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第10話〜冷めたホットミルク〜中編

 教会の重い扉をゆっくりと閉めながらリプルはホッと息をついた。

(ありがと、神父様)

 リプルは心の中で神父にお礼を言う。

 今日の夜、子供達に会いたいからとあらかじめリプルが神父の了承を取っていたのだ。

 リプルは暗い礼拝堂をソロソロと歩き、奥の扉から子供達の住まいに入る。

(あの子達の部屋はどこだったかな)

 リプルはうろおぼえで彼らが寝ている部屋を探す。角を曲がったすぐの部屋だということは覚えているのだが……。

(ここ、ここ)

 リプルはまずは部屋につけたことに一安心。そして、一回深呼吸をしてからコンコンと扉をノックした。

 反応はなかったが、神父様から話は聞いているはずなのでかまわず入る。

「やっぱり二人とも起きてたね」

「そりゃ、神父様から姉ちゃんが来るって聞いてたからな」

「ちゃんと起きているよ、ね?」

「だったら返事くらいしてよね」

「はいはい…」

 一人はぶっきらぼうに、もう一人は「ごめんね」と謝りながら微笑んだ。

「それで、何の用?」

「うん、お散歩に誘いに来たの」

 リプルちゃんの言葉に二人の表情がクッと硬くなる。

「姉ちゃん、俺たちに喧嘩を売りにきたのか?」

「そんなつもりじゃないよ!ただね、だいぶ街の修復作業も進んで、今ではすっかりちゃんと歩ける道になったんだよ。来る途中に何回か空を見上げたけど、お星様が綺麗だった」

「………」

「今日はね、ホットミルクも作ってきたんだよ。あとはぁ、ノエルちゃんからもらったあま〜いこんぺーとう!」

 リプルは嬉しそうに話しながら、二人の少年に見せる。

「お姉ちゃん、それはここで食べるわけには行かないの?」

「あ、ごめんね。まだ心の準備ができてなかった?そうだよね。いきなり誘っても行きづらいよね。じゃあまずはホットミルクで温まってからにしようか。夏とはいえ夜はけっこう冷えるもんねぇ〜」

 リプルはにこにこ笑いながら持ってきた出納からホットミルクを注ぐ。

「はい、熱いからフーフーしながら飲んでね」

「ふっざけんな!」

 少年は差し延べられたリプルの手をはじく。

 出納のカップが宙を舞い、中のホットミルクが床に流れる。

「ちょっと年上だからっていつも偉そうにしやがって!俺たちを馬鹿にすんなよ!」

「レシオ、やめなって」

 もう一人の少年がリプルに食ってかかった少年、レシオを止めに入る。

「俺たちがどういう目にあったのか姉ちゃんにわかんのかよ!俺たちのことを何もわかってもないくせに偉そうに年上ぶんな!」

「べ、別に私はそんなつもりで言ったわけじゃ…」

「そんなつもりじゃなかったらどんなつもりなんだよ!俺たちのことをわかってくれてるのなら、神父様やセシル兄ちゃんみたいに放っておいてくれればいいんだよ!こんなことをされるほうが余計に迷惑だ!」

「!!」

「だいたい、そんなちんけな菓子とただ温めただけの牛乳で俺たちの気を引こうってのがお笑いだぜ。ここのチビどもじゃあるまいし」

 パン!

 気がついたらリプルの右手はレシオの頬を赤く腫れるくらいに叩いていた。

「へ、へへ…。よーやく本性現したかよ…」

「何てこと言うの!」

「!?」

 予想外の大声と涙にレシオは思わずたじろいだ。

「一緒に暮らしてきた皆のこと悪く言うなんて、信じられないよ…!」

 リプルは止まらない涙をそのままに部屋を出ていった。



「うわ!?」

「ひゃう!?」

 ちょうど角を曲がった辺りでリプルちゃんと激突した。

「せ、セシル君!?」

 涙で赤くなった顔をしたリプルちゃんが悲鳴に似た声をあげる。

「あ、えっと……」

 取り乱す暇もなく、僕達は教会の礼拝堂で落ち着いて話をすることにした。

「どうしても、何とかしてあげたかったの」

 リプルちゃんは、しゃくりあげながらだったが、僕に今までの経緯を話してくれた。

「そうだったのか」

「でも、あんなことになって…。私、私はただ、皆でもう一度仲良くお外で遊びたかっただけなのに!」

 リプルちゃんの目にまた涙が溢れる。

「リプルちゃんはすごいよね」

「え?」

 真っ赤な顔でリプルちゃんが僕を見上げる。

「レシオ君の言うとおり、僕や神父様だったら彼らのことを放っておいただろう。彼らを傷つけるのが怖いから。傷に塩を塗るって言う言葉があるけど、今の彼らにそんなことをしたら余計に塞ぎこんでしまうのがわかっていたから」

「じゃあ、私はいけないことをしたのかなぁ…」

「ううん、そういうことを言っているんじゃないよ。いずれにせよ、このままではいけないわけだし、いつかは荒治療に出ることも必要だったはずさ。遅かれ早かれね」

「………」

「もう少し落ち着いてきたら、今度は僕も一緒に行こう。レシオ君たちだって本心からリプルちゃんのことを嫌ってはいないはずだよ。ただ、リプルちゃんが強引に連れ出そうとしたからたまたま、ああなってしまっただけだから」

「そうかなぁ…。レシオ君には以前にもお姉さんぶるなって言われたことあるし…」

「それはきっとリプルちゃんのことが好きだからそう言ったんじゃないのかな?」

「私のことが好きだから?」

「よくあるじゃない。親が何でもかんでも子供にしてあげようとすると、子供が嫌がること。それとおんなじだよ。一種の照れ隠しみたいなものかな」

「照れ隠し…」

 リプルちゃんは何を想像したのだろうか。小さな笑みをこぼした。

「さぁ、行こう」

「うん!」

 僕達は椅子から立ち上がり、再びレシオ君たちの部屋に行くために奥の扉を開けようとしたが、その前に太く鈍い音がして扉が開いた。


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