表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/67

第3話 『 初めての異世界 』

※注意※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、事象とは無関係です。



 飛んでるっていうか意識が引っ張られる感じで自分が何処かへ向かっていくのがわかる。

 自分が今、側から見てどんな状態なのかは分からない。体がどうとか気にする余裕もない。

 とにかくもの凄い速さで世界を落ちていく。



「━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━」



 湧き立つ叢雲、輝く海原、散らばる島々、延々と続く砂海、白く連なる山々、ひび割れた谷、果てしなく広がる深い森、鏡のような湖、赤や黄色の色違いの大地が不均一な模様を描いて広がり、その合間に点在する小さな家々━━━━━━━━━━━━━━━間断なく続く郡景ぐんけいはワタルリが瞬く間に置き去りになって通り過ぎてゆく。


 明るい大陸の遠く向こうには暗く隠れた世界が見える。その閉ざされたかのような方角へ急速に向かっていくことに、言い知れない不安を感じる。

 だがワタルリは景色が歪む勢いの最中にいて、不安とばかりも思ってられない。自分の意識がバラバラにならないように自分自身にしがみ付くので精一杯だ。


 目を瞑る━━━━━━━━━━ことが出来ない。目を瞑ったはずだが、なぜか目の前の全てが見えている。

 ワタルリはこれらの景観を”景色”では無いと感じていた。

 ただ単に見る限りは自然な景観ではあるが、しかしそれが途方もない、莫大な意識の存在そのものだと感じる。あまりにも巨大な”意識”だ。

 その大きな意識の中に小さな意識の自分が落ちていくのが、どうにも恐ろしい。


 この巨大な意識はいつでもワタルリの小さい意識を飲み込むだろう。

 自分が消えて、無くなってしまう予感がする。

 恐ろしいと共に、何もかも、どうする事もできないと思う。なすすべが無い。

 だけどワタルリは、自分を手放したくない。自分には1つの自分しかないのだから。

 ワタルリは自分を抱えるようにして、そのまま世界に飲まれて何処かへ落ちた。

 頭から逆さまに落ちて、自分が消えていく気がした。

 とても静かだ。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




 夜。

 月の見え無い闇夜に覆われる、背の高い樹々の作る森の中はさらに暗い。

 林間にあって小高く盛られた土塁があり、城壁に囲まれた大きな砦か城のような外観の建物がある。

 周囲には天高く伸びる樹々ばかりで、下草が盛大に茂り、道というほどの道はなく、人家も見えず、およそ人気は無い。

 このような所にひっそりと建てられているのは隠れ家か、歴史から忘れられた遺跡のようでもある。

 真夜中だというのに砦にはどこにも灯りが点っているふうでない。

 民家でもなければ、城主が寝静まっても警戒のために明かりを僅かに残しそうなものだ。

 だが光も音もなく、番士の姿も見えず、古城は闇に沈んでいる。



「━━━━━━━━━━…………」



 暗闇の溜まった空間に数人の人影が立っている。

 姿は見えず、人影達は何事かの余韻に浸るかのようにして静まっており、何も言葉がない。

 湿った匂いと冷んやりした冷気を感じて、ワタルリはぼんやり突っ立っている自分に気がつき「あ」と声が漏れた。

 直後に人影たちがゆるゆると動き出す。



「王rfhdfんごあrgh」


「……?」


「mみMBつmgkg?」

「っlsこkf…」



 ━━━━━なんだろう

 これ俺に何か言ってるのか? 

 人がいるのは分かるけど…? …?…日本語じゃない…? 何語?

 誰この人たち。なにしてんの? 何も見えん

 てゆうか暗い、暗すぎる

 電気は? ここ何処?



 ここは何処で…どういう世界……というか、此処が何処であってもワタルリにとっては全く知らない場所に違いない。

 今気がつく直前迄の出来事を”覚えている”ワタルリは、確かに今の自分は何処か知らない異世界にいるのかもしれないなと薄々思っている。

 薄々というのは、半ばまだ現実とも思えていない気持ちがあるからだ。「夢ではないよ」とカラフルな巨人から言われたことが頭を過るが、それでも━━━━━━━━━━


 とりあえず今いる場所は暗すぎてよく分からない。

 部屋の中であることは解る。周囲の空気の溜まった感じとか、音の塞がれた感じとか、足元の感触でなんとなく分かるのだ。



 ━━━━━なんだこの雰囲気。人数が暗がりで黙り込んで、おかしいだろ…



 暗さで平均感覚が狂うのか、辺りを見回すうちにワタルリは足元がふらふらして尻餅をついてしまった。

 右手で受け身を取ったものの掌は何かべちゃりとした液体のような感触に濡れている。



「うわなにこれ…きも」


「あmらdjふ…んbmkごそいゔぇ」

「msぐrんふぃk」

「っskfkgkh?」



 ワタルリが異世界での第一声たる所感を述べた所、人影達の不可思議な言葉が相互に飛び交った。

 なにを言っているのかさっぱり分からないワタルリだが、何か雰囲気でも掴めないかとよくよくその声声に聞き耳をたてる。

 しかし察することができるのは、年若い女性が3人居るかも? といった程度である。会話の内容はようとして知れない。



 ━━━━━あーそうか。これ困ったな…

 日本語じゃないんだこの”異世界”。さっきのカラフルな人たちは日本語だったのに…?

 ハードル高いよ言語の習得とかそいういのは…

 どうしよ。なにすんのこれ…?



「mmのもいふぃうgb…pフォhj」

「…………っっqけおんfn……lいydr:;@」


「━━━━━!」



 人影の一人が何か改まって、落ち着いた調子で言葉を発した直後であった。

 紅っぽく輝く靄が辺りに濛々(もうもう)と立ち込め、砂糖が焦げるような甘く香ばしい匂いが微かに漂った。

 密集した輝く煙のようなものが宙空の一点から湧き水のようにどんどん出てくる。



 ━━━━━なんだこれ

 火事? なんなの? ヤバくないか?



 無音で噴出するそれを見ているワタルリは動かない。

 自分の認識に無い不思議なものを見たとき、人は動けないのだ。不可思議なそれをただ見てしまう。

 宙から湧き出て現れたそれは、生きた意思があるかのような動きで周囲の空間を撫でるようにして漂った。まるで、空間に在るものの輪郭を象るように。そこに在る”もの”の事を知ろうとするように。



「?……ふぅ…ぁ…!?」



 その奇異な煙に撫でられたように感じたワタルリは、恐怖で情けない声を漏らしてしまった。身の危険を感じるが、その場から動けない。尻餅をついたままで、薄く光り漂う紅い靄の中心から目が離せないでいる。危険だと思うからこそ尚更に見てしまうのだ。

 だから”それ”が現れるのをじっくり見ることになった。


 靄を手足で掻き分けるようにして現れたのは全身がピンク色の猫のような姿の存在だった。

 身を屈めて音もなく床に獣足を立てたそいつは、全身毛が生えていて猫のような頭部を持つ風貌ではあるが、人のような特徴もあり、小洒落た杖を握っている手などは人と同じ形をしている。

 猫が体を起こすと、尻もちをついたままのワタルリが見上げるほど大きな背丈があった。小動物の大きさではない。ワタルリの身長と同程度はあろうか。



 ━━━━━猫のバケモノ



 猫のバケモノはワタルリには目もくれずにそっぽを向いて立っている。

 大きな目だ。凶暴さを秘めたような、なにも考えていないような、正体の分からない猫の瞳が人影のうちの1人の小柄な少女を真っ直ぐに見つめていた。




nanasinoななしの twitter

https://twitter.com/lCTrI2KnpP56SVX

なおそんなに嘆かない模様

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ