第15章 闘技演武大会 ジャロス対キラン2
フレイは何時の間にか立ちあがっていた。
今まで見たことがない。
魔法陣を分散する事なんか出来るのか?
フレイがモニターの画面を見ながら思う。
フレイがそう思うのは仕方がなかった。
この技は学生の間では習う事がない実戦的な技だったからだ。
なので、この試合を観ている生徒全員が、驚きを隠せなかった。
同様に、フレイの横にいたフリスレスが
「魔法陣を分ける事は出来ないって、マスターが言ってたよな」
とモニターを見ながら言う。
それに応じるようにこくっとコレブンがうなずく。
コレブンも、驚きの余りモニターから目を話せなかった。
ハイド・アンド・シークか
これを学生が使うとこは、初めてみたな。
サンクドが講師室から闘技場を見下ろし思う。
カーロスは、サンクドの横にいながら
サンクドに語りかけるように
「すごい奴が出てきたな。」
と言う。
サンクドは、チラッとカーロスの方を見たかと思うと、
マスクの牙をいじりながら
「ああ。あの技は、戦闘や魔法を使う事に直接関係がないから、学校では教えていない。
もしあの技を覚える事が出来るとすると、最終学年度での、必須科目、依頼実戦だろうな」
「まさか、依頼実戦でそこまで覚えるとは……。
相当な依頼をこなしたんだな」
「だな」
サンクドが言う。
闘技場では、煙に包まれていた巨大な3つの影が姿を現し始めていた。
一番右の一体は、顎が長く鰐を思わせる顔に、筋骨隆々の身体を持ち、足は極端に短く、長いしっぽがある。
まるで鰐の腕を長くして2本足で立たせたかのようだ。
まん中の一体はこんもりとした丘を思わせるような体躯に他の2体に比べ異様に背が低い、顔は巨大で目が離れており、後ろ足は折り曲げて、四本足で立っている。
蛙のようだ。
左の一体は、馬の胴体に人間の騎士の上半身が付いている。
右端から、水の召喚獣クロコ、真ん中は緑の召喚獣ガマ、左は土の召喚獣サンドナイトだ。
どれも、召喚魔法の中ではレベルが高い召喚獣で、これほどの召喚獣が一気に3体も現れる事などそうそうなかった。
ジャロスはその3体の姿に圧倒されるかのように後ずさった。
煙が緩やかにまだ3体を包んでいる。
ヤバいぞ。
3体も召喚獣が出て来やがった。
てか、やつはどんな技を使ったんだ。
魔法陣は分ける事は出来ない。
それは授業で習ったから分かる。
では初めから魔法陣を出していたのか?
分からない。
……。
まて、今は余計な事を考えずにこの状況を打破する事に集中しよう。
ジャロスが思う。
煙が収まるや否や、いきなりガマが舌を高速で伸ばしてきた。
間一髪ジャロスは舌を避けると、すかさず炎をガマへ放った。それを、横のクロコがガマの前に出て自分の身体に当てる事で、炎を弾けさせる。
炎は消し飛ぶ。
クロコの腹の辺りから少し煙が出る。
さっきの火の呪文を消したのもこいつだな。
ジャロスが思った。
次は茶色の魔法陣を出し、砂を固め、槍状にすると
ジャロスはクロコの方へ飛ばす。
高速になった砂の槍は突如、クロコに当たる寸前で消し飛んだ。
一番左に居たサンドナイトが、砂の槍を切ったのだ。
サンドナイトは、槍を切った後、自分の剣を一度軽く振り、
鞘に収めた。
同じ属性の魔法で打ち消し合った場合は、魔法のレベルの強さで、どちらが勝つかが決まる。
この場合は、サンドナイトの方が強いレベルの魔法だったため、砂の槍を一方的に打ち消したのだ。
続けてジャロスは、水色の魔法陣を出し、力を入れた。魔法陣が光りだす。
「行け!」
ジャロスが言った瞬間、魔法陣から猛烈な風が吹き出す。
その風は、回転をしだすと勢いを増し始めた。
勢いが急激に強くなる。
そして、周りの風を巻き取りながら、鋭さを増していき
ジャロスのローブを巻き取りそうになりながら、召喚獣3匹に猛烈なスピードで向かっていった。
キランがその魔法の強さにたじろぐ。
強い魔法をあの一瞬で出すとは、やはり一筋縄では勝たせてくれそうにないな。
しかし、その爆発的な力を持った暴風は、サンドナイトに当たる瞬間に消し飛んだ。
ガマが、身を挺して暴風を止めたのだ。
ガマの腹から煙が上がっている。
やった。
キランがぐっと拳を握る。
あんな強い魔法をくい止める事が出来るなんて!
召喚獣……。
いや、俺の魔法が成長している。
と、キランが思った瞬間。
サンドナイトの首がすっとずれ始め、そのままボトリと地面に落ちた。
……?!
何だ。
何が起こったんだ?
サンドナイトの首があった場所には、綺麗な横一直線の切断面がある。
首を切られた!
サンドナイトが砂塵となって消え始めた。
キランは咄嗟に、ジャロスが居た場所を見る。
居ない!
ど・何処に行った。
キランが焦りを隠せず、左右を見る。
姿がない。
そしてキランは、はっと気付いたかのように上を見た。
居た。
なんと、ジャロスは上空で、ローブをはためかせながら、
赤色の魔法陣を出している。
風を身に纏い、飛んでいるのか。
キランが思う。
「やるな」
カーロスが言葉を漏らした。
ジャロスは、わざと関心を惹くように風の強い魔法を放ち、風の魔法に強い緑の魔法ガマが防ぐ事を見越すと、風の魔法で上空へ飛び、死角からサンドナイトの首を風の魔法で切ったのだ。
ジャロスは、重力にゆっくり引っ張られるように、少しずつ降下しながら、火の魔法、火柱をキランへ向けて飛ばす。
猛烈な火柱の勢いに、ジャロスの身体が反動で後ろに下がる。
火柱は、高速でキランの方へ向かっていった。
上から直接狙ってきたか。
と、キランが思った。
クロコがその火柱目掛けて飛ぶ。
火柱が急にスピードを上げた。
クロコが追い付けない。
火柱がクロコを通りすぎ、猛烈な勢いでキランを襲おうとするその時、クロコが火柱の尾を掴んだ。
そしてそのまま、クロコが火柱を引っ張ると、火柱は急激にスピードを落とし、キランの目の前で止まる。
キランに、火柱の暴風と、火の粉が頬を掠める。
次の瞬間、火柱は、ジャロスの方へ投げられた。
うわっ、やべー!
ジャロスが思うと同時に、水色の魔法陣を出し両手を下に向ける。
水色の魔法陣から風が起こり、一瞬にしてジャロスの身体を持ち上げる。
そこに投げられた火柱がぶち当たり、激しい爆発を起こした後、消え去った。
ジャロスは少し体制を崩しながら、火柱の爆発から逃れようとしたが、爆発の際に起こった炎に飲み込まれた。
すぐに炎から出てきたがローブからは、プスプスと煙が上がっている。
上空の掲示板に書かれたジャロスの数字が炎に包まれ、100から75に変化する。
くっ……。
とジャロスが顔をしかめた瞬間。
何かが、ジャロスの腹辺りに巻き付いた。
な・何だ?
と思うと同時に、口を大きく開けたガマの方へ身体が引っ張られる。
ジャロスが腹を見る。
ジャロスの腹には、ガマの舌がしっかりと巻き付いていた。
なにー!
マジか!このままじゃ喰われるんじゃないか!!
そして、ジャロスは一気にガマの方へ引っ張られた。
どんと地面に一度落ち、跳ね上がったジャロスの身体がバタバタとローブをはためかせガマの体内に吸い込まれそうになる。
うおぉぉっ!
ジャロスは渾身の思いで、素早く水色の魔法陣を出し風を起こした。
轟音と共に風に包まれたジャロスの身体は、ガマの口とは逆の上空に向かおうと精一杯、舌の力に抗っている。
ぐぅぅぅ。
ガマが力を入れる。
しかし、それに対してジャロスも風の威力を強めた。
風はジャロスの周りを纏わり付きながら、キランの方まで届いていた。
強力な風にキランのローブが靡く。
と、次の瞬間、クロコが、ジャロスの腕に噛み付いた。
な、何!?
とジャロスが思うとほぼ同時に、風の威力が弱くなる。
よし!!
とキランが思う。
そして、ジャロスはガマに一気に引っ張られ口の中へ飲み込まれた。
ゴブッとガマは一回ゲップをすると、何事もなかったように
その場に立ち尽くした。
上空の掲示板は、ジャロスの数字が水に流され、60と表示された。
「ジ、ジャロスは、どうなったんだ。」
コレブンが言う。
フリスレスがそれに応える。
「大丈夫だ。ガマは腹の中で、相手が死ぬまで身体を溶かそうとするが、大会の場合は、アーマーの防御力が0になった時点で、強制的に吐き出されるだろう。」
「ガマから出られる方法はないの?」
次にカリンが聞く。
「そうだなー。あのガマは、特に目立った能力はないし、かと言って、特段強い訳でもないが、ガマのあの技だけは気を付けないと行けないと聞いた事がある。」
フリスレスが言う。
「ああ。あの技は相手を倒すのに時間が掛かるが、一旦ガマの腹の中に入ると、ガマの特異な身体の構造で、中から出る事が難しいんだ。見てみろ。」
フレイはそう言って、モニターに映るガマの腹を指差す。
「あのぶよぶよの腹は、中から攻撃する殆どの魔法を吸収し、自分の力に換える事が出来る。だから身体の中に吸い込まれた者が、魔法を使えば使うほどガマを強くする。そして、それが、ガマが上級の召喚獣と言われる所以なんだ。」
フレイが続けて言う。
「じゃあ、もうジャロスは負けるの?」
カリンが聞く。
「うーん。そうだな。ジャロスがガマよりもとてつもなく強い魔法を使えれば別なんだが。」
フレイが言う。
コレブンはゴクッと一度唾を飲み込むとモニターに注目した。
「てか、キランが初っ端に使った魔法陣を分散した技はなんだったんだろうな。」
フリスレスが唐突に言う。
すると、少し沈黙が続いた後、カリンがまっすぐモニターを見つめながら、静かに話し始めた。
「そうね。うっすら覚えているだけだけど、昔、父に聞いた事があるわ。外国では、様々な不思議な技を使う国があると……。
その中で、ハイド・アンド・シークと言う技があるらしく、
それは、一見一つに見える魔法陣を、分散させたように見せる事が出来るそうなの。」
そこで、カリンは一息着くと、両手を前に出し人さし指で魔法陣の形の円を3つ空中に横並びで描いた。
「通常、魔法陣を出す時は、横か縦に複数出す。
と言うのも、魔法陣はその特性上重ねる事が出来ないからなんだけど、それは習ったから知ってるわよね。」
カリンが言うと、他の3人がカリンの方を見ながらコクッと頷いた。
「そして、さっき私が言ったハイド・アンド・シークは、魔法陣を同じように複数出しているんだけど、ある魔法を使う事によって巧妙に姿を隠す事が出来る。」
そこでカリンは、一旦話しを止め、フレイ、フリスレス、コレブンを順に見回した。
コレブンが再びゴクリと唾を飲み込む。
「その魔法は……。」
とカリンが勿体ぶるように言い。
「光魔法よ。」
と続けた。
一瞬、カリン以外の3人はカリンが何を言っているのか理解出来なかった。
そしてじわりじわりとその意味を理解するに連れ、3人は戦慄し始めた。
「そ、そんなバカな!キランが光魔法の発現者だとでも言うのか?」
フリスレスが言う。
フレイも驚きを隠せず目が見開いたままだった。
コレブンに関しては、泡を吹いて卒倒しそうだ。
「でも……」
何とか冷静を取り戻しつつあるフレイが言葉を絞り出すように言った。
「光や闇の魔法の発現者なら、見た瞬間にオーラで分かりそうなものだが……。
それに、もし光や闇の魔法を使えるなら、何故試合で使わないんだ。
俺達は、学生で光や闇の魔法を見たことがないし、今まででも、学生で光や闇の魔法を発現した者は俺の親父以外にいないと聞いてる。それに親父はその頃から他とは一線を画す程強いオーラを出していたらしい。
それが、キランからは何故か感じない」
とフレイが言う。
「そうね。私もキランからは特別な何か見たいな物は感じないわ」
カリンが言う。
「もしかしたら何かあるのかも」
とコレブンが何か考えるように言った。
一斉に皆がコレブンの方を向いた。
その頃、闘技場の掲示板では、ジャロスの数字が順調に木々に囲まれ減っていっていた。
「終わったな」
サンクドが言い、マスクの牙から手を放した。
「キランは、光魔法を発現していないにも関わらず、ハイドアンドシークを完璧にやった。ここまで器用に魔法を扱えるやつは見た事がないな。器用さは、学年トップじゃないか?」
とカーロスが言う。
「俺も見た事がない」
サンクドが同意する。
奥から、ドン・バッチが、ケータリングに置かれていたナッツを手にしながらこちらへ歩いてきた。
「ところで、そのハイドアンドシークって技は、光魔法で使うんだろう?」
そこで、ドン・バッチが一粒ナッツを口に入れた。
ポリポリと小気味のいい音が周りを満たす。
「キランは光魔法は発現していないはずだ。どうやってその技を使ったんだ?」
また、ドン・バッチはナッツを一粒口に入れる。
「ドンは知らなかったんだっけ?」
カーロスが言う。
「ああ。外国で見た事があるが、そんときは皆、光魔法が使えた」
とドン・バッチが言うと、チラッとサンクドかドンの方を見ながら
「それは……」
とサンクドが口にした。
その瞬間。
ガマに異変が現れる。
ガマの緑の身体が、急に変色をし始めたのだ。
初めは、赤色になり、そこから緑に戻ったかと思うと、黄色に変化し、更には紫色になった。
ガマは苦悶の表情を浮かべている。
「ほう。」
とサンクドが言う。
その声は、いつもの声よりも若干高い。
サンクドが興奮している。
とカーロスはサンクドを見て感じた。
その時、サンクドは再びマスクの牙を触り始めていた。




