第2話〜決意〜
昼食を食べ終え、マリノちゃんも満足したところで僕達は学生食堂を後にした。
「あ、購買に寄っていくから皆は先に帰ってて」
教室に戻る途中でノエルちゃんが遠慮がちにそう言った。
「あたしも行くよ。食後のアイスを買いに行きたいし」
「わーい、私もアイス食べるー!」
「お前達、食事をした後だというに…」
マリノちゃんとリプルちゃんのやり取りを見てギルバートが呆れたように息を吐く。
結局、皆で購買に行くことになった。
昼休みも終わりに近づいているためか、人はあまりいない。
「いらっしゃいませ〜」
そういえば、ここの売り子の女の子ともご無沙汰だった気がする。
最近、魔物の事件や試験で忙しくて昼食をろくにとる暇がなかった。
ノエルちゃんは文房具売り場に行き、マリノちゃんとリプルちゃんはアイス売り場に行く。ギルバートもだいぶここの勉強にも慣れてきたのか参考書を見て回っている。
(僕はどうしようかな…)
一緒に購買にきたものの特にすることがないのは僕だけのようだ。
「あの、セシルさん?」
不意に後ろから声をかけられた。
僕の後ろには、カウンター越しに売り子の女の子が立っていた。
「やっぱりセシルさんでしたね。最近すっかり購買に来なくなったので心配していましたよ。食いっぱぐれていないか」
笑いながら冗談を言う女の子に僕は苦笑した。やっぱり三年間いつもここにある、ある物を買いに来ていただけに顔はすっかり覚えられているようだ。
「安いがうまいパン、まだあります?」
僕は女の子の反応を確認するように聞いてみる。
「今日はもう売り切れですよ」
女の子は微笑しながら言う。
僕も思わず笑ってしまった。
「美味しいんですよね、安いがうまいパン」
「ええ。お腹に十分溜まるのに銅貨三枚ですむのは非常にありがたいですよ」
僕はそう言ってまた微笑する。
「セシル君、エリスちゃんと知り合いだったの?」
ノエルちゃんがノートを二冊手に持ちながら聞く。
「いや、今日が初めて…」
「そんなことはないですよ。いつも安いがうまいパンを買ってくれる常連さんです」
エリスさんは僕の言葉を遮り、屈託のない顔で微笑む。
その後、ノエルちゃん、マリノちゃんリプルちゃんの順に会計を済ませた。
ギルバートは参考書を諦めたようである。
「ところで、皆さん宛にお荷物が届いているのですが…」
「え?」
「僕達全員にですか?」
僕の問いにエリスさんは小さく頷いた。
「グラッツ先生からなんですけど、私一人じゃ少し重いのでセシルさんとギルバートさんにお手伝いしてほしいのですが…」
特に断る理由はないので、僕とギルバートはエリスさんの後について、倉庫から荷物を運び出す。そうして置かれた六つの包みは、どれも大きさが違った。
包みには魔法文字で僕達の名前が書いてあった。
「ご自分のお名前の物を受け取るように、とのことです」
一応、エリスさんが説明する。
僕の包みは長めで、少し重い。
「何かギルバートとセシルの包みはやけに大きいね?」
マリノちゃんが物欲しそうな目で見ながら言う。そう言うマリノちゃんの包みは僕と同じ細長だが、長さと重さがぜんぜん違った。
まさか、これって…。
「これは素晴らしい!!」
僕が中身におおよその見当をつけ始めたとき、ギルバートが感嘆の声をあげた。
何がすごいのかと思ってみてみたら……。
そこにはこれぞ軍人魂と言わんばかりにギルバートが黒く艶のある銃を振り回していました。中に入っていたのはやっぱり僕達が普段愛用している……。
「…ってギルバート!?」
「おお、セシル!見るがいい、この艶と銃身を!これは、一昔前に戦争で使われたハルバードと呼ばれる銃である!こんなところでこれを手に取るとは……。我輩、感無量である!」
ギルバートはそう言って、ますます銃を振り回す。
「わわ、ギルバート!よしなってば!」
「ギルちゃん、駄目だよぉ!」
リプルちゃんの必死の制止も今は寝耳に水。
購買にいた数人の生徒達も悲鳴をあげている。
「ギルバート、落ち着け!あんまり騒ぎを大きくするな!」
「ガハハハ!皆、我輩にひれ伏すがよい!」
ああ、やばいなぁ。あんまり騒ぎ立てて、先生達に見つかりでもしたら僕らまでとばっちりを食らう羽目になるぞ。
「ギルバート、落ち着いてくれよぉ!」
「こらー!何事だ!」
ほら、来ちゃったじゃないか!
マリノちゃんやノエルちゃんもその声に顔を真っ青にしている。しかし、来たのは僕達の予想に反して先生達ではなく、ファトシュレーンの若き警備員フレッドさんだった。
「おお、フレッドではないか!見よ、この美しきフォルムを!これは…」
「のわわ、ギルバート!?は、早くその銃をしまえー!」
さすがのフレッドさんもギルバートが銃を乱射しようとしているのを見るなり、びっくりして腰を抜かしてしまった。
「なぜである!?我輩のこの気持ちが伝わらないというのか貴様ぁ!」
「そ、そうじゃないだろうがー!」
ああ、もう…。
バチコーン!!
「………」
僕の放った雷の拳を背中に受け、ギルバートは無言のまま床に倒れた。
ようやく平和が戻った購買にエリスさんが必死に謝りながらフレッドにことの経緯を説明した。
「まぁ、事情はわかったけどさ、それなら次回からは放課後に人気のないところで呼び出すとかにしてくれよ。一瞬、また魔物に襲撃されたのかと冷や冷やしたじゃないか」
「本当にすみませんー」
「気をつけてくれよ。じゃ、俺は仕事に戻るから」
「あ、実はフレッドさんにもグラッツ先生から預かっているお荷物があるんです」
エリスさんはそう言うと、カウンターの上の細長い包みを彼に手渡す。
「フレッドさん、きっとこれは僕達が普段戦闘で使っている武器が入っていると思います」
「…そうっぽいな。俺のは手紙がついていたぜ」
「そういえばあんたのにも手紙みたいのが挟まっていたんじゃない?」
マリノちゃんがそう言って僕の包みに挟んであった手紙を手渡した。
「なんて書いてあるの?」
リプルちゃんが興味津々な顔で手紙の封を開ける僕を見ている。
「ええと、『この間はご苦労様。突然の試験だったにもかかわらず君達の動きは予想以上によかった。俺が試験官なら迷うことなく合格……としてやりたかったが、こればかりはしょうがないことだ。だが、人はどんなことでも一人のときよりも多人数で協力し合ったほうが成長の度合いが高い。だから、今回の結果にめげずにお前が共に歩むと決めた仲間達とさらなる精進を目指して欲しい。その助けになるかはわからないが、心ばかりの品を贈ろう。教師が生徒に贈ってやるべきものではないと思うが、決して無駄にはならないと思う。有効に利用してくれ』グラッツより」
「じゃあ、やっぱりこれは…」
「私達が普段戦闘で使用している武器?」
マリノちゃんとノエルちゃんは改めて自分が手にしている包みを見下ろした。
(グラッツ先生、ありがとうございます。先生の贈り物は、決して無駄にはしません)
僕は包みを抱えながら、絶対に賢者になってやると心に誓った。