姉として、兄として
鉄の星ヒルタの朝は水色の光から始まる。ヒルタの太陽は青く光る恒星だった。そのため地球出身の者が思わず顔をしかめるほど、光は青い。彼らはまるで長時間コンピューターの画面を見たようだと言うし、常に夜のような、不気味な薄暗さがあると言っていた。
それでもこの若々しい水色の光が、この国の「朝」なのだ。
メイル・ノトメイアはその光で目覚めた。しばらく光の中でうずくまっていたが、おもむろにベットから起きると、寝室の外へ出た。
廊下には光が差し込み、すがすがしい朝の空気が漂っていた。メイルは廊下の先にあるシャワー室にもぐりこんだ。
シャワーを浴び、ほのかに香るシャンプーのにおいを感じながら、リビングに向かった。ぬれた髪を拭きつつ、キッチンに向かうと、そこには先客がいた。
「姉さん、おはよう。」
「スタワード、今日も早いのね……。」
「今日は午前中に受けなきゃいけない士官学校のプログラムがあるんだ。」
「そう、お疲れさま。」
メイルは大あくびをしながら大きな冷蔵庫を開け、何かジュースを探し始めた。
「姉さん、一応宇宙軍の人でしょ?もうちょっとしっかりしてよ。」
「んー、いいじゃん家だし。」
「はいはい。お湯沸かしといたから、使って。」
「いいの?ありがとう!」
スタワードは焼いたパンとインスタントのスープを持ってダイニングテーブルのほうへ行ってしまった。メイルも棚からパンを取り出す。少し前までは、毎日母親が栄養のある朝食を用意してくれていて、リビングにはゆったり朝の準備をする父親がいた。しかし今は、姉弟2人でなんともシンプルで味気のない生活をしている。
「ところで、姉さん。緑の星リンネルーアからのデータの解析、進んでる?」
「ええ。とてもいいデータよ。研究所のデータバンクで共有しているから、あとで見といて。」
スタワードはヒルタ技術高専に通いながら、士官学校にも通うという、メイルと同じ道を歩んでいる。そのうえで、ノトメイア研究所も手伝っているという忙しい日々を送っていた。
「何か新しい発見があった?」
スタワードの何気ない言葉に、メイルは思わずお湯を注ぐのをやめた。
「ええ、まぁ……。」
「へぇ、どんな発見?」
メイルは少し黙った。しかしスタワードの目が、あまりに父親の目に似ていることに改めて気づくと、覚悟を決めた。彼もまた、大きな責任を背負う人なのだ。
「ここだけの話……レイアから直々に連絡が来た機密事項があるの。」
「うん。」
「メカが、レイアに倒される直前、ある信号を発した。」
「信号?」
「ヒルタ語で、『スタワード兄さん』って……。」
「僕の名前……。」
「あんたも知ってるよね、スタワード。」
メイルは顔を背けながら言った。
「父さんと母さんは、あの自衛システムの研究にすべてを捧げた。まるで「わが子」だとよく言っていた。」
「うん、覚えてる。」
スタワードはそうつぶやいた。
「自衛システムは……あるプログラムがついていた。自分で成長できるような思考回路を持つプログラム……。」
「つまり……感情を持った?人に近い感情を、機械が?」
「そうね、スタワード。」
「でも、そうだとしたら、すべてが説明できる。なぜ自衛システムが暴走したのか……。」
「一概に『暴走』とは言えなくなった。むしろ、彼らの『意志』とも言える。」
「そんな……。」
「そして、もし彼らが父さんと母さん……開発者を「親」としているのなら、私たちは……。」
2人は黙った。テレビからはニュースが流れてくる。リンネルーア軍がメカを倒した話題で持ちきりだ。
「僕たちは……兄弟を殺そうとしている?」
「そして多くの命を奪った機械は私たちの……兄弟。」
スタワードは乱暴に残りのスープを飲むと、走って行ってしまった。今まで両親を奪ったメカを倒すことを目標にしていたのだ。それが大きく崩れた。被害者でもあり加害者でもあるという、2人の姉弟の不気味な立場が、より一層突きつけられたのだ。
「ごめん、スタワード……本当に。」
メイルはいつまでもつぶやき続けた。




