第一種戦闘配置
ショウタは戦術班の控え室で、大量のマニュアルと格闘していた。マニュアル自体は事前に叩きこんではいたが、マニュアルはやはりマニュアルに過ぎない。現地でいつのまにか変わったもの、現地で新たに開発されたものも多い。何よりも、実物とマニュアルの知識をきちんと繋げなければ、戦えないのだ。
そんなショウタがマニュアルから顔を上げたのと、警報が鳴ったのはほぼ同時だった。
「敵戦闘機接近、敵戦闘機接近。総員第1種戦闘配置。」
「第1種……。チームゼロは確か航空隊と合流するはず。」
ショウタは立ち上がった。
警報が鳴り響く中、スズナは自分のゼロの前に立った。主計班としてたまたま格納庫付近にいたため、すぐに駆けつけることができたのだ。
スズナたちは特別青年地球防衛班の一員として、地球防衛の任務を一手に引き受けていた。飛来する隕石やスペースデブリ、宇宙海賊、宇宙で不穏な動きを見せる各国の宇宙船。時折、辺境から飛んでくる厄介者もあった。双方が発射したミサイルや破片などが飛来してくることもあるのだ。宇宙空間で哨戒活動にあたっているときだけでなく、地球上のテラポルトスで休憩していても、警報が鳴ればゼロに向かって走っていく。日本にいても重大なことが起きれば、学校や自宅に連絡が来て、ゼロに乗って宇宙へ上がる。それがここ最近の日常であった。
つまりスズナにとってこれは「いつもどおり」に過ぎなかった。あくまでチームゼロの一員としてであるが。
しかし、そうでない人もいるようである。
「君たち、ここで何をしている!」
あのテレーゼ・フェシカ隊長が、航空隊の戦闘服姿でこちらをにらんできた。先ほどから航空隊に指示を飛ばしながら、自ら宇宙へ飛び出す支度をしていたのだが、一度手を止めた。
「君たちはアルテミスケノン・ベースキャンプ要員であり、戦艦オリオンの防空の任務とは関係ない。危険だから部外者は出て行ってくれ。」
フェシカ隊長は鋭い声で告げた。
「しかし、フェシカ航空隊長。私たちチームゼロは各自ゼロ機を持っているため、第一種戦闘配置では航空隊と合流することとなっています。」
「今の防空任務は航空隊のみで十分だ。チームゼロとの連携についてもまだあいまいな状態でむやみに君たちを出撃させるわけにはいかない。」
「ではわたしたちは、どこで何をすればいいのでしょう?」
「とにかくここは必要ない。安全な場所に退避するなり、自分の班の様子を見るなりしておいてくれ。」
テレーゼはそう言い残して、自分の戦闘機、1号機に乗った。
「エリーゼ、敵は?」
「敵戦闘機は全部で20機。威力偵察の可能性が高いと思われます。」
トメグは歩きながら、フェシカから渡されたタブレットを見つめていった。
「いつものやつか。」
「はい。すでにキド戦術長が第一艦橋で指揮を執っています。すでに航空隊がフェシカ隊長の指揮のもと展開しており、オリオン自体の対空防御も準備していますよ。もちろんポイオーティアの対空システムもバリアも。」
「キッドとテレーゼなら大丈夫だ。戦略長が無理に第一艦橋に急ぐ必要もないだろう。」
「しかし、この無意味ともとれる威力偵察、気になりますね。」
「メカもこの先どうすべきか考えあぐねているんだろうな、と言いたいけれど。」
「メカには思考や意思がまだ認められていませんよ。とはいえ、敵の戦力を考えれば、たとえ簡単な威力偵察であっても、もっと多い戦力を平気でさけます。」
「まぁメカには全く生命反応がないから、いくらでも消耗できるんだろうね。少しずつ戦闘機を送り込んでポイオーティアやオリオンの戦い方を調べているのだろう。」
「ポイオーティアの隠れ場所やバリアを見抜かれたら、オリオンはひとたまりもないですしね。」
「エリーゼ、さらっと言ってくれるね。」
「すみません、トダ戦略長。」
「いや、さすがエリーゼ・フェシカと言いたいくらい。」
「さらに、おそらく私たちの目の届かないところで何か動きがあるのではないかと。」
「そうなのよね。」
トメグは足をとめた。
「やっぱり、ここ最近の動きが気になる。移民星キノスラの連絡が途絶えた件も放置しては置けないだろう。」
「ここ数日、キノスラ付近の宙域との連絡がどうも途絶えがちですしね。」
「あの宙域は我々のカバーできる範囲から離れているとはいえ、自警団もしっかりしているし、移民星アスには優秀なパイロットもいる。何かあれば連携は取れるはずだったが……。」
「人工通信衛星が攻撃を受けたのでしょうか……。いずれにせよ、アルテミスケノンのベースキャンプが機能すれば、あの宙域での救助作業や調査、索敵が飛躍的に進みます。」
「なるべく早くB計画を発動させないと。あの子たちをアルテミスケノンに送り込んだら、いよいよK作戦だ。」
「やはりあの子たちには伝えないのですか。」
「ええ。キッドもわたしもそのつもり。どちらにせよ、最悪の場合でもあの子たちが携わるのはA作戦。K作戦には入れないわ。」
2人は第一艦橋に飛び込んだ。
「状況は?」
トメグが叫ぶと、戦術長の席で指示を飛ばしていたキッドが後ろを振り向いた。
「遅い。」
「ごめん。」
「まぁ何も支障はないけれどね。航空隊が敵戦闘機と交戦。敵機を10機落としたわ。」
「さすがね。」
「こちらも2機支障が出ている。回収班が向かっているわ。」
「オリオンから援護は?」
「ぎりぎりまで待つ。テレーゼからの依頼でもあるのよ。ポイオーティアの隠れ場所が見つかってしまうわけにはいかないし。ところでトメグ。戦略長としての意見を聞きたいのだけれど。」
「おそらくいつもの威力偵察ね。しかしキノスラの件がある以上、ほかの目的も検討しなければならない。」
「移民星への攻撃か。」
「キノスラやあの宙域の人工通信衛星への攻撃に気付かせないためという可能性は否定できないわ。」
「移民星の避難は?」
「あの宙域は冥王星からもポイオーティアからも遠かったし、メカの勢力圏を通過してまで避難するよりは、守りを固めてひっそり耐えたいと言っていたの。そうせざるを得なかったし、彼らの自警団や防衛システムはとてもレベルが高かった。」
「実際、いままで大きな被害はなかったしな。」
「しかしキノスラがおそらく……。これからあの宙域も戦場になるだろう。今からでも避難していれば望みはあるけれど。」
「避難民の救助のために人員を割きたいのであれば、戦術班も相談にはのるよ。」
「ありがとう。こちらとしては、アルテミスケノン・ベースキャンプをすぐに設置し、チームゼロを送り届けるついでに広範囲での索敵、救助、調査をしたいわ。」
「トメグの考えは分かった。また正式に依頼してくれれば、こちらも動くよ。」
キッドは再び指示を飛ばし始めた。トメグは戦略長席にいる戦略班員のたたくキーを見ながら、いくつかアドバイスをした。
「味方が次々とやられています。現在敵10機、こちらは5機です。」
若いレーダー手が叫んだ。
「テレーゼ!」
キッドが叫んだ。
「こちらフェシカ。こちらの被害が大きい。わたしを囮にしていったん航空隊を帰投させる。」
「フェシカ隊長、危険すぎます。全員帰投、その後ポイオーティアの迎撃システムを使い、敵を叩く。」
「しかし戦術長。このままではオリオン自体へ攻撃される可能性があります。」
「この際仕方がないわ。」
その時、ピピーッと通信を告げる電子音が響いた。
「こちらオリオン戦術班、チームゼロのハシモトです。ただいまよりチームゼロの8名が出撃し、航空隊の代わりに敵戦闘機を叩きます。」
「待ちなさい!」
テレーゼ・フェシカ隊長の悲鳴が響いた。




