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魔法が使えない落ちこぼれ少女、人格持ちの魔杖を拾ったら最強になりました ~クーデレ杖と一緒に魔法学園の頂点を目指します~  作者: 岩柄イズカ


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19話 別れ




「オオオオオオオオオオッ!!!」


 レイスが雄叫びを上げ、アリシアを護るように立ちはだかる。

 もはや朧気な肉体と意志しかもたないはずのレイスにはあり得ない裂帛の気迫。


「なんだこいつは……!?」


 ロキアは体勢を整えつつ杖を構え直した。


 本来、レイスという存在は確かに危険ではあるが、それはあくまで未熟な生徒にとってだ。

 死して幽体となった時点で魔法使いに重要な思考能力も魔力路も大半が失われる。教師であるロキアならば、レイスは特に警戒する必要もなく一蹴できる相手のはずだ。


 だがこの相手は……全霊で相手すべきだとロキアの直感が告げていた。


「――原初の黒。永久の静寂。混沌の深淵。囚われし理。全てを黒く塗り潰せ!」


 魔法使いの奥義とも言われる五小節の詠唱。呪文が完成した瞬間空間が歪み、黒い奔流がレイスを飲み込もうと襲い掛かった。


「オォォォォォオオオ!!」


 レイスも咆哮を上げ、灼熱の炎を放つ。

 二つの力が真正面から激突し、凄まじい衝撃波が部屋中を揺さぶった。

 激しくぶつかり合う炎と闇。だがレイスの身体は炎を放てば放つほど、徐々に薄らいでいく。


 ……肉体を失った時点で、魔力を生み出す魔力路も失われている。ならば後は、自分の魂を燃料にくべて魔法を使うしかない。


 身を削るように戦うレイスを、自分を護るように戦うその姿を、アリシアはずっと見ていた。


 その背中が、記憶にある誰かと重なる。


 急速に、失っていた記憶が蘇る。



 †



 暖かな午後の日差しが、窓から静かに差し込んでいた。


 私は頬杖をつきながら、テーブルの向かいで難しそうな魔導書を読んでいるお兄ちゃんを眺めていた。


「ねえお兄ちゃん。またそんな難しい本、読んでるの?」

「まあな。ほら、兄としては少しでも妹にかっこいいところを見せなきゃいけないだろ?」


 お兄ちゃんは肩をすくめて冗談っぽく笑う。でも本当は自分のためにいつも努力してくれてるのを知っていた。


「でもそんな難しいの読むよりも、私と遊んでほしいなぁ」


 わざと頬をぷくっと膨らませてみせると、お兄ちゃんは苦笑して本を閉じた。


「はいはいわかったよ。ほんと、アリシアには敵わないな」


 そう言ってくれたのが嬉しくて、お兄ちゃんの手を掴みそのまま庭へ引っ張っていった。


「今日は何して遊ぶ?」

「お兄ちゃんの魔法が見たい!」

「またそれか? アリシア、本当に好きだよな」

「だってお兄ちゃんが魔法を使ってるところ、すごくかっこいいんだもん。私も早くお兄ちゃんみたいになりたい!」

「……大丈夫だよ。お前ならきっと世界で一番の魔法使いになれる」

「……うーん」

「どうした? 何か不満そうだな?」

「だって、世界一の魔法使いってお兄ちゃんの小さい頃からの夢でしょ?」


 しばらく「うーん」と悩む。もちろん凄い魔法使いにはなりたいけれど、それよりももっと、ずっと、大好きなお兄ちゃんの夢が叶ってほしい。


 やがて名案が浮かんで、パチンと手を叩く。


「よし! 私がお兄ちゃんを世界一にして、私が世界で二番目の魔法使いになるね!」


 よくわからないけれど、私は他の人を強くしてあげる才能があるらしい。


 だったらこの力でこの力でお兄ちゃんを世界で一番の魔法使いにしてあげて、それから私が世界で二番目の魔法使いになればいい。


 そう言うと、お兄ちゃんはぷっと吹き出した。


「よしそれでいくか! じゃあ俺も最強の魔法使い目指して頑張らないとな」

「うん! 私もお手伝いするね」

 お兄ちゃんは嬉しそうに頭を撫でてくれた。

「最強の魔法使いになって、俺がお前のこと、絶対護ってやるからな」


 ――場面が切り替わる。


「アリ……シア……?」

『肯定。当機の名称は魔杖アリシア・オルディナリウスです』


 燃えさかる研究室。呆然と自分を見つめる青年にそう名乗った。瞬間、彼は膝から崩れ落ちた。肩を震わせて嗚咽を堪えている。


「ごめん……ごめん……。護って……やれなくて……」

『? あなたが当機の新しいマスターですか?』

「……ああ。……行こう、アリシア……。これ以上、お前を好きにはさせない」


 ――また、場面が切り替わる。


「いつかきっと、お前を大事にしてくれる人が現れる」


 ダンジョン最奥、追っ手にやられて血まみれになった青年が言った。


「きっとお前は、幸せになれるから」

「だからその時が来るまで、ここで待っていてくれ」


 青年は致命傷だった。もうどう見ても助からない。けれどそれでも、アリシアに優しく微笑んだ。


「大丈夫。お前は俺が護るから……」


「たとえ……どんな末路をたどることになっても……」


 †


 徐々にロキアの闇の奔流が、レイスの炎を呑み込み始める。

 肉体を持つロキアと、幽体でしかないレイス。どうあがいても埋められない差。


 ――勝てない。


 アリシアがそう思った瞬間、レイスは片手をアリシアに向けた。

 すると床に突き刺さった杖がひとりでに引き抜かれ、ふわりと宙に浮かぶ。


『……え?』


 レイスが腕を横に薙ぐと、杖は一直線にハルの元へ飛んだ。


「――アリシア!」


 ロキアも拘束魔法を維持する余力はなかったのだろう。ハルは自分を掴んでいた闇の手を振りほどくと手を伸ばし杖を掴む。


 杖がハルの手に収まった、それを見届けた次の瞬間――ロキアの放った闇がレイスの身体を飲み込んだ。


『あ……』


 レイスの身体は大半が失われ、光の粒子となって消えていく。

 アリシアは手を伸ばす。頬は涙で濡れていた。


『お兄ちゃん!!』


 その声に、フードの下で無貌のはずの顔が微笑んだ気がした。

 そのままレイスの身体が光の粒子となって霧散し、再び静寂が訪れた。



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