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第4話〜幸せのカタチ〜前編

 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴って一日の授業が終わる。

「やっどおわっだぁ〜」

 今日は楽しい楽しい金曜日。

 何が楽しいって言わずともわかるであろう。幸いにも、今日はドクターエックスの都合により戦闘の特訓もない。自分から特訓を志願しておいて言うのもなんだが――いや、これは言ってもいいはずである――ドクターエックスが僕達の特訓用に戦わせる魔物は一日単位で強くなっているので、とてもじゃないが僕達の力量が追いつかないのだ。フレッドさんがいてくれるときは前衛が一人増えるということもあってそれほど体力の消耗が激しくはないのだが、普段のメンバーだけだととてもじゃないけど身がもたない。こちらが気を抜けば、ドクターエックスが仕込んだ魔物はいつでも僕達を殺そうとするのだから。

 とてもじゃないが、そんな戦々恐々とした日々を朝と夕方に体験していれば、嫌でもこのような臨時休講の日がうれしくなるものだ。

 久しぶりに教会のバイトもいれたことだし、早速行くとしよう。

(二週間ほど休んでいたから神父様にもかなり迷惑をかけてしまったし、ノエルちゃんのお店でお菓子でも買っていこうかな)

 神父様は無類のお茶好きなのだ。

 ノエルちゃんの実家はお菓子屋で、レアードの街の隅で細々と経営している。味は美味しいのだから、中心街に引っ越したら流行ると思うんだけどな。

 ファトシュレーンを出て、中心街を通り抜け裏路地を進んでいく。

 普通の一軒家の一階がお店なのだ。

「こんにちは〜」

「いらっしゃいませ。あ、セシルさん」

 店のカウンターを拭いていたラウナちゃんが嬉しそうに僕に挨拶をする。

「こんにちは、ラウナちゃん」

 僕もにっこりと微笑んで挨拶を返す。

 ラウナちゃんはファトシュレーンの生徒会役員に所属している僕よりも一つ年下の女の子だ。

「セシル君、また来てくれたのね」

 ノエルちゃんがキッチンから顔を出す。

「今日は教会じゃなかったの?」

「今から行くところなんだ。しばらく休んじゃったし、教会の子供達にお菓子でも持っていこうかと思って」

「嬉しいな。うちのお菓子を選んでくれるなんて」

「前に食べたカステラの味が忘れられなくてさ。だから、カステラをちょうだい。あと、こっちの砂糖菓子と奥のほうのクッキーも」

『ありがとうございます』

 ラウナちゃんとノエルちゃんは丁寧に頭を下げると、僕が頼んだお菓子を丁寧に箱詰めしていく。

「実家はやっぱり大変?」

 何気なくそんなことを聞いてみた。

 ノエルちゃんは「少しね」と小さくつぶやく。

「でも、私はこうやって家でお菓子作りをしている時が一番幸せなときなの。いつか魔法でお菓子が作れたらいいなって思うんだ」

「魔法でお菓子か。もし、できたら真っ先に僕に食べさせてくれる?」

「もちろん。私からお願いしたいくらいだよ」

 ノエルちゃんはそう言って少しはにかんだ。

 そのはにかんだ顔が僕には一瞬だけ美しく見えた。ラウナちゃんもいたから気づかれないようにすぐに視線は元に戻したけれど。

「ねぇ、ノエルちゃん」

 僕の問いにノエルちゃんは「なぁに?」と柔らかい口調で答える。

「このお店、中心街に引っ越したりはしないの?」

「引越し?」

 ノエルちゃんがきょとんとした顔をする。

「だって、これだけ美味しいお菓子屋さんなんだから中心街に引っ越したほうが絶対お客さんも入るし儲かるんじゃないの?」

「……確かに、そう考えたこともあった。両親にも相談したわ。でも、お店を始めたときの借金がまだ残っているし、その上私がファトシュレーンに入学しちゃったものだから人手もお金も不足しちゃっているの」

「………」

「少し考えたらわかることなのにね。魔法学校なんかに行っている暇があったら家の手伝いをしたほうがいいことくらい。でも、このお店に来た魔法使いの人に魔法の素質を見出されて、どうしても自分を試したくなったの。だから、無理を言ってファトシュレーンに入ったの。私、早く賢者になって魔法の力でこのお店を守っていきたいんだ」

「そっか。ノエルちゃん、頑張って!僕もできる限りのことをするよ!」

「ありがとうセシル君」

 代金を払い、ノエルちゃんとラウナちゃんに別れを告げて僕は少し急ぎ足で教会に向かった。

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