秘密を探る・2
「おい、ナミル、そこで何をしている? 薬なら一月分渡したはずだが、何か有ったのか」
「え? ええ? その声はヨンス先生じゃありませんか?」
「お前、こんなところになぜ忍び込んだのだ?」
「ここになら、珍しい薬がたんまり有るって聞かされまして……」
「盗みか」
「すみません」
「素人が薬草を見極める事など、まずできんぞ。誰だ、お前にここに忍び込むようにそそのかしたのは?」
その、ナミルは右議政が資金提供を受けていると言う噂の、薬商人の名前を出した。
「ふん、張盛か。西洋からの特別な薬でも狙ったかな? だがなぜ、盗みを引き受けた?もう足は洗っていただろうに」
「博打で派手に負けまして……チャンの旦那に立て替えて頂いた代わりに、言う事を聞かないと家に火をかけ、おふくろを焼き殺すと脅されまして」
「お前……イカサマに引っかかったな。チャンが手下に仕切らせている博打場では良く有るらしいぞ」
「えええ?そうなんですか、先生!」
「ああ。お前そんな話も知らないのか」
「そ、それはそうと、先生、こちらは随分立派な御邸だが、どなたの御邸で?」
「私の邸だよ」
「ええ?」
「明かりをつけようか。まあ、せっかくだから、酒の一杯も飲んで行け」
スルギは何か考え付いたらしい。侍女を呼んで、居間の方に酒の支度をさせた。
「さあ、この子の後についてお行き。好きなように飲んで食べてくれてよいからね」
男が侍女について部屋を去った後、スルギは戻ってきた。
「珍客を、どういたしましょうか? かつては怪盗とか言われた男のようですが、親孝行ですから、母の治療を面倒見るのを引き換えに、足を洗わせました。細工物なども上手い器用な男です。ですが、博打がやめられないようでして、困ったものですね」
「私も一緒に酒を飲もうかな」
「どなた様だと申したら宜しいですか?」
「お前の友で、深酒をして泊まっていた事にしろ。ヨンス先生を内侍だと思っているのだよな?」
「女だと気付かれていないと思います」
「なら、それで良い。さあ、行こうか」
スルギは部屋を出る前に再び侍女を呼び「夜中に悪いが急にお酒を頂くことになったので、幾つか温かい料理を用意するように」と言いつけ、銀の小粒を駄賃にやった。
「先生は内侍でも随分偉い方なんですね。毎日王様にお会いするんですか?」
「まあ、日によるけどな。そもそも内侍は宮中にお仕えするために、決死の覚悟でやって来た者ばかりさ」
「その、ナニをちょん切るんですね」
「ああ。皆最初は掃除から真面目に勤め上げるんだぞ」
「そうなんですか。オイラには無理だな」
「こちらの旦那は?」
「御身分のある方だが、偉ぶらない気分の良い方だ」
「お役人様で?」
「いやあ……実は科挙に合格してない」
確かに、王は科挙を受けない訳だが……我ながら上手い言い方をしたと思う。
「へええ、でも食うに困らない結構な御身分だ。羨ましいな」
勝手にどこかの士大夫の息子で気楽な身分と思ったようだ。
「それにしても、こいつはうめえ酒だなあ。先生がこんなに偉い方だとは知らなかったな」
実に良く飲み、よく食べる。
「お袋さんの加減はどうだい? 博打で負けたって事は、妹に押し付けて、夜遊びしているって事だな」
「へっへへ、そうですが……もうこりましたよ」
「だが、悪事の足抜けは出来ないんじゃないか? 命じられた物を持って行かないと、とっちめられるか?」
「オイラは逃げます」
「でも、お袋さんが危ない目に会うんじゃなあ……」
「そ、それはそうだなあ……」
男は困ったという顔になった。病の老母が気がかりなのだろう。




