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秘密を探る・1

「この国が出来てとうに二百年は過ぎている。今の馬鹿げた朝廷の有様もそれなりの歴史が有るのだ。困った伝統だがな。その積もり積もったものを、わずかな期間でどうにかしようなどと思わない方が良い。スルギの撒いた種が、後の世の心ある人間たちによって育つような道筋をつける、そんな感じで良いのではないか?」

「ある程度の大きさに育てておかないと、また泥まみれになり、踏みにじられておしまいのような、そんな怖さを感じます」

「そこまでこの国の民が愚か者ばかりだとは思わない。いや、思いたくないのだ。いかにみじめでも、自分の国だからな」


 清の命令で建てた『大清皇帝功徳碑』には、皇帝に対して三跪九叩頭の礼を行い許しを乞う敗戦後の王の姿が刻まれている。その大きな傷から立ち直れずにいるのに、その当時の国際情勢の判断の誤りを真摯に認めようともせず、「功臣の子孫」どもは宮中に根を張り続けているのだ。染みついた汚れの様に洗い落とすことが出来ない厄介な存在だ。短気を起こすと、スルギの祖父である先々代様のように「反正」の名のもとに、粛清され排除されてしまう。


「暴君」とされる王の直系の孫娘だというスルギの血筋の厄介さは、よくよく気を付けないと、他人の足を引っ張る事だけは得意な連中に、追い落としの口実を与えかねないことにある。


 そもそも「暴君」とされる先々代は明が清に敗北すると読んでいたのだ。その認識は正しかったが、長年明の模範的な属国であった事を誇りとするような連中には、北の蛮族が中華の主となるなど、認めがたかったのだろう。

 国論が二分したが、それをうまく収拾できなかった先々代は、果てしない派閥抗争に火をつける結果を招いた。


 以前、スルギに言われた事が有る。


「そもそもこの国の国号も明から押し付けられたものを、使っているに過ぎませんよね」


 そうなのだ。国号自体にそもそも、明国から賜ったものだ。「崇明派」はそれを悲しいとは思わないのだろう。


「初代と二代目の王は、明の皇帝には『王の代理』としか見てもらえなかった。屈辱的な交渉を経たのにな」

「その明との屈辱的な歴史を直視せず病的にありがたがり、既に強国である清を過小評価する困った連中は、いっその事、清へ遣いに出しますか? 愚か者でも現実を見れば、目も覚めましょう」


 そのスルギの提案は実行に値すると思い、その後さっそく、未だに根強い「崇明排清」派の学者と官僚を清国皇帝へ新年を賀するための使者に同行させた。本人たちは嫌がったが「国を代表する立派な見識の持ち主たちに清をよく観察してほしい」とおだてつつ、絹だの銀だの支度のために多めに財物を遣わしておいた。

 連中は偉そうに色々言うくせに、物欲に弱く、多少の物や金銀で態度が大きく変化するのだ。そうした節操の無さを恥ずる気持も無いのが、私は嫌でたまらないが、宮中の大半はそうした人種だ。見て見ぬふりをして、いざとなったら金品を掴ませて大人しくさせるのが、スルギではないが「一番現実的」なのだろう。


 新中殿が保養のために旅立った後、梅の咲くころになって、連中が戻ってきた。


「あの、清に行っていた愚か者どもが戻って来たぞ。言う事が全く変わってしまった。あきれるほどだ。今度は清の皇帝の靴底でも舐めかねない勢いで、清を崇め奉っている。その清を虎視眈々と狙う、西洋の列強の事は、まるで目に入らなかった様だ。愚かで卑屈で情けない連中だ」

「でも、ともかく、清との取引を感情的に非難する人間が減ってくれて、助かります」

「寒さが緩んで、これからはもう少し長閑な気分になれるかな」

「さあ、どうでしょう? かえって大忙しかもしれませんよ」

「それはそうだろうが、気分だけでも長閑にと言う事だ」

「ああ、それは良いのかもしれませんね。いつもあくせくしていては、体にも良くないでしょうから」

「では、たまにはのんびりしないか? 一日位仕事を休んでも良かろうが?」


 急にスルギが身を固くした。


「隣の部屋に何者かが忍び込みました」

 素早く立って、隣の部屋を戸の隙間から覗き込む。

「知っている者です。母親がかなり重症の患者なのです。声をかけてみます」

 さっさと刀を取り、男装束を手に取って着てしまったらしい。私には暗過ぎて良くはわからないのだが……



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