保守派と独立派と革新派の狭間で
「いや、だいたいさぁ」
「どれくらいわかってるけど!」
「ごめん俺もう頭働かない。先寝るわ。」
「ああ、その辺で雑魚寝していてくれ。」
次々と脱落者が出ていった。全員日々の激務に疲れ果てていたのだ。ついにショウタも寝てしまい、起きているのはセンカとユウキだけになった。
「みんな、風邪ひかないかな。」
「とりあえずその辺の毛布とかかけとこうぜ。」
「うーん、足りないなぁ。上着で我慢してもらおう。」
「明日学校だろ?ゼロで飛ばすにしても、4時には起きないとまずくないか?」
「うん。そうだね。」
2人はぼーっと荒れたテーブルを眺めた。
「まさか、国連宇宙機構の実力者と2人きりとはな。」
「まさか、辺境移民再建協会の代表と2人きりとはね。」
2人は少し笑った。
「ここのメンバーで、今の世界動かそうと思えば動かせるとか、信じられないよな……。」
ユウキが感慨深げに自分の手を眺めた。
「俺の一言で、政治も経済もひっくりかえっちまうなんて。怖いよ。」
「こっちも全くおんなじだよ。」
「まさか。センカは偉い人の前で担架切りまくってるじゃないか。」
「んー。そうだけどさ。」
2人はぽつりぽつりと、話し始めた。
「M作戦は、やっぱり間違いだったかもしれない。最近すごく思う。というより、M作戦のために、私たちが部長とかの要職を兼任したこと。やっぱだめだったなと思って。」
「しかしそうでなければ、今の世界はなかった。メイルは下手したら殺されて解剖されているか、一生監禁されていただろうな。」
「もどかしいね。」
センカはそういってうつむいた。
「私たちが立派な大人だったらよかったのに。」
「でも子供じゃなかったらここまでできなかった……。」
2人はしばらく黙った。ジュースだけが減っていく。
「辺境移民再建協会の代表さん……いえ、アサヒユウキくんの本音がそろそろ聞きたい。」
センカがそう言って沈黙を破った。ユウキはしばらくうつむいて考え込んでいたが、やがて顔を上げた。
「俺は、辺境移民だ。移民星アスの移民だ。」
ユウキはまるで自分に言い聞かせるようにつづけた。
「僕は、あの場所に戻りたい。父さんや母さんが、今まで積み上げてきたものをすべて投げうって作り上げたアスを再建したい。でも、今の世の中ではそれができない。」
ユウキはそういって自嘲気味に笑った。
「地球と宇宙で格差が生まれつつあるんだ。仕方ないけれどね。」
ユウキはセンカの顔を見つめながら言った。
「辺境移民の再建のためには、宇宙に人が住むための世界を作らなきゃいけないんだ。それがまだあやふやだ。それを作って初めて、僕らは宇宙に旅立っていける。」
ユウキは目をそらす。
「僕は元々、それをやるのは君たち国連宇宙機構に任せるつもりだったんだ。僕らは専門知識も将来のビジョンもないしね……。でも、僕らの前には全く予想していなかった新しい可能性が広がってしまったんだ。」
ユウキは少し笑った。
「僕はね、メイルのこと怨んでいないよ。むしろ彼女たちがいなかったら、僕らはただメカを怨んで怨みつくす未来しかなかった。でも今の僕らは、メカを通じて新しく友人を持つことができたんだ。」
「それは、辛いことではない?」
「うーん。複雑だけど、結果的にはいいことなんじゃないかな?」
「そう思ってくれて……うれしいな。」
「でも、そこまで思えない人もいる。地球の利権を守りたい保守派、宇宙移民の独立を願う独立派。そして君みたいに新しい世界を作りたいと願う革新派。この太陽系はバラバラだよ。」
「そう言っているあなたは、何派なの?」
センカは少しおびえながら、ユウキに詰め寄った。
「僕は独立派であり続けたい。」
ユウキはすまなそうな顔をして、言葉をつづけた。
「僕自身の考えだけじゃもう動けないんだ。君と同じでね。」
センカとユウキはしばらく黙った。ユウキは言葉をつづける。
「僕らの後ろには、いろいろな立場や考えの大勢の人々がいるんだ。僕らは……。」
「わかってる。わかってるよ。」
センカはそういって歯を食いしばった。
「私は、革新派でありつづける。でも、わたしは保守派も独立派も革新派も、すべては同じ方向に向かうと信じている。よりよい未来に……。」
センカは今度はまっすぐユウキを見つめた。
「ユウキと、ユウキの後ろにいる人と、私の後ろにいる人……すべての地球人に約束する。私たちはバラバラじゃない。」
「聞き届けた。」
ユウキはぽつりとつぶやいた。
「僕らも同じ想いなのを、確約するよ。」
太陽系防衛軍の派遣が正式に認められたのは、それからしばらく経ってからのことであった。
チームゼロは、派遣と新組織の設立計画を同時に公開し、どちらも国連総会で承認された。今後は様々な意見を集めながら、新たな宇宙のしくみを作っていくことになる。
辺境移民再建協会は、宇宙移民たちの権利が大幅に向上することを理由に、国連宇宙機構を支持すると表明した。
新組織については、議論を続けていくことにし、チームゼロの8人は再び星の海に旅立っていった。
センカたちはあくまで「出航」という言葉を使ったが、ユウキとカズマはそれが「出征」であることを知っていた。
戦艦アルタイルと戦艦ベガの連合艦隊が出航するのを見送った後、ユウキとカズマは、テラポルトスの辺境戦争の慰霊碑に向かった。(ちなみに、戦艦デネブは地球に残ることになった。)
慰霊碑は、今や観光地ともなっていた。絶えず花が手向けられ、神妙な顔の観光客がうろついている。ガイドがあれこれ解説していた。たまたま担当していたガイドは、ユウキとカズマに気付くとさりげなく移動してくれた。
最初に自分の両親を含む、移民星アスの人々の名前が刻まれた場所を、続いてキノスラ、マナート、と自分が守れなかった移民星を巡る。
そして、わずかな時間だが、母艦となった戦艦オリオン乗組員の名前が刻まれた場所に触れた。辺境戦争の記憶が生々しくよみがえってくる。
「これで、よかったのだろうか……。」
答えは返ってこない。ユウキは自嘲気味に笑った。
最後に、慰霊碑から少し離れたところにある、タカハシコハルの墓に向かった。ひっそり立っていて、花も観光客もいない。
「世界をもっと面白く、希望で満ち満ちとした世界にしたかった。僕らは君たちの作ろうとする今の世界が好きだよ。」
一瞬そんな声が聞こえてきたようで、2人は振り返ったが、やはり誰もいなかった。
何か用事があるというカズマがいなくなって、ユウキは1人で第一食堂の例の席に座っていた。今は1人ぼっちである。
「そろそろ、火星宙域だろうか。」
思わずつぶやいてしまう。
「やはりここでしたか。」
見慣れたスーツ姿の男が、そっと横に座ってきた。
「チームゼロの席。あなたもチームゼロでしたね。」
「せっかくですが。」
ユウキはその男を睨んだ。
「もうお話しすることはありません。」
「そうですか。残念です。」
男はかすかに笑って立ち去っていく。
ユウキはため息をつくと、自分も席を立った。もうすぐカズマが用事を終えるはずだ。それがすんだら、久しぶりに辺境へ向かう予定だった。




