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<--異世界観測媒体☆日本人☆ミューテーション-->(仮題)(旧題:魔王を倒してサヨウナラ)  作者: nanasino
第0章 『0の因果』

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第8話 『 咎(とが)無くて 』






『いや…ちょっと…もう━━━━━』




 ワタルリはあれこれ考えを巡らせつつ、ネコミミくんが歩いていくのに付いて行こうとするその足が踏み出せない。また事態に流されて何処かへ赴くことへの違和感をもう抱えきれなかったのだ。何も分からないままにどうにかなってゆく自分が気持ち悪くて。

 何もかも気持ちの整理がつかないまま色々の事に相対する煩わしさがワタルリの胸の内に込み上げ、目の前がグラグラして前のめりになり嘔吐してしまった。




『あっ!ゲロだ!』


『ちょ、ウシトラ━━━』




 辛くて(しか)めた顔面に集まるワタルリの意識は朦朧としている。

 頭の中がゴチャゴチャしすぎていた。ただそれだけのことと言えばそうなのだが、それはワタルリの心と思考を麻痺させて体が拒否反応を起こしたのだ。幽霊なのに。


 事態に流されてどうにかなってゆくだけの自分が嫌になっていた。

 理不尽な状況に悲観するだけの自分の気持ちが嫌で。

 ついには自分自身への空虚な不信が確かなものになり、これ以上何かをしようという気持ちにさせなかったのだ。


『ゲッゲ〜ゲ♪ゲーロゲーロ♪♪あ゛っ♪あ゛っ♪わっ♪わっ♪わっ♪わっ♪わっ♪わ〜〜♪』


 倒れたワタルリの周りでは歌ともつかぬ声で歌う幼子がぴょんぴょん飛び跳ねているし、背中や腰にはワタルリを支える優しげな感触がある。

 でも、それら全部が遠くなってゆく。


 全身が酷く重怠おもだるい。

 

 意識が沈んでゆくようで、地の底の抱擁が恋しい。


 目蓋が下がるワタルリは小さく息を吐いた。


 黒い世界で初めて目を瞑った気がした。






△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼





 夢見へ誘う微睡(まどろみ)


 眠りが意識を裏返す逆の目覚めの微睡に見えてくるものがある。


 そこに意識は現実を見紛い、眠りの世界を疑うことはない。


 だが、その時自分はどこにいるのだろう。


 夢を見ているときは、それはわかる。脳が記憶している過去の視覚的な記録や音などをごちゃ混ぜに再現しているのを見ている状態なのだ。


 というのをインターネットか何かで知ったことがあるからそういうことでいいだろうが、それを見ている自分はなんなのだ。それが意識というやつだろうか。

 じゃあ夢を見ていない時には自分はどこにいるのだ。夢を見ていない眠りの時に自分という意識がどうなっているの分からない。自分はという意識はその時、世界に居なくなっているのだろうか。

 じゃあ意識とはなんなのだ。それがどこからくる何で、その何かが自分なのか。


 自分という意識は錯覚なのだという話もあるらしい。

 精子と卵子から一つの生命体として生じて以降、記憶の積み重ねが”自分”と”自分以外”を分けて認識するにつれ”自分”を作り上げるとか。


 うーむ。なんだかどうでも良くなって来た。そんなことから考えてしまって、だからなんだっていうんだい?クソか?

 分からない事を考えて”分からない”と思うと途端にそれが煩わしくて害のあるように感じ、否定的に見るようになってしまう。ワタルリはそういう人だった。クソだね!とか思ってしまう。


 そのくせハッと気がつく。

 別の角度の発想にたどり着いてその先を考えつくと、俺すごくねーか?と感心する。


 というのは、そもそも精子と卵子には”記憶”があるのだ。遺伝子とかなんとかいう、それはそれはややこしい話で、とにかく自分で無い自分が元となって今の自分があるというのが”科学的”という考え方から言って正しいのである。知らんけど。

 

 ”自分”を探すと自分は居なくなるのか、そもそも自分のことを自分だと思っていた自分は幻想だったのか。はたまたその自分で無い自分こそが本当の自分なのか。じゃあ自分は無数にいるのか。




━━━━━━━━━━━。




『艮 弥瑠璃。君はエロ動画を見てシコっていたね』




━━━━━!?




『しかも金を払ってない。これは唾棄すべき深刻な罪だ』




━━━━━…




『お友達のタケヒロ君のドクターマリオを借りパクして無くした。クラスの女子をネタにオナニーした。自分より頭の悪い友達に小便をかけた。ススムくんが言ったカズユキくんへの陰口をチクったらススムくんはボコられてしまった。年齢を偽り缶チュウハイを買って飲んだ。同じくマルメンライトを買って吸った。運動会を仮病で休んだ。町内の清掃に出ない。コンビニバイトをバックレた。野菜を食わず、冷凍チャーハンや唐揚げばかり食う。勉強しない。就職活動しない。5chに芸能人の悪口を書いた。小さい頃にはカエルを溺れさせて殺したし、トンボの羽を毟った。飼ってた犬…えーと、ペスの散歩を怠った。自分の腕をカッターで切った。低収入で甲斐性の無い父親をバカにしていた。神経質でヒステリックな母親が嫌いだった』




━━━━━…




『ハァ。ぁ~どれもつまらない罪だなぁ。地獄に連れて行く方の身にもなってほしい…』




━━━━━…




 目の前にいる何かが一方的に話しかけてくるのをワタルリはただ聞いている。なんとなくだが、リアクションしたら負けな気がして無反応を通した。

 暗くて黒い世界ではそいつの姿がよく見えないのだが、言っていることには全てワタルリは心当たりがある。なぜこいつはワタルリの事を知っているのだろう。




『無視かよ。じゃあ、これから君が作る罪を教えよう。───君は高校卒業後、フリーターになる。就職を嫌がり、アルバイトを転々とし、ろくに税金も納めず、両親とともに老築した家屋に住み続ける”こどおじ”となり、ありとあらゆる人々から馬鹿にされ続けて暮らし、両親の死後ホームレスになって彷徨うも放浪罪で逮捕。身柄を保護した行政が手配した変な団体の親切な悪人に指導されて申請した生活保護費を搾取され、雑魚部屋でひたすら寝て起きるだけの毎日。何の楽しみもない人生。世を呪い、自分を憎む憂鬱な日々。そして──』




━━━は!?ち、ちょっと待て、異世界小説とかは?『Re:無職に祝福新世紀マギカの刃〜鉄コンBlameな特攻の私立探偵ヘドロ課長”死狂いグラップラーろくでなしボボ島くん”に殺し屋卓球部は手を出すな!〜』は無事完結したのか??




『は?ああそういう文化は表現規制を強化して世界中で禁止にしたよ。その作品も途中で終わったし、他の作品も過去の作品も廃棄処分で閲覧も出来ない。世界から消した』




━━━え…?




『続けるよ。──そして、超激変する日本社会…いや、元日本という国だった人間社会について行けないまま引きこもり続けた君は、原住民隔離施設への収容を拒否して山奥につれて行かれる。そこで土木工事の蛸部屋に入り、少ない食事による栄養失調と過酷な肉体労働による過労とイジメによる精神的苦痛で頓死。享年60才。無論、童貞のままだ。やる気のない人生を送って、自分自身を呪って死ぬ…でもこれ、じぶんで設定した未来なんだぜ?凄いね。俺たちの考えた企画に全部ハマっちゃって…それでこの程度。君って魂は存在する意味あるの?』




━━━誰だお前




『悪魔でぇす☆』




━━━帰れ




『お前みたいなツマラナイ奴に絡む方の身にもなれよ。罪を償え。チンケな罪を』




━━━元に戻せ




『あ?』




━━━俺を元に戻せ




『お前なんていないよ』




━━━は?




『艮 弥瑠璃ねぇ。誰それ』




━━━俺だよ




『そんな奴いないんだよ。嘘つき。泥棒だよこいつ』




━━━は?




『魂は全部俺たちの奴隷だよ。神から預かった尊い奴隷。それを自分のものだなんて…』




━━━おい、




『お前は嘘をついた。そのうえ、神から魂を盗んだ!犯罪だ!大罪だよ!ハハッwバーカ!うんこ!ケツの穴やろう!』




───はぁ!?俺じゃねえなら何で俺の罪になるんだ!?ぁあ!!?おめーはクソだよ悪魔野郎!!嘘つきはおめーだろーが!!罪という罪はおめーの…!?




 暗くて見えない何かがニヤリと笑った気がしてワタルリは息を引いた。なぜか、自分の何かがコイツの口車に乗せられているような気がして寒気がする。


 もうこんなふわふわした討論はクソだ。

 ワタルリは立ち去ろうとして、その立とうとする自分が何処にも無かった。自分が無い。




───俺は?…俺はどうなった!?俺の体は…魂は─────




『返してほしいか?』




 暗闇から聞こえた凍えるような声がワタルリの意識を炙り、酷く濁らせた。


 自分のものなのに自分のものでないなんて


 そんなのおかしいだろ───────






△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼






『ウシトラ、ウシトラ…』



『ぅぅ゛ぅ゛…』




 声が聞こえて目が覚めた。──という事なんだろうか。少し眠っていたような、そういう余韻がある。

 目が覚めたというのに黒い世界なのはワタルリを困惑させたが、この場合は眠りの余韻が逆に目覚めを助けた。


 それに、ワタルリの右手を包む冷んやりした感触が意識をそこへ留めるようでもあり、甘い黄桃のような香りまでが鼻をかすめるのは夢とは違う感触なのだ。

 イオラがいるんだと気づいたらワタルリは目から水が出て来た。




『よかった。もう起きないかと…。急に固まってびっくりしたけど、すぐ起きてくれて…』

(※※※※※※※※※※※)



『ごめん。…でも、こういう時は膝枕もほしいっすね』



『は?い、いいけど…また今度』

(※※※※※※※※※※※)




 暗くてわからないけどイオラは少し笑ってる気がする。それにちょっとひいてる感じがするのはワタルリが気恥ずかしさから冗談を言ったからだが、でも青少年をテコキしたくせに今更ひくのかこの人は。

 どこか以前と違う感じのするイオラだが、伝わってくるのは少しの嬉しさと、大きな不安。そしていつものグロイ気持ちだ。このギャップがいつものイオラだと思ってワタルリは変に安心した。

 

 ワタルリは固まっていたのだ。以前イオラがワタルリの目の前で突然眠るように固まったのを見た時と同じように、今度はワタルリが固まって眠った。


 眠ったという表現が妥当だろう。今、目が覚めるまでの間、ワタルリはこの黒い世界のことは全く心中に無かったのだから。

 それは普通に夢見の最中に現実世界のことを思わないのと同じ感触だった。

 ひたすらその眠りの中に居て、そして、見ていたのだ。──というより体験した実感が在る。悪魔と名乗る者との邂逅を。

 その生やかな暗い余韻がワタルリの心をとらえたままで、目が覚めたというのに今に目を向ける事が出来ない─────




『悪魔なんてね、どこにでも居るから。この異世界にも居るし、ウシトラのいた世界にも居るでしょきっと』

(※※※※※※※※※※※)




 ギョッとしてイオラの方を見たワタルリには黒い闇しか見えないが、それでも確信した。

 ワタルリが見た夢を知るはずのないイオラがそれを告げてきたのだから間違いないだろう。やはりイオラはワタルリの内心や思考が解るのだ。


 イオラの手が包むワタルリの右手は微かに震えた。

 心が解る事をことを何も説明することなく隠すことも無いイオラが何だか怖いではないか。

 それはワタルリも同じだが、しかしイオラの内心が常に自他を呪うような心でいるのをワタルリは知っているという事をイオラ自身知っていて、その上でこう普通にワタルリに接してくるという事なのだから。




『───…そうなんですか?…架空の、迷信とかかと思ってた…てゆうか……』




 驚かないふりをして応じたワタルリだったが内心は驚愕している。

 悪魔が実在するというのかこの人は。この異世界には実際に悪魔が居て、人間に語り掛けてくると。


 魔族だの魔王だの、カニの魔神だのとグロテスクな奴らをワタルリは垣間見てきた。

 だが単に”悪魔”というと何か言い知れぬ不安に包まれるような不気味を覚える。


 それが───いや、ワタルリは考えるとますます解らなくなるのだが、死霊である魂の自分が、この冥界の隔離界というところにいて、その魂が眠りについた先にまで悪魔はやって来るという事なのだろうか。それで罪だのなんだの捲し立て記憶にこびりつく。

 そんなの、魂に安息が無いではないか。そう思うとワタルリは暗い気持ちで閉口するほかなかった。




『………』



『………』

(※※※※※※※※※※※)




 ワタルリが黙ると、イオラも沈黙する。

 黒い世界にひと時の沈黙が落ちた。ワタルリはフラッシュライトを点ける気持ちが無くて真っ暗なままである。

 なんとなくワタルリはまだ明かりをつけてイオラと顔を合わせるのは気が引けるからだが、イオラの方はいつものグロい想念があるだけで、ワタルリをどう思っているのか分からない。


 ワタルリがイオラの内心を積極的に読み取れば、ワタルリの事をどう思っているか分かるだろうか。

 だが、彼女から常に伝わってくるネガティブな感情は痛々しくてワタルリには無理なのだ。その表面以上に深く知ろうとはしたくない。


 それに、心の整理がつかないのだワタルリは。

 幽界という”あの世”の河原へ行ったのはワタルリが見た幻想だったのだろうか。

 あの気さくな勇者と仲間達は死んでしまったのか。あの時、何が起きていたのだろう。なぜここに戻って来てしまったんだろう。

 

 次から次へと事態に流されて過ぎ去る中に右往左往する自分は何もできていない。

 こんな自分が本当に自分なのかと、そう思うとまた体を動かす気持ちになれず横たわったままで動けなかった。

 ひと眠りして気分は落ち着いたものの、夢に嫌な奴が出てきたせいで気持ちはよくない。


 言われたことが気になるのだ。

 罪というほどの罪なのかどうか、いや罪だろうとも思えて、だからってなんでそんな事を言われて気に掛けるのだろう。罪だったらなんだというのか。

 地獄に連れて行くとか言われても、その地獄とかいう所がどんな所で、ワタルリに何をどうしろというのだろう。

 特に、ワタルリがこれから作る罪だというショッキングな未来は歪んだ型を心に刻んでいる。まるで不吉な占いの結果が気になるみたいに。




『そいつは元の世界でのことしか言ってなかったんでしょ?』

(※※※※※※※※※※※)



『───ぁ、…あぁ、そういえば、そうです…けど…』




 いつの間にか俯いていたワタルリは顔を上げて答えたが、でもそこにも別の不安がある。イオラはどこまでワタルリの心中を読み取れるのだろう。


 悪魔から言われた”罪”とかいうのが他人から見てどう思われる事柄なのかをワタルリは察して声がしぼんでしまう。

 それがどんなに小さな汚点であっても、自分が自分でダメだと思っている事を人に知られて平気だと開き直れるような人ではないのだワタルリは。ダメなやつだと思われるのが本当は嫌だし、かといってそれで怒るほど取り乱せず、受け入れて前を向く素直さもない。そんなダラダラした心根をも人に悟られるのは地味に最悪だった。




『うん。あー、そいつから何を言われたのかも何となくわかるけど、べつにウシトラがどんな人だっていいよ私は。嫌いにならない』

(※※※※※※※※※※※)



『……』



『うんうん。今みたいにウシトラから疑われても、嫌われても、それでも私はウシトラを嫌いになんてならない』

(※※※※※※※※※※※)



『ぅ…うん』




 ワタルリはどぎまぎしてしまい「うん」しか言えない。顔が熱くなってきた。

 急にどうしたんだろうイオラは。この前の痴女ムーブとは違うアプローチでぐいぐい来るではないか。


 それでもやはりどこか本心をあけっぴろげにはしない口ぶりのイオラだが、それはワタルリも同様なところはある。イオラはちょっと自分と似ているのだと、この時ようやくワタルリは気付いた。


 ワタルリも人に対してそれほど感情をあらわにしないし、元の世界での友人たちに対しても本音を打ち明けて感情露わにあれこれ言う方ではない。人と深く心を通わす人間関係を避けていた。だからこそ広くて極浅い友人関係は多かったが、本当に心からお互いを思いやる親友というのは全く居なかったのだ。

 それは高校2年になりそれぞれが進路を求めて別の道へ進む中でワタルリをすぐに孤立させた遠因の一つだろう。いわゆる控えめなコミュ障と言っていいかもしれない。

 だから、気安い雰囲気のイオラとはいえ好意に似た気持ちを正面から向けられると困ってしまうのだ。




『…うん。うん。はい』



『ふっwwなにそれw人がせっかく…まぁいいけど。またいっぱいいっぱいになっちゃうね。今は落ち着いてるけど、ほんとうは色々なことが整理できなくてゴチャゴチャしたままでしょ』

(※※※※※※※※※※※)



『うん、そう。ありがとう。あの、なんていうか………なんていうか、俺は出来事に振り回されるばっかで、……何をやってるんだろうって……何もできてなくて、……逃げるばかりっていうか…』



『うんうん』

(※※※※※※※※※※※)




『わけわからないじゃないですか。なんで殺されたり幽霊になったり、記憶の世界に居たり、この黒い世界にも何で居るのか…幽界に行ったと思ったらまたここに居て、……自分は何なんだっていう………』



『あ〜、……うんうん』

(※※※※※※※※※※※)



『何にも解らないんすよ俺は。俺はなにも悪くないし。なのに、なんで…なんでこんなに、…勝手に色んなことが……何なのか教えてほしいんすよ。俺は何か悪いことしたんですかね……』



『ん?何が?』

(※※※※※※※※※※※)



『全部っすよ。おれがここに居る理由、召喚された原因とか、なんで元の世界へ帰れないのかとか…なんでこんな、勝手に色んな目に合わないといけないのか……それが、何か俺はその何かの罪の償いに、この異世界へ━━━━━』



『ひゃっひゃwなにそれww』

(※※※※※※※※※※※)



『笑う事じゃないでしょ。…イオラさんだって───』



『』

(※※※※※※※※※※※)




 元の世界へ帰りたくないのか。そう聞こうとしてワタルリは口をつぐんだ。

 イオラのあけすけな引き笑いがピタリと止まって、そのネガティブな思念だけが剥き出しに伝わってくるのがワタルリの詮索する気持ちを牽制するかのように出鼻をくじいたのだ。


 ワタルリはそれ以上何も言えず顔を背けた。

 仲良くしてくれる人の心に掛かる闇に触れる気持ちになれない自分が情けないとかいう気持ちもあるが、それ以上に、本当のところイオラがどういう人間なのか解らなくて、自分がイオラに向けていた信頼は自分のおごりであったと打ち捨てたくなるのだ。




『───ごめんごめん。あのね、だったらウシトラの方から、この異世界で何かすればいいじゃない。この世界を何も知らないから何もできないだけでしょ…。元の世界へ帰るためでもいいから、何かやってみたほうが良い。それは何も罪なんて、悪いことなんかじゃないよ』

(※※※※※※※※※※※)



『……あー、うん。そうっすね、確かに。俺は何も悪くない。俺を召喚した奴が悪い。うん。…でも、俺もう死んでるし…何かするっていっても………』



『私をあげる』

(※※※※※※※※※※※)



『う…うん?…え?』



『じゃあ契約ね』

(※※※※※※※※※※※)


『『『『『『『『……………………』』』』』』』』



『──!───────』




 急に周りに気配を感じたワタルリは半身を起こして聞き耳を立てた。大勢が姿勢を崩す布ずれのような静かな音や軋み。それらがなんなのか、不穏な何かが近くにある事はそれ以外の事を思慮から外して捨てさせ、ワタルリの臆病な神経を尖らせた。


 それら不穏の主は人ではないだろう。

 この黒い世界では視界も聴域も隔たられてしまうというのに一斉に気配を感じたのだ。すぐ近くに居る人間達ならばその思念や感情が伝わって来るはずなのにそれが無い。

 つまりワタルリの近くに居るだろうそれらは、眷族─────




『ニャ!決まりました!』



『!!─────』



『あとは受け入れ先で~す。さぁ張った張った!さぁ張った!どちらの界界の方か、札入れしますかぁ~?』


『『『『『『『『……………………』』』』』』』』




 唐突な子供の声。不審な沈黙。

 ワタルリは場違いに元気な声がネコミミくんのものだと直ぐに思い至ったがビックリして心臓がバクバクで言葉が出ない。幽霊なのに。

 一体なにが決まったというのだろう。ネコミミくんが近くに居たなんてワタルリは全く気が付かなかった。この子はどういう立ち回りなのか解らないが、いままで無言で黙っていたのはどういうつもりか。


 また何かがおかしいと、勝手に状況が動いている苛立ちで眉間が硬くなったワタルリはうんざりするそれらが何なのか、スマホのフラッシュライトを点けるのを躊躇わなかった。

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