。

 水分を1日に2ℓというのはよく聞くが、実際にそれはそうで、丸一日水を飲まずに過ごすなんて事だけでも人間には無理があり、三日となるとまず全く無理である。お坊さんの修行でもそれは最難関な部類だとネットで見たことある。だから水の入手は最優先に考えねばならないだろう。

 だがその調達には知恵を要し、なかなか真水が手に入るものではない。川の水などの自然水をそのまま飲めるものではないのは子供でも分かる事だが、どうしても飲むしかなくて飲んでしまったらまず病気になって暫くのちに体調を崩して死ぬ。湧き水ならばまあまあ大丈夫だが、それも野生動物の死骸や糞の成分や地質から染み出す成分などから運悪く病気になる可能性が無くはない。

 そして、その自然水を飲料水にするには濾過や煮沸などの工程を経ねばならないが、その知識がワタルリにあるかどうか…その作業に要する火起こしの燃料や加熱する容器などは無論持っていないのだ。

 しかしながらその自然水ですら調達するには困難だったりする。水辺には自然動物が集まるから蛇や熊が出る。野犬に噛まれれば狂犬病で死ぬ。虫に刺されれば辛い。湧き水探しは山歩きをせねばならず、しかもなかなか見つからない。池はもっと危険だし、海水は飲めない。


 数キロ歩けば必ずどこにでもあるコンビニやドラッグストアでなんでも食べ物が揃うワタルリの世界とは違って難しすぎるだろう。

 するとあんがい”死”は人の身近にあり、━━━━━というか常に一緒にあり、いつでも命をなくす方向に直結する一方通行の運命の道はあっさり開くのだ。


 それらの事態を自分は避けられるのか?

 今、この場所からスタートで。


 ワタルリが立っているこの石室の外は極寒の景色だ。それを幽霊の状態でさっき魔王船の扉からこの部屋の扉まで浮いて渡る最中に見てきて分かっている。吹雪と積雪と凍結の世界だった。


 ワタルリは元の世界でまあまあの豪雪地帯に住んでいたから冬の怖さを無論知っているのだが、雪景色というのは見た目こそ美しいものの外を歩くだけでも足元や頭上に油断すれば死が待っている。深い穴に落ちて全身打撲で即死、あるいは脱出できず数時間後に凍死。ちょっとした落雪に見舞われても同様に危うく、脳震盪や埋没で死ぬ。経験豊富な年配の大人でも冬に外出して滑って転んで腰の骨を骨折、雪の深みにハマって膝を骨折、家の周りで除雪作業中に身動きが取れなくなり、大声で叫んでも高い積雪が音を吸収するため誰にも聞こえない。人知れず死亡。━━━━━とかは毎年よくある話だ。人体はいろいろな面で”不意打ち”に甚だ弱いと言える。

 真冬の雪景色の中を一人歩きするというたったそれだけの事だが、大の大人でも無力に死んでゆくからめちゃくちゃ危険なのだ。かと言ってじっとしていればいいかというとそうでもなく、暖をとらねば寝てるうちに死んでしまう。どうにかして暖をとれる環境を作るか探すかと移動しないと死ぬ。空腹や脱水症状でとかも通常通り死ぬ。


 それがこの異世界で地理もわからず、人と会っても言葉が通じず、魔物だのなんだのといる魔境で━━━━━と考えるとどうやってもワタルリに生き延びるイメージが無い。

 この異世界の極寒の景色がどういう環境かはまだ想像もつかないが、ワタルリの地元の北陸みたいな環境よりも過酷だと思った方がいいだろう。絶望的というかもう数時間後に死ぬ事が確定しているんでは無いだろうか。藤井八冠なら投了してるかも知れないし、源平の頃の武士なら潔く切腹するかも知れない。


 生き返ったという気づきが深まると同時にこれからの自分を思う。そうするとせっかく生き返った爽やかな気持ちが黒々と塗り替えられてしまった。


 こんな酷いことってあるか。

 ここが何処でどういう状況なのか━━━━━生き返ったところで何ができるんだ?

 どうやって生きて行くんだよ。ええ?


 またすぐに死ぬのか




「ぅ…嘘。…こんな……馬鹿か!?…どうしろって…また、…俺1人…━━━あっ…!」




 勇者トロリ達はついさっきこの石室から出て行ったばっかりだから今すぐ追っ掛ければ再会できる。なんとかこの”道連れ”をもう一度一行のお供に。


 気がついたその一心で照らしたフラッシュライトが映す闇の中、低い天井と、床一面に灰の積もった空間の向こうのすぐそこに鉄扉はあった。駆け寄って取手を掴むとめちゃくちゃ冷たくて手指が張り付くほどでヒャッとか思ったけど確か外は寒そうな景色だったか。


 嫌な予感を抱きながらも上着の袖を取手に当てがって掴んでなんとか押したり引いたりすると、何とか少しづつ動く。扉周りはガチガチに凍り付いているみたいだけど内側に開く扉らしくてよかった。




「んぐっ…!……━━━━━━━━━━━………?」




 階段がある。

 真っ白な狭い空間にある白い階段、それがちょっと上まで続いて途中で切れている。

 その先は空間があるようで、開けた天井が見える。




(?)




 ━━━━━え?と思ってぼんやりその空間を見上げているが、こういうとき気になるのは逆に自分の背後だった。元いた場所を確かめようとする。ここはこんな階段がある部屋だっただろうか、そうだったか?そうかもしれないけれど、でも、それだと━━━━━

 

 記憶の認識がごっちゃになりながら振り返った暗い部屋に、四角く伸びた明かりが落ちている。

 階段の空間の明かりが闇から切り取った絵画のような空間、その向こうに何かがぼんやりと見えていた。


 青白い手足の何かが立っているように見えるのだ。

 黒々と流れる膨大な髪が、小さな顔をおぼろげに浮かべているように見える人影。


 その立っている小さな人影を見てワタルリは息を引いていた。




(━━━━━この子は━━━━━━━━━━━)




 見たことがある。自分の記憶の中の残影にある女の子を思い出して一歩近づこうとすると、女の子らしい人影は驚いたように一足引いて闇のひさしの奥へと隠れた。


 いろいろいっぺんに思い出した。ここはやっぱりあの地下室だ。

 あの子はあの時に見た少女━━━━━




「ちょっ、と……」



『おーい登ってきぃや〜』 



「!?」



『天界行くで〜』




 頭に落ちた呼び声に振り向くと、階段の上の空間にひょっこり顔が見えている奴とワタルリは目が合った。草冠を被った頭の背後に翼が見えているそいつは眉根を寄せて困ったような顔でワタルリを見下ろしている。

 その鼻筋の通った顔をどこかで見たなと思ったけど、今はそれどころでも無い気持ちでいるワタルリは目の前の女の子を逃したく無い衝動に駆られて振り切り闇に手を伸ばした。




「だっ、誰!?お前…君、俺を知ってるだろっ?」



『<━━━━━>』




 暗すぎて見えない闇を両手でまさぐって触れたものを掴むと細くて柔らかい。女の子の腕だなと思った。

 それを捕まえて引き寄せるが動かない。岩みたいに全然動かないのが人間じゃ無いみたいで、何か途方もないものに触れている感触があるのだ。世界の外の外にいるような、大きさで測れないほどの何かが。


 掴んでいてもその子は何も喋らない。捕まえている腕もただ柔らかくてしっとりしているだけで動かない。まるで「ここには誰も居ませんよ」とでも言いたげな様子に思えてワタルリはなんだかちょっと可笑しさが込み上げてくる。

 この子は俺から逃げようとしているのだ。

 でもこの子があの時みた女の子だとしたらワタルリはいろいろ聞きたいことがあって絶対に逃したくない。記憶の端に見え隠れしていた謎の子はワタルリが思うに”犯人”なのである。




「君が俺を、生き返らせただろ?」



『<━━━━━>』



「そうだろ?」



『<━━━━━>』



「いや、居るから。見えたから君」



『<━━━━━>』



「覚えてるよ。俺が死んだ後にここで見た。ネコミミくんと居た時に…あ、そうだ。記憶世界でも━━━━━」




 あえて慎重に核心から離れた質問で反応を見ておいてワタルリは確信した。

 何も言わない闇の奥に動揺があるのがなんとなく腕を掴んだ掌から感じてわかる。

 根拠はないけどこの女の子には言葉が通じているはず。存在感の異常さからして人間でもなければ幽霊でもない、眷属というのに近いけどちょっと違う気もするナニカ。その女の子になら俺の言葉も意思も解るはずだと。

 

 だからもう言えばいいと思った。

 俺は思いがけず捕まえたんだ。

 この子もたぶん今俺に捕まるなんて思ってなかったのかもしれない。よほど意外な事態だったんだろう。


 覗き込んでも見えない闇の中、見えない姿のその子に向けて独り言みたいにワタルリは喋っている。




「お、俺をっ…異世界召喚したのもお前だな?」



『<━━━━━>』



「か、っ帰して!!!」



『<━━━ヤッ…>』



「帰せよ!!!」



『<ヤーーーッ!!!>』




 イヤじゃねえよ。

 こいつ何言ってんだよ。絶対に許さない。

 

 はじめてこの子が喋った声を聞いてびっくりしたけど聞き分けのなさそうな性格を感じてワタルリはイラッときてしまった。

 いきなり全拒否とか一方的すぎて会話にならないだろう。嫌と言えるならその理由なりと言って欲しいし話はそこからなのだ。それすら出来ないくるくるぱーの愉快犯ならそれこそワタルリは絶望する。


 なんでこの子が俺を異世界召喚した犯人だと思えたのかなんてはそんなのただの感だった。

 この地下室で死んだ地縛霊かと思ってたけどなんか違うだろうそれは。流れ的にこの子なんだよ犯人は。異世界物語を知ってる俺には解るんだよ。とりあえず怪しいんだよ。てゆうか怪しいやつは全員疑うんだよ俺は。考察厨だからあいつもこいつも犯人じゃないかと疑ってやるんだ。魔王でもこの子でも全部犯人ってことでいいんだよ。

 記憶世界でチラッと見たことも俺はしっかり覚えてるんだよ。異次元の端っこに出てくるなんて異常だろ。

 俺の記憶は全部俺のもんなんだよ。忘れるわけがねぇんだよ。

 だから絶対に許さない。

 俺に最悪な記憶を覚えさせたこいつを絶対に許さない。この世界も許さん。

 だからもうこんな世界に俺は居たくないんだよ。




「帰せよ!」



『<ワァッ…!>』



「ワァじゃない!もういいだろ!?」



『<ッ!?>』



「びっくりしてんじゃねえよ!俺は…!!!殺されたんだぞ!?めちゃくちゃに虐殺された……なんで俺が。……俺は、こんな世界━━━━━」



『<………>』




 俺を残酷に虐殺したこの世界。

 惨たらしい殺し合いばかりあるっぽいこの世界。

 不気味な恐ろしい奴らがいるこの世界。

 優しくない、命も心もダメにしようとするこの世界。

 日本語が通じないこの世界。理解できない世界。

 俺に何もできることが無い、この世界。

 嫌なことばかりしかない世界。




「こんな世界嫌いだ」




 言ったらワタルリの中の何かが抜けていったような気がして、後悔に似た気持ちが心の底に寂しく溜まった。

 それが何故だか辛くて不思議な感情を見るようで黙っていると、掴んでいた両手に小さな手が触れる感触がした。


 女の子の細い腕を強く掴みすぎていたかもしれない。ちょっと事案ぽいしダメだなこれ。俺は社会的にアウトになるのがイヤなのでもう腕を離した。

 女の子の存在感はもう分からなくて、何を思っているのかも知り得ない。そもそも誰なのか。

 ただこの子が俺を異世界召喚したのなら、訊いておかないといけない。これだけは。




「なんで俺を異世界召喚したの?」




 答えはなくて、それっきりで女の子の存在は闇から消えた。と思う。

 

 もらった命だけがある。

 なんのために。




「気持ちの悪りぃ。…なんで……俺は、俺じゃないんじゃないのか?これ……もう元に戻せ!帰せ!なんで嫌な記憶があるんだよ………消えない━━━━━」




 視線を感じて振り返ると、階段の上にいる草冠のやつが異常者を見る目で俺を見ていた。クソが。オメーも変なコスプレみたいでキモいよ。


 でも実際にワタルリは精神的にやばくなってきて独り言ばかりでている。

 何もかもわからない。自分がなんなのかもわからなくなってきてる。

 それなのに記憶だけはしっかりあって消えない。最悪な記憶。

 自分自身が嫌になって居た堪れず、ワタルリは闇から離れて階段を上った。


 少女の顔はずっと見えなかったけど、意地悪く見上げる上目遣いを思い出して、それがあの子の答えだとこの時気づけた。







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