〜夢を捨てた28歳と、空から落ちてきた宇宙人の共同生活〜
目次
序章:幼年時代
一章:子供を拾う
二章:車の両輪
終章:理想の行方
エピローグ:理想と現実の狭間で……
序章:夢を捨てる
……気取っていたんだ……
物語の主人公のように、自分は誰かを救う事が出来るって…本気で思っていたんだ……
幼い頃から、テレビや漫画で見る、ヒーローものや戦隊モノに憧れていた…
カッコ良かったのもあったし、どこの誰だかわからない他人の為に闘い、傷つき、倒れ、立ち上がる姿が、当時の俺の目に焼き付いて離れなかった。
そこで思った、俺もこんな風に誰かを救ってみたいって…
地区のごみ拾いには積極的に参加した、困ってそうな人を見掛けたら、決して見捨てたりしなかった。
今思えば全部自己満で、本当は自分に酔っていただけなのかも知れない…
それでも良いと思ってた。
……この手で、誰かの命を奪ってしまうまでは……。
一章:子供を拾う
午後の十一時頃、ビルの灯りが消え始める時間帯だ。
残業を終え、帰路の途中にある公園のベンチに腰を掛け、会社の隣に位置するコンビニで買った缶チューハイをビニール袋から一つ取り出し、缶チューハイのタブを垂直に起こし、手前に真っすぐ引き上げる。
するとプシュッという音が、誰もいない公園の静寂に溶けていく。
思わず溜め息が零れた…
このような日常を死ぬまで続けていくと思うと、怖くて仕方なかった…
しかし、そんな考えを巡らせることすら、自分にはおこがましく思えた。
「これが俺に相応しい現実か……」
知らぬ間に、自分に言い聞かせるかのような言葉が、自分の口から出ていることに気がついた。
そんな思考を誤魔化そうと、そっと夜空を見上げると、そこには街灯に妨げられながらも、綺麗に輝く星々が散らばっていた。
……似ていた……
俺の酷い勘違いのせいで死んだ、あいつの…訃報を受けたあの日の夜空と…
あの日も、星が綺麗だった。
何もかもがモノクロに見えたあの日、星だけが、確かな色彩を放っていた。
感傷に浸るのをやめるため、立ち上がろうとした。
――その時だった。
夜空の暗闇を照らすような、まばゆい光が、長い尾を引いて落ちてくることに気が付いた。
ただの流れ星ではない。光はみるみる大きくなっていき、一直線に、俺がいる公園へと近づいて来ている。
「な……ッ!?」
凄まじい風圧とともに、目の前の砂場に光の塊が突き刺さった。
ドォン!と鈍い音が夜の静寂を破って響き渡り、砂煙が大きく舞い上がる。
慌てて腕で顔を覆い、激しく咳き込みながらも視線を向けると、薄れていく煙の奥から――傷ひとつなく、すやすやと眠る、一見五〜六歳程の幼い子供の姿が現れた。
「は……?」
思わずそんな素っ頓狂な言葉が溢れた。
最初は幻覚かと思い、目を擦ったり色々してみたが、状況が変わることはなかった。何よりも触れる事が、現実だという決定的な証拠になってしまった。
「こんな事が起こりえるのか?」
しかし、実際目の前で事実として起きているわけだ。誘拐犯とでも思われるのは御免なので、見なかった事にして帰ろうと思ったが、胸の奥に眠る良心が、それを許してはくれなかった。
警察に届けようと思ったが、空から子供が落ちてきたんです、なんて言っても、信じてもらえないのは目に見えてるので、仕方なく家に連れて帰ることにした。
道中、通報されたりしないか心配だったが、幸い、誰にも見つからず家に帰って来れた。
俺の家は、お世辞にも綺麗とは言えない、二階建てアパートの201号室だ。
部屋の中は、必要最低限の物しか置かれていない殺風景な空間だった。
雑に畳まれた布団、小さなローテーブルに、服が数着かかったハンガーラック、実用的な家電製品、部屋の隅には小さなテレビが置いてある。
雑に畳まれた布団を足で器用に広げ、胸の中で静かに眠る子供を、そっと布団に降ろす。
子供が起きないことを確認し、就寝の準備を進める。布団は子供が使っているため、カーペットが敷いてある床で眠ることにした。
毎日七時半に鳴るアラームの音で目を覚ますと、布団にいたはずの子供の姿が見当たらないことに気がついた。
「……幻覚?」
困惑したのも束の間、隅っこでテレビを凝視している子供の姿が確認できた。なぜかその姿は、必死に何かを探しているように思えた。
「……お前は……何者なんだ?」
そんな質問を口にした後、俺の脳裏には様々な疑問が浮かんだ。
どこから来たのか? 人間なのか? そもそも言葉が通じるのか?
すると、子供はこちらを向き、少し思案する様子で言った。
「この世界でいう……宇宙人かな?」
俺の懸念は不要だったらしく、流暢な日本語でそんな突拍子もない事を言われ、俺たちはしばしの膠着状態に陥った。その間も子供……否、宇宙人は俺の顔をじっと見つめていた。
見た目は、肩まで無造作に伸びた黒髪に、夜空を彷彿とさせるネイビー色の瞳。目を閉じてさえいれば、どこにでもいる少しわんぱくな子供に見える。
すると、いきなり宇宙人が手を叩き、何か思い付いた様子で言った。
「一旦さ、自己紹介でもしない……?」
一瞬警戒したが、ずっと押し黙っている訳にもいかないため首を縦に振ると、宇宙人はその場から立ち上がり、笑顔で言った。
「僕の名前はホシ……!拾ってくれてありがとう!! 君の名前は?」
元気溌剌に自己紹介をする様子を見て、俺は苦笑いを浮かべながら言った。
「……俺の名前は東雲一真だ」
ここから、俺たちの奇妙な共同生活が始まった。




