第3話〜集え若人!骨折損のくたびれ損!?〜後編
「みんなぁ、ごめんなさーい!」
戦闘が終わった後、彼女は目に涙をいっぱい溜めて僕達にひたすら頭を下げていた。
「いいって、そんな気にしなくても。ゴホ」
「そうだよ。エスカルも一瞬で全滅できたんだし。ゴホゴホ」
女の子二人は半ば安堵したように言う。
「まぁ、結果オーライというやつだが、もう少し加減してくれてもよいではないか。ウエッホゲホ!」
爆発時に起きた大量の煙を吸ってしまった僕達はしばらく咳が止まらなかった。
「ふむ、ここら辺でよいかのぉ」
しばらくまた森の中を歩き、ちょうど中央くらいまでやってきたところでドクターエックスがトンと持っていた杖をついた。
「こんなところまできてどうするんですか?」
「まさかここまで来て引き返せとか言わないでしょうね?」
マリノちゃんがげんなりとした顔で言う。
「今日、ここに来た目的はわしの可愛い息子達の家作りの第一工程じゃ。木々の様子や湿度の高さを調べて歩いておったのじゃが、ここならまぁちょうどいいじゃろう」
湿度を調べながら歩いていた?
僕達にはドクターエックスは普通に歩いていたようにしか見えなかった。
(相変わらず謎が多いね)
(うん…)
ノエルちゃんにひそひそと耳打ちをする。
「聞こえとるぞ」
「あっ…」
「えと、その…」
「まぁよい。とにかく今日は第一段階として敷地作りじゃ」
『敷地作り〜?』
聞くだけでも力仕事になりそうな感じだな。
「まずはこの辺りの木々を切り倒し、地面をならさねばいかん。セシル、ギルバート」
ああ、やっぱり。
なんとなく呼ばれることは覚悟していたよ。
「木を切り倒せばよいのだな?」
「そゆことじゃ」
ギルバートの問いにドクターはにやりと笑って頷く。
「ただし、炎の魔法で焼いてしまってはいかんぞ。人間の勝手な都合で焼かれてしまっては木もいたたまれないじゃろう。ちゃんと根元から切って材木として持って帰るのじゃ」
「ちょ、ちょっと!今日一日でそれ全部やるのぉ!?」
マリノちゃんが嫌な予感と言わんばかりに大声を張り上げる。
「そんなわけがあるか。お前達にやってもらうのはほんの一角だけじゃ。それに、助っ人もちゃんと呼んでおるし」
「え、どこに?」
「今はまだ来んよ。もう少ししたら来るじゃろうから、それまではこのメンバーで頼むぞ」
『はぁ〜い』
僕達はけだるさ半分に、それぞれ割り当てられた作業を開始した。
魔力を動力として動く魔動のこぎりを持ち、僕とギルバートはせっせと木を切り倒す作業に入る。
「はぁ〜、何だって僕達がこんなことをしなくちゃいけないんだろう」
「ぼやくなセシルよ。これも、ドクターが我らのために考えてくれたことだ」
「いや絶対そんなことはないと思うんだけど…」
多分、ギルバートは銃の試し撃ちができたから満足しているんだろうなぁ。
僕は魔動のこぎりを木に食い込ませながら一本ずつ慎重に木を切り倒していく。
「ギルバート、慣れてるね…」
僕よりも明らかに作業のスピードが速いギルバート。
「そうか?このような作業は前の学校ではよくやっていたからな。それにしても魔力の力を使って動く道具とは便利なものだ」
ギルバートは感心しながらも、さらに作業のスピードを上げていく。
普段、こういう仕事に慣れていない僕はこの道具の振動だけでもう体力が限界なんだけどなぁ。
「こんにちは〜。ドクター、お手伝いに来ましたよぉ」
(このどこか間延びしたような声は…?)
僕は作業を中断し、声が聞こえたほうを向く。
「あれ、エリスちゃんじゃない!?」
マリノちゃんが意外な助っ人に口に手を当てて驚いている。
「あら、皆さん。どうしてここに?」
「それはこっちの台詞だよ」
「私達はドクターエックスの研究魔獣のための小屋作りに借り出されたんです」
「そうなんですか」
「向こうにはセシル君とギルちゃんもいるよ〜」
向こうでリプルちゃんが僕達を指差しているのが見えたので、見えるかどうかはわからないが一応軽く会釈をした。
彼女は会釈を返す代わりに僕達のほうに歩み寄ってきた。
「こんにちは。お二人はそんなものを持って何をしていらっしゃるんですか?」
「見てのとおり、倒木作業かな?」
「エリス殿はなぜこのようなところに一人で?」
「私はドクターエックスに呼ばれてきたんですよ。多分、皆さんのお手伝いをさせてもらうことになると思いますけど」
「そうなの?」
ドクターエックスの呼んだ助っ人がまさかエリスさんとは意外だったな。
「おぉ、エリス。そんなところにいたのか」
「ドクター、すみません。購買の棚卸をしていて遅くなってしまいました」
「よいよい。それで、早速じゃが男共に混じって倒木の作業を手伝ってやってはくれんか?まだ予定の半分も終わっとらんでな」
「わかりましたぁ」
エリスさんはにっこり微笑んで頷くと、そばにあった魔動のこぎりを手に取った。
「ちょ、ちょっとドクター!エリスさんは女の子ですよ!?」
「当たり前じゃろうが。どこをどうみたら、あやつが男に見える?」
「いや、そうじゃなくて女の子にあんなものを持たせたら危ないでしょう!?」
「それはどうかの?案外、お主よりもエリスのほうが器用にこなすかもしれんぞ?」
そんな無茶な、と思いつつも僕とギルバートは彼女の仕事ぶりを後ろから拝見する。
ギュイーン。
何とも嫌な音を立てながら、エリスさんは器用に木の根にのこぎりの刃を入れていく。そして、あっという間に一本切り倒してしまった。
「………」
「どうじゃ?お前よりも扱いになれたものじゃろ?」
呆けている僕にドクターエックスが当然と言わんばかりにニヤリと笑う。
「あやつは人間とドワーフのハーフじゃよ」
「!!」
「そう驚くことでもなかろう。魔法を習いに来る者は特に、普通の学校と比べて種族が多様じゃ。お前にもエルフやピクシー、はたまたそれらのハーフがクラスメートにいるじゃろ?」
確かに、そういわれてみればそうだ。別段、驚くようなことではない。
「ああみえて戦闘に慣れてもいる。強力な前衛になることは間違いないぞ?」
ドクターエックスは僕の肩をポンと叩くと、整地作業の確認をするためにマリノちゃん達が作業しているほうへと歩いていった。
「………」
「セシル、そのことは後で考えろ。今は、この作業を終わらせることが先決だ」
「うん、そうだね」
僕は小さく頷くと、考えるのをやめ再び倒木作業に入った。
森の開拓作業は太陽が山に隠れる少し前まで行われた。
「よし、今日のところはだいたいこんなものでよいじゃろ。後は、レアードの大工達に任せるとするかの」
最初から大工に任せろよ……と突っ込みたかったのは山々だったが、相当疲労した僕達にそのことを言うだけの力を持つ者はだれもいなかった。
「さて後は…」
ドクターエックスはさもわかっていたかのように切り開かれた森の一角を杖で指す。
そこには、怒りをあらわにして佇んでいるエスカルや森の動物達。
「まぁ、急に住処を奪われたんじゃ。当然じゃろうなぁ」
やっぱりこの人、先のことまでわかっていて僕らにこんなことをさせたのかー!
「お主らの特訓のことも忘れずにちゃんとメニューを組んでやるわしはまさに教師の鑑じゃな」
ドクターエックスは自慢の顎鬚を撫でながら愉快そうに笑っている。
『そんなぁー!!』
マリノちゃんとノエルちゃんの悲鳴がこだまする。
はぁ、今日はため息をついてばかりだな。
襲い掛かってくる魔物を目の前にしながらため息をつく。そのうちの一匹がエリスさんに向かって突進していく。
「もう、話し合いで解決しようとしない人は嫌いです!」
エリスさんは熊の爪攻撃を軽々とかわすと、そのまま素手で熊の頬を殴った。
「!?」
熊が思わぬ一撃にひるむ。
武器も何もつけていないパンチなのに、あんな大きな熊をひるませるなんて。
『あぁ見えて戦闘に慣れてもいる。強力な前衛になることは間違いないぞ?』
ドクターエックスの言葉が思い起こされる。
「セシル君、どうするの?」
「どうするって言われてもドクターエックスもいるし逃げるのは難しいよ」
「うむ。かわいそうだが、倒すしかあるまい。なに、貴様らの死は我の経験となり一生生きていく……」
ギルバートはわけのわからないことをつぶやく。どうせ、銃の試し撃ちができる程度にしか考えていないんだろうけど。
「とにかく倒そう。正直、早く帰りたい…」
僕は率直な感想を述べ、剣を構えた。
さっきの戦闘と違い、熊や鹿型の魔物もいたが、基本はエスカルが主体の森。
小さなエスカルは炎で倒し、そのほかの魔物は物理攻撃で倒す。
「ひゃ!?何、このでっかいエスカル!」
マリノちゃんは自分の目の前に立ちはだかる普通のエスカルよりも何倍も大きいエスカルに炎の魔法を浴びせるが、殻にこもられて中身にはまったくダメージを与えられていない。
「多分、それはラジカルだよ。本で読んだことがあるよ!」
ナックルをつけた腕を振り回しながらリプルちゃんが答える。
僕もその名に聞き覚えがあった。確か、その殻はどんな鉱物よりも硬く、並大抵の物理攻撃じゃ歯が立たない。それに加えて、ラジカルは酸を吐き出せるものが多いらしい。いくら魔法を付加していても酸が金属部分に触れればひとたまりもない。
(注意しなくちゃ)
僕達はまず、ラジカルは放っておいてその他の魔物達を先に片付けていった。
ドクターエックスの言ったとおり、エリスさんは接近戦に関してはかなりのやり手で彼女は拳一本で大型の魔物を中心になぎ倒していった。
「セシル、どけ!いくらあの大カタツムリとて銃弾には勝てまい!」
ギルバートは殻に向けて自慢の銃を撃つ。
カキィン!
銃弾は甲高い音を立てて、そのまま斜め上空に反射して飛んでいった。
「キシャー!」
殻から顔を出したラジカルは反撃と言わんばかりに酸の液体を周囲に吐く。
「危ない!」
「キャイ〜ン!」
何とも奇妙な悲鳴をあげてエリスさんが後ろに飛び退く。
「う〜む、これはやっぱり中身が出てきたときを狙って魔法を当てるしかないね」
僕の一言に全員が小さく頷く。
ラジカルもギルバートの攻撃を受けたせいか、なかなか殻から顔を出そうとしない。
スナイパーのようにひたすら、相手が動くのを待つ。
しばらく待ち続け、業を煮やしたのかラジカルの殻が小刻みに揺れる。そして――
『今だ!!』
僕とマリノちゃん、ノエルちゃんの三人の炎系魔法が出てきたばかりのラジカルの顔に直撃する。
「ピィー!!」
見た目の無骨さとは裏腹に甲高い悲鳴をあげながら、ラジカルは殻を残して消滅した。
「うむ、見事じゃ」
パチパチと乾いた拍手が後ろから聞こえ、ドクターエックスが賛美の言葉を贈る。
「ラジカルの殻はどうします?」
「ふむ、持って帰るとするかな。そいつを素材にしてエスカル系の魔物を作れるかもしれん」
「わかりました」
僕は頷き、ラジカルの殻の下に手を入れる。
「ん……ぐぐ、これは……重い」
一人で持てる自信はなかったけど、この重さは予想以上だ。
「どれ、我輩にも持たせろ」
ギルバートが、さっきの僕と同じように殻の下に手を入れて持ち上げようとする。
「ふおおおおお!ぬぅおおおお!!」
ギルバートは頑張って、彼の腰くらいの高さまで殻を持ち上げてさらに少しだけ歩いたが、そこで力尽きてしまう」
「ドクター、これは生半可な重さではないぞ」
「そうか。ではエリス」
エリスさんは「はい」と言って頷くと、僕達が苦戦したラジカルの殻を簡単に持ち上げた。
「力仕事なら任せてください。私にはドワーフの血も半分流れていますので」
唖然とした顔の僕達を見ながら優しく微笑むエリスさん。
どうしてこんな人が購買なんかの店員なんてやっているのか、ファトシュレーンの謎だ。




