誤算と計画
「くそっ!」
センカは渡された書類をテーブルに叩きつけた。テラポルトスの奥の、あの病室での出来事だった。書類がばらばらと机に広がり、センカはうずくまったまま動かなかった。
「メイルの正体や我々の動きを感づいて、行動を起こすものがいることは予測して、こちらも動いていたが…。」
ショウタもため息をついた。
「ここまでとはな。」
「わたしも少し驚いてる。」
リンカが机に散らばった書類を見ながら言った。
「メイル・ノトメイアという謎の少女が、チームゼロと行動していることは、インターネットなどで話題になっていた。突拍子もない陰謀論でインターネットの掲示板が盛り上がっていたわよね。」
メイルについて公式で何か説明をしたわけではなかったが、チームゼロと行動する謎の少女として話題になった。早くから「彼女の正体」についての議論がされていた。滅んだ古代文明のカギを握る少女、さる高貴な人物の娘、辺境戦争について防衛軍が隠していることの証人、と様々な説が飛び交った。もちろんその中には本物「異星人なのでは」「メカと関係があるのでは」も含まれていた。
国連宇宙機構から公式の説明や否定はせず、あくまで無視を貫いてはいるが、この突拍子もない話を信じ込むものがいることは事実だった。
さらにセンカたちチームゼロの面々が部長に就任したことも波紋をよんだ。彼らが何かをたくらんでいると考える者もいた。また、戦艦3隻の建造が急ピッチで行われていることや、オーバーテクノロジーともいえるような急激な技術革新に、不信を抱いているものもいた。
国連宇宙機構や国連宇宙防衛軍、チームゼロに反感を持つものも少なくない。チームゼロとしては最新の注意を払っていたが、それでも反宇宙機構の動きは広まっていく。
もっとも、国連宇宙機構やチームゼロとしては、決して独裁がしたいわけではない。反対意見は常に必要であると考えてはいる。特にチームゼロは、自分たちがまだ高校生であることを自覚していた。だから、彼らを検挙したりすることはなかった。
だが、当然戦略部長であるセンカを中心に、そういった動きは注意深く観察してきたのが、ここ最近になって一気に動きが激しくなったのだ。そして今回、最悪の事態が起きようとしていた。
リンカが仕入れた情報は3つだった。
1つは反宇宙機構勢力同士の通信記録。これによって、世界中の反宇宙機構勢力が結束する動きを見せていることがわかった。さらに宇宙機構に反発する国家や企業も密かに連絡をとろうとしているらしいということもわかった。チームゼロとしては反対派が増え、行動に移されることは避けたかった。
2つ目は、彼らが辺境移民再建協会と接触したという情報だった。
「これは避けたかったわね……。」
リンカの言葉にショウタが頷く。センカは顔を上げようとしない。奥のテーブルでは、メイルとハルカが検査をしていた。地球の環境がヒルタ人にどのように影響を与えているのかを調べているらしいが、半分はハルカの趣味でもある。
ちなみに彼女は訓練も受け、宇宙では医療行為を認められているが、母国日本の医師免許は持っていなかった。(まだ条件がいくつか足りていなかった。)そのため大っぴらに医療行為をしにくいのだ。自然と実践の機会も遠のいてしまうため、合法的に注射器を刺せるこのチャンスがたまらないらしい。
「ああ、ユウキとカズマとは敵対したくなかった……。ユウキとカズマは、メカに両親と移民団を殺された。今は同じような立場の人々と行動している。メカに対して相当な恨みを持っているはずだ。」
「そこへ、国連宇宙機構を批判する人間が接触を図っている……。この情報、ミノリから偶然きいたんだけれど……。」
リンカがため息をついた。
「辺境移民再建協会は、辺境や宇宙移民たちの中でかなり支持されているわ。そこらにある国家や企業よりも支持されているかもしれない。今はただの辺境移民再建協会だけれど、ユウキとカズマしだいでいくらでも……政治や経済を動かせるようになる。」
「メイルと鉄の星との友好関係を目指すことにした今、僕らは『異星人』に対する地球人のアイデンティティを作らなければいけない。つまり、僕らが目指すのは、国連宇宙機構を中心に地球や他の星々が対等に強くまとまった『地球人』としての集団だ。」
「ええ、そうね。」
ショウタの言葉にリンカが同意する。
「だが、地球の国々は、ひとつの惑星だけの統治者になることを嫌がっている。このまま地球が主導権を握った体制を続けていくことを目指しているんだ。」
ショウタが息を吸い込む。
「そして辺境移民再建協会をはじめとする宇宙移民たちは、地球と対等な、そして地球から独立した集団を望んでいる。」
「そうね。」
リンカが静かに相槌をうった。
「僕ら国連宇宙機構の8人と、ユウキとカズマの辺境移民再建協会との間に、考え方違いができていることはお互い自覚していた。いずれそれが原因で対立する可能性も……。」
「ただし事態はより深刻よ。」
「ああ。鉄の星とメイルを敵であるメカと結び付け、宇宙移民たちの反宇宙機構の機運を高める。そして本来なら対立関係にある地球の反宇宙機構勢力と、宇宙移民たちの勢力がむすびついてしまう……『反宇宙機構』という言葉でね。それは避けたいのだが、すでに接触を図られていたか……。」
3つ目の情報は、メイルの誘拐・暗殺計画だった。それは1か月後、センカの高校が横浜に遠足に行く際に行われるというものだった。
「くだらない陰謀論と正義感で行動を起こす馬鹿どもだ。」
ショウタが首を振る。チームジパングや防衛軍なら決して取らないような軽はずみな行動だった。
「ええ、その馬鹿どもを捕まえる、最初のチャンスよ。」
センカがやっと、むっくり顔を上げた。
「やはり策を練っていたか。」
ショウタは笑う。普段は単純明快で明るいセンカだが、時にぞっとするほどの冷酷さを持つことに、かつてのパートナーであったショウタはとっくに気づいていた。
「ショウタ、メイルと私を囮にする。」
「犯人はどうする?」
「捕まえて、反宇宙機構勢力の情報を吐かせる。そして馬鹿どもへの戒めになってもらう。ただしメイルは死守。もしもの時はいくらでも殺してやってくれ。」
センカは血に飢えた悪魔のような顔をひきつらせて笑った。
「了解した。戦術部からえりすぐりの特殊部隊を出す。」
「ううん。実行するのはチームゼロよ。」
ショウタは動きを止めた。
「ゼロだけでか?」
「何よリーダー。」
センカが笑う。
「チームジパングから何を引き継いだの?一番安全で確実で信頼できる実行部隊はチームゼロしか思いつかない。チームゼロの10人でやりぬく。リーダー、許可を。」
「まてよ。つまりユウキとカズマも……?」
「意見と立場が違えど、彼らは『仲間』って、戦略部長じゃないウエキセンカが言いたがってるの。」
センカは今度はまっすぐにショウタを見た。
「2人は知る権利はある。知りたいか知りたくないか選ぶ権利、もね。」
「メイルとメカの関係を明かすのか……?」
「……どちらにせよ。2人の力が欲しい。対価として、メイルについての説明をする……どちらにせよ、あと1か月で戦艦アルタイル、戦艦ベガ、戦艦デネブの3隻が完成するわ。そうしたら鉄の星についてすべて公開するつもりだった。」
センカは自虐的な笑みを浮かべた。




