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太陽の子供たち ~宇宙に進出した地球人の物語~  作者: さうざん
【大学生編】狙われる「リーダー」たち
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129/236

一方、ニューヨークの朝は

少し、時系列が前後します。

宇宙で歌声が響く、数十時間前の出来事です。

キャシー・レイハントンは、朝のニューヨークの喧騒からわずかに外れた、のんびりしたベーカリーに足を踏み入れた。

見慣れた顔の客が2名ほど、棚のパンを選んでいる。キャシーもトレーを持つと、次々とパンを乗せた。

「今日はベーグルも…こっちもいいわね。」

焼きたてのパンのにおいは落ち着く。そっと息を吸い込みながら、パンを次々と乗せていった。

レジの近くの小さなテレビには、テラポルトスから毎日発信される「守る会」の声明が映し出され、キャスターが淡々と解説を続けていた。もうこんな放送ばかりになってからずいぶん経つ。そのテレビの横には、小さなクリスマスツリーが飾られていた。

「お願いします。」

キャシーはパンが山積みになったトレーを、レジのカウンターに乗せた。顔なじみの店主の初老の女性が、いつものように笑顔でレジスターを叩き始める。

「キャシー、今日もたくさん買うのね。また職場の人の分?」

「ええ、徹夜で仕事をしているの。」

「大変ねぇ。今日はクリスマス・イブじゃあないか。」

「ええ、でも仕方ないわ。こんな時だし。」

「そうだねぇ。」

店主の女性は、パンを紙袋に丁寧に入れながら、テレビの画面をちらりと見た。

「ずっと気になっていたんだが、あんたの職場も監視されているんじゃないかい?国連関係の施設だろう?」

「ええ、そうね。でも、本部とかとは違って、本当に資料なんかの管理をする、巨大な倉庫みたいなものだから、大丈夫よ。」

「でも、クリスマス返上で仕事なのは、そういうこと、だろう?」

「まあね。」

キャシーはため息をついた。ここ最近ずっと、こういうギリギリの生活を送っている。

「無理しなさんな。ほれ、カップケーキ、おまけしておくよ。」

「まぁ、ありがとう。」

店主の女性は、そばに積みあがっていたカップケーキを数個、紙袋に押し込んだ。キャシーは素早く財布からお金を取り出す。

「よいクリスマスになるといいね。はい、おつり。」

店主の女性は数枚の紙幣と硬貨をゆっくり渡して来た。キャシーはすぐにそれを財布に滑り込ませ、紙袋を持つ。

「そうだ。明日はさすがにここも休ませてもらうよ、キャシー。」

「いつもありがとうございます。では。」

キャシーはそう微笑むと、ベーカリーを出て、路肩に止めていた自分の青い車に乗り込む。助手席にはすでに近所のデリの袋が積みあがっていた。

「さぁ、仕事仕事。」

キャシー・レイハントンは、アクセルを踏み込む。こうして、ニューヨークの郊外に向かって車を走らせた。






いくつものセキュリティを抜けて、キャシーは職場に入る。同僚のスミスが声もなく目線だけであいさつをしてきた。キャシーもそれを返すと、ベーカリーやデリの袋を抱えたまま、奥に進んでいく。

途中、ゲートと大きな重い防火扉を抜けて、そして彼女は膨大な資料が並んだ棚の中を進んでいった。

「おはよう、お二人さん。」

キャシーはある棚を曲がったところ、作業用のテーブルやいすがあるスペースで足を止めた。そのまま荷物を降ろす。

「ああ、ミス・レイハントン。すまない。」

黒髪の男が、パソコンから顔をあげた。スーマー・ヤオだった。

「おい、ジョン、起きろ。朝だ。」

すぐそばの寝袋の塊がもぞもぞ動き始めた。

「いいのよ。私たち職員の総意よ。おはよう、ミスター・ウェブ。調子はどう?」

「眠い。ああ、キャシーさん。いつもありがたい。」

キャシーはデリの袋を開けて中身を取り出していく。

「水はこれで足りるかしら?飲み物はまだ大丈夫だと聞いたから、特に買わなかったけれど、足りなくなったらメッセージでも送って。」

「ジョン、顔でも拭いてこい。」

「ヤオは少し寝ろ。ひどい顔色だ。徹夜したのか?」

「いや、少し仮眠は取った。」

「コーヒー入れるわね。」

キャシーはそういって、コーヒーメーカーに手をかけた。

「あと、いつものベーカリーでパンを買ってきたわ。」

「ありがとう。」

「ごめんなさいね、いつも同じパンばかりで。スーマーさんはもう飽きてしまったでしょう?」

「そうですね、僕らアジア人はここまでパンを食べませんからね。でも、贅沢は言いませんよ。」

ヤオは少し微笑んで、紙袋をのぞき込んだ。

「あっ、カップケーキが入っている!」

「ええ、お店のおばさんがおまけしてくれたの。クリスマスっぽくていいでしょ?」

キャシーはコーヒーメーカーを素早くセットした。

「そうか、もうクリスマスですか。」

「正確にいうと、今日はイブよ。」

「イブか……ヤオ、時間がないぞ。」

ジョン・ウェブがそっとつぶやいた。

「わかってる。」

スーマー・ヤオは静かにうなずいた。

「無理はしないで……2人とも。」

キャシーが思わずつぶやくと、ヤオが静かに笑った。

「いや、彼らは無理をしている。僕らも無理をしなきゃ。」

「チームゼロの皆さんのこと?」

「ああ。彼らの急激な改革路線やカリスマ的なリーダーシップには賛同しかねるところもあるが、辺境戦争を生き抜いた戦友だ。支えていきたいとは思っている。それに、彼らを今、失うわけにはいかない。」

「そうだな。」

ジョンも続ける。

「僕らは、まだ若いチームゼロにすべてを任しすぎた。なんだかんだ文句を言いながら、チームゼロにすべてを背負わせてしまったんだ。彼らも背負ってしまった。」

ヤオはそっと天井を見上げた。

「太陽系の発展も天の川銀河の交流も、チームゼロが率先して進めてきた。彼らを批判することは簡単だが、チームゼロが今まで担ってきた役割を誰が背負えるんだ……。それを知らず、彼らの命を求め続けているのが「守る会」だ。」

「ところで、キャシーさん。守る会の連中がここに感づいたりはしていませんか?」

ジョンが、ベーグルをかじりながら尋ねた。

「おそらく、ここも彼らの監視対象になっているのでは?」

キャシーは一瞬うつむいた。

「あ、いや……監視員の方が何度か来ましたが、あなた方がここに缶詰になって、チームゼロの皆さんの資料をあさっていることは知りません。ここに入るには「上」からの許可が必要だと告げたら、少し悔しそうに去っていきましたが……。」

「まぁ、急いだ方がいいのには変わらない。」

ヤオは、そういうと微笑んだ。

「キャシーさん、本当にありがとう。くれぐれも目をつけられないように、お願いします。」








キャシーが表の事務所に戻ろうとすると、廊下を歩いていたスミスにそっと止められた。

「監視員の方が来ています。あなたは資料の整理で奥に行ってしまって、今は応答できないことにしています。」

キャシーはドアノブから手を離し、スミスを見つめた。

「彼らのことがばれたの?」

「スーマー・ヤオと、ジョン・ウェブ。若手のジャーナリストの所在が不明。スーマーに至ってはチームゼロと面識がある。うちを疑うのも無理ないだろ。」

「大丈夫かしら?」

「奴らは「上」の許可が何かを知らない。てっきりLSSEだと思い込んで、「守る会」の名前で資料庫への立ち入りを求めている。」

「「上」……委員会の存在は?」

キャシーは手の震えを隠すようにこぶしを握り締めた。

「公表されてはいるんだけどな。たぶん前時代の遺物くらいにしか考えていないんだろう。」

スミスがやれやれとため息をついた。

「委員会の許可がなければ、奥の部屋には入れないわ……でも、ヤオとジョンが解析をしているのはその手前の資料庫。突入されたら元も子もない。」

「大丈夫だよ。うちは国連の機密情報を置いてある、一応非公開の資料庫だ。その権限、なめてもらっちゃ困るって。とりあえずお前は、その辺の資料解析室にでもいろ!」






ジョン・ウェブとスーマー・ヤオは、簡単な朝食を済ませると、奥の扉を開けて、最高機密文書の棚を探っていた。

「しっかし膨大な量だな。」

ジョンが口を尖らせた。

「このあたりは宇宙移民の選抜基準に関するデータだったよな。」

「ああ、アサヒユウキとクラモトカズマのデータを見つけたあたりだ。」

ヤオはメモと棚の番号を見比べた。

「それ以外に収穫はほとんどなし、と。」

「俺たちが欲しいのは、特別青年地球防衛隊の資料だ。なぜチームゼロが選ばれたのか、その真相だ。」

ジョンは梯子を上り、適当な資料を手に取って開いた。データの入ったディスクをヤオの持っていたノートパソコンに入れる。すぐに画面が変わっていく。

「なんだこれ、名簿?」

「どうした、ジョン?」

パソコンから離れ、他の資料を興味深げに眺めていたヤオが振り向いた。

「名簿だ。日本人のものだ。やたら字が細かいな。待てよ、このあたりの棚……。」

ジョンは棚に並ぶ資料の背表紙と、ディスクが入っていたケースの背表紙を見つめる。それから画面をもう一度見つめる。

「ビンゴかもしれない。これ、選抜者の名簿じゃないか?」

「訓練生の……。基準はわからないか?」

「基準か……おっ、報告書のデータもついている。何々?」

ジョンは画面を見つめたまま、言葉を失った。ヤオも黙ってそれを見つめた。

「日本人の当時10~15歳の若者全員のデータを集めただって……?」

ジョンはやっとのことで言葉を紡ぎだすと、ヤオを見上げた。

「つまり……?」

「ああ、訓練生の候補は、無作為に選ばれたのかもしれない。ある意味納得できるな。」

ヤオは目元を抑えた。

「納得できるさ。あの時、テラポルトスで訓練を受けたやつは、決して特別じゃなかった。普通の奴ばっかり。何が基準なのかもわからないくらいだった。訓練の過程でみんな強くなった。天才はほんの一握りだった。」

一瞬、ウー・チュンミンの顔を思い浮かべた。彼女は確かに天才だった。次々と仲間の顔を思い浮かべた。彼らは必至で努力をして、あの日作戦に加わるまでの戦士になったのだった。

「どうやって選びだしたのか、このあたりに資料がありそうだ。手分けして探そう。」

「そうだな。幸い背表紙に国名が書いてある。まずは日本のものから当たってみよう。」

ジョンはそういって梯子を上った。その時、ふとヤオの顔が見えた。ジョンは初めて、信頼した仕事仲間が涙を流す姿を見た。ジョンは何も声をかけずに、黙って梯子を駆け上がった。



更新が大変滞ってしまって申し訳ありません。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


頑張りたいことができてしまい、やらなければいけないことに追われ、でも気が付いたら動画を見たりネットサーフィンして1日が終わってしまい・・・という日々です。


気分転換をしたくて久しぶりに投稿させてもらいました。お話も気分転換してしまいましたが、どうか今後もよろしくお願いします。

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