第10話 『 後の祭り〜わからない話〜 』
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『今回は、最後まで入札に残っていてよかったですね。メメンが珍しく案件持ってくるっていうから、みんな面白がって閉会まで顔を揃えて…』
『ああ。実際まあ珍しかったよ。異世界人とはね…野良猫のメメンは目敏いものだ』
『どこの隔離界にも、たま〜に異世界人を見かけますけど…でも入札が入るのは初めて見ました』
『そうか。他ではちょくちょく有ると聞くぞ(ごくごく)』
『あれ、そうなんですか(ぱくぱく)』
『この集会の前身が”異世界クラブ”だからな。もともとそういう受け皿なのさ』
『え…それは知らなかったな……(もぐもぐ)』
『てゆうか、これ美味しいよね。なんて料理?懐かしい味…実物のお肉を食うのは久しぶりで…』
『うちのとこの人草達が、新大陸で出土した獣を解凍して炭焼きにしたものをさっそく供物にしてくれたんだ。果実と発酵調味料のソースが合うだろ?』
『サイコーw』
『うまいw涙が出るw』
『うんうん。裏宇宙で食べる紛い物は飽きちゃうから。やっぱり本物は美味しいよ。滋養に良い』
『隔離界までこそこそやって来るのはしんどいけど、こうして本物の変化値が食えるのは役得ですねぇ』
白洲の両側に三段高く誂えた壇上で談笑する異形の神々。その眷族たる雛型達は、今見た珍客の話題で秘密集会の閉会後も盛り上がっていた。布や紙札で顔を隠した眷族達だが、その声音の明るさは先刻の沈黙とは打って変わって楽しげである。
集会閉会後に供される神饌は眷属各自が地表世界の祭壇からこっそり持ち寄ったもので、それを小皿に取り分けて仲間達に振る舞う酒肴は彼らにとってちょっとした楽しみだ。この集会を成立させた眷属達の労をねぎらうものでありながら、変化に満ちた因果因子を直接摂取する滅多とない機会として喜ばれている。
彼らの喜びようはそればかりではない。
今回の複数あった入札案件最後の紹介は、異世界から来たというまだ青蛙のように生やかな肌をした少年の魂であったのだ。それはこの異世界を混ぜっ返す因果の話題に事欠かない眷属達の間でも、表立って話題にするにはやや危うく、珍しい出来事なのである。だがこの秘密集会ではちょっと大胆に言及しても誰も怒らないし、まあいいかというざっくばらんな雰囲気があって場を和ませている。
『異世界…異世界か……』
『そういう企画もあるって聞いたことはあるけど…こっちの世界から異世界に仕掛けるものだと思ってたよ』
『ん〜それもその一環だろう。こっちに移植させるために異世界に取っ掛かりをつけて、ちょこっと因子をいただくんじゃないの?未知値を生むためにさ』
『何が起こるかわからない怖さはあるな』
『そんなに危険なものかね?元々の元々は、界界外の異世界とて同じ因果の根っこだろう』
『じゃあ、界域の拡張もできちゃう?』
『野心あるねぇ』
『ハハwでも独神となって、独立神界の立ち上げをするのは夢がありますよ。星の一つも作ってみたいものです』
『野心あるねえw』
変化のない世界、隔離界。この音も光も閉ざされた黒い世界に放棄される訳ありの魂達の中の、それも異世界人ともなるともうその因果の背景は眷族達にも解らない。
だが、それがこの眷属達には楽しい。分からないことを話すのは楽しいのだ。”わからない”を前にした時、眷属達は皆同列になる。そうして屈託なくおしゃべりするのは何より楽しいというもの。
『異世界人の言うことは、どの魂も変わらぬな。だいたい、こう、”元の世界に帰りたい”とのたまうが…』
『我らの次元では、表宇宙と裏宇宙の界界の外など知るべくも無い』
『神々がどのような差配で界界外から因果を勧請したのか、そのようなことは眷族の我ら、あずかり知らぬことですよ』
『関わりたくないよね。どこの誰が、どうやってやったかなんて…』
『うん』
異世界人がどうやってこの世界に来たのか、或いは少年の訴えの通りに何者かが何らかの方法で異世界人を召喚したのか、実のところ眷族達も解らない。
だから異世界人の少年の訴えは、問いかけは、眷族達を黙らせた。
諸神に使える眷属神が憶測を言うのは憚られる、それはこの秘密の会合においても彼ら眷族が確固たる”個”の持ち得ないことを表しているのだった。
『危ないからね…界界の編成が崩れたら……』
『その通りだが、しかし、その辺が魔界さんがたの方では狙い目なのでは?』
『いやまあ、魔界さんもリスクがありますから。むしろ天界さんの方から何かあったのかな…と』
『いや…天界さんがですか…?…うーん』
『この場がどこの管轄なのかってのが、ヒントにならないかな』
『えぇ?冥界さんですか…?』
『その先ってのもあるでしょ。奥の奥というか』
『『『『『『『『……………………』』』』』』』』
『ともあれ、未知の値を期する干渉であることは伺えますから、まだまだ界界界の変遷には期待できますよ。縮小にしろ拡張にしろ……』
『それって結晶化の話?兆候があると?』
『……全体が目減りしていると言う観測もある』
『いずれにせよ、これで空きのあった転生企画が守備よく捌けた。また少し角度が変わるでしょう』
一同の会話は裏宇宙の編成事情にまで及んだ。諸神の持ち場である各界界の盛衰はそれぞれの企画の表宇宙への干渉に大きな変遷を及ぼす。表宇宙である現実世界での活動が彼ら裏宇宙の民にとって命綱ともいえる最大事であるため、その情報収集には誰もが常にアンテナを張っているのだ。
というのも、彼らは表宇宙で直接的な干渉活動をするには随分と制限がある。そのため主に人間など人類種を使って現実世界を編集せねばならない。
だからこそ今し方この場に誘われた異世界の魂は彼ら眷族の目に奇手として映り、様々に考えを巡らせた。
『━━それじゃあ、私たちはこの辺で』
『お疲れ様でございました。ではまた…』
『本日は、縁起がようございましたな。…また……』
縁も酣ということで、めいめい席を立ち集会所を後にしていく。
一人、また一人と白洲を踏む音が寂寂と減り遠のいていくのは、残していくこの場を侘しく清めた。
『『━━━━━……』』
そこに2柱の眷属が最後に残り、壁の両側に坐して対面している。
皆が去った後にこうして動かないのは異様であったが、双方示し合わせたかのように佇み、やがて角の曲がった眷属が口を開いて言葉を投げた。
『転生因子の不要、その転生企画へ当て込む魂の入札であったが、…そこへあのイオラ・アビアが因果を分けた。よもや、凍結された因果を解凍するつもりではあるまいな』
『━━━…』
言葉を受けた翼ある眷族は黙して答えない。
どういう沈黙なのかは眷族とはいえ同列なれば内心を伺うことはできず、曲角の眷族は言葉を待たねばならなかった。
だが、程なくして翼の眷属が答えた。
『━━あの女性が、どの隔離界に居るかこれまで定かでなかった。私も今この場で知ったところです』
『…ふむ。…さて、デルリッパといったか、堕天使が1柱死んだぞ』
『…まことですか。さすが早耳ですね…どの界に喰われました?』
『無論、冥界だよ。値は冥路の肥やしになったろう。だが、眷属が幽界という地の利の上で人草に討たれるとは…』
『ふむ。勇者トロリには眷属神の干渉があったのでしょう。デルリッパは変化を生む生者を侮りましたね。…それで、媒体は地表へ渡りましたか。新大陸へ』
『したたかなものだ』
2柱の会話は得体がない。
眷属達の会話はどれもそんなものである。或いは、下層の者に窺い知れる情報には制限があるのかも知れなかったが。
『………』
イオラ・アビアは白洲の部屋の外で聞き耳を立てていたが、眷属達の話に得るところがないと見て、黒い世界をまた歩き出した。何も見えない黒一色の視界だというのに、その足取りは軽やかである。
もらった印のお返しに与えた己の因果。それを持ち帰る友達の帰って来るまで、その場所で眠っているのが楽しみで。
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