第9話〜喧嘩上等!続・ギルバート奮闘記〜後編
約束の十時。
僕はいつの間にかいつものメンバーと一緒にコロシアムの観客席にいた。
僕の横には――
観戦用の缶ジュースを購買で買って飲んでいるウェスリー。
これから面白いことが始まることに期待いっぱいのマリノちゃん。
先生とギルバートの両者を心配そうに見下ろすノエルちゃん。
試合前にお仕置きの鉄拳(?) をギルバートに食らわせておきながら、興味津々な顔のリプルちゃん。
ノエルちゃんを誘ったときに、たまたまその場に居合わせたラウナちゃん。
観戦メンバーだけで見ても、何とも奇妙だと思う。
「ギルバート、もう一度約束を確認するぞ!私がこれに勝てば、お前は本当に大人しく先生方の授業を受けるのだな?」
「愚問だ。ダイゴ殿こそ、負けたときの覚悟はよろしいな?」
「そういうことは勝ってからいくらでも言うことだ、ギルバートぉ!」
いよいよ試合が始まった。
両者が闘技場を同時に蹴って走り出す。
「ちょ〜っと待ったー!!」
二人が激突する瞬間に突如割って入ってきた謎の飛行物体。乗っていたのは――
「グラッツ先生!」
「ドクターエックス!?」
あぁ、またこの二人か。
この二人が一緒にやってくるといつもろくなことがないような気がする。
「教師の職務を忘れ、生徒との挑発に乗ってこのようなことをしでかすとは怠慢じゃのぉ、ダイゴ先生」
「ドクターエックスにグラッツ先生!職務に逆らった始末は覚悟の上です!ですのでここはお引き取りください!」
「ダイゴ先生、俺とドクターは何も先生を責めに来たわけじゃないんですよ」
「!?」
「せっかくこのようなしかるべき舞台が整っておるし、よく見ればあそこに我が研究の実験生もおる」
げ、やっぱり僕達のほうに目をやってる。
「そこでじゃ、何も一対一の果し合いにせんでもよかろう。ダイゴ先生、よければお主も一緒にワシの実験に付き合ってくれぬかのぉ。その代わりと言っては何じゃが、始末のことはできる限りフォローしてやろう」
「やはりそういうことか。ドクター、貴方が交換条件を出すときはいつも嫌な予感がします」
「フォッフォッフォ、受けるかどうかは先生しだいじゃ。ま、向こうの実験生達に拒否権はないがの」
「えぇー!」
「そんなのありかよぉ!」
マリノちゃんとウェスリーがブーイングを飛ばすが、ドクターエックスは相変わらず自慢の顎鬚を弄んでいる。
「いいでしょうドクター。ここまできて後には退けませんからな」
「そうこなくっちゃ!」
グラッツ先生はパチンと指を鳴らしてドクターの飛行物体から闘技場に降りた。
「グラッツ先生、何のつもりだ?」
「何のつもりってこういうつもりですよ」
グラッツ先生の斧がキラリと光る。
「俺はあの子達に賭けているんです。だから負けないようにしごいてあげるんですよ」
「…勝手な理屈だ」
ダイゴ先生は呆れたように肩をすくめるが「邪魔だけはするなよ」と言って再び戦いの舞台に立った。次いでドクターエックスが作り出した魔物達が次々と闘技場に現れる。
「何をボサっとしておる!お前たちも早く戦場に向かわんかい!」
「はぅぅ、結局こうなるんですかぁ」
「シュン…。嫌だなぁ…」
ノエルちゃんとリプルちゃんは深いため息を吐く。
「ウェスリー、後できっちりこの埋め合わせをしてもらうからね」
じっとりとした目つきでウェスリーを睨むマリノちゃん。
(はぁ、結局いつものパターンか)
戦場に立ちながら、そんなことを思う僕。
「仕方ないです。行きましょう、セシルさん」
もはや観念したようにつぶやくラウナちゃん。
「では、試合開始!」
ドクターエックスの合図で試合が再開される。
ダイゴ先生は魔物たちのガードの後ろにいる。脇には斧を構えて待っているグラッツ先生。
しょうがない、やるしかないか。
今回は前衛が僕とギルバートに加えてラウナちゃんがいてくれるから多少は心強い。
だけど油断は禁物。突進し過ぎないように注意しないと。
まずは僕のライトニングアローで魔物を牽制。
今回から加わったエスカルやサントロ街道の狼たちもいる。
全部弱点が違うからいちいち魔法を付加するのは得策ではない。ここは動きを鈍らせる補助系の魔法を付加したほうがいいだろう。
「シャイニングフォース!」
後ろから強力な光の波動が闘技場に降り注ぐ。
「今のは…」
ノエルちゃんが放った魔法のようだ。
「魔法力を波動にして放つときに目くらましの魔法を合成してみたの!しばらく魔物達の視界は悪くなっているはずよ!」
「サンキュー、ノエルちゃん!」
よし、これで物理攻撃があてやすく……。
「ニュートライザー!」
魔物達の奥から聞こえた太い声。
ダイゴ先生の異常回復の治癒魔法か!?
「甘いなハミルトン!付け焼刃の状態異常程度、何度でも治癒してやるぞ」
ダイゴ先生はもともと保健体育科目の先生。治癒魔法にもかなり精通していたことをすっかり忘れていた。
「ピギャア!」
「ぬぉ!」
「うわぁ!」
僕達のそばに近づいてきたエスカルがいきなり酸の混じった粘液を吐き出す。
「普通のエスカルなのに酸を吐いた!?」
「ドクターの強化改造のせいか!」
僕達は次々と前に出てきたエスカルの酸攻撃を必死でよける。
「うっとおしい!バーンフレアー!」
炎系魔法、バーンファイアの爆発の範囲を広めた魔法でエスカルを一掃する。強化されても弱点までは補強しきれなかったようだな。
「フハハハ、狼など我が銃の的にしかならぬわ!」
素早い狼のスピードもなんら苦にすることなくギルバートは銃で次々と狼を撃ち落す。ラウナちゃんの刀裁きも少し見ないうちにまたキレが出てきている。
そろそろ魔物の群れも終わりだな。徐々にグラッツ先生とダイゴ先生の姿が見えてきた。
(この間のようにはやられないぞ…!)
僕は一瞬後ろを振り返り、後衛の四人に指示を出した。
「ひたすら防御魔法で防御を固めるんだ!あの大斧と刀は手ごわい!」
「オッケー!」
「補助なら任せてよ!」
補助系魔法が得意のマリノちゃんとリプルちゃんが物理・魔法・回避の全ての防御と補助の魔法を僕達にかけた。
「なるほど、この前みたいにすぐにやられないようにするための作戦か。でも、残念だったな。魔法の防御膜を打ち消す魔法を習得している俺には無意味……だぱぁー!!」
ドゴォン!
グラッツ先生に特大級の雷が落ちる。
「あらあら、こんなところにいらしたんですねグラッツ先生」
闘技場の出入り口からひょっこりと顔を出したのはセリカ先生だった。
「グラッツ先生、駄目ですよぉ。仕事をサボってこんなことしてちゃ」
セリカ先生は倒れるグラッツ先生に向かってメっと人差し指を立てるが、指を差されている本人は気絶してピクリとも動かない。
「それじゃダイゴ先生、失礼します」
「あ、ああ…」
セリカ先生は浮遊魔法でグラッツ先生を持ち上げると、笑顔のまま闘技場を去っていった。
ダイゴ先生は何を言われるのか内心冷や冷やしていたようだった。
「い、いったい今のはなんだったのだ?」
「さ、さぁ…」
何だったんだろう、と言いかけて僕はハッと気がついた。
「今のうちだー!!」
僕の声にハッと我に返るダイゴ先生。しかし、その頃には僕達全員が放った魔法がダイゴ先生に集中放火していた。
「みぎゃー!!」
情けなく、そして奇妙な悲鳴をあげて華麗に宙を舞うダイゴ先生。
ありがとうダイゴ先生。
先生のことは一生忘れません。
「つまり、ここにこの式を代入すればいいわけだ」
「なるほど…。これでいいのか?」
「何やってるんだよ。全然違うじゃないか。こんな簡単な術式も解けないのかよ」
「うぬぬ、面目ない…」
戦い終わってギルバートの自室。
は黒焦げになったダイゴ先生の処理をドクターに任せて、僕とウェスリーはギルバートに勉強を教えていた。
「これで正解か、ウェスリー?」
「そうそう、それで……て、何で途中式があっているのに答えが違うんだよ」
「なぜだぁー!」
「こっちが言いたいわ!」
まるで漫才のような会話をしながら問題を解く二人。
こんな状態で本当に昇級試験は大丈夫なのだろうか。
「これでどうだ!」
「ぜんっぜん、ちげぇー!!」
こりゃあ、しばらくは特訓よりもギルバートの勉強に専念したほうがいいかな。




