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第3話〜集え若人!骨折損のくたびれ損!?〜前編

 グラッツ先生から贈られた武器を持って今日も僕はコロシアムに向かう。

 ファトシュレーンは実力主義の魔法学校なので、授業の一環として擬似魔物や対人戦を行っている。もちろん、ギルバートのような戦士養成学校とは違うから戦闘といってもかなり限定されたルールの範囲での戦闘になる。今までは……。

 一ヶ月前、レアードの街を、ファトシュレーンを突然襲った謎の魔物達。生徒会の人達の調べで近くの丘が魔物の発生地点だということはわかったのだが、どうやって出現しているのかはわからず、現在も調査中である。そのため、ファトシュレーンの教育方針が少しずつ変わりつつあった。魔物が初めてファトシュレーンを襲った日、ほとんどの生徒達が何もできなかったことを指摘したドクターエックスは、模擬戦闘のカリキュラムの見直しと強化を提案。今では、全ての階級で模擬戦闘の授業が行われている。そして、一部では箒以外の武器の使用も認められている。というのも、ドクターエックスが異常に魔物を強くしすぎたため、魔法だけで倒すのは無理だという指摘が指導教員から上がったためである。そのため、主に上級魔術士クラスの戦闘訓練から武器の自由化が認められている。

 まぁ、どのクラスでもそれを守らない生徒は若干いるらしいが。

 話が少し学校全体のことになってしまったが、これから僕がコロシアムに行くのは授業だからじゃない。現に時刻は四時を回っており、とっくに放課後の時間帯だ。

 なぜ、そんな時間にコロシアムに行くのかというと、前にも話したとおり僕は一週間ほど前に高等魔術の習得を巡ってグラッツ先生達と対立することになった。その時に魔法力の強化には実戦が一番だというアドバイスをもらったため、ドクターエックスに無理を言ってお願いをして――本人はものすごく嬉しそうだったが――彼の魔物の実験台となり、自由戦闘を行わせてもらうことになったのだ。

 もちろん、授業ではないのでメンバーはマリノちゃんやノエルちゃんといった僕が普段付き合いを持っているメンバー達だ。

 最初は彼女達を巻き込みたくなくて、パーティに参加することを拒否したんだけど彼女達にもそれぞれ持っている目標があり、そのために参加するだけだという言い分で結局パーティへの参加を承諾したというわけだ。

 コロシアムに入ると、既にいつものメンバーが闘技場の中央で待機していた。もちろん、その中にドクターエックスもいる。

「ようやく来たか。皆、お主待ちじゃぞ?」

「すみません。掃除当番に引っかかっていたもので」

「そうだったんだ。お疲れ様」

 ノエルちゃんがねぎらいの言葉をかけてくれる。

「さて、今日の特訓じゃが、今日は課外授業とする」

『課外授業?』

 全員がドクターエックスの言葉をオウム返しに繰り返した。

「エスカルの森へ行く。たまにはここの魔物以外のタイプとも戦っておいたほうが気晴らしになってよいじゃろう?」

 どういう気遣いなんだろうと、僕を含む数人が思う。

 ただ約一名を除いて。

「フハハハ!早くこの銃の試し撃ちがしたいー!!早速そのエスカルの森とやらに行くぞ!」

 闘えれば何でもいいのかお前は…。

 僕を含む全員がそんな目をした。

「わかりました。行きましょう」

 断る理由なんかないので僕もドクターエックスの特訓メニューに賛成する。この時からなんかマリノちゃん達女の子の反応が鈍いような気がしたんだけど気のせいかな。

 エスカルの森はレアードからほんのニ、三キロほど北北東に進んだところにある小さな森だ。湿度が高く、普通の森にいるような獣系の魔物よりも沼地に住んでいるような魔物のほうが多いのが特徴だ。

「でも、どうして急にエスカルの森に行こうなんて言い出したんです?」

 僕がずっと思っていた疑問をぶつける。

「実は、わしの研究室がそろそろ魔物達でいっぱいになりそうなんじゃよ。というか、むしろいっぱいなんじゃ。魔物研究をすることがわしの専門じゃから特に困りはせんのだが、何度か脱走者を生徒会の奴らに抑えてもらったことがあったんじゃ」

「えぇ!危ないなぁ…」

 マリノちゃんが驚きの表情で言う。

「わしが極秘裏に作っている魔物専用の保管所も二つほど満杯になってしまっている。流石にこれ以上、勝手に保管所を作れば学校側も黙ってはおるまいし、どうしようかと悩んでおったんじゃ」

「それと、この課外授業とどう関係があるんですか?」

「つまりじゃ、学校側にばれないようにすこ〜し遠くに、なおかつわしの目が行き届く範囲の場所に保管所を作ろうというわけじゃ」

「何それ〜!それって、自分の目的のためにあたし達を利用しているんじゃないの!」

 マリノちゃんが肩をいからせて怒るが、ドクターエックスは平然とした顔で「そうじゃよ」と自慢の顎鬚をなでる。

「お主らもここいらの魔物を相手に経験を積めて一石二鳥ではないか」

 ドクターエックスはそう言って愉快そうに笑う。

 多分、マリノちゃんが心配しているのはその先のことだと思うんだけど。

 



 ファトシュレーンの生徒は意外とレアードの街近辺の情報に疎い。

 戦闘訓練もあるのに意外だと思うかもしれないが、その理由を作っているのがこのドクターエックスだったりする。

 基本的に、ファトシュレーンの戦闘実習は彼の改造した魔物を相手にすることになるからだ。

今回のような課外実習なんて基本的にまったくなく、たまに遠足とかで出かけて大怪我をして帰ってくる生徒もザラではない。

 彼らの大半は魔物から逃げている途中で転んで足の骨を折ったとかそういうのだけれどね。

 そういうわけで意外と皆、レアードの周辺の地理は把握していない。

 僕もエスカルの森に来るのは半年前の遠足のとき以来になる。

「ふぇぇ、何かじめじめするぅ〜」

 エスカルの森が初めてのリプルちゃんが気持ち悪そうに言う。

 参考のために言っておくと、エスカルの森の湿度は半端なく高い。それこそ、夏場なら少し歩いただけで汗だくになってしまうほどだ。

「私も何度来てもこの森の感じは慣れないなぁ…」

 ノエルちゃんもため息混じりにつぶやく。

「ほれ、ぶつくさ言ってないでもっとしゃきしゃき歩かんかい!」

 そういうドクターエックスの表情は森に入る前と比べて晴れやかである。大方、ここに生息しているエスカルもこの人の餌食になるんだろうな。

「む、来たぞ!!」

 気配を察知したギルバートが持ってきた銃を構える。

 ああ、地獄のときがとうとう来たか。

 まさかこんなに早く出てくるなんて思わなかったなぁ。しかも、ずいぶんとまた他の仲間を連れて大群で。

「ほれほれ、さっさと倒しにいかんかい」

 ドクターエックスは楽しそうである。

(まるで、狩りでしとめた獲物を横取りする獣みたいだよ)

 とはいえ、倒さないとこっちがやられるから戦うしかない。

 はぁ、帰ったら念入りに洗濯しないと…。

 そんなことを思いながら僕はグラッツ先生がプレゼントしてくれた新しい剣を構える。

 エスカルの動きは実に簡単で、自分達の近くにいる者に対して体当たりしかしてこない。そのなけなしの体当たりも僕達とは身長さがありすぎる故にほとんどが、膝の高さほどまでしか届かない。

 別段驚異ではないのだが――

「ひゃあ!スカートにくっついたぁ!」

「うぇぇん、気持ち悪いよぉ…」

「いや〜ん、こないでぇ!」

 マリノちゃん達はあまりの気持ち悪さにその場に逃げ惑っている。

 いろんな意味でこちらも驚異である。

「なんて言っている場合じゃなかったな」

 僕は素早く魔法を唱えると、いつものように剣に付加する術式を加える。

 今回はナメクジ系の魔物によく効く炎の魔法だ。ただ、炎の魔法を武器に付加するときは気をつけないといけない。

 鉄が炎の熱に耐えきれず溶けてしまう場合があるのだ。しかし、この剣はどうやらそんな心配はないみたいだった。

(さすがグラッツ先生。僕達の得意分野をわかってくれているなぁ)

 僕は遠慮なく、炎をまとった剣をエスカルに向かって振り下ろす。身長さがあるため、かなり当てにくいが、まずは一匹を撃破。

ああ、ちなみにもし剣に魔法を付加させるときにそういう状況に陥らないようにするにその魔法の耐性魔法をかけておけばよい。

「おお、素晴らしい!素晴らしいぞぉ!」

 少し離れたところではギルバートが半狂乱状態になりながら、新しい銃を乱射している。彼は問題なさそうだな。

 あと、問題なのはマリノちゃん達だな。

 僕は、悪戦苦闘している女の子達のほうをむく。

 マリノちゃんとノエルちゃんは武器が短剣と箒だからか、切っ先や箒の先端を使って、脚の上を這い上がってくるエスカルを落としているが、リプルちゃんだけはその可愛らしい拳自体が武器ため、触るに触れないでいる。

「いや〜ん、離れて〜!」

 不必要に体をうねらすリプルちゃん。

 う〜む、これはこれで少しエロティックな感じだな。それに可愛いからあえてそのままにしてみようかとも考えた。

(いや、止めておこう)

 宣言します。

 僕は臆病者(チキン)でした。

 リプルちゃんの足についているエスカルをアロー系の炎魔法で落とす。間違っても彼女の足には火傷一つつけていない。

「リプルちゃん、魔法だよ魔法!」

 僕が言うと、リプルちゃんも気持ち悪い原因が去って少し安心したのか炎魔法の詠唱を始める。

 いったん集中力が高まるとどんなことも気にならないのがリプルちゃんの長所だ。

「エクスプロード!」

 げ、その魔法は炎系の上位魔法じゃないか。

 案の定、僕達の周囲でものすごい爆発音がしてあたり一面が一瞬にして茶色い焼け野原と化したのだった。


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