第10話〜冷めたホットミルク〜前編
夜のファトシュレーンの校舎を僕は急いで走っていた。
今の時間なら街の何でも屋がギリギリ空いているはずだ。とっくに寮の門限も過ぎているから急ぎつつも、先生達に見つからないように学校を抜け出さないと。
そもそもなんでこんな時間に街に買い物に行くかというと、今日の朝まで話は遡る。
ギルバートがまたもや、あろうことか先生と対立してしまったため、コロシアムで決闘をする形になってしまったのだ。それだけだったらよかったんだけど、そうはいかないのが僕の運のなさがなせる業だ。ドクターエックスの提案で、むりやり魔物も含めた集団戦を仕組まれてしまったのだ。戦闘自体は何とか押し気味に進め、最後は僕たち全員の魔法集中砲火で決着がついて、ギルバートは無事賭けに勝ち、先生方の個人授業は避けられたわけだが、それではやはり期末が不安だということでひそかにセリカ先生を通して僕とウェスリーでギルバートの勉強を見てあげることになったのだ。といっても、ほとんどウェスリーが付きっきりで教えているので、どちらかというと僕はあまり出番がなかったりする。そこをウェスリーに指摘され、暇があるなら夜食でも買ってこいと言われて今に至る。
それにしてもウェスリーの無茶振りにも困ったものだ。夜もだいぶ更けてきているというのに夜食を買って来いだなんて。そもそもこんな時間に店が空いているわけないじゃないか。あの時は僕も場の雰囲気で出てきてしまったけど、今こうやって走っている途中でそのことに気づいたのだ。
(何でも屋さん開いていますように)
僕は何とか校門を抜け、夜の街へとくりだした。
幸い、店は閉店ギリギリだったため売れ残っていた安い菓子パンなどを適当に買って店を後にした。
(あれ?)
街から学校に戻る途中で、小さな影を見かけた僕は反射的にその場に隠れた。
あの影の大きさから先生でないことはわかっているが、念のためだ。
(あれは……リプルちゃん?)
ポニーテールの影ですぐに彼女だということがわかったが、どうしてこんな時間にあの子が街をうろついているんだろう。僕のように夜食を買いにきたわけではないだろうし……。
よくよく見ると、彼女は出納のようなものを首からぶら下げていた。
(少し気になるな…)
僕は心の中でウェスリーとギルバートに謝辞を入れると、リプルちゃんが通っていった道を同じようにつけていった。
リプルちゃんが向かった場所は――
(教会?)
何でまたこんな時間に教会に行くんだ?
僕はこれ以上追ってよいものか考えたが、ここまで来ておいて今更帰るわけにも行かなかったので五分ほど間を空けてから僕も教会の重い扉を開いた。そもそもこんな時間に教会の扉に鍵がかかっていないことが不思議なのだが。
礼拝堂を通り、奥の扉から子供達の部屋へ通じる廊下を歩いていく。礼拝が目的じゃなかったら、リプルちゃんはきっと子供達に会いにきたに違いない。
「……現した…」
「……こと…の!」
うん?すぐ近くから大声が聞こえる。
声の片方はリプルちゃんっぽいけど……。
僕はその声をたどりながら静かに部屋の場所を探った。




